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ワイドはコーヒーをカップに注ぎ、夜をこす。死神は眠る必要はない。けれど、眠くはなってしまうのだ。
彼が眠らない理由、それはある男のせいだった。彼が殺せなかった、唯一の男。眠ると毎回、彼を夢に見てしまう。
「結局、僕も彼もおんなじだ」
そう呟いて、この晩はうっかり寝てしまった。
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今日の殺す対象、それは子供だった。道端で寝ている少年。これ以上生きることが難しいのは見ただけで明らかだ。
ワイドは優しく、彼の手を握る。しかし、魂は浮かび上がってこない。
(おかしいな)
そう思い、何度も手を握った。時には強く。
そうするうちに、少年は目を覚ます。
「なんだお前」
彼は抑揚のない声で呟く。ワイドは面白おかしく「死神だよー」と言ってみせた。
「そうか」
少年の返事はそれだけで、また寝ようとする。
「ま、待ってよ。君、今日が死期なのに殺せないんだよ!!」
「そんなこと知るか」
彼にとって、そんなことより睡眠が大切みたいで、スースーと寝息を立てて寝てしまった。
(どうしようかこれ……)
考えても埒があかず、結局家まで連れ帰ってしまった。寝ている間に体を洗い、服を着替えさせる。そして、ワイドのフカフカのベッドに寝かせた。
それにしても彼は起きない。ワイドは彼を観察するのにも飽き、キッチンに走っていった。
その間、少年は目を覚ました。
見慣れない天井に、フカフカの床。そして、どこからかいい香りがする。
立ちあがろうにも、彼にはもうその体力すら残っていなかった。だからそのまま寝たまま状況を整理する。けれど、頭も働かなくって、そのまままた寝ることを選ぼうとした。
その時だった。
「あ!起きたー?なんかつくてみたんだけどーー!!」
ワイドはキッチンから鍋を持ったまま走ってきた。そして、白い何かを少年の口に突っ込む。
「美味しい?」
「まあまあ」
「僕も食べよー!」
ワイドも味見をする。すると、彼はなんとも言えない顔になった後、泣きそうな顔で少年を見つめた。
「これはまずいんだよ。もっとマシなの食べさせてあげるからね」
きっと、少年は貧しさの中でなんでも食べたのだろう。だから、美味しいかどうかの判別がつかない。ワイドが少年の頭を撫でると、露骨に嫌な顔をされる。
「なんでー?」
「触るな」
これが2人の1日目の会話。そのまま、2人は何年か一緒にいた。次第に、少年も青年になっていった。けれど、まだ殺すことはできない。
「なんだろうねー。すぐ殺すつもりだったんだけどー」
「知らん」
もうすっかり大きくなった青年の手には、以前として死期の近いことの証である痣がある。確かに、青年は死にそうといえば死にそうだし、死ななそうといえば死ななそうな見た目をしていた。
ワイドは不思議でたまらない。彼を現世に縛り付けているものはなんだろうか。
ベッドに横たわる青年の瞳は、光を受けてとりどりに輝いていた。今日も、日課として彼の手を握った。その時、彼の体からやけにカラフルな魂が抜け出した。そして、ワイドはそれを刈り取る。
「……なんだったんだ」
彼は、どうして死んでしまったんだろう。彼を縛り付けているものが自分ならいいと思った。きっと、人間相手に情を持ってしまったことがいけなかったのだろう。
——今度は君を、死神にしてあげるよ。そして、僕は君のことをずっと見守ってあげる。
彼のいたところを見て、ワイドの目からは雫が流れた。それは、青年の瞳の色にそっくりだった。




