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リアの英雄物語-RiaOnline-  作者: 青我
Episode.03 闇英雄の覚醒
30/42

Chapter.2 「非凡の再来」

 お見合いというものは、かくも緊張するものなのだろうか。

 他社を訪問するような、営業に行くような、そんな感覚でいれば良いと自分を勇気づけていたはいいが……。

 10畳ほどの和室。掛け軸になんか高級そうな壺、中庭――なぜにここまでお決まりのパターンのお見合いを挙行いたしますのでござるか…いかん、緊張してわけがわからなくなっている。とにかく、この相手を待っている時間というのは、途方もなく長い時間に思えた。


 すると、店の女将さんが正座でかしこまりながら襖を開けた。

 来た――。

 脳内を駆け巡る電気信号が、全身へ突き抜けるように、体を震わせた。武者震いというのだろうか。のそりのそりと回廊を歩む音。その一足一足が歴戦の勇者を思わせるほど、堂々と真っ直ぐにこちらへ近づいてくる。俺は生唾を飲まずにはいられなかった。拳を握り締めながら、戦闘前の装備を確認した。

 武器は半年前に購入した一張羅のスーツ。これはインパクトに欠けるが、素朴でフレッシュな青年をアピールでき、極めつけのネクタイが質素さを際立たせる。…いや、正直もっと早く言ってくれれば、綺麗なのを買ったんだけども。

 頭装備はない。いざとなれば隣に座って変なくしゃみをしている部長の眼鏡を奪い、アクセサリーとして印象を高めるしかない。

 足装備は――最悪だ。穴があいている。これでは耐久度が落ち、ここを攻められればひとたまりもないだろう。


「猿渡君、靴下くらいもっとまともなものはないんか?」


 ――お前が攻めるんかい! と心の中でツッコミをいれた。部長にすら見抜かれる弱点……これは失策だ。

 ……いや、待てよ! これは、防御魔法「先見の明」! あらかじめウィークポイントを指摘しておくことで、二度目に指摘された時の俺のメンタルを保護する呪文! 部長……さすがです。人生の先輩――これは、侮れない。

 しかし、そういった装備の不足感が、俺の冷や汗を促進させた。敵を攻略するには装備を整えることが必要不可欠――しかし、背中は汗で湿っている――いかん、道具屋で制汗スプレーを購入し忘れていた。これではいざという時に|特技ポイントを回復《脇的なところの体臭をリカバリー》できず、容易に腕を上げたり近づいたりし、|特殊なスキル《鍋を取り分けるなど好感度を上げる技》を発動することができなくなってしまう――!


 最悪だ……これでは、鍋の蓋にそこらに落ちていた棒で、村を襲う巨大なモンスターを倒しに行くようなもの。村を襲うモンスター、モンスターを倒せば娘を嫁がせるとお触れを出す村長を前にして――これでは、村長の娘との結婚イベントにたどり着く前に、|稲妻や激しい炎で即死《お見合い相手に白い目で視殺》させられてしまう――。

 せめて、口臭ケアだけはしておこう。服から取り出して、念のため丹念にケアをしておいた。


 足音が間近まで迫っている――その人が部屋に入ってきた。


 青い長髪を風にたなびかせ、濃い紺のふんわりとしたワンピース、パステルカラーのカーディガン。和室には不相応なほど煌めかしい雰囲気を漂わせ、さながら天使――俺の前に降り立った。

 …でも……。


「えーっと……どこかでお会いしたこと、ありません?」


 夢の中で見た、冒険者支援施設にいた女ヘルパーの、リクそっくりだ!


「ふふ…古風なナンパですね」


 夢で見たリクとは大違いの、奥ゆかしさを持ったお見合い相手――。


梨紅道りくみち むつみと申します。本日はよろしくお願いいたします」

「あ、えっと…猿渡さるわたり 大河たいがっていいます…よろし……く」


 その時俺は――中庭の松の木の影からこちらを覗いている、須原含む同僚四人の姿を目撃した。ただでさえ装備不足な俺に、戦いの傍観者たる男女含む五人組の視線――開いた口がふさがらなかった。っていうか、何、この状況――!


「猿渡のやつ、完璧なまでに緊張してるっすね!」

「あぁ、いいなぁ素敵だなぁ相手の美人! 百戦錬磨の卓越した美貌で、いったい何人の心を奪っていったのだろう……盗賊、怪盗!」

「ちょっと、あんた気持ち悪いよ」

「あ~私の大河くんがぁ……」

「まぁあれほどの美人だし、猿渡くんじゃちょっと…釣り合わないかな」


 松の影で騒ぎたいほど騒いでいる同僚。二人ほど手に木の枝まで持って木になりきろうとしていた。


「畜生あいつら…何か好き放題言いやがって…」

「何か、おっしゃいましたか?」

「え、あ、いや、なんでもないです」


 一通りの自己紹介と、仲介となるメガネ部長と先方の部長の話も終わって、後は若い二人にと言い残して去っていった。

 二人きりになってしまった。(…というのは錯覚で、先ほどの五人は部屋の縁側まで来て覗いている)


 他愛のない会話をしていた。


「えっと…リクさ……じゃなかった、睦さんのお仕事は、確か新人教育でしたよね」

「そうです。これから就職しようとする方たちに面接の心得を教えたり、時には、就職場所まで案内して斡旋することもあります」


なぜだろう、夢で見たあの人とだいぶ被るのは気のせいだろうか。


「そ、それって、例えば剣士に成りたい! とか言う女の子にも、優しく手を差し伸べる感じですか? …あはは」


俺はいったい何を聞いているんだ? 緊張しすぎて自分でもどうかしてしまったのかと思えるくらい意味不明なことを聞いてしまっていた。


「うふふ…えぇ、そうですね。そういった方には、適切な職業をご案内しています。今で言うと…なんでしょうね、漫画家さんですとか声優さんですとか」


天然だ……! この人は天然な人だ! 冗談を上手に返せる天然さんなんて、天然記念物よりも天然さんだ! 


 それから、趣味や仕事の話……時間で言うと三分程度、当たり障りない会話をしていたが、さすがに話題がなくなり、沈黙を重くしていた。

 話題を探そうと必死になっていた。普段の自分なら、もっと上手に話せるはずなのに、慣れない場所での会話は、こんなにも弾まない。せっかくのチャンスなのに、ものにできない。


「こんなに、美人なのにな……」

「えっ?」


 しまった、と思った。ついうっかり呟いてしまっていた。引かれてしまっただろうか……気まずさが更にましてしまった。再びの沈黙。確かに、この人は美人だ。あの瞳の奥に、どんな世界があるのだろうか。俺は相手の顔に目をやった。目が合った。俺は、気まずさのあまり、はにかみながら「…ははは」と笑った。これはダメだな。そう思っていた。

 しかし、俺が笑ったのと同時に、相手は頬を赤らめて、あごを引きながらちょっと視線を落とした。肩に力が入っている。唇を唇で噛みながら動かしている。

 そんな相手の様子を、瞬きを三回くらいしながら、俺は興味深く見つめていた。


「えっと…」


 お互いの声が共鳴する。俺は手を前に出してわなわな震わせて、「そちらから、どうぞ」と言った。

 相手は、遠慮がちに、身をすぼめながら尋ねてきた。


「あの…これまでお付き合いをされたことは……?」

「え、えーっと……」


 正直に話すべきだろうか。

 俺は幼い頃から施設で育てられた。引きこもってオンラインゲームばかりやっていたので、まともに義務教育すら受けていない。そんな俺が、青春を謳歌していたはずもなく、青春の晴れ舞台たる恋愛とは無縁であった。家族もなく、打ちひしがれていた。平凡な暮らしがしたかった。家族がいて、兄弟がいて、人に囲まれる生活が。全て丸々話はできなかったが、そんな話を、まだ出会って間もない相手にした。


 ――付き合った数…とは言えないだろうけど、大切な人と出会えた気持ちにはなったことがある。俺が数年前にやっていたゲームの世界に取り込まれる夢、その中で出会った一人の女性。お互いにお互いの事を隠しながらも、それでも傍にいると約束したはずの――なぜだろう、夢の話のはずなのに、胸が辛くなってくるのは。


 そんな神妙な面持ちが、相手に伝わったのか、心配そうな表情でこちらを見ていた。


「すみません…こんな感じなんです、俺」

「いえ……私も、実はこれまでお付き合いをしたことがないので…少しだけですが、お気持ちはわかります」


 少し打ち解けられた気がした。この人とならもしかしたら、とも思っていた。沈黙はあったが、相手もまんざらではなさそうだった。しかし、さっきからする胸騒ぎというか、胸をざわめかせる存在が、俺を苦しめていた。


 ――私……初めてだったんですよ、キス、したの


 蘇ってくる記憶が、鮮明に脳内再生される。


 ――わたしは、ここにいますよ。これからも、ずっと。


 切なく胸を締め付ける。呼吸が苦しくなるほどの喪失感が襲ってきた。何か、大切な恋を、どこかに置き忘れてきてしまったような、そんな感覚が――。


「あの……よろしければ、私と――」


 睦が、そう口にしたその瞬間だった。


 部屋の真ん中――つまり、テーブルの上に敷かれるように、青白い光の紋様が浮かび上がった。

 これは――魔法陣だ――!

 呆気にとられる俺たち二人と他五人を他所に、鮮明に、くっきりと、光を放ちながら、その魔法陣から青白い光の門が現れた。

 見覚えがある――夢の中で見た、これは、Riaの世界の、転移魔法――


 ――“聖なる領域の扉(サンクト・ドアー)”だ。


 門が開かれる。非現実的な、超常現象が目の前で起きている。夢では平然と見れたこの光景だが、世界観が違えば、あまりにも受け入れがたいモノとして感じるそれが今、目の前に現れた。光の門の中から、茶髪のツインテールに、メイド服のようなゴシック調の服、整った顔立ちの女が、姿を現した。


「お、お前は……確か夢で――」


 あれは、夢だったのだろうか――妙にリアリティのある戦い、心を抉るような喪失感のあった夢…あれは、現実だったのか――?

 門から現れた女が、テーブルに降り立つと、俺の目の前に手を差し出しながら、淋しげな瞳を憎たらしいほど晴れやかな笑顔に変えて口を開いた。


「やっと、お会いできましたね。セイレン様――♪」

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