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光と影 ~天使と悪魔の出会いと別れ~  作者: 御蔭クリケット
第五章 時計台の崩壊とゴールデンレトリバー
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第五章 時計台の崩壊とゴールデンレトリバー 4 オーヤマ

 世界は何も悪いことばかり起こっているわけじゃない。


 オーヤマはテレビでキャスターが今の世の中を否定する発言をするたびに思う。

 地球温暖化が問題だと騒がれているのは、そもそも地球温暖化を危惧する声があるからだ。もし、誰も地球温暖化に気付かず、ただ地球に致命的なダメージを与えるに至ってしまったら、それこそ最低だ。そう思うだろ?


 人々は何か異変が起こりつつあることに気づき、何かしなければ後戻りができなくなってしまうかもしれないと考え始めている。まだ具体的に何かを実行しようという行動の段階には移っていないかもしれない。


 それでも、何も気付かないよりましだ。

 割り箸の節約やマイバッグの利用だけでも、まずは十分じゃないか。最初の一歩が肝心なんだ。


 テレビだって、新聞だって、雑誌だって、漫画だって、良質なものはいくらでもある。料理にも美味しいものや、不味いものがあるように、テレビにだっていい番組があれば、悪い番組もある。視聴者がどれだけ影響を受けているのか分からない。だけど、老若男女問わず全ての人間が良否判定する能力は絶対に備わっている。


 そうだからそんなに世界を憎まなくても大丈夫――


 オーヤマが末期ガンだと宣告されたのは二年前のことだった。それは本当に突然のことだった。発見したときにはもはや手の施しようがなかった。ご高名なお医者様にあと余命半年と言われたのに、一年間生きることができたことだけが、最後の慰めだったのかもしれない。


 自分の命の灯火が消えることよりも、ヨーコを置いてこの世を去るということが何よりも寂しかった。


 本当に京都は美しい。それは神に誓って真実だと思う。


 春には色々なところで桜は咲く。名所がありすぎて、どこに花見に行ったらいいか迷うくらいなんだ。でも、有名な神社仏閣と比べても、鴨川に咲く桜は格別だと思う。秋は紅葉に行かなくったって、周りの山は色づいてくる。そりゃ、京都の夏は蒸し暑いし、冬はきゅんと底冷えする。


 だけど、京都は格別に良い。


 そりゃ、いいから、一年間に数百万人が訪れるのよ。

 夜景の見えるホテルで、ヨーコはそんなことを言っていた。


 でも、観光地であっても、住んでしまえば、いつでも行けるだろうと思って、なかなか名所に足を運ばなくなる。もっと元気なうちに、隠れた名所でも散策するべきだったとケータは思い、最後の一年間でもう二度と行きたくなくなるってくらい京都を観光した。

 京都市内には3年間も住んでいたし、リピーターが好むようなマニアックな観光地まで制覇した人間だったら、天国で大流行している京都旅行の会話に何だってついていくことができる。


 だから、安心して大丈夫だ。

 正直言えば、海外旅行にも行きたかった。中国や東南アジアのエキゾチックな魅力に魅了されたり、優雅にヨーロッパに長期旅行なんてのも学生時代にしかできない特権だと思う。アメリカのカジノにだって行ってみたい。だけど、ご飯も腹八分目っていうんだし、自分のやりたいことを全てやり遂げて死ぬのもなんかうまくない。


 まあ、そんな一年も前のことを愚痴っても意味はない。

 最近の話でもしよう。


 オーヤマはふと気付いたら、鴨川デルタのベンチに座っていた。それまでの時間の流れもなく、ただ唐突にベンチに座っていたが、特に何の違和感もなかった。しばらく川のせせらぎに耳を澄ませていると、ヨーコが現れ、手渡されたコーラを飲んだ。


 一年間も何も飲み食いしてこなかったんだ。炭酸のキツイコーラだって、一リットルくらいならお手の物だ。

 そして、空からやつが降ってきた。まばゆい天使なんてコスチュームを着て、

 

「やっぱり死んじゃったんですか?」

 ドンドンとドアを叩く音が聞こえ、光が差し込んできた。

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