2 チートを披露するニコ
ドラシス家の当主と長男ジャレスは、執務室で忙しく仕事をしているように動いているが、全く捗っていない。真剣な顔で取り組み、汗をかきながら書類と格闘しているようにはみえる。
ただ要領が悪すぎて進まない。
長女ジェッサは修道院にいるので不在だが、家族宛に書いた手紙を読ませてもらった感想は、まだまだ祈りが足りていない。
次女ジュリアは、第2王子殿下に夢中になっている。殿下には侯爵家の婚約者がいるのにだ。恐ろしい子。
末っ子ジョアンは常に周囲を威嚇して、誰が話しかけても返事は怒鳴り声。反抗期怖っ。
給金の支払いが滞っているため、使用人はいなくなり、執事の他は料理長とメイドが1人ずついるだけ。
これって私に依頼料払えるの? 1週間もかけて来たのよ? まだお尻が痛いのよ?
心配になり執事に聞いてみたら、困った顔をして体を直角に倒し、頭を下げて静止したまま動かない。
え・・・ムリなのね。っていうか電池切れた? 腰痛めるよ?
もうこれは爵位を返上した方がいい。
メイドを増やしたところで解決することはない。
あまり気は進まないし行きたくはないのだが、しぶしぶ王宮へ向かうことにした。
「ふむ、ドラシスはダメか。 そなたにやろうか? 」
豪華な玉座の肘掛けに身を委ね、頬杖をつきながら陛下は名案だろ?と言いたげな顔でニヤリと笑い、こちらを見下ろている。
「・・・恐れ多い上に、私には不要でございます」
「なら、そなたを臨時でドラシス家当主に任命しようかのう。 依頼料はこちらできちんと支払う。 いや、倍払うと約束してもかまわぬ。どうだ?」
陛下の言葉に周囲がざわめく。
そりゃそうでしょうよ。この国の人間でもなければ、孤児院育ちで身分は平民なのだ。皆が納得するはずがない。
苛立ちを隠せていない男性が、前に出て意見しようと息を吸い込んだ所で、陛下が謁見の間にいる全員に殺気を放った。
意見しようとしていた男性は口を開けたまま白目になって後ろへばたんと倒れた。他も意識を飛ばしたり、座りこんで震えていたり、近衛兵ですら立っていられず膝をついて変な汗をかいている。
興味本位で参加していたと思われる王太子殿下と第2王子殿下もどうにか意識は保っているが、顔色を悪くして尻もちをついて放心状態になっている。
「やはり平然と耐えられたのは、ニコレッタそなた1人だけだ。 皆の者、人を見た目で判断するのは愚かだと理解したか? 恥をかくぞ? がははっ」
楽しそうに笑ってる場合じゃないでしょう?
皆が化け物を見る目で私を見ているじゃない!
か弱いレディなのに・・・。
その後、陛下と協議し、ドラシス家を立て直す事になった。第2王子殿下は婚姻後、臣下に下り、王領のどこかを賜ることになっていたが、ドラシス伯爵家に変更になった。家名も変えることになり、ドラシス伯爵家は国から消えることになった。
ドラシス家の者達の今後は第2王子殿下の判断にお任せする。
3台の馬車を使い、第2王子殿下と、まだ疑いの目で私を見る3人の貴族と共にドラシス家に行くことになった。
ついてくる貴族に、転移を使えと偉そうな態度で言われると使いたくなくなる。まだお尻は完治していないが、我慢して馬車でドラシス伯爵家へ向かうことにした。
それよりも陛下の話を聞いてなかったのかしら?
ついてくるのはかまわないけど、陛下からの信用は無くなったと思うわ。私を監視するより、これからの自分の身の振り方を考えた方がいいと思う。
なぜが数日遅れで王太子殿下まで来たのも驚いた。
第2王子殿下の手腕は見事だった。
もしかして魔法使えます?と聞きたくなるくらいに。
当主と長男は、王族に言われれば承諾するとは思っていたが、次女と末っ子は絶対に手こずると思っていたのに、あっという間に解決された。
問題児の次女ジュリアから恋する乙女の熱が完全に消えた。彼女は放漫な態度をとることがなくなり、顔つきまで変わった。最初からその感じなら美人なんだから、もしかしたら可能性があったかもしれない。
あー、もったいない。
反抗期の末っ子ジョアンは、王族相手にも敵意むき出しでこちらがヒヤヒヤしたが、殿下の忠犬になった。見えないが、尻尾がぶんぶんと揺れているに違いない。
人格が変わりすぎてマジで怖い。
ジュリアとジョアンは嫁ぐ時のクリス様のように、泣いて、喚いて、暴れると思っていたから、その時は誓約魔法を使おうと思っていたのに出番はなかった。
執務見習いとして末っ子ジョアンは屋敷に残ることになったが、他の3人は、領地に用意された屋敷で平民として暮らすことになった。
殿下が活躍している間、のこのことついてきた貴族達に、ネチネチ小言を言われ続けていたので、私はストレスが溜まっていた。
この国より何倍も魔法が発展している所を見せつけてやろうと、はりきって魔法を使ってしまった。
ボロ屋敷を修復し、屋敷内は浄化して、壁や柱に強化魔法をかけた。殿下の寝室には防音魔法をかけ、殿下と婚約者が婚姻後の夜にどれだけ盛り上がっても声は漏れないようにした。ムフフ。荒れていた庭も整え、殿下の婚約者の好きな花を聞き、その花をメインに色とりどりの花を咲かせた。
王都から来た者達全員を連れて領地へ転移し、くたびれた領民にヒールをかけ、くたびれた家を修復し、くたびれた土地を元気にして、作物を実らせた。
久しぶりに大量の魔力を使ってヘロヘロになってしまい、目まいがして倒れそうになったところを王太子殿下に支えられた。眼鏡がズレ落ちて、本来の顔と髪に戻る寸前で眼鏡をかけ直したが見られたかも。さすがにムキになりすぎたと反省したが、貴族たちが口をあんぐりと開けて、驚愕している姿をみることができて、私のストレスも解消された。
王太子殿下に支えてもらった礼を述べてから、ポケットから取り出したポーションをガブ飲みし、魔力を回復させた。
まだ興奮している貴族たちにむかって、
「先に王宮で報告しておきますね。馬車で帰ってくださいね」
そう告げて王太子殿下と第2王子殿下だけを連れ、王宮へ転移することにした。
「え、そんな!」
「私達も連れて行って!」
慌てた様子でこちらに懸命に手を伸ばしていたが、ニコリと笑顔を作って、「さようなら~」と手を振って転移した。
満足したと思っていたけど、ストレスは解消されてなかったみたいね!
今度こそスッキリした!




