【第11話】覇道のシャンパンコール
王宮の庭園を後にした俺の身体には、第一王女エルザから授かった新たな力が脈動していた。
それは単なるスキルの増量ではない。
彼女が背負っていた国という巨大な重圧、そして高潔な精神が、俺という器を通して新たな魔性の輝きを放っている。
今の俺ならば、この王都のどんな障壁も、ただの飾りに変えてしまえるだろう。
宿屋の扉を開けると、そこにはリーナが不安げに腰を下ろしていた。
俺の姿を見つけると、彼女は安堵の表情を浮かべるが、その瞳の奥には隠しきれない緊張が宿っている。
俺が誰と会い、何をしてきたのか。
彼女には全てお見通しなのだろう。
「……シオン。帰ってきたのね。エルザ王女と、何を……」
リーナは立ち上がり、俺の服に付いた庭園の土を払う。
その手つきは優しく、それでいてどこか所有権を主張するような強さがあった。
俺は彼女の腰を抱き寄せ、その頬に軽く口づけをした。
「エルザは、俺たちの仲間になったよ。いや、俺という存在の『信奉者』と言った方が正しいか」
「……そう。あなたは、そうやって次々と女を……」
「嫉妬は美しいが、あまり深く考えすぎると魅力が半減するぞ、リーナ。俺にとって、君の価値は何にも代えがたい。君は俺の最初のヒロインであり、これからもずっと、一番近くにいてほしい存在だ」
俺の言葉に、リーナは小さく吐息をつき、俺の胸に額を押し付けた。
彼女は俺の毒気にあてられ、もう自分一人では歩けないほどに俺へと傾倒している。
それがたまらなく愛おしく、そして支配者として誇らしい。
そこへ、部屋の隅で大人しくしていたアルベルトが、恐る恐る口を開いた。
「……シオン。エルザ王女まで味方につけたのか。お前、本当に一体何者なんだ。ただの冒険者っていうのは、やっぱり嘘だったんじゃないのか?」
「嘘じゃない。俺はただ、男と女の心と身体を操る術を知っているだけの、どこにでもいる男さ。ただ、その術がこの世界では『魔法』以上の価値を持っているというだけの話だ」
俺は笑いながら、アルベルトの肩を叩いた。
彼もまた、俺の支配下で着実に変化している。
以前のような高慢な態度は鳴りを潜め、今では俺の一挙手一投足に怯え、そして憧れる、哀れな子犬のようになっている。
「さて、アルベルト。君に一つ、頼みがある。王都の貴族連中を招いて明日、盛大なパーティーを開いてくれ」
「パーティー? 明日ですか?」
「あぁ。エルザを主賓として招き、俺という男が何者であるかを、王都の権力者たちに見せつけてやるんだ。彼らの招待状に、俺の名前を刻め」
俺の目的に、アルベルトは冷や汗を流しながらも頷いた。
彼はもう、俺の指示に逆らうことはできない。
俺が彼に与えたチャンスと、これから与えられるであろう「栄光」が、彼の思考を支配しているからだ。
パーティーの準備は、瞬く間に整った。
アルベルトの権力を使えば、王都の有力者たちを招くことなど容易いことだ。
俺は、かつて歌舞伎町で磨いたセンスを最大限に発揮し、会場を最高のラウンジへと変貌させた。
パーティー当日の夜。
会場である貴族の館には、きらびやかなドレスとタキシードに身を包んだ男女が溢れていた。
中央のステージには、俺が陣取っている。
リーナは俺の右腕として、会場の魔力を調整し、華やかな演出を加えていた。
招待客たちが、好奇の目で俺を見つめている。
彼らは、王女エルザがなぜか姿を見せ、俺と親しげに会話をしているのか気になって仕方ないようだ。
その後も、噂を聞きつけた貴族たちが次々と集まってくる。
エルザは王女としての威厳を保ちつつも、俺を見つめる瞳には、隠しきれない情熱が宿っている。
「皆、ようこそ。今夜は、俺という男の初陣だ。君たちの心に、一生消えない『夢』を刻んでやる」
俺が指を鳴らすと、会場中のライトが一斉に俺を照らした。
酒の栓が抜かれ、金粉のような魔法の粒子が会場に舞い散る。
それは俺がこの世界で編み出した、最高の『シャンパンコール』だ。
客たちが、一斉に俺の魅力に飲まれていく。
彼らの心の防壁が、俺のカリスマ性によって、次々と崩壊していく。
エルザが俺の隣で、満足げに微笑んでいる。
彼女にとって、俺の存在は、この退屈な王都を覆すための希望そのものだ。
俺は会場を見渡し、確信した。
この王都は、俺の手の中にある。
権力も、富も、魔力も。
すべてが、俺という名のホストのために用意されている。
「さあ、飲み明かそう。伝説は、今夜から伝説じゃなくなる。俺たちの日常になるんだ」
俺の言葉に、会場が歓声に包まれる。
リーナが俺の腕に体重を預け、愛おしげに俺を見つめる。
アルベルトも、周囲の貴族たちと酒を酌み交わしながら、俺を見て誇らしげに微笑んでいる。
すべてが最高だ。
歌舞伎町で味わったどんな成功よりも、今この瞬間の悦びは格別だ。
俺というホストが、この異世界をどこまで掌握し、この世界の女性たちにどれほどの悦びを与えられるのか。
その限界に挑戦する旅は、まだこれからも続く。
さあ、次のステージへ。
俺はグラスを高く掲げた。
第 12話へ続く




