邂逅
「何やってるか聞いてるんだけど」
訝しげな目で俺たちを見る女性。
多分、この人がユズハかキョウなのだろう。
「え、えっと、俺たちは……」
「ち、違うんです!」
慌てて否定する俺たち。
「怪しいな……」
女性は俺たちをじっと見つめる。
「新手の取り立てか?」
ガチャ。
その時、背後のドアが開いた。
「ちょっと!キョウ姉さん!
何騒いでるの、部屋の前で!」
父さんと一緒にいた女性が顔を出す。
「誰よ?あなたたち……」
俺たちを見るなり眉をひそめた。
「……はっ!」
何かに気付いたように目を見開く。
「まさか新手の取り立て!?」
「どんだけ借金あるんだよ!」
思わず心の中でツッコむ。
……完全にバレた。
どう切り抜けようかと考えていた、その時だった。
⸻
ピコピコ。
やっぱりキョウちゃんとユズハちゃんだ!
「……は?」
kが突然、訳の分からないことを言い出した。
「な、何言って――」
ピコピコ。
遥くん、ちょっと待ってて!
居場所が分かれば、すぐ二人に繋げられるから!
「?」
何を言ってるんだ?
次の瞬間だった。
⸻
『やっほー!キョウちゃん!ユズハちゃん!』
「「っ!?」」
二人の肩が同時に跳ねる。
「k!?」「け、Kちゃん!?」
目を見開き、辺りを見回す。
「お、お前ら……何者だ?」
今度は俺たちを見る目が完全に変わっていた。
「え、えーと……」
説明しようとした、その瞬間。
ピコピコ。
リンちゃんの子供だよ!
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
二人の叫び声がアパート中へ響き渡る。
「静かにしろ!」
すぐ近くの部屋から怒鳴り声が飛んできた。
「「「「「「すみません!!」」」」」」
俺たちは全員で頭を下げる。
そして――
訳も分からないまま、
俺たちはキョウとユズハの部屋へ通されることになった。
……本当に、
何でこうなった?
※
「で?」
部屋へ入るなり、キョウが腕を組む。
「どういうことなんだ?」
「え、えーとですね……」
俺は恐る恐る口を開いた。
「実は父が、その……そちらの女性と……」
最後まで言葉が続かない。
するとクロノスが一歩前へ出た。
「つまり」
相変わらず無駄に堂々としている。
「このポンコツの父親に、貴女との浮気疑惑が浮上した。」
「奥方であるリン様より依頼を受け、我々が調査していたところだ。」
「っ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
ユズハが慌てて立ち上がる。
「え?何?」
「京一さんって……」
「リン姉さんの旦那さんなの!?」
「はい」
「え!?」
今度はキョウが立ち上がる。
「あのパチンコ屋でお金貸してくれたオッさ……男性が?」
「リン姉の旦那なの!?」
「ええ」
「「やばい!!」」
二人の顔が一気に青ざめた。
「リン姉にギャンブルやってることがバレたら……」
「ち、違うの!」
ユズハが必死に首を振る。
「あれはタカリじゃないの!
ただご飯をご馳走になっただけ!」
「それタカリだろ」
心の中でツッコむ。
二人は小声で必死に言い訳を始めた。
やがて、
キョウが勢いよく俺の方を向く。
「リン姉の息子!」
「は、はい!」
「頼む!」
両手を合わせる。
「リン姉には、このこと黙っててくれ!」
「えー」
「お願いよ!」
ユズハまで頭を下げる。
「姉さんにバレたら私たち殺されちゃう!」
「いや、いくら何でもそこまでは……しなくも……ないか。」
「だろ!」「でしょ!」
二人の表情に希望が戻る。
その時だった。
⸻
ピコピコ。
リンちゃん、もうすぐ着くって。
「「何で!?」」
ピコピコ。
さっき知らせておいた!
「「っっっっっ!!」」
二人は声にならない悲鳴を上げた。
※
ピンポーン。
部屋にチャイムが鳴り響く。
「…………」
誰も動かない。
ピンポーン。
再び鳴る。
ピンポーン。
「…………」
コンコン。
今度はドアが軽く叩かれる。
そして、
静かな声が聞こえた。
「……いい加減、出てきなさい」
「ひっ……」
キョウとユズハの肩が同時に跳ねる。
誰も動けない。
見かねたマルタが、おそるおそるドアへ向かった。
ガチャ。
ドアが開く。
「ありがとう、マルタちゃん」
そこには、
いつも通りの笑顔を浮かべたリンが立っていた。
「「「「「……」」」」」
誰も言葉を発しない。
リンは部屋の中をゆっくり見回す。
そして、
その視線の先には――
土下座。
床へ額を擦り付ける二人の女性。
日本人最大級の謝罪方法である。
「久しぶりね二人とも何百年ぶりかしら」
リンは穏やかに笑った。
「お、お、お、お久しぶりです……」
「り、リン姉……」
キョウが震えながら答える。
「ひ、久しぶり……リン姉さん……」
ユズハもほとんど泣きそうな声だった。
「とりあえず」
リンは優しく言う。
「顔を上げなさい」
「「は、はい!」」
二人は恐る恐る顔を上げた。
リンは変わらず笑っている。
その笑顔が、
逆に怖かった。
⸻
「で?
どういうことかしら?」
リンが首を少し傾げる。
「「へ?」」
「私の旦那に何をしたのか聞いてるのよ」
「分からない?」
「「ひっ!!」」
二人の肩が跳ね上がる。
母さんの表情は笑顔を浮かべたままだ。
だが俺には分かる。
いや、あの2人も分かってる。
あれは″ガチギレ″である。
⸻
「ち、違うんだ!」
キョウが慌てて手を振る。
「ち、違うんだ!
私は姉さんの旦那だなんて知らなくて!」
「そ、そうなの!リン姉さん」
ユズハも必死に頷く。
「そ、それに私たちAIなんだから!
リン姉さんが結婚するなんて思わないじゃない!」
「ふーん」
リンは笑顔のまま頷く。
「で?」
「「で?」」
「私が聞きたいのはそんなことじゃないんだけど」
母さんが2人を一瞥する。
「「っ!!」」
「「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!!」」
二人は再び綺麗な土下座を決めた。
⸻
それから十分ほど。
二人は洗いざらい白状した。
「……はぁ」
リンは小さくため息を吐く。
「キョウ」
「は、はい!」
「あなた、まだギャンブル続けてるのね」
「うっ……」
「それからユズハ」
「は、はい!」
「あなたも」
「いつまでキョウを甘やかしてるの」
「うぅ……」
「その上」
リンがじっと見つめる。
「それに便乗してタカるのもやめなさい」
「マスターが悲しむわよ」
「「……はい」」
二人は小さく頷いた。
「本当に……」
「申し訳ありませんでした」
部屋に静寂が戻る。
これが――
千年ぶりの姉妹の再会だった。




