3話 コッコ本体
あの後寝て、起きたら朝だった。
冷蔵庫を開けるとだし巻きは無くて、昨日私が食べなかったお惣菜が入っていた。やきにく弁当おかずのみである。さすが父上分かってらっしゃる!!
人間の体を作る成分!タンパク質!
とりあえず朝食にスクランブルエッグを作っていると父親が起きてきた。
「おはよう。昨日だし巻きありがとうな。うまかったよ。体調は大丈夫か?」
「おはよう。私もう元気。心配かけてごめん。パン焼くね。」
「食事の前に洗濯機を回してくるよ。」
「それは今日から私がやるから大丈夫よ。」
『報酬 朝の挨拶 コミュニケーション技能極小 関屋豊好感度アップ』
ぐはっ!極小?!報酬にディスられるとか。
ていうか好感度アップって何なの?
『イベント分岐が増えます。』
好感度アップイベントの先の分岐でアイテム報酬もある?
『あります。』
おお。それは良いことを聞いた。父関連イベントが先で発生すると。人間関係頑張れば報酬も増えるということだ。
父と一緒に食事をして送り出す。
町内会は四月からなんだとか。
ねえイベントは出てる?
『現在イベントはありません。』
昨日現場の視察だったらしい父親の汚れてもいない作業着を浄化して畳む。
下に居る人間は目に見えて大変そうだけど、上に立つ人間は作業着も汚れないのだ。
だけどそれはそれで、私達には分からない苦労があるのだろう。
私は係長を思い出してちょっと嫌な気持ちになる。父親はあんな奴よりもっと偉いんだぞ。
今日は玄関を掃除してからいざ異世界へ。
コッコ部屋の奥にある扉、コッコの森へ。
今日のミッションはコッコを一羽倒せ。
殺生なのだ。
ここはゲームみたいなんだけど、生き物を殺すのはさすがに嫌かも。でも地球でもご飯として食べてるからな、私は職業が違うから殺生をしないだけで生き物の命で生かされているのだ。
私は森へ足を踏み入れる。
鑑定しながら進み、レモンとりんご、ラズベリーの木を発見したけど、ミッションは鶏なので採取は諦める。今度別日に来よう。
歩いていると、鶏の鳴き声が聞こえた。
私は隠れた状態でコッコを見ながら、しっかりイメージ、ウインドカッターで1匹の首を飛ばした。
するとバサバサと飛んでいく。鶏なのに飛んであんな木の上に巣を作るのが驚きである。
『報酬 マジックバッグ極小 マジックバッグに収納されました』
私はマジックバッグからマジックバッグを取り出し、スーパーの袋に押し込んだ鶏を入れ、帰還する。
帰りにもう一つのバッグにりんごとレモン、ラズベリーを入れていくがあんまり入らなかった。
フルーツは拠点のアイテムボックスに全て入れた。
鶏なんかもらっても困るんだけど、インターネットで解体の仕方を覚えるしかない。殺したんだから食べないと。
何度か果物狩りを繰り返す。
『報酬 イベントフルーツ狩り オーガニックフルーツソムリエ資格』
何それw謎の資格を得たww
『元々フルーツの栄養素についてかなり詳しく、少しの労力で資格取得に至った様です。ですが栽培に関する技能ではありません。』
私は地球に帰る。
「時間が経たないから暇なんだよな。」
冷蔵庫から油性マジックで"りおの"と書いた最後のノンアルビールを出す。ありゃ、大事にしすぎて期限が切れている。焼肉弁当おかずをフライパンで炒め直し食べる。
「んー!昼間からノンアルビール!背徳の味!しかもビールより安くてカロリーゼロ!」
厳密には100g5Kcal以下だ。17Kcalは覚悟しないといけない。
それから父親のタンスをクリーンしたり、ラズベリーを洗って冷凍したりりんごを食べながら魔法のエフェクトを動画検索して見て過ごす。
夕方の4時に、通知が鳴る。
「ええ。今から?!」
『イベント 公園でジョギング30分 報酬敏捷アップ』
ええ、身体強化あるけどな。素の敏捷とか上がると危なくない?
『人間の範疇なので安全です。』
体力は人間の範疇じゃないけどね。事故とかに遭えばバレるよね。
『バレない為の敏捷です。』
人間の範疇で車とか避けられないからね?!
『ああいえばこういう。』
「やだなあ。外に出るの。」
私はぶつぶつ言いながら長い黒髪をポニーテールにする。
『勇気を持って一歩踏み出しましょう。明るい未来が待っています。』
「なんなの?昨日散々だったんだからね。」
『ひとまずMサイズの服を買いに行く為に今あるSサイズの服が着られる様にする事がおすすめです。ジョギングならジャージで出る口実になります。』
今よりでかい服を着る為に痩せる意味?!
『帰りにコンビニで冷えたノンアルビール買いましょう。食の楽しさを知りましょう!』
「いやコンビニで買ったら高いし!」
「ああいえばこういう。」
ナビさんと漫才をしながらエレベーターに向かう。
エレベーターに乗ると7階で自転車をさげた男性が乗り込んで来た。服がガチというか、自転車乗りのそれだ。格好はあれだが、透明感のある黒髪、涼やかな目元に高い鼻、自転車乗りなのに意外に綺麗な肌だ。どこか知性を感じさせるなかなかの塩顔イケメンである。彼は私に向かって頭を下げる。
「狭くてすみません。」
「いえ。大丈夫ですよ。お気になさらず。」
私はにこりと微笑んだ。ていうかなんで駐輪場に停めないんだろう。謎である。
『彼のロードバイクは高価です。盗難防止と外に置いて傷がつくのが嫌なのです。』
なる程。私はロードバイク、クロスバイク、マウンテンバイクの違いがイマイチ分からない。
『クロスバイクは普段使い。ロードバイクはクロスバイクに比べてタイヤが細いです。車体重量は軽く走りに特化していますね。マウンテンバイクは車体重量は重いですが悪路も走行できます。』
へー。詳しいねナビさん。よし、せっかく情報を手に入れたのだ。マンション住人と会話してみよう。イケメンだしね。コミュニケーション能力極小が生かされるぜ!
「高いロードバイクを外に置いて盗まれるのも困りますよね。」
「そうなんですよ!!分かってくれますか!」
あら嬉しそう。彼はニコニコしながらエレベーターを降りて行った。大人イケメンの無邪気笑顔ギャップ萌え眼福だわー。はわー。良いものを見た。
『報酬 イベント エレベーターで坂本隆二と遭遇 坂本隆二好感度アップ』
なんじゃそりゃ。二言話しただけだっての。
『ロードバイクをエレベーターに乗せるのは嫌われる行為ですからね。理解されたのが嬉しかったんでしょう。』
なんと、嫌われる行為なのか。確かに雨の日とかは嫌かも?
公園に到着した。最近太り気味だったからしっかり走らないと。
『その体型は太り気味では無いです。認識を改めないといけません!』
毎日走れば痩せるのかなあ。たった30分で。
『特に痩せる必要は無いですが運動して引き締まれば服が入る可能性があります。』
やっとの思いで走り終わる。
『報酬 敏捷アップ そのまま1分待機。』
ええ。連続イベント発生の予感。
『ど、どうしてそれを!!』
棒読みでわざとらしく動揺すんな。
『緊急イベント発生。逃げた犬を捕まえろ』
報酬情報が無いんだけど。
無視である。
前から走ってくる犬。え、でか!!ちょ!まさかのハスキーである。私豆柴くらいのを想像してたよ?!こわっ!え、でかい!怖い!!
「カリク待て!止まれ!そこの子どいて!どいてー!カリク!止まれ!ストップカリク!!」
立ち尽くす私に犬がダイブしてくる。
そして私が犬に捕まえられた。
うわー!舐めるなー!うわーうわー!ちょ!くさーい!!
思わず犬と自分の顔にクリーンする。
「だ、大丈夫ですか?申し訳ない。」
男性が犬を私の上からどけ、外れてしまったハーネスの紐を付け直す。
『報酬 解体』
は?!?!この犬解体すんの?!
ちょ!怖いなんなの?!
『あなたのその発想が怖いです。解体するのはコッコです。生きている動物の解体は不可です。』
冗談じゃん!ツッコミ長いよ?もっと短くシャキッとして?
『今のはボケだったのですか?!難易度が高いです。』
「カリク伏せ!人に飛びついちゃダメだ!」
伏せてなお尻尾がバタバタとテンションMAXな犬カリクに私はちょっと恐ろしくなる。
「すみません。とりあえずベンチに。怪我はありませんか?頭を打っていませんか?ああ…服も髪も泥だらけに。」
まずい。顔だけクリーンして綺麗なんですけど。
「何ともないですよ!わ、私はもう帰りますので。ご心配なく!」
私は手を横に振る。
「僕は佐々木と言います。これ名刺です。タクシー代と医療費をお支払いしますので今から病院へ。」
「いえいえ!大丈夫です。」
「あの、お名前を。後日クリーニング代だけでも、振込先を教えていただければ。」
「け、結構ですので!」
私は逃げる様に帰宅した。
佐々木蒼太さん。住所がうちのマンション、ヴィラSASAKIなんですけど!マンションで犬飼ってるの?!はぁ?!マンション管理人代理?!え!金持ちだ!!私と同じくらいなのに!!若い金持ちだ!!
『報酬 カリクと佐々木さん カリク好感度アップ 佐々木蒼太好感度アップ』
はぁ?!
ととととにかく落ち着け。
突然の好感度アップイベントと、金持ちと人脈ができた事にダブルで動揺するも、私は善良な小市民。クリーン一発の汚れやこの強靭な肉体で佐々木さんから金をせしめるなんてあり得ない。
父は私をそういう育て方をしなかった。いや知らんけど。父も母もあんまし家には居なかったからな。
管理人さんは父親と同じくらいのだったと思うので、代理の人がこの人だとは父親に話しておこう。
ていうか、好感度アップイベントで飼い主の佐々木さんではなく犬のカリクの方が前に表示されたのなんで?
『カリクの方が親密度好感度ともに高いからです。』
ちょwwカリクとは初対面なんですけど謎の親密度ww
その後異世界に行って鶏をさばいたら魔石が出て来た。魔石は生産に使ったりMPを肩代わりするものらしい。MP無限なんだけどね。
何羽か狩ってストックしたのは言うまでもない。殺生嫌いとか言ってた自分が恥ずかしい。私の中で異世界が作業ゲー化してきたのである。
私は集めたりストックする作業が大好きなのだ。
森の入り口付近で片っ端から鑑定しながら薬草や野草を集めた。何故か玉ねぎがあったのでそれを掘り起こし、地球に帰還しまた掘る。
疲れたのではじまりの部屋で少し眠り、再び作業。
何だこの玉ねぎと薬草の数は!!!我を忘れて作業に没頭してしまった!
私はクリーンし、鶏ももとささみと玉ねぎを持ってキッチンへ。
「とにかくなんか作らないと!今あるものでできるものは…えーと!」
父親にご飯を作るとメールしてインターネットで材料からレシピを調べる。
しまった。もう6時だ。
「食中毒菌はありますか?寄生虫は?」
『ありません。』
カンピロバクターとか地味に怖いんだよな。潜伏期間長くて風邪みたいな症状なのに、治ってからギランバレーとかなるとかそんな話を聞いた。
玉ねぎに菌が無い事を確認して一個はスライサーで薄切りして水にさらす。
そしてもう一個は微塵切りして、フライパンに油と共に入れて油を絡めて弱火放置。普通は炒めるんだけど面倒なのでこれで良い。
薬草は生食できるらしいのでクリーンして一口。サニーレタス程度の苦味。食えるな。
鶏ももを玉ねぎのフライパンに入れて炒めてご飯とケチャップ、ウスターまーぜまーぜー。このまーぜまーぜは料理動画の人が言ってたのでつい言ってしまう。
ところどころご飯の白い部分やかたまりがある。でもまあ良いか。プロじゃないんだし!
チキンライスを皿に盛ったらラップしてフライパンをクリーン。父親が帰ってから仕上げしよう。
私はささみを茹でて手でほぐして、薬草、水を切った玉ねぎ、ささみと盛り付ける。胡麻ドレッシングをテーブルに。
はうー。遅い。遅いなあ。
これだから母親が出て行ったのだ。
「ただいま。遅くなってごめん。」
申し訳なさそうな父親。
「何言ってんの。働いてない私が文句いう訳ないよ。仕事お疲れ様。仕上げるから待ってね。」
チキンライスをレンジで温めながら、フライパンにサラダオイルとマーガリンを入れた。バターじゃないのが玉に瑕。
とき卵3個を熱したフライパンに入れシリコンスパチュラで勢いよく混ぜる。とろとろになったらレンジから出したチキンライスに滑らせて乗っける。ああ!!よれた!!!まあ良いか!素人だし!
「先食べて。」
振り返ると父が泣いていた。
「ええ!また?!大丈夫なの?!鬱なの?!」
二個目は綺麗にできたので、食べずに待っていた父のと変えようとしたが頑なに拒否された。
「お前がお父さんに作ってくれた初めてのオムライスなんだ。」
いや何言ってんの?!そんな大袈裟なこと?!
でもそうなんだ。
私なんもしてこなかった。
「今までなんもしなくてごめん。まだ働くの怖いし外出るの怖いけどちょっとずつ頑張るから。」
「そうだな。うちに事務で入るのはやっぱり嫌か?在宅でもできる仕事はあるよ。」
「怖いよ。社員の人に嫌われる。」
「そうかな。結構多いと思うけど。」
それから佐々木さんに会った事を話した。
「この三月から代理らしいよ。本業はWEBデザイナー兼イラストレーターさんだと思うけど、それだけでは収入が心許ないとかで管理の方もやる事になったとか。ほら、身近にも居ただろ?別に恥ずべき事じゃないんだ。」
「そうだけど。会社で嫌われるのは怖いの。ほんとに。」
「会社であったこと、話す気にはなれないか?お父さんはこれでも所長だから、少しは相談に乗れるよ?」
「もう済んだことだから。」
私は食器を下げ、普通に洗い物をして自室に戻った。
『先取り報酬 イベントオムライス 治癒極小 関屋豊好感度アップ』
はぁ?!
擦りむいたのか手のひらを怪我していたので治癒極小をかけると綺麗に治った。
私は頭の傷にも治癒極小をかけた。ほっぺの吹き出物に治癒をしたら治った。まさか!まさかまさか!シミに治癒!うおおおお!!!