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「なんだったの?」
「なんでもない」
ヴィーリオはあまりぶっきらぼうに聞こえないように、なるべく優しく答えた。
「そう……」
その意図が伝わったのか、セラは追求してこない。
「とりあえず、今日は寝よう。またあしただ」
落ち着いて話した。そうすれば、彼も納得してくれると思ったからだ。
「えー?今じゃだめ?」
「ダメだ」
ヴィーリオはセラを布団にくるみ、トントンと手で叩いて寝かしつけた。こうしていると、本当に子供だと感じる。
「はー」と一息吐いて、ヴィーリオも眠る。この日、彼は不思議な夢を見た。
自分の右手にあるあの、特有の痣。ベッドにはピンク色の巻き毛の男が座っている。
「起きた?」
「寝てる」
これは、自分の声だろうか?何と無く幼い気がする。
「君の痣、やっぱり薄くなってきてる」
「そうか?」
視線は右手に移る。確かに、痣は薄くなっている気もする。けれど、それは何を表すのだろうか。彼にはそれがわからない。
「はー、なんで殺せないのやら」
ピンク髪の男はため息を着き、彼に手を振った。これは「おやすみ」の合図だ。彼はそのまま眠った。
——明日こそはそは死ねますように
そんなことを願いながら。
ヴィーリオは目が覚めた。いつもなら、鳥たちの鳴き声で起きるところを、今日はカエルの合唱で起きてしまった。外はほのかに薄暗くて、見る者を不安にさせる雰囲気がある。
隣に眠る、少年の頬に口づけをしてみる。最近ではすっかりそれが癖になってしまっていた。口付けると彼は、くすぐったそうに笑う。その反応がおかしくてやめられないのだ。
「おはよう、セラ」
この時のヴィーリオの声はいつもの何億倍も優しい。朝にはきっと、人を素直にさせる魔法があるのだ。
ヴィーリオは立ち上がり、身支度をする。その間、昨日のワイドの言葉を考えてみた。
——あの子は死を受け入れてない。だから殺せなかった。逆に、君といることで生きたいと願うようになったんだ
「俺といることで、生きたくなった」
確かに、セラはよく未来の約束をするようになった。
「明日、これを食べよう」「次はこれをしよう」といった風に、なんてことないも。けれど、彼はもうすぐ死ぬのだ。それは決まっている。それを、個人の意志だけで変えられるのなら「運命」や「死期」なんてくだらない。死神の存在意義がなくなるだろう。
(そういえば、俺は死神について知らないな)
ヴィーリオは気づいたら死神で、気づいたら仕事をしていた。死神になる前、つまり死ぬ前は何をしていたのだろうか。
「あいつに聞くしかないのかーー!!!」
あいつとは、ワイドのことである。正直嫌だが、死神の中で彼以外と話したことなんてなかった。知らない死神は怖い。
そうと決まれば行動あるのみ。彼もこちらのことなんてお構いなしなので、こちらも構いはしない。
セラを起こさないように静かに家を抜き出し、ワイドの家まで歩く。
彼の家はなかなかの近所なので少し歩いただけで到着した。
「おい、ワイド!起きてるか?」
これは確認ではなく、起きろという意味である。
「寝てるよー」
家の中から、間延びしたそんな言葉が聞こえてきた。
その時、ヴィーリオは急に懐かしく感じた。このやりとりを、ずっと昔にした記憶があるのだ。




