第九話 飛び蹴り
私は大きく息を吸った。
部屋を見渡す。
まあ普通の会議室のような広さだ。
中央には縦向きに長方形の机が置かれており、それを10人の宇宙人が椅子に座って囲んでいる。
私をここまで連れて来た隣の宇宙人も含めれば11人。
全員、倒す。
それで制圧する。
そう意気込んで、だが思いとどまった。
(勝てるか?)
薄暗い部屋で宇宙人の目が怪しく光っている。
全員、枝のように細い体をしている。
腕はちょっと太い枝くらいで、
太もももストレッチポールくらい。
胴体部分に関しては、ガンジス川のほとりにいそうな子供くらいのやせ具合。
一見、勝てそうに見える。
靴の中で、足の親指をぎゅっとさせる。靴底を掴む。
だが、さきほど見せたビームは脅威だった。
反射的によけられたが、ここにいる宇宙人全員があれを使えるとなれば、全て避けきるのはむずかしいかもしれない。
もう少し人数が少ないところでおっぱじめた方がいいか。
このまま彼らの提案する「手術」とやらに大人しくついていって、手術が始まる前に、とりあえずその場にいる宇宙人たちを抑えて……
いや、そうなっても、おそらく今この会議室にいる宇宙人たちが指示を出して、この宇宙船の全兵力をもって私を制圧しにかかるだろう。
宇宙人たちは私に注目している。
「それでは、手術室へ向かいましょうか」
隣に立つ宇宙人がそう言った。
今、この場にいる宇宙人は全員責任のある立場だと見た。
じゃあ、ここを全員殺せば指示系統は機能しない。
そのあとは、
宇宙船の操縦士を脅迫することもできる。
むしろ、今のこの状況は千載一遇のチャンスなんじゃないか。
どうせ失敗したとしても、かれらは私を本国に持ち帰るまでは殺せないはず。
逆にここで反抗せずとも、かれらの拠点とやらに帰れば殺されるだけ。
私は大きく息を吐いた。
運動靴を脱ぎ捨てる。
靴下も脱いだ。
床が足裏を冷やした。
宇宙人たちはざわざわし始めた。
「何か、変なことを考えているのではありませんよね」
「ええ、別に考えてなんかいませんよ」
私はそう言いながら、セーラー服の首元を結ぶリボンをはらりと解いた。
一筋の布を宙に飛ばす。
ひら、ひら、と天井高くまで上昇した。
膝の力を抜いた。
上体が重力に従って、ふっと落ちて来る。
膝がたわんだ。
ぎゅおっと太ももが、ふくらはぎの筋肉が引き締まった。
地面を蹴りぬいた。
ずどん‼
視界の景色が引き延ばされる。
まず狙うは長老の首‼
すさまじい轟音が鳴って、部屋の奥の壁に私の飛び蹴りが突き刺さった。
足裏からはぐにゃッという感触。
私が壁を離れると、
土埃と共に壁に埋め込まれた宇宙人が現れた。
頭と胴体はつながっている。
だが、ぐったりとしていた。
私はその様子を確認して、後ろを振り向いた。
すさまじい怒気が部屋全体から立ち込めた。
先ほどまで椅子に鷹揚と腰掛けていた宇宙人たちは全員が立ち上がり、
感情の読めない大きな黒い瞳をこちらに向けていた。
しかしその眉間には小さな山脈のような皺が寄っている。
全員が人差し指をすっと私の方に向けた。
爪の先がぴかりと光る。
来る。
入口の方で、セーラー服のリボンが宙をひらひらと舞って、地面に落ちるところだった。




