第八話 宇宙船の中②
宇宙人に連れられ、私は部屋を出た。
真っ白な部屋から出た先の廊下は黒を基調とした壁で成り立っており、ところどころに室外機のようなものや、配管がむき出しになっている部分があって、自分が宇宙船という施設の中にいるのだということを実感させられた。
この宇宙船はどれほどの規模なのだろうか。
私の前を歩く宇宙人は枝のように細い手足をゆらゆら動かしながら廊下を勝手知るたる様子で進んでいく。私の目線あたりに彼の首筋があって、前方の景色はしっかりとは見えない。
地面を見下ろす。
胸のふくらみ越しに灰色の地面が見える。
セーラー服と運動靴のまま、こんな場所まで来てしまっている。
私はどこに連れていかれるのだろうか。
宇宙人が角を曲がった。私もそれに倣う。
曲がった先は一本の袋小路になっていた。
突き当りまで行って、宇宙人はこちらを振り返った。
「着いた。入るぞ」
「はい」
ぷしゅーっとドアが空いて、私は中に入った。
少し薄暗い部屋だった。
中央には縦向きに細長い机が置かれ、それを囲むようにして10人近い宇宙人が椅子に座っていた。
奥には大きなスクリーンがある。
会議室のような場所だった。
ぷしゅーっ、と後ろのドアが閉まった。
「ご苦労」
長い机の一番奥に座る宇宙人が声を発した。
異常に大きな黒い瞳がこちらを見ている。
私をここまで連れて来た宇宙人は、隣でぺこりと頭を下げた。
私は部屋の奥に座る宇宙人を静かに見つめた。
向こうも、こちらを見つめていた。
「さて、お嬢さん」
彼は細長い指の先をこちらに向けた。細く尖った指先が怪しく光った。
「死んでもらおうか」
きらっ、と何かが光った。
背後の壁が爆ぜた。
網膜に焼き付いた閃光の残像が糸を引いていき、
後ろの壁に跳ね返った熱風が首筋にあたった。
髪の毛がふわりと浮かんだ。
轟音の残響が鼓膜を未だ振動させる中、
私は傾けた頭を元に戻した。
部屋の奥で怪しく光る宇宙人の指先と、背後の壁に焼き付いた着弾点が結ぶ直線の上に、私の頭が割り込んだ。
宇宙人は目を見開いていた。
もともと大きな目がさらに大きく見えた。
眼窩から黒い水晶玉がぼろっと零れ落ちそうなくらいだ。
「……なんと、、恐るべき……」
部屋の奥の宇宙人は指先をだらんと下ろし、驚愕の声を漏らした。
すると、
他の宇宙人達がガタッと椅子から立ち上がった。
「何をしているのですか長老!」
「この者はとりあえず生かしておくと、そういう話では!」
「早まってはいけませんぞ! とりあえず生かしておくのですから!」
「とりあえず生かしておいているだけとはいえ、いきなりそのような真似を」
「とりあえず生かしておかないと!」
「だからあれほどとりあえずと……」
とりあえず生かしておいてるだけにもほどがあるだろ。
どんだけいつかは殺したいんだよ、と私は心の中でそう突っ込まずにはいられなかった。
長老と呼ばれるその人物は「そうだったな、すまん」と謝った。
どうやら私は殺処分されることは決まっているらしい。
ということは、おそらくこの宇宙人たちにとって不都合なことをしたのだろう。
長老、と呼ばれた宇宙人は奥の席から私に視線を向けた。
「すまない。危険なことをしてしまった」
いや、いまさら謝られてもだけど。
「いえいえ」
でも私も大人な対応をする。
「それにしてもすごい身体能力だな。聞いていた地球人の基礎能力値とは大きく異なるように見えるが……」
「昔から運動神経がいいんです」
「そうか。まあいいだろう。それで気になっているであろう、君がここに連れてこられた理由を説明しよう。ラサ。」
「はい」
ラサ、と呼ばれた宇宙人が席から立ち上がった。
声は若い。だが見た目は正直見分けがつかない。若干皺が少なめなような気もするが、いかんせん部屋が薄暗いのでよくわからない。
「お嬢さん、このように連れ去っておいて今更取り繕っても仕方がないので、単刀直入に言います。
我々は地球侵略をしようとしていましたが、それをあなたに阻止されたというわけです」
「はい」
「あなたは空から降ってきた、こう、豆のようなものを口にしましたね」
「はい、しました」
私は直立不動でそう答える。
「あれが、地球侵略の鍵となるものだったというわけです」
「なるほど」
「詳しくは言えませんが、あれをもう一つ作ろうと思うと、莫大な費用と、時間が必要になるのです」
「それはすいません」
そんなものを、空から学校の校庭の上に落とすなど、地球侵略作戦として欠陥があるのではないか?
と私は思った。
「どうしてあのような場所に、あのような時間帯に、と思われるかもしれませんが、あの種子をあの条件で空から落とすことは入念な計画に基づいたものでした。
しかし空から落ちたそれを、あなたが食べてしまった。
通常、生物があの種子を食べても作戦は成功するはずなのですが、どうやらあなたは普通ではないようだ。胃が異常に強いのか何かわかりませんが」
「はい」
「不測の事態により開発者と連絡を取ったところ、食後1分以内に発芽しないのであればほぼ間違いなく作戦は失敗したと判断していい、とのことでした。しかし消化される前に取り出せば、一部を再利用することができ、再生成の費用や、とくに開発年数を大きく削減できるため、あなたをここに招聘しました」
開発時間、ではなく開発年数。相当な期間を要するのだろう。
「これからその種子を取り出す手術を行います。ちなみに、そのまま放っておくと貴方の身体に問題が発生し、高い確率で死に至ります。大人しく手術を受けることをお勧めいたします」
ああ、これは嘘だな。
と私は思った。
さきほど言っていた「消化される前に取り出せば」という言葉と、なんとなく矛盾している。
「これから手術室にご案内します」
「そのあとは殺処分というわけですか」
「それはわかりません。ここにいる者たちはそのように考えていますが、一旦この件は本国に持ち帰ることになっています。ちなみに、ここで反抗的な態度を見せれば即刻殺処分することを許可されています」
いや、それはないな。
大事な作戦が予期しない形で失敗して、その失敗の原因を精査しないまま殺すことなんて許可されるわけがない。
私は全て話を聞き終わって、つま先を地面に立て、こんこん、と叩いた。
踏み込んでも割れなさそうな床だ。
このまま大人しくしていてもどうせ殺されるだけだ。
暴れようか。




