魔女
窓も扉もない、長い長い画廊を進む。
いくつかの角を曲がって、ついに突き当りにたどり着いた。
そして扉を開けて、中へと進む。そこには広い空間が広がっていた。
八角形の部屋。各面の壁には大きな出窓もある。
そしてその上部は八角錐台状にすぼまって、
斜めの天窓からは外光が差し込んでいる。
天井のシャンデリアとも相まって、部屋は昼よりもなお明るい。
そしていくつものイーゼルが部屋の各所にあり、
絵の描かれたキャンバスが置かれているものもある。
魔女の部屋と呼ぶよりも、アトリエと呼ぶほうが相応しい。
そんな部屋だった。
「誰も、いないわね……」
ラファエラは辺りを見回す。しかしやはり、誰もいない。
「ここが一番奥だもの、ここ以外考えられないわ……」
ベルは隅々を調べ始めた。
入口から見て垂直な、左の壁の前。
そこには台座に乗せられた一輪の白い花が飾られていた。
それを観察するように、その前にはイーゼルが置かれている。
そしてそのイーゼルには、1枚の完成した絵画があった。
「これって、ニフレディルの花じゃない。白くて、綺麗ね」
そして絵画を見たベルは大きな声をあげる。
「ちょっ、これ! イシリエル!? そっくりなんだけど……!」
絵画にはベルと似たような服を着た、
同じく銀髪を編み纏めた耳の尖った少女が描かれ、
そして台座にある花と同じものをその手に持っていた。
そしてその壁から対面、入口から見て右の壁の前。
そこには長細い白樺の木が植えられていた。
同じ様にイーゼルと、その上には絵画が置かれている。
「ちょっと、この絵! ニム様!? これ、ニム様よ!?」
細い白樺に寄りかかる、とても美しい女性が描かれている。
白金色の長い髪に、とても繊細な模様の刺繍が施されたドレス。
頭上には月桂樹の形の冠が乗っている。
「二人とも知り合いなの?」
「ええ、あたしの里の長、ニムリーニエル様と、向こうはあたしの幼馴染のイシリエルだわ……。どうして、彼女たちの絵があるのかしら……」
考え込む二人。
しかしその時、部屋の一番奥のあたりが歪みだす。
そしてついに、魔女が姿を現した。
「ま、魔女ってあいつ!?」
ラファエラは身構えつつ魔法を準備する。
「きっとそうよ! だって禍々しいもの!!」
“魔女”はイメージした通りの姿だった。
黒いローブにしわくちゃの顔。曲がった背中。
そんな誰もが想像する姿。しかし一つだけ違うのは、
その魔女は杖ではなく、絵筆を持っているという事だった。
リュカとリオラも二人に合流して身構える。
最初に動いたのはベルだった。
「よくも今まで、やってくれたわね!」
“Nar! Erui!”
ベルの手のひらから真っ赤な炎が吹き出す。
そしてそれは魔女を包み込んだ。
恐ろしい声で叫ぶ魔女。しかし次の瞬間それは紫色に変色し、
そして魔女に吸い込まれるように消えた。
「効いてない? でも、そんなはずが! これで、どうだ!」
そしてラファエラの火球が魔女に直撃した。
ローブから覗く顔が焼けただれる。しかしすぐにそれは元に戻った。
「あの話は、本当だったの!? 攻撃が全く効かないって!」
ベルが悲鳴のように叫ぶ。
「ちょっと、そんな話は聞いてないわよ!」
そう叫び返すラファエラの目の前で、魔女が徐々に肥大化する。
「そんな! まさか大きくなるの?」
「攻撃を吸収するって話も、聞いたような……」
「だから、そういうことは、先に言いなさいよ!!」
魔女が左手をラファエラに向かってかざした。
そこにリオラが飛びかかり、そしてその左腕に噛みつく。
しかし反撃として魔女は、絵筆でリオラに絵具を塗りたくった。
たまらず魔女から離れるリオラ。
そしていつの間にか彼女の周りに蔦が生え、
絵具まみれになったリオラに巻き付いた。
「リオラ!」
リュカはリオラに駆け寄り、その蔦を外そうとするが、
それは余計に絡まっていった。
そしてリオラから真っ白な霧が吹き出す。
咄嗟にラファエラは、リュカをその霧の中から連れ出した。
そして次第に霧が四散して視界が晴れていく。
しかし、そこにはリオラはいなかった。
代わりに、真っ白く大きな彫像が鎮座している。
それは立派な牙を持つ、大きな狼の魔獣の像だった。
そしてイーゼルと絵画もある。
「近づいちゃダメ! あの絵具は危ないわ!」
ラファエラはリュカを引っ張って後退する。
「リオラ! リオラ!」
泣き叫ぶリュカ。
「落ち着いて、リュカ! リオちゃんは大丈夫! 魔女をやっつけたら、必ず元に戻るから!!」
「そうなの!?」
心配そうな面持ちでラファエラは問い返した。
「多分……。でも絶対にそう! 絶対にそうよ!!」
口ごもりながらも、振り絞るようにベルは鼓舞する。
「もう! こういう時くらい、はっきりしてよ!」
「ぼくは、信じる! リオラをぜったい、助ける!!」
「そうね、必ず助けましょ!」
距離を取りながら、魔女の出方を警戒する三人。
「魔女ってくらいだから、魔法使うんじゃ?」
青ざめた顔のベル。
「考えられるわね……。だったら……」
ラファエラは何かを静かに呟き始める。
再び魔女は左手を掲げた。
魔女は呪文を唱えるでもなく、手元のキャンバスに素早く何かを描いた。
すると突然、魔女の手のひらから大きな火球が生じる。
そしてそれが空を斬り裂いて飛んできた。
“Magia adversa, inde recede,
in auctorem revertere!”
ラファエラたちの前に大きな光の壁が生じる。
そして火球は壁にぶつかり、それは音を上げながら魔女へと跳ね返った。
悲鳴を上げる魔女。しかしやはりその効果は感じられない。
「ラファエラ、あなた、反射魔法まで使えるの!? やるわね。まあ呪文教えたの、あたしだけど」
「やっぱり、効いてない! でも魔法はこれでどうにかなりそうね。私は守りに徹するわ。ベル、攻撃はあなたに、まかせたわよ!」
焦り気味にベルが応える。
「あたし!? 魔法あんまり得意じゃないのにぃ……。分かったわよ! やるわ! 任せて!!」
ベルの火炎魔法が数回、魔女を捉える。
そして魔女もその炎を仕返すが、ラファエラがそれを弾き返す。
しかしやはり、どれも殆んど効いているようには見えなかった。
そして魔女の体がその都度、徐々に大きくなっていく。
三人の表情からは焦りが見える。
特に魔法を連発する二人からは、明らかな疲労の様子が見て取れた。
「あきらめちゃ、ダメよ! 絶対効いてる! いつか、たおせるわ!」
肩で息をするラファエラは、自分に言い聞かせるように皆を鼓舞した。
魔女の周囲にキャンバスが現れる。そしてそれに素早く絵が描き込まれた。
すると、魔女の周囲に靄のような影が現れ、形を成していく。
それはオークの姿になった。オークはゆっくりと三人に近づいていく。
「ぼくにまかせて!」
リュカが叫び、前へと踏み出す。
「魔女に近づいちゃ、ダメよ!!」
「わかってる!」
「白い壁の内側で戦うのよ! リュカ、気をつけて!」
ラファエラは反射魔法の壁を、リュカと魔女との間に生じさせた。
壁を越え、斧を振り上げながらオークが近づく。
しかしリュカは素早く間合いに踏み込み、その胴を打ち抜いた。
オークが四散すると、すぐに新手が迫る。
しかし魔女が作り出すオーク達を、流れるようにリュカは倒していった。
そして、新しい影が姿を現す。
それは黒いローブを纏い、右手に細い長剣を握っている。
その体は半透明で殆ど見えない、さながら幽霊のようだった。
しかしそれにも怯まず、リュカは新たな敵に対峙する。
黒衣の幽霊剣士は、まるで滑るかのように素早く近づいてくる。
そしてリュカの左から長剣を打ち込んだ。
重みを感じながらも、リュカはなんとかそれを鍋蓋で受けとめ、
剣士の胴に反撃を打ち込む。
しかし剣士は素早く剣を返し、それを受け止め捌いてしまった。
間合いを取る両者。
再び距離が詰まり、剣士は高々と両腕で長剣を掲げる。
そして勢いよく、リュカの頭上から振り下ろそうとした。
しかしその刹那、リュカは恐れず間合いに踏み込む。
剣士に突進し、そして右腕を力いっぱい突き出した。
リュカの木材が剣士を貫く。剣士は堪らず剣を落とす。
そしてよろめき、抜け殻の黒衣はひらひら床へと舞い落ちた。
そして全てが霧となって消えた。
リュカが戦う間も、ベルは幾度も魔女に火炎を撃ち込んだ。
しかし魔女は大きくなるばかりで、ついに見上げる程になっていた。
その顔はフードから露わになっている。
「もう、これ以上……無理! さすがのあたしも、限界よ……」
疲労困憊な様子のベル。
「私も、そろそろ、きびしいわ……」
ラファエラも疲れで脚が震えている。
終わりの見えない戦いに絶望し始める二人。
「もう! だったら、これしかないわ! これでダメなら、もう本当に、どうしようもないもの!」
ラファエラが叫び、そしてすぐに目をつぶり呟き始めた。
そして両手で布団たたきをその頭上に掲げる。
“Vis ignis globum mitte, hostem percutiat!”
ラファエラの布団たたきから、真っ赤に燃え盛る火球が発生する。
「それ、中級魔法よ! ラファエラ! あなた、すごいわね!!」
「これで、決めるわよ! 行けえ! イグナエル!!」
黒衣剣士を打ち倒したリュカは、その時魔女に視線を向けていた。
大きな火球が魔女を飲み込む。
魔女は悲鳴を上げながら、悶え苦しんでいる。しかしその表情が、
病床のエドワードやセフィアンを、リュカに強く想起させた。
リュカは魔女に対して、深い憐憫を感じてしまった。
そしてふと、解毒魔法ウェネクシスの呪文が頭にちらつく。
火球はやがて勢いを失い、その炎は静かに消えていった。
魔女には火傷の一つすらも残っていない。
「そんな……」
ラファエラはその場にへたり込んだ。
ベルも既に膝をついている。
しかし無情にも魔女は左手を掲げ、右手で絵を描こうとする。
ラファエラは呪文を唱えようとするも、しかし集中が続かない。
「もう、打ち止め。レウェルタできそうにないわ………。
どうしよう………」
“Lux clara venenum expellat, corpus purificet...”
魔女に向かって手のひらを掲げ、リュカは静かに呪文を唱えた。
すると、魔女は優しい光に包まれていく。
黒かったローブは淡い紫色に変わり、水彩絵具のように流れ落ちる。
その表情から苦しさは消え、安らかな顔へと変わっていった。
そして――
そこにはもう、魔女はいなかった。
長い黒髪の女性が立っている。しかしその足は鳥のような姿。
背中には翼のようなものがあるが、萎れていて飛べそうにはない。
「え、うそ、は、ハーピー?」
驚きを隠せないベル。
「いったい、何が起きたの?」
ラファエラも混乱している。
「私はアルカイシレナ。古の昔、私は自らの歌により悪夢に囚われ、そして悠久の時を、この絵画の中で苦しんできました……」
かつて魔女だった、アルカイシレナが語り始めた。
「しかし、心優しい貴方によって、私は救われました。ありがとう。これで悪夢は消え去り、全ては在るべき姿へと戻るでしょう……」
「リオラも、もとにもどるの?」
不安げなリュカ。
「勿論です」
そう言うとアルカイシレナは、美しい声で歌う。そして――
「ほら、御覧なさい……」
ワン! ワン!!
元の姿に戻ったリオラは、尻尾をパタパタさせながらリュカに飛びつく。
「リオラ!」
そしてリュカの頬をペロペロと舐めた。
「わあ、くすぐったいよ」
「これは、いったい……?」
「ふわぁああ、よく寝たぁ……」
背後から声がして、その声を聞いてベルの表情がぱっと明るくなる。
「ニム様!!? イシリエル!!?」
そして二人のもとに駆け寄った。
「ほんとうに、ありがとう。小さな戦士よ……」
アルカイシレナの声が聞こえた直後、目の前が真っ白になる――
気がつくと、そこは魔女のアトリエではなく、
どこかの城のような場所にリュカたちは立っていた。
「みんな! ありがとう!」
ベルが駆け寄る。
「みんなのおかげで、魔女を倒せたわ! それにあたしにとって、とても大事な二人も助けられた……」
安堵から、ベルは涙を流している。
「でも、ほんとう……よかったわぁ……。さすがにもうダメって、思っちゃってたから……」
「コホン! ベル、そちらの二人は?」
ラファエラが堪らずベルに尋ねた。
長身の美しい女性はリュカたちに向けて優しい微笑みを浮かべ、
少女は少し呆れ顔ながらも笑っている。
「ああ、ごめんなさいね! えっと、こちら、あたしの国の長、ニム様。ニムリーニエル様。あたしたちにとっての、お姉様? お母様かしら? 血の繋がりは、ないのよ? いや、ちょっとあるかも。どうなのかしら?」
「ちょっと! 早くあたしの紹介もしてよ! 相変わらずね、ベルは」
リュカたちは苦笑した。
「ごめんごめん、イシリエル! えー、こちら、イシリエル。あたしの幼馴染よ。といっても、里のみんな全員、幼馴染みたいなものだけど。そういえば……」
「はいはい、そこまでよ」
ラファエラが手を叩いて割り込む。
「私はラファエラ、そしてこの二人はリュカとリオラです。はじめまして」
リュカもラファエラと一緒にちょこんと頭を下げる。
リオラもそれを真似た。
「まあまあ、とても可愛らしい勇者様たちね。私は里長の、ニムリーニエルと申します。よろしくお願いしますね、勇者様がた」
「イシリエルです。この度はベルが色々と、迷惑おかけしたようで……」
「いえいえ、迷惑だなんて……。まあ、それなりに……」
「ちょっとぉ、イシリエル! それにラファエラまで!」
リュカがたまらず笑うと、一同もつられて笑った。
「皆様のおかげで、魔女は浄化されました。本当にありがとうございます。ベルも、よく頑張りましたね」
ニムリーニエルに褒められて、ベルは嬉しそうに照れた。
「これで我らの里の皆も目覚め、元に戻っているでしょう。この御恩は、いつの日か必ず、お返ししますわ。もしも困った事があったら、我が里をお訪ね下さい。その時は必ずや運命が、あなた達を導くことでしょう」
ニムリーニエルがそう言い終わるやいなや、
リュカたちの体が優しく光り始める。
「お別れの時が来た、みたいね……」
ベルは寂しげな笑顔を浮かべている。
「リュカ、ラファエラ、それにリオちゃんも、元気でね……。
また、きっと会える気がするから。またね……」
全ての空間が真っ白になり、ベルたちが遠のいていく。
微笑むニムリーニエルとイシリエル。ベルは笑顔で手を振っている。
そして、あの時のように、次第に意識が薄れていった――
リュカは、あの絵画のある部屋のベッドに横たわっていた。
リオラはリュカの傍らで伏せて眠っている。
ラファエラも隣のベッドで寝ていた。
「ふわあぁ……。もしかして私たち、寝てたのかしら?」
ラファエラも目を覚ます。リオラも伏せたまま尻尾を振っている。
「ゆめ、だったの?」
「そんなはずないわよ! 同じ夢を見るなんて、ありえないもの」
ベッドから起き上がる二人。そしてふと、絵画が目に入る。
不思議な色彩で描かれた絵。森の奥には小さな家が描かれている。
丸みを帯びた屋根。しかし煙突からは上がる煙は白く、
それぞれの窓からは、飾られた花々が覗く。
そして正面の扉の前には、白い翼を持つ女性が笑顔で立っている。
その傍らには、ナナカマドとシロヤナギの木が立っていた。
「絵が変わってる! ほら、見て!」
「うん!」
「絶対に夢じゃないわね。不思議な体験だったけど……」
「トレントさんたち、元気かな……。それにベルも……」
「そうね……。って感傷にひたってる場合じゃないわ! みんなの様子を、見に行きましょう! もしかしたら、こっちでも何か起こってるかも」
部屋を飛び出すラファエラを、リュカとリオラは追った。
「エリーナ! 一体どこにいたんだい!?」
ラファエラを見つけて、テオが駆け寄る。
「流行り病の影響で、門は全て閉められてたから、きっと宿の中にいるとは思ってたけど。どこにもいなくて、一晩中探して大変だったんだよ?」
「一晩!? 私たち、一晩中いなくなってたの!?」
驚くラファエラ。
「でも、ごめんなさい、おとうさん……」
「ごめんなさい、テオおじさん……」
しおらしく謝るラファエラ。リュカも一緒に謝った。
「いいんだよ、無事なら。それよりも今朝がた、お母さんの熱が引いたんだよ。もう目が覚めてるから、顔を見せておやり」
そう聞くやいなや、ラファエラはマドレーヌの寝室に向かった。
「リュカも早くお家へお帰り。皆さん待っているだろうから」
「はい!」
リュカとリオラも、足早に自宅へと急いだ。
自宅へ着くと、セルジオがリュカに駆け寄る。
「リュカ坊ちゃん! お戻りになられたのですね!」
「エリーナちゃんの家で寝ちゃったみたいなんだ。しんぱいさせて、ごめんね」
「いえいえ、テオさんからは聞いていましたので、それは大丈夫ですよ。それよりも……」
「リュカ!」
二階の窓からエドワードが顔を出した。
「エドワード!」
リュカが家の中に入ると、エドワードはしっかりとした足取りで、
一階へと降りてきた。
「心配かけたかな? でももう、大丈夫だぞ、リュカ」
そしてもう一人、ゆっくりと奥の部屋から現れる。
「ちちうえ!」
優しい笑みを浮かべ、セフィアンがリュカに近づく。
リュカはそんなセフィアンに抱きついた。
「ちちうえ! よかった、よかった……」
泣きじゃくるリュカに、セフィアンが笑顔で力強く語りかける。
「心配をかけたな、リュカ。しかし、そなたの父は強い。痩せても枯れても、病などには負けはせぬぞ!」
そういってリュカを右腕で抱き上げて、力こぶを作ってみせた。
「いけませぬ、旦那様。病み上がりなのですから!」
セルジオから諌められ、セフィアンはリュカを降ろした。
「しかし、流石です旦那様。あっという間に病も治られて。このセルジオ、改めて感服いたしました」
こうして、数日ぶりに一家に笑顔と笑い声が戻った。
翌日、ラファエラの家を一人で訪れるリュカ。
エドワードも一緒に行きたがったが、まだ安静でいるようにと、
セルジオに外出を止められてしまった。
リオラはエドワードの監視役として、部屋の扉の前で寝ていた。
家につくと、おさげ髪を揺らしながらラファエラが元気に飛び出す。
そして二人は庭のベンチに腰掛けた。
「みんな、よくなったみたいね。お母さんもすっかり元気だわ。私も、いっぱい怒られちゃった。でもやっぱり、こうじゃなくちゃね」
満面の笑顔のラファエラ。つられてリュカも顔が緩む。
「そう……。みんな、信じてくれないわよねぇ。私自身も、あの冒険が現実なのか夢なのか、はっきりしないもの」
リュカは経験した出来事を、セフィアンたちに話して聞かせた。
皆にこやかに温かく聞いていたものの、
しかしそれを真に受けている様子ではなかった。
「エドワードは、ぼくがみたのは夢だって、わらってた」
少しふくれっ面になるリュカ。
「仕方ないわよ。自分の目で見ていなければ、私だってきっと信じられなかったもの。それにね……」
そういって手のひらを空き地の方へ向けるラファエラ。
「ぐろぶす、いんぐにす!!」
しかし何も起こらない。
「ほらね? あんなに何度もできてた魔法が、全然できなくなってる」
リュカもセフィアンのイメージを浮かべて、剣術の真似をする。
「やあっ! あっ!」
しかし足がもつれて転んでしまった。
「不思議な体験だったわねえ。ベルも結局、何者だったのかしら」
あの体験を思い出しながら、暫し物思いにふける二人。
「でもね、リュカ。私はあの出来事を、夢だとは思わないわ。今でも全部、はっきりと思い出せるもの。それに、ベルとの出会いが夢だなんて、思いたくないわ」
「うん! ぼくも! ベルとまた会えるって、おもってるよ!」
「そうね」
優しい微笑みをラファエラはリュカに向けた。
「リュカ、私、魔法の練習するわ。それであの時みたいに……。ううん……。
あの時よりももっと、上手くなってみせる!」
「ぼくも、がんばる!!」
「そうね。ベルに再会した時には、びっくりさせてあげましょ!」
子どもたちの笑い声とともに、
サント・フロールの街にはいつもの活気が戻っていた。
第一部完結まで、毎週金曜・日曜20時20分、週2話更新予定




