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今日もヴィーリオはセラの家まできた。メイドも、彼のことを客人のように扱う。試しにこっそり入ってみるか、とも思うが彼にそんな度胸はない。そして、いつものように彼にせがまれて宝石を見せる。
「これはどんな人だった?」
「お前の前に殺したやつだ。獣人だな」
「なんだ、結構覚えてるじゃん」
ヴィーリオはムッとする。
「たまたまだ。最近のことだから忘れることないだろ!」
セラは一切怯まずにヴィーリオに向き合う。すると、彼の方が先に気まずくなるのだった。
「ヴィーリオは偉いね。僕なんて、何にも覚えてない。大切なものなんて何もない」
「……記憶喪失なのか?」
「いいや、そういう人間なんだ」
にこりと苦しそうに笑った。人の感情の機微に鈍いヴィーリオにだってわかるほどに、セラは何かを抱えているのだろう。
「いいんじゃね?俺だって、死神になる前何してたか覚えてない」
「結構生きてそうなのに?」
「そこまで老けてねーよ」
ヴィーリオは自分の顔を触って形を確かめる。
(何か、自分の姿を映すものがあればいいのに。そしたら、俺の宝石だってわかるのに)
彼は変わり者なのでそんなことを考える。もし、そんなものがあれば自分の容姿を強く意識してしまうだろう。それは生きやすいのだろうか。ヴィーリオにはよくわからなかった。
「死神なんて、そういうもんだ。自分が何年生きてるかも、なんで生きてるかもわからない」
ヴィーリオに言われてセラは笑った。それはもう、嬉しそうに。
「僕以外にも、そんな人がいるなら嬉しい」
彼の赤い頬はさらに赤くなっていた。きっと、喜んだことで熱が上がったのだろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
セラはふと悲しそうな顔になる。そうされるとヴィーリオはどうしていいかわからず、オロオロしているだけだ。
「どうしていいのかわからないなら、手でも握ってよ」
ヴィーリオは確認するように優しく彼の手に触れた後、確信したように手を握った。
「また死ななかったね?」
セラに見上げられてヴィーリオの心臓は跳ねた。彼は幼さと特有の色気が混じって、なんだか少しだけ扇状的なのである。
「早く宝石にしたい……」
ヴィーリオは呟いた。きっと、彼の瞳の美しさに胸が躍ったのだ。そう思わないとダメなのだ。だって彼を殺すのは、もう二度と会えないようにするのは、自分なのだから。
「触れる場所を変えてみるとか?」
セラは揶揄うように笑った。
「……例えば?」
「こっち……」
彼が指したのは、自らの唇だった。ヴィーリオは赤くなりながらもそこから目が離せない。
「おいで」
セラは女神のような微笑みをヴィーリオに向け、唇を尖らせる。
ヴィーリオも覚悟を決め、自らの顔を近づけた。顔は熱いし、頭は混乱して痛い。けれど体はまっすぐそこに向かっている。
2人の顔と顔が極限まで近づき、ついに触れ合った。
まつ毛の当たる感覚がくすぐったい。ほのかに触れた後、すぐに顔を離した。
セラは下を向いて唇を手で押さえている。ヴィーリオが謝ろうとした時だった。
「えー?手でって意味だったんだけど?」
いつものようにセラは揶揄うように言った。それがヴィーリオの心をめちゃくちゃにする。
「お、お前!!!」
「ハハハハハ」
作戦が成功して嬉しいのか、セラは笑った。それはもう大いに。
「いいよ、気にしないで。」
「気にするかよ!」
ブチギレるヴィーリオを横目にセラは急に真顔になった。
「もしさ、本当は気にして欲しいって言ったら?」
彼にしては珍しく覇気のない声。
「あ゙ぁ゙?」
それに気づいてはいたが、また揶揄われているのかと思ってしまった。そして、心のままイラつきをぶつけてしまう。
「なんでもない」
セラはまた笑った。今度は諦めたみたいな笑い方だ。
ヴィーリオはその顔が気に入らなかった。だから、ローブを外してセラの頭を撫でた。
「……死神は、ローブを脱ぐと力がなくなる」




