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リアの英雄物語-RiaOnline-  作者: 青我
Episode.02 英雄の帰還
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Chapter.10 「Rough maker」

「・・・。」

「クエス?」


 クエスはほうけていた。さっきの・・・いや、ちょっと思い出すには恥ずかしいことだけど、クエスも気まずさを感じているのだろうか。


 相変わらず、アスガルドは凄然せいぜんとしていた。冷んやりとした石材の内壁に寄りかかりながら、未だに座ったまま動けずにいた。ここに来れば答えがあるような気がしていた。自分を知る存在が、かつての好敵手てきどうしとして活動していた自分を、認めてくれていた相手だと思ったから。

 ここに来て思い知らされた。自分を知る者は、この世界には誰もいない、と。

 でも、だからこそ、この世界で知り合った、関わった人たちとの出会いを大切にしなければならない。クエスや、リク、そして――。


「ミリヤ、無事転職できたかな。そろそろ、転職試験場の“聖殿”に向かう参道に着いたくらいかな」

「・・・。」

「なぁ、クエス・・・さっきから、何黙って――」


 そう言いかけると、クエスは俺の口を突然(ふさ)いだ。何が何だかわからなかったが、陰りのある表情をいっそううつむかせながら、言葉を失った人形のように黙っていることだけはわかる。

 不意に、クエスは俺の方を見た。前髪の隙間から、後ろめたそうな目で。

 しばらくこちらを見つめていたクエスは、再び顔を背けながら、口を開いた。


「私・・・初めてだったんですよ、キス、したの――」


 それを言うなら俺も・・・だが。口を塞いでいた手が離れ、クエスは続けた。


「セイレン様。私は、罪な女ですよねぇ」妙に明るい声で、そう言った。

「罪って・・・?」俺は、なおさら暗い声色で語りかけるしかなかった。


 それから、これまでの思い出話を、変に楽しげに語っていた。顔は上の方を向いていた。俺に表情を見せないように、向こう側を見ながら話している時もあった。

 俺は、ただ、話を黙って聞くことしかできなかった。

 耳を塞ぎたくなるような怖さが、クエスの語り草から感じられた。

 ひとしきりクエスが思い出を語ったあと、沈黙が生まれた。相変わらず、顔は上の方を向いていた。

――涙がこぼれないように、だと思った。


「セイレン様、私がこれから話すことを聞いても、セイレン様は私を・・・私をゆるしてくれますか? そばに、居させてもらえますか?」


 俺の方を向いた。心の雫が、ぽたりと、冷んやりとした石材の床に落ちた。


「――ごめん」


 石材の床に落ちた雫は、じんわりと石にみていく。


「君のこぼした雫は、どんなスキルを使っても、すくい取ることはできない」


 俺には君の涙を拭くことしかできない。


「どんなに心の声を届けることができても、所詮は他人だから、全て理解することも、赦すことも、赦されることもできない」


 どんなに他人を信じても、所詮は自分のことなんて、理解してくれることも、赦されることも、赦すこともできない。

 でも、俺は――。


「でも、俺は、お前がしゅ、す、き、だ。た、たぶん」


「・・・」


 落ち込んだ。これは落ち込むしかない。格好よく決めるはずのところでセリフをむ、俺はいつもこうだった。


「ぷっ・・・」


 クエスは笑っていた。これまでに見たことのないような、泣き顔をくしゃくしゃにした笑顔で。「お前に笑顔を持ってきた」っていう歌詞の一節が頭に浮かんだ。


「セイレン様ぁ、今度は・・・カッコ良く決めてもらわないと、可愛い女の子に逃げられちゃいますよっ」

「は、はは・・・そ、それで・・・」


 ちょっとは和やかになった雰囲気の中で切り出しづらいところもあったが、俺は、クエスがさっき言いかけていた話を聞いた。




 ――宿場町ラ・ステラ。


 町は非常にざわめいていた。

 黄金の桃源郷の裏手から大きな音が聞こえた。裏手の洞窟の入口が落盤したためである。そのため、黄金の桃源郷の裏口近くの納屋が倒壊し、野次馬であふれていた。


「・・・主席、しくじったみてぇだな」


 青髪のゴロツキのような男と、恰幅かっぷくのよいスキンヘッドの男が、野次馬の影からその様子を見ていた。


「カプリコ、行くぞ。ボスを救いにな」

「・・・承知したのである」


 二人はどんどん集まる人だかりを抜けて、森の方へと向かっていった。



 ――王都アストレリア、第六士団本部。


 慌ただしい足音が行き交う中、その女は大声で指示を出していた。


「手の空いているものは中庭へ! キャスターは至急士団をラ・ステラまで転送するのよ!」


 アリアは本部に戻っていた。第六士団主席、リゲル・ウィンズ・バルドからの伝令を受けたためである。

 主席の援護とラ・ステラの保護のために、その数120人にも満たない小隊を動かしていた。数で言えば、第六士団は18ある士団の中でも最少数の部隊ではあるが、その一人ひとりが精鋭としての実力を兼ね備えている特殊部隊である。それ故、いつからか第六士団は“特務機関”と呼ばれるようになっていた。



 中庭では、準備の整った騎士たちが転移魔法によって移動を開始していた。

 その様子を、ビオラントは城壁から見下ろしていた。


「珍しくセンチメンタルなんですね、第一主席」

「・・・何の用だ、エーユ・アウラーム第三次席」

「いえ、貴方が特務の連中の勝手な行動を捨て置くなんて、と思いましてね」

「捨て置く、ねぇ」


 ビオラントはその場から離れていった。


「どこへ、行くのです?」


 ビオラントはマントをはたつかせながら、右手を上げ、背中越しに答えた。


かわやだ」


 含みのある表情をしながら、エーユは視線を中庭に落とした。


「――嘘ばっかり」




「――アリア第六次席!」


 火急の知らせです、と、騎士の一人がアリアに駆け寄ってきた。

 手に持っていたメモを渡すと、アリアはすぐさま内容を読んだ。


「そう、ついに居場所を掴んだのね」


 メモを懐にしまうと、アリアは詠唱を唱え始めた。地面に青白い魔法陣が浮かび上がり、扉の形をした光が現れた。


「――“聖なる領域の扉(サンクト・ドアー)”」


 ――転移魔法だ。

 そして、一度詠唱を中断し、「クリーマには先に行くように伝えなさい」と騎士に命令し、再び詠唱を唱えた。


「了解しました。ちなみに、どちらへ行かれるのですか」


 詠唱が終了し、魔法陣から現れた扉が開いた。


「王都北部郊外山地にある砦――。アスガルドよ」

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