銀青の仔狼
<第一章 Child of Wolf - 銀青の仔狼>
サント・フロールに来て、早くも一年余りが過ぎた。
街の東部最北端に、リュカたちの家は位置している。
こじんまりとした二階建ての家。裏には小さな庭もある。
父の部屋と書斎、そしてセルジオの部屋は一階に、
子供たちの部屋は二階にあった。
リュカとエドワードは、旅籠の娘ラファエラともすっかりと打ち解け、
毎日のように遊ぶ仲になっていた。
西へと大きな通りを下っていくと、北の橋手前にラファエラの旅籠がある。
今日もリュカはラファエラを迎えに来ていた。
「エリーナちゃん、今日もあそぼ!」
親愛を込めて、リュカはそう愛称でラファエラに呼びかけた。
「お母さん、リュカとあそびに行ってきます!」
ハニーブロンドのお下げ髪を揺らしながら、
元気にラファエラが宿の玄関扉を開けて飛び出した。
「あら? 今日はエドワードがいないわね。またイタズラでもして、大人たちに怒られてるのかしら?」
「エドワードは先に行くって言ってた。門番のおじさんと話すんだって。“男どうし”の話だから、ぼくたちは入れないんだって」
少し悔しそうに、リュカはそう言ってはにかんだ。
「”大人”ぶりたいだなんて、エドワードもまだまだ”子供”ねえ」
ため息混じりにも、余裕そうな表情でラファエラは呆れる。
「まあいいわ、行きましょう!」
そしてリュカはラファエラに手を取られて、一緒に走り出した。
リュカたちの家のすぐ北に、街の裏門がある。
ここからは船大工や曳航夫たちが毎朝出ていき、夕方になると戻って来る。
しかしちょうど昼過ぎだったので、門番も暇そうな頃合いだった。
エドワードはそんな門番たちを捕まえては、
少し背伸びした会話にいつも混ざろうとしている。
「しかし、どうなんだろうな。物騒な話を行商から聞く事もあるが、実際この辺りはのどかなもんだろう? 盗賊ですら滅多に見ないぜ?」
門番の男たちが会話している。
「そうだなあ、南の森は危ないとも聞くが、その近くの小フロールでも、せいぜい獣に畑が荒らされる、くらいなもんだからな」
「そういえば北の森でも、ここ最近変な鳴き声が聞こえるとか、船大工のアルマンが昨日言ってたな。まあ気のせいだろうよ」
「正直な話、魔王がどうとか、荒唐無稽なおとぎ話なんじゃねえか?」
「しかしその魔王を怖がる連中は、妙な宗教始めたりしてるだろ?」
「ああ、布教に来てたな。ナントカ教団っての。俺も誘われたぞ?」
「あんな怪しい連中に唆されるのもどうかとは思うが、
しかし魔王を怖がる気持ちは、俺にだって分かるよ」
そしてエドワードがこれに加わろうとする。
「大丈夫だよ! 魔王なんて、このおれが倒してみせるさ!」
一同が笑う。
「威勢がいいね。さすがはセフィアン様の所の坊っちゃんだ」
「将来は、勇者様かな?」
少しからかわれていることに、エドワードは頬を膨らませた。
そこにラファエラがリュカの手を引いて現れる。
「ま〜た、油売ってるの? 暇そうね」
「いやいや、おじさんたち、これでも仕事をしているんだよ。ラファエラ嬢ちゃん」
「今日も外に遊びに行くのかい?」
少し慌てる門番に、ラファエラはいたずらっぽく答える。
「ええ、おじさんたちが”仕事熱心”なおかげで、いつも自由に外に出られるから、助かってるわ」
ニコニコと微笑みかけるラファエラに、たじたじになる門番たち。
「かなわないね、ラファエラ嬢ちゃんには」
「さあ、二人とも行くわよ!」
男子二人を率いて、ラファエラは颯爽と門外へ飛び出した。
「日暮れ前には戻るんだよ! 果樹園よりも外に出ちゃダメだぞ!」
「分かってますって!!」
子供たち三人は冒険へと繰り出した。
北門の外には、のどかな景色が広がっている。
北へ行くほど緩やかに下り、東へは平らな土地が広がる。
ずっと北の遠くに、この辺りではヌーリシエール川と呼ばれる、
あのトレーネン大河が見える。その川辺には造船ドックがあった。
男の子たちにはとても魅力的な場所ではあるが、
エドワードとリュカは以前、昼間に近づいて大人に怒られた。
「夕方前にはドックに行くぞ! 約束したんだ、夕方なら少し見ていいって!」
エドワードは遠くのドックを指差す。
「何が面白いのかしら? ジャンさんの工房と大して変わらないじゃない」
ラファエラの言葉に、少しむきになってエドワードも反論する。
「船をつくってるんだぞ!? ぜんぜん違うだろう!」
「やっぱり、分からないわ。家具と、どう違うの?」
「おんなこどもには、分からないんだよっ!」
「あなただって、子供でしょ」
「おまえよりも、おれのほうがひとつ、年上なんだぞ! だからもう、おとななんだよ!」
「なによ、その理屈。そんなわけないでしょ」
睨み合う二人。
「それで、リュカも行きたいの?」
リュカは頷く。
「うん、行きたい。みんなで!」
リュカの言葉で二人は笑顔になった。
「仕方ないわね、リュカがそういうなら」
「そうだな。ならそれまで農園で遊ぼう!」
「ちょっと待って」
ラファエラが歩みだそうとする二人を止めた。
「今日は日差しが強いから、リュカにこれ貸してあげる」
そういってラファエラはバンダナをリュカの頭に巻いてあげた。
「ありがとう! エリーナちゃん!」
ラファエラはニコニコと満足そうにしている。
「よし、じゃあ行くか!」
エドワードが駆け出し、リュカが続く。ラファエラもその後をついて行った。
川べりまで降りれば珍しい形の石などもあるが、
行くなと大人たちから注意されているので我慢した。
そして夕方までの時間、三人は農園の周りで遊ぶことにする。
小道を歩いていると、ふと金色に輝く花がリュカの目に入った。
「この花って、エリーナちゃんの宿屋さんの、あのかんばんにあった絵に、すごくにてるね」
「よく分かったわね。そうよ、これは『セレスタジェット』の花。うちの宿屋の名前『黄金の天輪花亭』は、この花がゆらいよ。これはね、『天輪花』ともよばれているの」
心なしか誇らしげに説明するラファエラ。
「今の時期だと、あの絵みたいに、金色に咲くの。マリーゴールドの花の、きんしゅ? とかいう花だけど。夏の間だけは、どちらかの見分けがつかなくなるのよ。でもね、春にはもっと白くてきれいだし、秋になると赤っぽくなったりもしちゃうのよ」
「へえ……すごいね!」
「季節で色が変わるのか、その花? おもしろいな!」
珍しくエドワードも感心した様子だった。
「これはね、一年をとおして、太陽をしょうちょうしてるの。朝日から今くらいの正午、そして夕日といった感じでね」
「”しょうちょう”って、なあに?」
リュカの問いに、ラファエラは言葉に詰まる。
「えっと、何かしらね……。まえにお母さんがそう言ってたってことなんだけど。そういえば、よく分かってなかったわ……。えっとね、多分だけど、それを見たら思いうかべるもの、ってことかしら」
「そうそう、おれを見たら、”勇敢な騎士”を、思いうかべるだろ? そういうことだよな、リュカ」
「違うでしょ……」
睨み合うエドワードとラファエラをよそに、
セレスタジェットの花を笑顔で眺めるリュカ。
「じゃあ、この花はエリーナちゃん、なんだね!」
「あ、ありがとう……」
頬を赤くして照れるラファエラ。
「まあ、この日差しみたいに熱いって意味じゃ、ラファエラは太陽みたいなもんだな」
「それもほめ言葉として、うけとっておくわね、騎士さま」
エドワードとラファエラが軽口を叩き合い、思わずリュカが笑う。
そんな何気ない、いつもの会話を三人は楽しんだ。
リュカたちは街の人々が営む農園を訪れた。
そこでは様々な野菜が育てられている。
特に果物の甘い香りは子供たちを魅了した。
「こらっ! 掘った芋をいじるんじゃない!」
「やめなさいよ、エドワード! 怒られちゃったじゃない!」
こうして時間はゆっくりと過ぎていった。
「今何どきかしらね?」
「まだ日もあんなに高いし、夕方はずっと先だな」
ラファエラとエドワードが話し合っている間、
リュカはなんだか無性に北の方の、森の中が気になっていた。
「どうした? リュカ? 果樹園の方に行きたいのか?」
エドワードがリュカを覗き込む。
「だめよ! あんまり遠くに行くなって言われてるでしょ?」
「ちょっとくらい、いいだろう。果樹園よりも外に行くな、ってことは、果樹園までは行っていいんだよっ! ほら、行くぞリュカ!」
そういうとエドワードは駆け出してしまった。
慌てて二人はエドワードの後を追った。
「ほんとうにエドワードって、すぐに突っ走るんだから!」
「思い立ったらすぐやる! それが”男”ってもんだよ」
「考えないで動いちゃうのが、子供でしょ!」
いつものように口喧嘩する二人。その後ろをリュカは歩く。
クウゥゥン……
左の方から何かが聞こえて、リュカは立ち止まった。
果樹園のもっと向こう、森の方からだった。
リュカは目を凝らして覗き込むが、何もいない。
ついつい気になり、果樹園の端まで行ったが、やはり何もいなかった。
「ねえ今、森のほうから、なにか聞こえなかった?」
しかし返事がない。
戻ってみると、既に二人の姿はなかった。
前にも後ろにも姿は見つからない。
迷子になった事に気づいて、リュカは心細くなった。
半泣きになりながら、リュカは歩いた。
もうどちらから来たのかも、よく分からない。
そしてついにその場に座り込んでしまう。
しかしその時、また――
クウゥゥン……
何かが聞こえた。
さっきよりもはっきりと。
音の方を見つめていると、草木の影で何かが動いている。
「ま、魔物……!?」
リュカは少し後ずさりした。
ガサガサと音は大きくなる。
そして――
一匹の犬が、ゆっくりと茂みから頭を出して姿を現した。
ピタリと足を止め、姿勢低く、尻尾は下がりその先が小さく揺れている。
青みがかった銀色の毛並みの、今までに見たことのない不思議な犬だった。
リュカの方に目をやり、そしてそっぽを向き、また見る。それを繰り返している。
そして時折、リュカの方をクンクンと嗅いでいる。
リュカも恐怖心が和らいできて、静かに立ち上がり、そして一歩近づく。
犬はびくっとして一歩下がるも、再び静止して姿勢を低く、
こちらをちらりちらりと見てきた。
「どこからきたの?」
リュカは優しく声をかけた。
犬はリュカに耳を向けて、その声を聞いている。
ゆっくりとリュカは犬に近づいていく。
あと半歩のところで足を止めて、リュカも恐る恐る手を伸ばす。
犬は姿勢を低くしたまま、すこしだけ首を伸ばした。
リュカの手が優しく犬の鼻先に触れる――
その時リュカは、不思議な感触を覚えた。
なにか懐かしいような、不思議な感覚だった。
すると犬は静かに目を閉じて、リュカの手に頬ずりする。
そして一気に体を寄せて、リュカに全身をこすりつけてきた。
リュカもすっかりと恐怖心が消え、犬を抱きしめる。
犬がリュカの頬をペロッと舐めた。
「わあっ、やめてよ、くすぐったいよ」
笑うリュカの周りを、犬は尻尾をバタバタさせながら走り回った。
さっきまで心細さで半泣きだったリュカだったが、
犬と一緒に元気に歩き始めた。
「ぼくの友だちがいなくなっちゃったんだ。いっしょに、さがしてくれるかい?」
尻尾を振りながら、犬は愉しそうに小さく吠える。
そしてリュカは、犬の嗅覚が優れていることを思い出した。
「ねえ、キミはこれのにおいを嗅いで、ぼくの友だちがどこにいるか、わかるかい?」
リュカは頭からラファエラのバンダナを取って、犬に差し出す。
犬はクンクンとそのバンダナの匂いを嗅いだ。
すると飛び上がるように、犬は前へと二歩三歩走り、
そして振り返ってリュカに吠える。
リュカがそれを追って歩き出すと、犬はまた歩み始める。
こうしてリュカたちは、森の奥へと入っていった。
犬はどんどんと森の奥に入っていく。
「本当にこっちなの?」
流石にリュカも心細くなった。
しかし犬は元気に、跳ねるように前へと進んでいく。
暫くすると、誰かの声が聞こえてくる。エドワードだった。
「こいつめ! こっちに来るな!」
エドワードは木の棒を振り回していた。
その後ろにはラファエラが怯えて縮こまっている。
二人の周辺には、子どもたちよりも少し小さな小人たちがいた。
緑の髪に焦げ茶の体、木の葉の腰みのを巻き、茸のような帽子を被っている。
石でできた小さな斧を握り、エドワードたちの周辺で踊っていた。
飛び跳ねるたびに、コロコロ、コロコロという音が聞こえる。
「もう! なんなのよ!」
小人の一匹がラファエラに近づいていく。その時――
リュカの元から犬が駆け出し、その小人とラファエラの間に割って入る。
そして大きな声で吠えた。
小人が怯んだその瞬間、犬が体当たりする。そして小人は転んで尻餅をついた。
踊っていた小人はみな固まる。
そしてカサカサという葉音を立てながら、みなどこかへと消えていった。
「リュカ! 探したのよ!」
ラファエラがリュカに駆け寄る。
「急にいなくなっちゃうんだから!
……でも、よかった……」
涙ぐむラファエラを、リュカは申し訳なさそうに覗き込む。
「そんなことよりも、リュカ。この犬はどうしたんだ?」
エドワードが尋ねた。
「うん、二人とはぐれちゃったあと、森で出会ったんだ」
エドワードはまじまじとその犬を見つめる。
「なんか珍しい毛の犬だなあ。こんなの今まで見たことないな……」
「本当ね、とってもきれいな色……」
暫く見とれる二人。
「何にしても、助かったよ! ありがとうな!」
クゥゥン
エドワードに撫でられて、どこか犬も誇らしげだった。
辺りはすっかり薄暗く、森の木々のてっぺんが夕日で染まっている。
「まずいぞ、早く帰らないと! もうドックに寄るどころじゃないな」
「そうね、日が沈んだら門が閉まっちゃう!」
しかし慌てる二人をよそに、リュカは犬の素振りが気になっていた。
犬は来た方角とは反対の、森の更に奥の方をずっと見つめている。
「行きたいの?」
リュカが声を掛けると、犬はワンとひと吠えした。
「ねえ、この子が向こうに行きたいみたいなんだ」
「それは困ったな。すぐに戻らないとまずいのに」
懇願するようなリュカと、クンクンとか細く鳴き続ける犬。
ほんの少し考えて、エドワードが口を開いた。
「よし! 助けてもらったんだ! とことんまで付き合うぞ!」
「仕方ないわね」
喜ぶリュカと犬。
そして三人は犬の後について、森の奥へと歩いていった。
赤く染まった木々も徐々に色を失い、藍色に変わっていく。
やがて満月の光をうけて、枝葉の傘が青白く光り始めた。
そして三人は、少し開けた場所へと辿り着く。
平たく大きな岩が横たわる空き地、その岩の上に大きな影が見える。
クゥン……クゥゥン…………
寂しげな鳴き声をあげながら、犬が影に近づいていく。
そして岩の上に乗り、影に寄り添った。
満月が昇り、そして空き地を青白く照らす。
影が徐々に光りに包まれ、そしてその姿を見せる。
それは大きな魔獣だった。
オオカミのような姿だったが、大きく立派な牙が見えている。
銀色だが青白くもある背中。そして体には斑点模様も見えた。
魔獣は目を閉じて、浅く小刻みに息をしている。
息をするたびに、かすれた音が聞こえる。
そして静かに、少しだけ目を開けた。
犬はその魔獣の頬に体を寄せると、魔獣は優しくその体を舐めた。
そして振り絞るように静かに頭を上げ、リュカたちに視線を向ける。
一度瞬きをして、ゆっくり耳を伏せた。そしてまたその頭を床に伏せ、
今一度だけ犬に視線を向けると、再び目を閉じる。
大きく息をして、そして動かなくなった――
それから長い間、犬はその傍を離れようとしなかった。
リュカたちはただ、それを見ていることしか出来なかった。
暫く動かなかった犬がすっくと立ち上がる。
そしてリュカたちに駆け寄った。
「いこうか……」
リュカの声に小さくワンと鳴いて応える犬。
何度も振り返りながらも、それでも三人の横を離れず、
一緒に森の外を目指した。
満月のおかげでその夜は明るく、迷わずに森を出られた三人と一匹。
とにかく急いで北門へと向かった。
門の周りには松明を持った大勢の大人たちがいる。
リュカたちが行方不明になったと気づき、探してくれていた。
三人がひょっこりと顔を出すと、当然怒られてしまった。
「エリーナ! あんた! こんな時間まで何してたの!!」
マドレーヌが鬼のような形相でラファエラを叱りつける。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
ラファエラが泣くのを初めて見たリュカ。
「おばさん、ごめんなさい。エリーナちゃんは悪くない。ぼくの、せいなんです……」
一生懸命リュカはラファエラを庇った。
「まあまあ、みんな無事だったんだから、良しとしよう」
テオも一緒に宥める。
「そうね……。でも、もうするんじゃないよ!?」
マドレーヌに向かって、リュカとラファエラは大きく首を縦に振った。
「ほう、森の中で小人に会ったのか」
エドワードは門番のおじさんに冒険の報告をしている。
「そうだよ! おれが大きな声をだしたら、みんな逃げていったぜ!」
あの時から持っていた棒を掲げて、誇らしげにエドワードが語った。
「そりゃコロルってこの辺では呼ばれてる、いたずら好きの妖精だな」
「まあ滅多に襲ってくることはない連中だから、ついてたな坊ちゃん」
「じゃあ、おっきな怪物にも会ったよ! 牙もあった、でっかいやつ!」
むきになるエドワード。
「ははは、そんな怪物、あの森にはいないよ」
「そうだな、聞いたこともねえ」
「夢でも見たんじゃないか?」
笑う一同。エドワードはやっぱりからかわれてしまって、
棒を掲げた姿勢のまま、その頬を膨らませた。
大人たちの中には、セフィアンもいた。
「父上、ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
エドワードも、そしてその横でリュカも神妙にしている。
「どうだ、冒険は楽しかったか?」
しかしお叱りではなく、意外な言葉が返ってくる。
これに二人とも目を輝かせた。
「はい!」
「怖かったけど、でも楽しかったです!!」
セフィアンは微笑み、優しい声で語った。
「そうか。男子とは冒険したがるもの。この父も、そなたらくらいの頃は、よく抜け出しては近くの森を冒険したものだ。
経験は何にも代え難い。その冒険で得たことを、忘れるでないぞ」
少しきょとんとしながらも、二人は笑顔で頷いた。
「しかし、これだけ迷惑をかけたのだ。さあ、皆に謝りなさい」
「みなさん、ご迷惑おかけしました。ごめんなさい!」
二人は大きな声で謝った。ラファエラも二人に続いた。
ワン!
犬の存在にセフィアンが気づく。
「ん?その犬はいかがしたのだ?」
「森でぐうぜん、会いました」
「そうか……」
犬を見ながら、セフィアンは何やら考えている。
そして優しく撫でながら観察する――
「ふむ、これは犬ではなく、オオカミか……? いや、しかし……」
ぶつぶつと呟いている。そんなセフィアンの顔を心配そうに覗き込むリュカ。
「ちちうえ、うちにつれて行っちゃ、ダメ、かな?」
そんなリュカの瞳を、セフィアンは見つめて考えている。そして口を開いた。
「懐いてしまったとあらば、仕方あるまい。だが、しかと面倒を見るのだぞ?」
「はい!」
リュカは目を輝かせて飛び跳ねて喜んだ。
犬もつられて飛び跳ね続けた。
大人たちは解散し、各々の帰路につく。
そしてリュカたちもラファエラたちと別れて、我が家へと帰った。
新しい家族と一緒に。
翌朝。三人と一匹はラファエラの旅籠の庭に集まる。
「ねえ、この子の名前はもう決めたの?」
犬を撫でながらラファエラが聞いた。
「うん、昨日はすぐに寝ちゃったから、まだなんだ」
そしてエドワードが偉そうにしゃしゃり出る。
「おほん! えーと、いい名前を一晩寝ずに、考えてきたぞ!」
ジト目で見るラファエラ。
「いいか? リュカ。この中からお前が決めていいぞ!
『シャドウ』、『ブレイズ』、『エース』、『ソー』!
どうだ!? かっこういいだろう!!?」
困惑するリュカ。
「えっとね、エドワード。あのね……」
「じゃあ、『ルーク』なんてのは、どうだ!?」
まくしたてるエドワードに、リュカの言葉が詰まる。
「待ちなさいよ。なんで”格好いい名前”ばっかりなのよ」
「そりゃ、格好いいほうが良いにきまってるだろう」
「その前にこの子、本当に男の子なの? ちゃんと確かめたの?
女の子に『エース』なんて付けたら、かわいそうよ」
「いや、知らないけど……」
口ごもるエドワード。
やっとリュカが言葉を発する。
「この子、女の子だよ。だから……」
「やっぱりね」
「そうだったのか! 知らなかった……」
こうして名前を改めて考えることになった――
そしてラファエラが提案する。
「ねえ、『リオラ』なんて、どう? なんとなくだけど。月の明かりの下で、この子がキラキラと輝いていたから、それを思い出して、リオラって思いついたの」
「リオラか……いい名前だね!」
「うん、悪くないんじゃないか?」
そしてリュカがリオラに向き合って語りかける。
「リオラ、よろしくね!」
リオラは尻尾をパタパタと振りながら、三人の周りをいつまでも跳ね回った。
第一部完結まで、毎週金曜・日曜20時20分、週2話更新予定




