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「……何?情でもわいた?」
「わくはずないだろ」
ヴィーリオは静かに否定する。しかし、彼の心臓はバクバクと大きな音を立てていた。
「もし宝石になっても、僕のこと忘れない?」
珍しく不安そうな顔をする。そんなセラの顔を見たことなんてなかったので、揶揄いたくなってしまった。
「そんなこと、何度も言われたよ」
冗談のつもりだった。ニヤリと笑いながらセラを見ると、やはり悲しそうな顔のままだった。
「いや、一回だけだったな」
ヴィーリオは焦って、本当のことを言ってしまう。彼は意外と記憶力が良くて、何億分の1の記憶だってきちんと持っているタイプなのだ。
「そう」
セラの顔はやっぱり変わらない。ヴィーリオはもう、持っているもの全てで彼を慰めないといけない気がしてきた。
「これ見ろ」
ヴィーリオが差し出したのは、オレンジ色の宝石だ。けれど、なんだか光が鈍くて磨きがいがありそうに感じる。光り物が好きな彼がなぜ、とセラはヴィーリオのことを見た。セラがこちらを見ると、彼は少しだけホッとした顔になる。
「これはな、俺の初仕事の話なんだが——」
ヴィーリオは語り始めた。未熟な、自らの初仕事の話を。
これはもう何百年も前の話。1人の元人間が新たに死神になった。今日は彼の記念すべき初仕事だ。
「君って、意外と図太そうだから大丈夫だね」
そんなふうに声をかけるのは少しだけ先輩のワイドという死神。
ピンク色の巻毛をふわふわゆらして、人好きしそうな顔をヴィーリオに向ける。彼はそういう魅力のようなものにはなかなか取り込まれないタイプだったので、この人の良さがよくわからなかった。
「はい」と、短い返事だけして、彼はさっさと仕事場に向かう。
仕事場は海だった。丁寧に亀の迎えまで来て、海の底へと進んでいく。なぜか息苦しさは感じない。海は底の方まで輝いていて、綺麗だ。
「こちらでございます」
亀が教えてくれたのは、大きなお城。ところどころ貝殻や珊瑚で飾り付けられていて、見たことのないセンスだが洒落ていることはわかる。
ズンズン進んでいくと、大きな部屋と大きな貝殻のベッドがあった。その上に、1人の人魚が眠っている。
「あぁ、あの人は私を拒絶した」
人魚は泣きながら訴えた。ヴィーリオの知ることではない。さっさと手を握ってしまおう。しかし、彼女は拒絶する。
「待って、最後に一つだけお願いがあるの」
「なんだ」
「私を、忘れないで」
ヴィーリオは彼女の手を握った。彼女は、オレンジ色の泡になる。
(もったいない)
なぜだかそんなことを思う。試しに、杖を出して何か固まるような魔法を唱えてみた。すると、泡は固まりオレンジ色の石ころになった。
とても綺麗ではないけれど、彼にとっては特別で心に火をつけた。
(この魔法を磨けば、もっと綺麗になるんじゃないか!!?)
1人の、変わり者の死神の誕生に瞬間だった——
「たくさんの死と向き合ってきて、辛くない?」
「辛いわけあるか、俺にはこれがあるからな」
ヴィーリオは適当な宝石を手に取った。そして、顔も宝石も輝かせる。
(あぁ、好きだ——)
セラは思った。だって、実りのない彼の人生の中で唯一の輝きがあったとすれば、彼なのだから。
そんなセラの心中なんてちっとも察しない、1人の死神。この瞬間から、1人の死神はたった1人のヴィーリオになった。
「お前の宝石も、ずっと持っててやる」
そう言われて、セラは笑った。彼の瞳に、ほんの少し色が混ざったような気がした。




