6
窓の外では、シトシトと雨が降り注ぐ。こんな日はゆっくりと過ごすのが一番だ、そう思ってヴィーリオは丁寧に紅茶を入れ、優雅な休日を謳歌しようとした。しかし、セラはそうでもないらしい。
「暇だよ。雨に濡れてきていい?」
「ダメに決まってるだろう」
「風邪でも引いたらどうする」その言葉は喉から出かかって、引っ込んだ。そういう言葉をかけるのは何と無く恥ずかしいのだ。
「……勉強でもするか?」
「うん、する!」
セラは食いついてきた。彼には教育が必要だと、前々から思っていたのだ。彼は、名家の生まれであるはずなのに字が読めない。それでは彼に不利益が生じるだろう。
ヴィーリオは文字と簡単な計算を教えるつもりだった。
「で、3が4つで12、そして5つなら……」
ヴィーリオは本当に簡単な計算だけを教えるつもりだったのだ。彼はかなり飲み込みが早く、文字もすぐに覚えて計算だってどんどんできるようになった。ペンの持ち方はおぼつかないが。
「外国語でも習ってみるか?」
これ以上の数学は彼にとって理解できなかった。おそらく、あってはいるのだろうけど自分だけわからないのは悔しい。
「うん、やってみたい」
「フラシュ語を教えよう」
「うん」
「1は、un。 2はdeux。 3はtrois……」
セラはぐちゃぐちゃの字で必死にメモをとる。後から、読み返せるのだろうか。
「un,deux,trois,quatre,cinq,six,sept,huit,neuf,dix」
彼は、美しい発音で10まで数えることができた。
「やっぱすごいな!とっても綺麗だ」
「それはなんて言えばいい?」
「jolie」
「jolie!!」
テンションんが上がったのか、セラはその言葉を何度も繰り返す。
「もう次にいくぞ。他には何が言いたい?」
「あなたを愛しています」
セラは真面目な顔をしている。その瞳に見つめられてヴィーリオは気まずくなって目を逸らし、頬をかく。
「……そんな言葉、使う機会あるか?」
「多分、あるかも」
もしかしたら、セラの頭の中はお花畑なのかもしれない。妄想の中で誰といちゃついてたって、ヴィーリオの知るところではない。
「Je t’aime」
小っ恥ずかしくなって口元がムズムズしてしまう。
「Je t’aime!Je t’aime!」
セラは嬉しそうに何度もいう。ヴィーリオに向かって言っている気がするのは気のせいだろう。気のせいじゃなくても、きっといい練習相手だと思われているのだろうが。
「こういう言葉はな、大切な人にとっておくんだ」
「えぇ?」
「普段言わないやつから言われたほうが刺さるだろ?」
「そうなの?」
「うん」
なだめるために適当に返事をした。ヴィーリオ自身はそんな言葉で心が動いたことなんてなかったが。
「じゃあ、最後の最後に言おう!」
「あぁ、そうしとけ」
第2章完です!




