第七話 宇宙船の中
色々あって、私は他の惑星に連れていかれることになった。
現在は宇宙船の中にいる。
何もない真っ白な部屋だ。
大体、畳8、9畳くらい。全然窮屈ではないがそれほど広大な空間でもない。
さきほど、私を連行した宇宙人は白い部屋を出ていった。
壁面の一部がぷしゅーっと音を立てて開いて彼は部屋を後にした。
ドアが開いたときの長方形に切り取られた部屋の外側の景色はこの部屋と大差ない淡泊なものだったが、若干色味があって凹凸もあったように見えた。
ということは真っ白で何もないこの部屋は宇宙船の中でも特別な場所だということなのだろう。
さて、これからどうしようか。
事の発端は空から降ってきた豆粒を私が食べて、実はそれがただの豆粒じゃなくて宇宙人たちにとって大事なものだった、ということらしい。
そこで疑問になるのが、あの豆粒はなんなのかということだ。
私は真っ白な部屋の中心で思慮を巡らせた。
見た目はまず、豆粒のようなものだった。
色は薄い茶色だった気がする。大豆みたいな。
実際に食べた感触でいうと、ほんとにただの豆。
銀杏だと思った。
強いて言えば普通の豆類よりもぎゅっと密度が高い感じはあったが、それくらいの違和感だ。
少なくとも金属的なものではないだろう。
では、植物なのだろうか。
もしかすると柔らかく加工しているだけで超ハイテクなマシーンだったりするのかもしれない。
でも金属的な固い感触はなかった。
いや、金属といえば固いという発想が間違っているのかも。
その金属の融点次第だし、
そもそも別の惑星から来たのだから地球には存在しない金属だという可能性も全然あるのだ。
それこそ普通の温度で豆みたいな触感の金属とか。
ん~、でもそんな可能性よりも、植物とか、生物的なものである可能性の方が全然高いか。
やはり、あれを実際食べて銀杏だとしか思えなかった私からすれば植物や生物由来のものであると考えるのが自然に思える。
植物だと仮定して考えを進めるなら、あれは実か種だろう。
実か、種か。どちらだろう。
実であるとすれば小さすぎる気もするし、種であるとすれば柔らかい気もする。
だいたい、豆ってなんなんだろう。
そもそも、豆っていうのはあれは植物にとって「実」なのか「種」なのかどっちなんだ?
豆、豆……たとえば、枝豆とか。
枝豆は4つセットくらいでで袋に包まれて「実」みたいに、植物の茎からぴょこっと垂れ下がっているイメージがある。
いや、でも、あれが弾けて種として飛散する、みたいな仕組みなのかもしれない。
んー、わからん。
あーでも、カボチャとかは普通に実の中に種があるけど、枝豆を垂らしてるあの植物に豆っぽい部分なんて枝豆以外ない。
枝豆を垂らしてるあの植物……あの植物の名前って枝豆か?
いや、ちがうか。
エンドウ、という言葉が頭に浮かんだ。
あー! サヤエンドウとかいうやつだ。
そこでわたしは思い出した。
中学の頃の理科で、エンドウの遺伝子がどうとか、メンデルがなんとか習ったことを。
そのころの記憶に寄れば、おそらく枝豆は種そのものだった気がする。
ということは豆粒っぽいやつは「実」ではなく「種」ということでいいだろう。
とすると、空から降ってきたあの豆粒みたいなやつは「種」のようなものと考えて思考を進めてもいいはずだ。
では、宇宙人がなぜあんな種のようなものを大事にしているのかということだ。
あれを登校途中の私が食べたと発覚して、宇宙人は学校の教室にまで乗り込んできて私を連れ去ったのだ。
非常に高価なもの、貴重なもの、大事なものであったに違いない。
種、宇宙人。その二つの言葉を脳内でぐるぐると巡らせて時に接触させる。
そして二つの言葉は融合して新しい考えを私の中に生み出した。
地球侵略だ。
種を植えて、地球の生態系を変えるつもりだったのか。
もしくは有害なウイルスかなにかをまき散らす植物を繁殖させて地球を滅亡させる気か。
宇宙人が地球に撒こうとした種を私が食べてしまったのか。
そう考えると合点がいく。
なぜ貴重なものを空から落としたのか、それが不思議でならなかった。
でも種を植えようとしていたなら納得できる。
ということは私、地球を救ったのか?
宇宙人が地球侵略のために撒いた種を手でキャッチして、ぱっくと食べた。
案外地球の英雄になっちゃったのかもしれない。
いや、でも種を撒いて地球侵略をしようとするなら、もっと大量の種を撒いた方がいいはずだ。
いや、一粒で十分なものなのかもしれない。
だがそうだとしても作戦の成功確率をあげるためにある程度の量は撒いた方がいいはずだ。
なら、一粒だけ、しかも学校の校庭に降ってきたあの種はなんだったのだ。
わからない…
地球侵略という前提がまちがっているのかもしれない。
そうやって考えを巡らせていると、ぷしゅーっという音が鳴って、
部屋の壁の一部が長方形の形に切り取られた。
ドアが開いたのだ。ただの壁に見えているところから急に音が鳴るので、少々びっくりする。
そこには宇宙人が立っていた。
しかし、私を連行した宇宙人とは異なる容姿をしていた。
私を連行した宇宙人は身長130センチとかそのあたりの体格をしていたが、
今私の視線の先にいる彼は、180センチほどの身長がある。
体が枝のように細いことには変わりないが。
彼は言った。
「付いてきてもらう」
私を連行した子供のような宇宙人が話したカタコトの日本語とは異なる、はっきりとした発音と、厳格な声音だった。
彼らは地球侵略をするつもりなんだとほとんど決めつけていた私は、恐る恐る立ち上がって真っ白な部屋の出口の方に向かったのだった。




