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C’est la vie!!  作者: 日々桜香
第4章 花は君を愛で、君は私を愛でる
23/27

3

 ワイドはコーヒーをカップに注ぎ、夜をこす。死神は眠る必要はない。けれど、眠くはなってしまうのだ。

 彼が眠らない理由、それはある男のせいだった。彼が殺せなかった、唯一の男。眠ると毎回、彼を夢に見てしまう。


「結局、僕も彼もおんなじだ」

 そう呟いて、この晩はうっかり寝てしまった。


 __________________


 今日の殺す対象、それは子供だった。道端で寝ている少年。これ以上生きることが難しいのは見ただけで明らかだ。


 ワイドは優しく、彼の手を握る。しかし、魂は浮かび上がってこない。

 (おかしいな)

 そう思い、何度も手を握った。時には強く。


 そうするうちに、少年は目を覚ます。

「なんだお前」

 彼は抑揚のない声で呟く。ワイドは面白おかしく「死神だよー」と言ってみせた。


「そうか」

 少年の返事はそれだけで、また寝ようとする。

「ま、待ってよ。君、今日が死期なのに殺せないんだよ!!」

「そんなこと知るか」

 彼にとって、そんなことより睡眠が大切みたいで、スースーと寝息を立てて寝てしまった。


 (どうしようかこれ……)

 考えても埒があかず、結局家まで連れ帰ってしまった。寝ている間に体を洗い、服を着替えさせる。そして、ワイドのフカフカのベッドに寝かせた。

 それにしても彼は起きない。ワイドは彼を観察するのにも飽き、キッチンに走っていった。


 その間、少年は目を覚ました。


 見慣れない天井に、フカフカの床。そして、どこからかいい香りがする。

 立ちあがろうにも、彼にはもうその体力すら残っていなかった。だからそのまま寝たまま状況を整理する。けれど、頭も働かなくって、そのまままた寝ることを選ぼうとした。


 その時だった。


「あ!起きたー?なんかつくてみたんだけどーー!!」


 ワイドはキッチンから鍋を持ったまま走ってきた。そして、白い何かを少年の口に突っ込む。

「美味しい?」

「まあまあ」

「僕も食べよー!」

 ワイドも味見をする。すると、彼はなんとも言えない顔になった後、泣きそうな顔で少年を見つめた。


「これはまずいんだよ。もっとマシなの食べさせてあげるからね」

 きっと、少年は貧しさの中でなんでも食べたのだろう。だから、美味しいかどうかの判別がつかない。ワイドが少年の頭を撫でると、露骨に嫌な顔をされる。


「なんでー?」

「触るな」


 これが2人の1日目の会話。そのまま、2人は何年か一緒にいた。次第に、少年も青年になっていった。けれど、まだ殺すことはできない。


「なんだろうねー。すぐ殺すつもりだったんだけどー」

「知らん」


 もうすっかり大きくなった青年の手には、以前として死期の近いことの証である痣がある。確かに、青年は死にそうといえば死にそうだし、死ななそうといえば死ななそうな見た目をしていた。


 ワイドは不思議でたまらない。彼を現世に縛り付けているものはなんだろうか。


 ベッドに横たわる青年の瞳は、光を受けてとりどりに輝いていた。今日も、日課として彼の手を握った。その時、彼の体からやけにカラフルな魂が抜け出した。そして、ワイドはそれを刈り取る。


「……なんだったんだ」


 彼は、どうして死んでしまったんだろう。彼を縛り付けているものが自分ならいいと思った。きっと、人間相手に情を持ってしまったことがいけなかったのだろう。


 ——今度は君を、死神にしてあげるよ。そして、僕は君のことをずっと見守ってあげる。


 彼のいたところを見て、ワイドの目からは雫が流れた。それは、青年の瞳の色にそっくりだった。

 

 

  

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