第49話 私の上司は真っ黒だったらしい
「偶然会っただけだし、坂本さんとは何もないよ?」
坂本さんとは翌日偶然会って「彼とは残念だったね。仕事大変だろうけど頑張って」とか慰められた。相変わらず噂早すぎだ!!詳細を知りすぎだ!!
坂本さんは十中八九ママンの息がかかっていると踏んで今せっせと好感度上げ中である。
彼の様なミステリアスで興味を引く人物が横井さんの情報網にかからないのがそもそもおかしい。彼は数日に一度時間帯はランダムでサイクリングに行ってたのに、あの翌日偶然午前中に会って急激に彼から距離を詰めてきた。
「君がそのつもりなら僕も柏木さんと好感度上げちゃうよ?」
「むしろ柏木さんとはどんどん好感度上げてよ」
彼女はママンに捕まる前に引き入れておきたい。
「僕達別れたばかりなのにもう柏木さんとお付き合いしろだなんて酷い。いくら君の頼みでも彼女を隠れ蓑になんかできないよ」
「は?!何言ってんの?別にお付き合いしろとは言ってないよね?!」
「じゃあ僕もサイクリングするからたまに偶然装って会お」
「ダメだよ。作った自転車とか防犯登録どうするの?」
「ご都合仕様でいけるって。材料これ」
彼はどっさり材料をインベントリから出してきた。ちょっと!さっそく材料ホムセンで買ってきてんじゃん!
「ダメでしょ!!また浪費して!」
"てか創造魔法で作ればよくない?!そうすれば材料全く必要ないでしょ!どう言う意図なの?!永遠!イベントなの?!"
『アオは莉緒たんの手作りプレゼントが欲しいでござるよ。現在イベントは秘匿されているでござる』
『こういう意味不明なおねだりはできるのに何故好きだの一言が言えないのでしょうか。莉緒さんもアオに直接聞けばいいものを!とんでもないヘタレですね!!』
愛陽言いたい放題だな!
"拗れると面倒だからイベント共有は無理でも秘匿はしないでって永遠から言っておいてよ。地球で別れたのはそれが敗因でしょ?異世界でフラグ折れたら大変だよ?"
『莉緒さんから本人に言えばいいのでは?!拗らせているのはあなたもですよ?』
『まあまあ、愛陽、拙者も一応説得はしてみるでござる』
「ホムセン行った日はカバンを変えたからバレてないよ!車のGPSと盗聴器はさすがに外したし」
「いや横井さんを甘く見過ぎだよ」
彼女の偵察力なめんなよ?
『何故莉緒さんがドヤっているのですか?意味がわかりません』
愛陽が何故か辛辣覚醒したんですけど。
「横井さんとは好感度爆上げしてるから大丈夫。彼女優秀すぎて一緒にいるだけで住民イベント頻発するんだ。お陰でちょっとずつ親の信頼回復してる」
「へえ……そうなんだ」
佐々木さんはニヤリと笑った。
普段子供みたいなのに、たまーにこういう顔をするんだよなあ。だけどなるほどね。横井さんが私らの手に落ちたから坂本さんに白羽の矢が立ったと。
「彼女私の異世界パートナー候補でかなりの優良枠だったんだわ」
横井さんは戦闘力皆無だけど地球では戦闘力なんかいらない。
「彼女がパートナーなんて嫌すぎる。口うるさくてたまらないんだけど。僕の更生を手伝ってくれるとか言うの」
確かに口うるさいがあんたの執着も相当酷いぞ?
「でもちゃんと更生したら関屋さんとの仲も応援してくれるって」
「いや邪魔したり応援したり意味がわからない」
「ふふふ。怒ってる?」
だけど私らの仲を応援してくれてるってことは、横井さんは佐々木家の密偵をやめたのかな?私は言った。
「まだ二重スパイの可能性は捨てきれないけどね」
イベントかも知れないのでしぶしぶ同じ自転車を作る。私のは黒。彼のはペールイエロー。彼のパーソナルカラーに合わせてこの色にした。ていうかパーソナルカラー勉強してるのに資格や技能出ないのなんでだ!
『まだまだ知識も応用力も足りません』
うう!欲しい欲しい!私に足りないのはそういうやつだ!
『足りないから出ないのです。努力しましょう』
「僕に似合う色ありがとう!!早速防犯登録しなきゃね!!」
ていうか何だこいつ、地球に帰りたくないとか言ってたのに意外と元気だな!
佐々木さんはにこりと笑った。うわっ!何その眩しい笑顔!
「君が坂本さんと昨日デートに行ったサイクルショップに偶然を装って乱入するからね!横井さんが僕の犬になったんだ!彼女なんでも情報くれるんだから!」
「いや犬とか言うなし」
なんなの?私より先に部下を得たとか自慢したいの?
金で雇った部下とか。ってか探偵使うのも浪費だから!まだ金銭感覚治ってないとかわたしゃ嘆かわしいよ!
「そのお店は多分佐々木家の息がかかってるよ?それにお揃いの自転車はまずいよ」
「ひどい!!デートはすぐに否定してよ!!」
だってイベントでサイクリングデートって出てたんだもの。
佐々木さんは不安を顔いっぱいに滲ませた。情緒不安定か!
「りおりお。地球は諦めるからエーテーシーで乗り回そうよ」
「だめ。次はアトソーヌ行こ。ちゃんとウルフ問題を解決しなきゃ」
「じゃあここでいい。ここで乗り回そ。僕とも一緒に乗ってよ」
「もう。先延ばしやめて?」
うむむむと佐々木さんが唸る。そして急に話題を変えてきた。
「ねえ、防災訓練の手配はやるから書類の作成頼んでいい?君を優秀だと親に知らしめるチャンスなんだ。僕らを別れさせた事後悔させてやりたい」
そこまでしてウルフイベント止めておきたいの?
「いいけど私仕事できないらしいからあんまり期待されるのも困るよ?」
「誰が君を仕事できないって言ったの?その評価おかしいよ?君の事務処理能力異常だからね?ミスもなくて早くて完璧」
ええ。そうなんだ。毎日仕事できないと怒られたんですけど。
「以前の仕事では仕事も遅いと言われていたよ?もしかしてステータスアップの恩恵?」
「僕事務処理に関しては特にそういう恩恵感じないよ?もしかしてスキル生えたの?」
「スキル事務処理は普通にあるよ。一応タイムマネジメント極小もある。ビジネス文書検定とかMOSエキスパートとか簿記会計各種資格はもともと持ってるけど」
佐々木さんは難しい顔をして唸った。
「ねえ。もしかして前の仕事で誰かに足引っ張られてたんじゃない?君仕事できて人に媚びないからめっちゃ妬み買いそうなタイプ」
「妬まれたことはないなあ。私仕事できないって結構色んな人に言われたから。雑用すらまともにこなせなくて毎日残業でさ」
妬むどころか皆で私を下に見てきたな。私はちょっと嫌な気持ちになる。
「君ブラック企業に勤めてたのか。……色々大変だったんだね。今もめっちゃ働かせてごめんね」
あれが噂のブラック企業なの?!
『企業がというよりか上司が真っ黒ですね。証拠がないのが残念です』
私に守る対価を求めたあの上司は……真っ黒だったらしい。
私は、顔が痛いぐらい口角を上げて言った。
「今は楽しいからいいよ。私仕事を楽しいと思ったの初めて!」
「そっか。よかった。これからも二人でずっと仕事しよ」
今は彼が、私の上司だ。




