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「セラ、なんで1人でキッチンにいる!!」
「ごめんなさい」
だらりと頭を下げ、明らかに落ち込んだ様子を見せるのはセラだ。そして、彼をそんな状態にしたのはヴィーリオである。
「謝罪なんてしなくていい。理由が聞きたいんだ」
キッチンから漂ってくる甘い香りとほんの少し焦げた苦い匂いに鼻を顰める。
「ちょっとさ、お返しみたいな……」
ヴィーリオはもう一度キッチンをみた。そこにはチョコレートと何かしらの粉が散乱している。きっと、セラはケーキでも作りたかったのだろう。
「お返しなんていらない。俺がやっていることは全て俺がしたくてしてるんだ」
セラは唇を尖らし、悔しそうな顔をヴィーリオに向ける。彼にこんな顔をされると、どうしていいかわからなくなる。もう、何年も一緒にいるはずなのに、いまだに彼の嬉しそうな顔以外を見ると、胸がざわつくのだ。
「ヴィーリオのばか……」
「え?」
「人殺し!死神!」
そう言い残してセラは寝室に閉じこもってしまった。
「……まぁ、間違ってはない」
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「セラ、いい加減機嫌なおせよ」
「……」
ヴィーリオは扉にもたれかかり、もう何時間もずっと地べたに座ったままだ。いいかげん、お尻が痛い。
「俺に『お返し』したいなら、今すぐ出てきてくれ。それで十分なんだ」
「……そうやってまた」
閉じこもって初めて、セラの声を聞いた。
「何に怒ってるんだ。俺は人間じゃないんだ。感情なんてわからない」
「知ってるよ」
セラの声はやけにこもっている。枕に顔を押し当てているのだろう。これは、彼が泣く時の癖だ。きっと、嗚咽が漏れないように、そんなことを教えられたのか自主的にやっているのか、そんなことを考えるとやるせない。もっと早く、自分と出会っていればそんなことはさせなかったのに。
「お返しだって、僕がやりたくてやってることだろ」
「……そうだな」
ガチャリとドアノブを動かす音がして、ドアが引かれた。ヴィーリオは中から出てきた人物を抱きしめる。
「よかった、もう会えないかと思った」
「大袈裟でしょ」
セラの顔は濡れていて、ヴィーリオの肩も濡れてしまう。けれど、そんなことはどうでもいい。
「お返し、料理以外でもいいだろ?」
「たとえば?」
ヴィーリオはしばらく考えた。できるならセラと一緒に出来て、セラが楽しいものがいい。そして、2人の思い出に残るような——
「空を飛ぶ……」
「僕が抱えられるんでしょ。僕が何かしたいんだよ」
ぷくーっとほっぺたを膨らませて抗議してくる。彼は、ここに来てから子供っぽくなったと思う。きっと、大人っぽくいる必要がなくなっただけかもしれないけど、そういう場所がここなら嬉しい。
「思春期のお坊ちゃん、恥ずかしいと思いますが、俺に抱えられてくれませんか?」
ヴィーリオが手を差し出すと、セラはますます顔を赤くさせる。
「じゃあ、あんたのために抱えられてあげる!」
セラはヴィーリオの手を取った。その手を引っ張り、ヴィーリオは抱える。
「お前、前に抱いた時より大きくなったな」
「……その言い方は誤解を招くからやめて」
2人は、屋根から駆け出し、空の旅へと飛び出した。
「ここって、木しかないから見ごたえないよね」
「なら、上を見ろ」
セラが上を向くと、ちょうど日光が目に入る。彼の瞳はプリズムみたいにいろんな色を反射させている。
——美しい
ヴィーリオは生まれて初めてそんな色の瞳を見た。そして、その色を見るのも、一生彼だけなのだろう。




