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血盟の冒険者  作者: ニワネコ図


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第09話 街の灯

 五日寝込んだ。

 担ぎ込まれた晩はギルドの奥の部屋にいたが、翌朝には宿へ移された。あそこは、その日に運び込まれる者のための部屋だ。死なないとわかった人間が寝ている場所ではない。

 傷そのものは、なぜかたいしたことがなかったらしい。折れた骨はなく、腱も切れていない。

「死んでいてもおかしくない傷なのに、もう塞がっている」

 寝台の脇に呼ばれた白髪の医者は、そう言って包帯を巻き直した。

「問題は血だ」

 医者は、レンの下(まぶた)を裏返しながら言った。

「これだけ血を失って生きてるのが、奇跡に等しかろう」

「……治癒師は」

「訊いたところで同じだろうが」

 医者は鼻を鳴らした。

「お前さんだって知っとろう。この街にゃ四人。ギルド付きが二人、教会に一人、残りは商会のお抱えだ。順番は朝のうちに埋まる」

「……だろうな」

 訊いた自分が馬鹿だった。

 順番は、放っておけば死ぬ者から詰めていく。腹を裂かれた者、脚を持っていかれた者、毒が回った者。この街で六年やっていれば、嫌でも覚える理屈だ。

 レンはむしろ、その順番を譲る側にいることのほうが多かった。

「……オレは、死なねぇもんな」

「そういうことだ」

 医者はあっさり頷いた。

「血は足りとらん。だが心の臓は動いとる。傷も塞がっとる。……その順番は、回ってこんよ」

 言い方に、意地の悪さはなかった。

 ただ、そういうものだと言っているだけだった。

「それにな。呼んだところで、血は戻らん」

「知ってる」

「知っとるなら訊くな」

 医者は道具を鞄へしまいはじめた。

「じゃあ、どうすんだ」

「食って、寝る。それだけだ。ほかにない」

 まったく色気のない処方だった。

 だが正しかった。実際、体は動かなかった。起き上がろうとするたび視界が白く濁って、耳の奥で細い音が鳴る。指先はいつまでも冷たいままだった。


 ルカはこまめに飯を運んできた。

 一階が飯屋だから、階段を下りて上がってくるだけの手間だ。粥だの、豆の煮込みだの、湯気の立つものを盆に載せて、居間を横切って入ってくる。

 置いては、しばらく寝台の脇に座り、何をするでもなく喋る。素材の買取がいくらになりそうだとか、ギルドの誰それがどんな顔をしていたとか、どうでもいい話ばかりだった。ひとしきり喋ると、盆を下げて、自分の部屋へ引っ込んでいく。

「……お前、暇なのか」

「暇だよ」

 ルカは椅子を後ろ向きに(また)いで、背もたれに顎を乗せた。

「相棒が動けねえんだ。やれることも限られてるからな」

「……悪ぃな」

「謝んな。気色悪い」


 三人も来た。

 ノルドは少し脚を引きずりながら、両手いっぱいの食い物を抱えて現れた。ミラは花を持ってきて、置き場所がなくて困っていた。ネルは何も持たずに来て、寝台の脇に座り、レンが眠るまで黙って本を読んでいた。

 誰も、あのギルドでの一件には触れなかった。

 触れないことに決めているのが、透けて見えた。


   ***


 六日目の昼、レンはようやく外へ出た。

 まだ立ち眩みのような症状は出るが。それでも、あの部屋の天井をもう一日眺めるのは我慢がならなかった。

 通りに出ると、光が目に刺さった。迷宮を出たときほどではない。ただ、街の音が、やけに大きく聞こえた。

 荷馬車の車輪。値切る声。子どもが走り抜ける足音。どこかで犬が吠えている。

「よぉ、レンの兄ちゃん!」

 揚げ菓子屋のゴンゾが、鍋越しに手を挙げた。

 それから、レンの顔を見て眉を寄せる。

「……お前さん、どうしたその面。しばらく見ねえと思ったら」

「ちょっと、下でしくじった」

「しくじったで済む顔かよ」

 ゴンゾは油から菓子を引き上げ、蜜を絡めて串に刺すと、それを差し出してきた。

「持ってけ」

「いや、今はいらねぇよ」

「いいから持ってけ。金は今度でいい」

 押しつけられて、レンは受け取った。

 噛むと、甘みが舌に染みた。

「兄ちゃん、無事でよかったぜ!」

 ゴンゾは、それだけ言って鍋に向き直った。

 レンは串をくわえたまま片手を挙げて返事をし、通りの先へ足を向けた。


   ***


「――また来やがったな、この馬鹿たれが!」

 鍛冶屋の扉をくぐった瞬間、金床を打つ音より大きな声が飛んできた。

 ドランだった。鎚を投げ出すように置いて、炉の向こうから回り込んできて怒鳴りつけるように続けて言った。

「四日も戻らねえと聞いたときゃ、棺桶の寸法を測るところだったぞ!」

「悪かったって」

「悪かったで済むか。座れ!」

 言われるまま、レンは炉端の台に腰を下ろした。

 立っているのが、正直つらかった。

 ドランはしばらく仁王立ちでレンを睨んでいたが、やがて大きく息を吐き、奥へ引っ込んだ。戻ってきた手には、木の椀と、硬いパンがあった。

「食え」

「……いま食ってきたばっかりなんだが」

「足りるか、そんなもん。血が減ってんだろうが」

 押しつけられた椀の中身は、豆と肉の煮込みだった。ドワーフの飯は、味が濃い。

 黙って口へ運ぶ。

 ドランはその向かいに腰を下ろし、腕を組んで見ていた。

「……で。得物は」

「おしゃかだ」

 レンは布包みを台に置いた。

 ほどくと、中から出てきたのは、剣だったものだった。

 刀身は青黒く変色し、根元から飴のようにねじれている。柄の革は焼け落ち、刃こぼれどころか、もはや刃の形すら保っていない。

 ドランは、それをしばらく無言で眺めた。

 それから、変色した面へ指を這わせる。

「……こりゃ、雷だな」

「わかるのか」

「鉄の焼け方だ。この曲がりようは、外から叩いたもんじゃねえ。中から灼けとる」

 ドランは残骸を裏返した。

「何をした」

「魔物の目玉に突っ込んで、そこへルカの雷を落とした」

「剣ごとか」

「剣ごとだ」

「たわけ」

 短く言って、ドランは残骸を脇へやった。

 怒鳴られると思っていたが、それきりだった。

「まあ、いい。剣ってのは死ぬもんだ。こいつが死んでお前が生きてんなら、そいつは仕事をしたってことだ」

 意外な言葉だった。

 顔を上げると、ドランはもう別のほうを見ていた。


「親父」

「あ?」

「あのとき言われた金、できた」

 レンは懐から布袋を出し、台の上へ置いた。

 どすり、と重い音がした。

 ドランが眉を上げる。

「……なんだ、そりゃ」

「素材の買取だ。あの百足の甲殻が、思ったより高く売れた」

「百足?」

「話すと長ぇんだ」

 ドランはしばらく袋を睨んでいたが、やがて鼻を鳴らした。

「あの剣なら、もうねえぞ」

「……売れたのか」

「三日前にな。よその若いのが、ちょうど探しとった」

「そうかよ」

 自分でも意外なほど、惜しいとは思わなかった。

「間の悪ぃ奴だ、お前は」

 ドランは言って、それから顎をしゃくった。

「で。いま腰に差してんのは、なんだ」

 レンは布に巻いた剣を外し、台の上へ置いた。


 ドランの手が、それに触れた瞬間に止まった。

「……どこで拾った」

「魔物の腹だ」

「腹?」

「喰われた奴が持ってたんだろう。鎧の破片も一緒に出た」

 ドランは何も言わず、布をほどいた。

 剥き出しの刃が、炉の光を鈍く返す。

 太い指がそれを持ち上げ、目の高さに掲げた。刃筋に沿って視線を走らせ、峰を撫で、指の腹で刃を軽く弾く。

 澄んだ音が、鍛冶場にしばらく残った。

「……この銘だ」

 ドランが、柄と鍔を指した。

「上から彫り直して、その下にまだある。そのまた下にもだ。……何代、持ち主が替わったと思う」

「……知らねぇ」

「おれにもわからん。だが、いちばん下の字な」

 太い指が、いちばん古い層をなぞった。

「見たことのねえ字だ。この大陸のもんじゃねえ。……いや、字かどうかも怪しい」

 レンは黙っていた。

 あの広間で自分が思ったことと、同じことを言われている。

「そんで、鍛え方だ」

 ドランは刃を炉の光へかざした。

「見えるか。刃紋がねえ」

「刃紋?」

「鋼ってのはな、鍛えりゃ層になる。折り返して、叩いて、また折り返す。だから紋が出る。おれの打つもんにゃ、必ず出とる」

「だがこいつにゃ、ねえってのか」

「ねえ」

 レンは目を凝らした。

 なるほど、何もなかった。均された鋼が、のっぺりと光を返しているだけだ。

 ドランは剣を下ろし、それから、低く言った。

「……レン。こいつぁ、魔剣だぞ」

 レンは、椀を持つ手を止めた。

「……わかるのか」

「わかるも何も、鉄が黙っとらん」

「黙ってねえって、なんだよ」

「言葉じゃねえ」

 ドランは、もどかしそうに首を振った。

「百年からこの商売をやってりゃ、鋼にも機嫌があるとわかる。素直なやつ、へそを曲げるやつ、打っても打っても身の入らねえやつ。……そういう手触りの話だ。こいつは、そのどれとも違う」

「……親父は、魔剣を見たことがあんのか」

「二度な」

 ドランは太い指を二本立てた。

「二度とも、よそのを頼まれて手入れしただけだ。おれのもんじゃねえ」

「どんなだった」

「どっちも、元は人が打った剣だったよ」

 思い出すように、ドランは目を細めた。

「一本は南の鍛えだ。折り返しの癖でわかる。もう一本はどこの誰が打ったか知らんが、刃紋がちゃんと出とった。……つまり、鎚で作られたもんだ」

「それが、なんで魔剣に」

「迷宮に落ちたんだろうよ」

 ドランは肩をすくめた。

「持ち主が死んで、何年も何十年も、あの中に転がってたわけだ。そのうち何かを吸う。……そういうもんらしい。理屈はおれにもわからん。だが鉄を見りゃわかる。あれは元が『剣』だった」

 そこで、言葉が止まった。

 視線が、台の上へ戻る。

「……こいつは、違う」

「違うって」

「刃紋がねえと言ったろうが」

 声が、少し苛立っていた。

「鎚で作ったもんじゃねえんだ。じゃあ何だ。誰が、どうやって、こいつを剣の形にした」

 レンは答えられなかった。

「元が剣の形だったのなら、まだわかる。剣が魔剣になっただけの話だ」

 ドランは剣を睨んだまま言った。

「こいつは逆だ。……はじめっから、こいつだったんだよ」

 鍛冶場が、しばらく静かになった。

 ドランは剣を台へ戻し、それから息を吐いた。

「そんで、何の魔剣かは、わからん」

「わからねぇ?」

「おれが握っても、何も起きん。えらく古くて、えらく丁寧に作られた、上等な鋼が一本あるだけだ」

 ドランは自分の手のひらを見下ろした。

「魔剣ってのは持ち主を選ぶ。合わん奴にゃ何も見せねえ。……つまり、おれは選ばれとらんってこったな」

 レンは黙っていた。

 ルカも、同じことを言っていた。

「お前はどうなんだ」

 ドランの目が、こちらを向いた。

「握って、何か起きたか」

 答えに詰まった。

 初回は誰かの死に方を、丸ごと見せられた。それに、握るたび誰かの手つきが指の位置を直す。

 だが、それを口に出すのは、どうにも気が進まなかった。

「……刃筋が、勝手に立つ」

 それだけ口にするのが精一杯だった。

 嘘ではない。ただ、全部でもない。

 ドランは、しばらくレンの顔を見ていた。

 それから、言った。

「言いたくねえならいい」

「……悪ぃ」

「謝るな。得物の話は、持ち主のもんだ」


「……ただな」

 ドランは剣を布で包み直しながら、少し声を落とした。

「似たような手触りに、心当たりがある」

「心当たり?」

 ドランは立ち上がり、鍛冶場の隅から木箱を引きずってきた。

 蓋を開けると、中には黒い破片がいくつも入っていた。黒曜石めいた光沢。見覚えのある色だ。

「これは」

「ギルドから回ってきた。深いところの魔物の殻だとよ。買い取ったぶんの一部を、鍛冶屋にも流してくれる」

 ドランは破片をひとつ摘まみ上げ、炉の灯にかざした。

「こいつも、同じでな」

「同じ?」

「均質すぎる」

 その言い方が、妙に引っかかった。

「鉄ってのは、そもそも濁ったもんだ。産地で違う。同じ鉱山でも、掘った場所で違う。だから鍛冶屋は、目で見て、叩いて、癖を読む」

 ドランは破片を指で弾いた。

「だがこいつぁ、どこを取っても同じだ。端も中も、上も下も。混ざりもんがねえ。歪みもねえ」

「……いいことじゃねぇのか」

「よかねえよ」

 ドランは吐き捨てた。

「自然の産みもんにゃ、ムラがある。ムラがあるから職人が要る。……こいつにゃ、そのムラがねえ」

 破片を木箱へ戻し、ドランは低く続けた。

「打つ前から、完成しとる」

 鍛冶場が、静まった。

 炉の火が、ぱち、と鳴った。

「……どういう意味だ」

「知るか。おれにわかるのは、気味が悪ぃってことだけだ」

 ドランは蓋を閉じ、それきりその話をしなかった。


「レン」

「……なんだ」

 ドランは、包み直した剣を指した。

「鞘をこしらえてやる」

「鞘?」

「布に巻いて腰に差す気か、たわけ。抜くのに手間取って死ぬぞ」

 ドランは剣を持ち上げ、目分量で長さを測るように目を細めた。

「……こいつに合わせて、一から作る。ありもんじゃ寸法が合わん」

「金は」

「そこから、いくらか抜く」

 ドランは布袋を顎で示した。

「剣を打つほどはかからん。……残りは持って帰れ。飯に使え」

「いや、預けとくよ。どうせすぐ、また何か壊す」

「壊す前提で言うな、たわけ」

 あっさり言い返されて、レンは肩をすくめた。

 ドランは剣を台へ戻し、それから、ぼそりと付け足した。

「得物が何であれ、抜けなきゃただの棒だ。……そこは、おれの領分だ」


 レンは、椀の底に残った汁を飲み干した。

「……悪ぃ、おかわり」

「ぬかせ。さっき腹いっぱい食ってきたと言ったろうが」

「言ったけど、腹が減った」

 ドランは呆れ顔で立ち上がり、それでも鍋のほうへ引っ込んだ。

 二杯目の椀が、どすんと置かれる。

「食えるうちに食っとけ。減った血は、飯からしか戻らん」

「医者と同じこと言うんだな」

「当たり前だ。おれのほうが先に言っとる」

 椀に残った豆をかき込みながら、レンは鍛冶場を見回した。

 煤けた壁。並んだ鎚。炉の上に吊るされた真っ黒な鍋。何ひとつ変わっていない。子どものころから、この場所はずっとこの顔をしている。

「なぁ親父。そこの棚のパン、いつのだ」

「昨日の残りだ」

「毎回それ言うよなぁ」

「毎回そうだからだ」

「ほんとかよ」

「持ってくか、持ってかんか、どっちだ」

「もらう」

 硬いパンを袋に押し込みながら、レンは笑った。

 ドランは鼻を鳴らして、炉のほうへ戻っていく。

「……鞘は、十日ばかりかかる。ありもんの素材じゃ具合が悪い」

「そんなにかかんのか」

「急かすな。急いだ仕事は、ろくなもんにならん」

 鉄挟みが炉に差し込まれ、赤く灼けた鉄が引き出された。

 金床に据えられ、鎚が振り下ろされる。かん、と高く澄んだ音が鳴った。

 火花が、暗い鍛冶場に一瞬、赤い花を咲かせる。

 その音を、レンはしばらく聞いていた。

 迷宮の中でも、どこかでこの音が鳴っている気がしていた。いま聞くと、記憶のなかのそれより、ずっと高い。

「まだ座ってんのか」

「……いや、帰るわ」

 立ち上がり、包み直した剣を腰に差した。

「飯を食え。寝ろ」

 ドランは背を向けたまま言った。

「……また来い」

「ああ。また来るわ」


   ***


 ギルドへ戻ったのは、日が傾きはじめた頃だった。

 カウンターの前は相変わらず混んでいる。依頼を終えた連中が控えを出し、明日の札を漁り、隅の卓では早くも杯が回っている。

「よぉ、生きてたか」

 ルカが人ごみの中から手を挙げた。隣にノルドとミラとネルもいる。三人とも、もうすっかり回復したようであった。

「レンさん、歩けるんですか」

「歩けるから来た」

「無理してるんじゃ」

「してる」

 あっさり言うと、ミラが困った顔をした。

 マーゴが、カウンターの奥から書き付けを差し出してくる。

「買取の残りだよ。あんたのぶんと、そっちの三人ぶん」

 受け取って、額を見る。

 思っていたよりも多かった。

「これ……」

 ノルドが、書き付けを見て固まった。

「おれ、こんな額、見たことないです」

「甲殻ってのは高いんだよ。深いとこのは、なおさらだ」

 マーゴが、いつもの調子で言った。

「妹さんに、いいもん買ってやりな」

 ノルドの目が、みるみる潤んだ。

 その隣で、ミラが書き付けを両手で握りしめて、何度も頭を下げている。ネルは黙って自分のぶんを袋にしまい、それから、しまった袋をじっと見ていた。

 レンは、その様子を眺めていた。

(……まだ何も終わっちゃいねぇんだよな)

 あの罠は残っている。ギルドはおそらく動いていないだろう。何が起きているのかも、よくわからないままだ。

 それでも、こいつらは飯代を手に入れた。妹に何か買ってやれる。薬代の心配をしばらくしなくていい。

 当たり前が、少しだけ延びた。

 とりあえず、今ははそれでいいと思うことにした。


「じゃ、帰るか」

 ルカが伸びをした。

「おれ、腹減った。屋台寄ってこうぜ」

「やたらと食うなお前」

「どんだけ食っても腹が減るんだよ」

 笑って、レンは扉のほうへ足を向けた。

 三人が後ろについてくる。ノルドが何か言い、ミラが笑い、ネルが小さく相槌を打つ。その音を背中で聞きながら、レンは扉の把手(とって)に手を伸ばした。


「――よぉ、ルカ」


 背中に、声がかかった。

 大きすぎもしない、小さすぎもしない。ちょうど、こちらに届くだけの声だった。

「相棒の子守りは、もう終わったのか?」

 振り向く。

 隅の卓に、三人が座っていた。

 男が二人と、女が一人。どれも、見知った顔だった。同じ年に登録して、同じ掲示板を眺めて、同じ安酒を飲んできた連中だ。

 ヨナス・カルク。

 ルカへ声をかけながら、その目は、まっすぐレンを見ていた。

 口の端が、嘲るように吊り上がっている。

 隣で斧を担いだ男が下品に笑い、もう一人――短い髪の女だけが、黙って卓に目を落としていた。

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