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光と影 ~天使と悪魔の出会いと別れ~  作者: 御蔭クリケット
第五章 時計台の崩壊とゴールデンレトリバー
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第五章 時計台の崩壊とゴールデンレトリバー 3 シリル

 さっきまでヨーコの腕に抱かれていたのに、気付いた時には自分の足で立っていた。シリルが居る場所は、前の飼い主の家だった。シリルが赤ん坊の頃から住み慣れた家。匂いもいい。間取りもいい。ただ、今の家にある床暖房がないことだけが負けていた。だけど、それ以外は全て完璧な家だった。


 泣きたくなるような感情が込み上げてくる。だけど、今はそんなことよりもなぜこの場に来てしまったのかその理由を考えることが先決だった。


 シリルは一年前、敵対者に勝利した。その瞬間、家が崩壊した。シリルは戦いで酷く傷つき、起きた時には瓦礫に埋もれていた。そして、シリルの家族は皆、下敷きになり死亡していた。シリルは願い事を言って、家族を助けなければいけなかった。だが、それはできなかった。


 いくら性悪の神様だったとしても、叶えたといった願い事が嘘だったなんてことはあってはいけない。では、なぜこの場にシリルが居るのか、残念ながらシリルのちっぽけな脳味噌では分かりそうにない。


 いつもであれば、アフガンハウンドとチワワがシリルをおちょくるために、現れそうなのに、こういう時に限って、やつらは現れない。そういうやつらなんだ。


 シリルは悪魔の力を感じ取った。しかも、オーヤマに対して感じたような、与えられた能力者の力はでない素の力、本物の悪魔の力だ。それは家の二階からゆっくりと階段を下りてくる。


「シリルさんよぅ」

 階段を下りてくるアフガンハウンドの姿が見えた。

「直接呼び出すなんて、いい度胸してるじゃねえか」

 そして、台所に天使の力を持った存在が現れる。アフガンハウンド同様に、与えられたわけじゃない本物の天使の力だ。


「こんにちは、シリルさん」

 台所のドアが開き、狭い隙間から、チワワが現れる。


 ヨーコは願い事をいった。

 このゲームに興じている神様に会いに行くこと。

 シリルはようやく理解した。ゲームを興じていたのは神様なんかじゃない。ゲームを興じていたのは目の前にいるアフガンハウンドとチワワ、悪魔と天使だった。だから、ヨーコはこの場にはいない。シリルが一年前にゲームに関わったのが、目の前にいる二匹で、ヨーコが今回関わったのはあの天使と悪魔だから。今頃、ヨーコは別の場所で天使と悪魔に対面しているに違いないそう確信する。


「それでよぅ。何がしたいんだ。ここで俺たちと戦争でもおっぱじめようっていうのかい。そういえば言っていたかもなぁ。シリルさんの目的は天使と悪魔に復讐することだって。今まで自分の脳裏に巣くっていた悪魔と天使とご対面できて、後は復讐を果たせばいいってことになるんだよなぁ」


「そうはいってもね、シリルさん。このゲームを指揮していたのがわたしたち二人だとすれば、実はわたしとそこのアフガンハウンドは仲間だったってことになる。つまりシリルさんは一匹でわたしたち二匹と戦わなければいけない。勝ち目はあるかしら」

 シリルはじっと二匹を見比べていた。まだ、二匹とも力を行使しようとはしていない。


「シリルさんよぅ。お前さんの持っている力は悪魔の力なんだ。ヨーコってお嬢ちゃんが天使の力でできた手袋でも何でも使わなければ、お前さんの力だけで、俺を倒すことなんかできやしない。今まで以上に絶体絶命の展開ってやつじゃねえか。とっととしっぽ巻いて逃げた方が得策ってやつよ。それでも戦いたいんだったら、そこにいるチワワとやってくれ、俺は手出ししないぜ」


「あら、そんなこといっていいのかしら。それならまずわたしとシリルさんであなたを倒してから、疲れ切ったシリルさんをわたしがいただくって展開がいい」


「全く、可愛い顔して、考えていることは俺よりも悪魔じみてるんだからなぁ。チワワのやつは。それでどうするんだ」

 アフガンハウンドは階段の中程で座り込み、チワワは台所のドアの所に座っていた。シリルに逃げる気は全くなかった。


 もう願い事を言ってしまったシリルに残されたことはない。もしここでアフガンハウンドが言うように尻尾を巻いて逃げてしまえば、もう二度と心に開いた穴は埋まることはなくなってしまう。気持ちの上では、悪魔はすでに倒していたから、あと天使を倒せば、とりあえず天使と悪魔に復讐をしたってことになるんじゃないのか。そんな甘い考えが脳裏をよぎり、シリルはチワワを見つめた。


「わたしとやる気?」

 シリルの力とは比べものにならない天使の力がチワワの周りに渦巻き始める。

「シリルさんよぅ、気を付けた方がいいぜ。そいつは可愛い顔してやることは最低だからなぁ」


 シリルもまた悪魔の力を解放した。アフガンハウンドはさっき言ったように、シリルとチワワの戦いには関与しようとしないらしい。それだけがシリルにとって好都合なことだった。それならチワワが今出した力で、アフガンハウンドを攻撃してくれれば――


 そんな希望は一瞬にして打ち砕かれた。


 何が起こったのか分からなかった。ただ、チワワが力を放出しようとした瞬間に、シリルははじき飛ばされていた。その力の大きさに、シリルは全く太刀打ちできないことを思い知らされる。


 シリルは下駄箱に直撃した。


 ダメか。

 チワワが天使の力を更にけしかけてくる。シリルはその攻撃を避けることも受け止めることもできずに、何度も下駄箱に叩き付けられる。


「これでもまだわたしとやる?」

 シリルはぐったりと床に伸びていた。もう戦う気力すら残っていない。目の前にいるのはチワワとアフガンハウンドで、ここはどこか分からないけど、崩壊したはずの昔の家。


――わんちゃん!

 シリルの耳にヨーコの声が聞こえた。

――きっと分かっていないと思うけど、神様なんていないのよ

 そんなことは初めから分かっている。この戦いの首謀者は目の前にいる天使と悪魔だ。

――なぜわたしがこんなだだっ広い空間にいるのか、わんちゃんと別々なのか

 だだっ広い空間。シリルはおやと思った。ヨーコは天使と悪魔とは戦っていないらしい。では、どこで何をしているのだろうか。


 このゲームに興じている神様に会いに行くこと。


 この言葉を再度考えてみると、シリルはようやく気付いた。その時、世界が再び崩壊した。チワワとアフガンハウンドがゆっくりと消えていこうとする。


「シリルさんよぅ。自分のケツは自分でふき取るもんってことよ。何もかも悪いことが起こったら、人のせいにしようとする性格は直した方がいい」

「シリルさん、あなたならきっとあなたらしく生きていける」

 二匹が消え、シリルの目の前にもう一匹現れる。


 ゴールデンレトリバーだ。

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