第48話 拗らせ勇者と負けず嫌いの大魔導士
4月5日土曜日。
はじまりの部屋である。
ちなみに、地球での別れからこの日まで、異世界のはじまりの部屋で数日分の時間を使い、私は連日自転車練習と佐々木さんのWEBの仕事を手伝っていた。
佐々木さんは地球の監視を恐れ、別れた設定を続けている。
「りおりお!これみよがしに毎日毎日マウンテンバイク無神経だよ?!僕と別れたからってひどい」
「そんなんじゃないよ。乗り慣れなくて練習してるの」
「もう!そんなの早くやめて仕事しないと!」
ちなみに明日はお花見イベントだ。事故のショックで副会長まで今月お休みすることになった。私が副会長代理だ。
異世界はというと、漁村エーテーシーに行っても農村アトソーヌイベントは進まないことがわかった。使ってしまった食料や薬草魔力草の調達にいそしんでいる。
漁村で調達して、鶏と卵を狩りながらぼちぼち貯める。猪は漁村でもたまに出るが、野菜や小麦の価格が高いのでそっちは減ってきている。
漁村エーテーシーは私達が運営しているので村民達はお金はいらないと言うけどそういうわけにいかない。
「明日こそはアトソーヌ行きたいね」
イベント的には多分両方の村を発展させて私らが交易するんだ。
「まだ行きたくない」
佐々木氏があのお別れイベントからナイーブになっている。
「もう。何日そう言って引き留めるの」
私はホームページの最後の調整をして保存ボタンを押した。
「だって、イベント進めたら村民が危険に晒される。僕はもう誰も失いたくないよ」
佐々木さんは眉を下げる。彼はとてつもなくビビリだ。
「だからって村の時間を止めておく気?そんなのおかしいでしょ。今日もう帰ろ。仕事全部終わったから時期を見て送らないと。仕事受けてから即日納品はさすがにおかしいし、新しい仕事も受けないと」
「やだ。あんな監視されっぱなしの場所行きたくない。親が子供に探偵つけたり盗聴器仕込むとか異常だよ」
そう。横井さんは探偵さんだったのだ。恐ろしい。普通の女性にしか見えない。鑑定の仕様で、もしかしたら探偵かもと見破ったら表記が増えた。フラワーサイド探偵事務所というのを経営しているとか。横井花恵だから花横?安直だな。自分の本名を晒すなんて探偵らしからぬネーミング。
けど盗聴器も探偵も、息子が異常な金銭感覚してるからだ。自分で判断できない子供は監視するしかないという考え方はわかるよ。借金背負ってからじゃ遅い。
でもそういう育て方をした親も悪いと思う。特にこの金銭感覚のザルさは母親譲り。息子を監視するのに探偵を雇っているのがその証拠だ。彼が使う金額よりも探偵数日の方が高い。そんな事をせずに問い詰めればいい。対話すればいいのに。
だから息子がこんなアホになる。子育てするのにコミニュケーションを怠るなんて。しょうもない洗脳よりまずやることあるでしょうに。
「ねえりおりお、僕だけじゃだめなの?ここでずっと二人で暮らそうよ。僕地球にとか戻りたくないよ」
いやそりゃあんただけじゃダメでしょ!でも言ったら拗ねるから言わない。
「ちょ!そりゃ無理でしょって顔しないでよ!!傷つくから」
えっ?!私そんな顔してた?!
『してましたね』
『してたでござる』
「そんなの一言も言ってないからね。でもわかったよ、5月のイベント計画立てよ」
花見の手配はもう終わっているので来月分。防災訓練で消防士さんが来て消化器の使い方を教えてくれる。そのタイムテーブル作成と、長期保存食を住民に配る手配だ。
「りおりお僕にも自転車作ってよ。坂本さんと走ってたの知ってるんだから。僕と別れてすぐ坂本さんの好感度アップとかやめてよね!」
ちなみに佐々木さんとは別れたままだ。元々彼とは友達でしかない。告白もされてないし。……イベントで恋人を演じていただけだもん……。またイベントが起こらなきゃ付き合う話にはなりようもない。彼も付き合っているフリをしている間もずっと仲間とかしか言わなかったし、今も復縁のこと一切何も言ってこないし。
『私はその認識に今びっくりしていますけどね』
"いやだって、別れるフリだって言ったのに、この人ここに来て二言目には別れたアピールしてくるじゃないの。ここまで何度も別れた別れた言われたらそういうことなんでしょうよ!そうなんでしょ?永遠!"
『まさか二人して拗ねているだけだとは』
『二人とも重症でござるな』
『ちょっと莉緒さんが別れたアピールを否定してあげればいいだけなんですけどね』
『アオはビビリで莉緒たんは負けず嫌いだから先が思いやられるでござるな』




