表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアの英雄物語-RiaOnline-  作者: 青我
Episode.02 英雄の帰還
16/42

Chapter.11 「明かされぬ嘘」

 ――王都アストレリア北西部郊外山地、砦アスガルド


「クエス、さっきの話の続きを聞かせてくれないか」


 涙の理由。その訳を聞くために、俺はクエスに問いかけた。

 なかなか口を開こうとしないが、口が少し動いているところを見ると何か話そうとしているのがわかった。沈黙が続いたが、俺は答えを待つことにした。

 でも、理由はなんとなくわかっている。


 この世界にプレイヤーは誰ひとりとしていない。――俺を除いて。

 現状、まだこの世界に数日しか滞在していない以上、それが決定的な結論としては言い難い。もしかしたら、同じようにこの世界に来てしまったプレイヤーがいるという可能性は大いにあり得ることなのだが・・・それでも疑問がつきない。

 なぜ“オルトロス”は存在しているのか。

 いくつもの疑問があって、明確な理解とは言えないが、これまでの謎を一言で解決するのなら――。


「・・・じ、実は」


 クエスが話を始めようとしたとき、宝玉の間の扉がゆっくりと開き始めた。

 ガガッという古びた金属のきしむ音を立てながら、開かれた扉から一人の女が警戒しながら入ってきた。


「誰だ!?」


 俺はクエスをかばいながら、剣に手をかけた。

 広間の扉側の隅にいる俺たちに向かって、女はゆっくりと歩み寄ってきた。

 昔クエストで見かけた王家の紋章入りの茶色いローブを身に纏まとっているところを見ると、騎士団のものであることには違いない。

 女は歩み寄りながら、ゆっくりとローブのフードを外した。肩あたりまでの黒髪に、切れ長の目、酔いしれるほどの美貌を携えている。

 俺から数歩先のところで女は止まった。


「・・・セイレン・アルージェ様、ですね」

「何故、俺のことを・・・?」

「王国騎士団、特務機関内であなた様のことを存じ上げない者などおりません」


 そう言うと、女は片膝を付き、かしこまりながら頭を下げた。


「あなた様を英雄と見込んで、お願いがございます。私どもの上官を・・・リゲルを・・・救っていただけないでしょうか!」


 女は、落ち着き払った雰囲気から、後半にかけて急に感情的になって、そう言った。彼女の声は、宝玉の間に響いた。その残響がなくなると、突然の頼みに唖然としてしまっていた俺の様子に気づき、ハッとした表情を浮かべると、顔を少し赤く染めながら、首を軽く左右に振った。


「・・・す、すみません、取り乱しました。申し遅れましたが、私は、王国騎士第六士団次席、アリア・スティンフェンリルと申します。セイレン様のことは、先刻の“掲示板”地下の事件を調べていた折、行方を知ることができました。“不滅の嘘インモートリティライズ”を使われていたのには、訳があると思いますが・・・まずは、この無礼をお許し下さい」


 かしこまった姿勢で語り続けるアリアの姿を見ていると、きっちりとした騎士団らしい振る舞いだと関心してしまう。その上、こんな美人にかしこまられると、こちらが緊張してしまう。英雄と呼ばれているとはいえ、中身はそんじょそこらの無個性な青年なのだから。

 しかし、俺の知らない間に情報隠匿系魔法、“不滅の嘘インモートリティライズ”を使っていたのは、十中八九クエスに違いない。俺は少しクエスの方を見た。

 クエスは俺の背中にしがみついて、まるでどこかのドラマの家政婦が見ているか、のような体勢でいるのだが、「てへっ」と反省の色を見せているところを見ると、いっそのこといつもみたいに問い詰めたくなった。

 

「ま、まぁ、その・・・まずは顔を上げて、普通に接して欲しいんだ。じゃないと、俺も話しづらいし」

「はい、そういうことでしたら」


 そう言いながら、顔をこちらに向けた。向ける途中に、視線が俺の背中にいるヤツに視線が注がれていた。ちょっと首を傾げているところを見ると、特務機関はクエスの存在を知らないらしい。そして、俺の方を見ながらゆっくりと立ち上がった。


「ま、まぁまずはお互い状況を整理しようか。時間はないのかもしれないが、俺も考えたいからね」

「わかりました」


 アリアとの話で、大体の話は掴めた。

 俺は話を聞いている途中から、落ち着きがなくなっていた。

 ラ・ステラにオルトロスがいたということ。オルトロスと特務機関のリゲルという騎士が密談を交わし、交渉が決裂となり戦闘が始まっている。

 そして、問題となるのは、戦闘を行っている場所だった。それは、ミリヤが転職試験を行うために通る森だった。このままでは、ミリヤも、リクも、それに、街の人々も危ない。しかし――。


「それにしても、特務機関次席の私が破れないほどの魔法が使えるなんて・・・あなた、名前は何と言うの?」

「わたしのことなんていいじゃないですかぁ! そんなことより、セイレン様! ミリヤちゃんが心配です・・・助けにいきましょう!」

「なっ・・・! あの森に、セイレン様のお知り合いが!?」

「あ、あぁ・・・そうなんだ」


 アリアは少し顔を歪めていた。正義感というべきだろうか。守るべき人命が森の中にある以上、その者を守るのが務め。しかし、相手はあのオルトロスだ。騎士団で勝てるかどうかは非常に怪しい。ならば、対抗するには、オルトロスに敵う強さの持ち主を差し向けるしかない。だが、その守るべき人命が差し向けるべき戦士の知り合いである。そういうジレンマを感じずにはいられないだろう。

 実際、俺も悩んでいた。本来であれば、真っ先にミリヤを助けに向かっていただろう。だが、相手はあのオルトロスだ。俺自身、奴に確かめたいことがあった。


 オルトロスとやり合えるのは自分自身。でも、守ると誓った少女に危険が迫っている。森にはオルトロスだけではないだろう。部下を配置しているはずだ。

 色々な考えが、一瞬で巡った。

 俺はクエスの顔を見た。クエスは真剣な表情で、早くいきましょう、と言っていた。アリアも同じだった。助けたい人がいるのは、皆同じだ。ならば――。


「アリアさん、でしたっけ」

「は、はい」


 アリアは俺の決断に少し緊張気味な姿勢で身構えていた。


「申し訳ない――」


 これまでの旅の思い出が蘇った。さきほど、クエスに語られたこともあって、なおさら鮮明に思い起こされた。助けた命、笑顔、泣き顔、約束――全てが俺の思いをつないでいって、一つの結論に結びついた。


「お願いだ。ミリヤを助けてやってくれ」


 意外な返答に、アリアはきょとんとしていた。クエスは、「何故、助けにいかないんですかぁ!!」と喚き散らしていたが、もはや、言葉は耳に入ってこなかった。


「俺が、オルトロスを止めに行く」


 そう、オルトロスを止めることが、全てを解決するスムーズなストーリー。そして、その裏に秘められた、俺と奴の秘密を解き明かしたい。

 アリアは戸惑いながら、「でも、良いのですか?」という問いかけてきた。俺は深く頷いた。アリアも、覚悟を決めたように頷いた。道案内は、クエスに頼めばどうにかなりそうだ。


「クエス、すまないが・・・クエス?」


 クエスは、先ほどの雲行きの怪しい表情に戻っていた。


「ひどいですよ・・・ミリヤちゃん・・・かわいそうじゃないですか」

「クエス・・・それでも、俺は・・・」

「なーんて、冗談ですよぉ♪ 騙されましたか? えへへ」

「・・・」

「そう言うんだろうな、って、思ってましたしねぇ。ミリヤちゃんと、ついでにあのゴミクズメガネは、わたしが助けます! なんて言ったって、ヘルパーですからねっ。それに、特務機関のアリア様がご一緒なら、百人力だと思います」

「・・・はは」


 苦笑いだったが、俺には十分だった。つくづく、クエスの性格に救われっぱなしだな。

 俺は、さっきのクエスとの話しを思い出していた。


 ――私・・・初めてだったんですよ、キス、したの

 ――セイレン様。私は、罪な女ですよねぇ

 ――セイレン様、私がこれから話すことを聞いても、セイレン様は私を・・・私を赦ゆるしてくれますか? 

 ――傍そばに、居させてもらえますか?


 空元気を振り回しているクエスに、さっきの答えを伝えようと思った。


「クエス、行く前に伝えておきたい。」

 

 クエスは俺の不意打ちに、ちょっと顔を俯かせたが、決心の着いた表情を俺に向けた。


「俺は、お前がどんなヤツでも、例え、このあと、どんな結果が待ってても・・・」


 もちろん、もうすでに、気づいているんだ。

 お前のことは――でも。



「俺と、一緒にいてほしい」



 そして、俺たちはそれぞれの舞台へと、駒を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ