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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第二篇 The Long Detour - 急がば廻れ
25/26

港街サンセルモ

 先ずは宿を探すリュカたち。街道から続く街の大通りを進み、

サンセルモの中心街へと向かった。

そして街行く人を捕まえて、どこか控えめな値段の宿がないか尋ね、

そこで勧められた旅籠を訪れた。それはかなり大きな建物で、

頭部が黒くて胸が白い、灰色の翼の鳥の看板が特徴的だった。


「いらっしゃいませ。アジサシ亭へ、ようこそ」

宿屋の主人が愛想よく、リュカたちに話しかけた。

「荷物が多いので、一番安い個室を借りたいのですが?」

「それなら、一晩25テラになります」

そしてキョトンとするリュカに気付いて、主人が続けた。

「ああ、旅のお方ですね。ここの方言では、銅貨を『テラ』と呼ぶことがあります。もちろん銅貨そのものは全く同じですし、ルナ銀貨との交換比率も変わりませんよ」

「なるほど、よかった。では、その個室でお願いします」

こうして滞在初日の宿が決まった。


そして更にリュカは、宿の主人に質問する。

「この辺りで海外のことが聞けそうな場所は、どこですか?」

「海の外の話を聞くなら、やっぱり船乗りがいいですね。食事がまだなら、船乗りたちが集まる酒場に行ってみては? この先、住宅街がありますので更に先へ。港の方へと降ります。こちらから海に向かって左手、倉庫街のある港湾区まで行けば、船乗りたちの溜り場となっている大きな酒場がありますよ」

そう聞いてリュカたちは、その酒場を探しに港へと向かった。



 リュカたちは先ず、大通りへと戻る。

そこから緩やかな坂道を下って、住宅街へと出た。

大通り沿いには、とても立派な教会も建っている。

更に奥へ。すると次第に潮の香りも強くなっていった。

波の音もよく聞こえる。

まだ少し小高い住宅街の端まで来ると、その眼下に港と海が一望できる。



 左前方に見える埠頭には、とても大きな帆船が数隻係留されている。

その手前には倉庫街が北へと広がっていた。

中央荷揚げ場は夕方であったためか、もう既に人の姿は殆んどない。

しかし昼間には、荷下ろしの人足や商人たちが行き交い、

この場所がとても賑わっているであろうことは、

サント・フロールの懐かしい光景に重ねて、容易に想像できた。



 港の右端には、小さな漁船らしき船が何艘も泊まっていた。

漁港の南から突き出た岬では、灯台の灯りが一艘の漁船を出迎えている。

水平線の向こうは既に暗く、東の空には宵の妖星(ようじょう)テラレクスが昇る。

それは赤銅色に鈍く輝き、宵の闇を支配した。

間もなく背後で、遥か彼方の稜線へと太陽が沈み、港に夜の帳が下りる。

そして漁港近くの魚市場周辺は、いくつものランタンに照らされて、

それぞれの屋台では、漁師たちが楽しそうに酒を酌み交わしていた。

新鮮な魚や貝、海老を焼くその薫りが潮風に乗って、三人の所にまで漂ってくる。


「北の方にある酒場に、向かうんだったよな……」

屋台の賑わいを眺めながら、エドワードが呟いた。

「そうだね。できる限り多くの人から話を聞かないと。今夜は大衆酒場に行ってみよう。屋台はまた、今度だね」

「お、おう……」

リュカに見透かされて、少しばつが悪そうにエドワードは歩き出した。



 大通りから港湾区へと降りる。

そしてすれ違う人に道を聞きながら、大衆酒場を探す。

倉庫街の手前に、人で賑わう大きな建物があった。

中からは美味しそうな食べ物やお酒の匂いがして、彼らの空きっ腹を刺激した。


ゴクリ、とエドワードが喉を鳴らす。

「飲みに来たんじゃないよ、エドワード」

「分かってるって! でも飲まないと、仲間には入れてもらえないしな。少しは、飲まないとな……。仕方がないよな。なあ、リュカ?」

リュカが苦笑しつつ頷くやいなや、エドワードは勢いよく店へと飛び込んでしまう。

そしてリュカたちも彼を追って、賑やかな酒場へと入って行った。



 酒場の中は、すでに人で一杯だった。

中では男たちの話し声、そして笑い声がそこかしこから上がる。

そしてジョッキをテーブルに置く音に、ナイフやフォークが皿に当たる音、

時折乾杯する音が響き、さながら喧騒といった中にあった。


そして入口をくぐると、先ず目の前にはカウンター席がある。

「いらっしゃい。長テーブルの席でいいかい? 空いてる所に座ってくれ」

カウンター向こうで忙しく働く主人から、奥へと促されるリュカたち。

「おーい! こっちだー!」

すでにエドワードは、奥の十人掛けのテーブルで場所を陣取っており、

リュカたちをそこへと呼び寄せた。



 とりあえず腹ごしらえに、食事を注文する。

店の名物だという、勧められた魚介のスープとパンをそれぞれ頼んだ。

そして酒場のマナーだとエドワードから強く促されて、お酒も注文する。


「あまり強くないお酒が欲しいのですが……」

少し躊躇いがちにリュカが店員に聞いた。

「そうだね。ヴィーノ・ロッソは、香りも口当たりも良いですよ」

「では、僕はそれにします。ローラは?」

「どういたしましょう……」

「そちらのお嬢さんには、果実酒はいかが?」

「ええ、それにいたしますわ」

「エドワードは、僕と同じでいいかい?」

しかしエドワードは隣の船乗りの飲み物を気にしている。


「おじさん、それは?」

「これかい? グラッパだよ」

「じ、じゃあ俺も、これにするぜ!」

「おっ、いいのか? ちょいときついぜ?」

「望むところだぜ!」



 そして酒がテーブルに運ばれてくる。

ヴィーノは香り良い赤ワインだった。

ローラの果実酒も、香り良く飲みやすい酒だった。

そしてグラッパが、エドワードの前に置かれた。

掌に収まるほどの小さなガラス瓶に、透明の液体が注がれている。

そしてエドワードがそれを一口啜った。


「っくーぅーっ! 効くなぁ!」

甲高くエドワードが声を上げた。

そしてガラス瓶の液体を一気に飲み干す。

「ふわぁあああああー!!」

「おっ、若いの! いい飲みっぷりじゃねえか!」

「お、おうっ……!」

「だがな、グラッパって酒は、ちびちびと飲むもんだぜ」

そう言って船乗りは豪快に笑った。

「え……?」


空になった瓶を見て、店員がやって来る。

「お替りはいかが?」

しかしエドワードは口ごもり、そして答えるのだった。

「ヴィ、ヴィーノ、お願いします……」



 リュカたちは食事を終えて、周囲の船員たちに聞き込みを始めた。

「あのぅ、サント・フロールという街を、ご存知ではないですか?」

「うーん。聞いたことはねえな」

「港街じゃなけりゃ、中々行く機会もねえからなぁ」

「ボクはまだ船員になって日が浅いので、すいません……」

芳しい話は全く聞けなかった。

しかし、隣のテーブルまできてようやく情報の糸口を得る。

「奥の壁際にいる、古株に聞いたらどうだ? あっちには、船員歴20年以上のベテランが揃ってるぞ」

「おう、あそこで飲んでるじいさん、うちの甲板長(ノストローモ )だぞ」



 リュカたちは早速、紹介された老水夫に話を聞きに行く。

「あのう、少しお話を伺えますか?」

少し緊張気味に、威厳のある男に話しかけるリュカ。

男は少しだけ顔を上げて、リュカたちに目線を向けた。

「何かね?」

「サント・フロールって街なんだが、知らないかい?」

酒が入っていつにも増して気が大きくなったエドワードは、

一切物怖じすることもなく老人に問いかけた。

しかしその言葉を聞いて、老人は酒を飲む手を止めて、

盃をテーブルに置いた。そして静かに語り始める。


「懐かしい名を、久方ぶりに聞いたな……。サント・フロールか……」

「ご存知なのですか!?」

リュカが身を乗り出す。

「ああ、知っているとも。俺は、あの街の出身だ。とはいっても、住んでいたのは、何十年も前だがな」

「まさか、出身者が見つかるなんてな!」

エドワードも目を丸くして驚いた。



「当時、俺の親父はあの街で、曳航業を営んでいてな。俺もガキの頃から、船とは付き合いがあった。自然と船乗りってのに憧れるようになったわけだ。街に来ていた顔見知りの船長に、船に乗せてくれと頼んでな。それ以来俺は、船乗りとして生きてた。まずは大河を下る商船で働いて、それから縁あって、こうして海の船乗りになったわけだな。街を出たのはかれこれ、20年は前かな。だから、最近のサント・フロールに関しては、全く分からんぞ?」


「構いません! 僕たち、サント・フロールに行きたいんです! 実は、僕らの故郷でもあるんです。だからどうやったら帰れるのか、それが知りたいんです!」

「そうだったのか」

リュカの真剣な眼差しに、優しく返す老水夫。


「サント・フロールは、ここから北へずっといった大陸にある、ルノリスという地方にある街だ。ここサント・レオーネからだと、当然だが船で行くことになる。ルノリスで港って言ったら、ベルヴェデールだ。それにサント・フロールからも近い。だが俺がガキの頃には寂れていたから、今どうなってるかは分からん。ナヴィスベリーという栄えた港もあるぞ。目的地とは少し遠いがな」


「ナヴィスベリー? どこかで聞いたことがあるような?」

「ほらっ! あれだよ!」

エドワードがリュカの方をぽんと叩いた。

「セルジオがいつも、商売しに行ってた街! 間違いないね!」

「そうか! そうだった!」

「確か俺たちが初めてサント・フロールに行く前に、立ち寄った街だった記憶もあるぞ?」

「そうなの?」

「あの時お前はまだ幼かったからな、リュカ。俺とは違ってさ」

そう言ってエドワードは胸を張った。


「多分その記憶は、間違いじゃない。ナヴィスベリーは、サント・フロールからヌーリシエール大河を下って行く終着地だ。それに、陸路でも行けるはずだぞ」

「ほらな!」



 そしてリュカは希望に目を輝かせて、さらに聞いた。

「どうしたら、そのナヴィスベリー行きの船に乗れますか!?」

しかし老水夫は困ったように、少し言葉に詰まる。

「そうだな。お前たちを船に乗せるよう、口利きしてやりたい所だが……。しかしこればっかりは、船長でもどうにもならんだろう。船主に頼むしかない」

「船主ですか……。ではその、船主はどこに!?」

「それは、商会だな。海運商会に聞けば分かる。この辺りにいくつもあるぞ? 具体的には、海運ギルドで聞くといい。西区から来たんだろ? だったらこの酒場に来るまでに、立派な建物があったはずだ。それがこの辺仕切ってる、海運ギルドだ。明日の朝にでも行ってみるといい」

「ありがとうございます!!」

リュカは老水夫の手を握り、そしてお礼を述べた。

「無事に行けるといいな。俺の代わりにも、里帰りしてやってくれ」

「はい!」


こうしてサントフロールの情報を得られたリュカたち。

そしてリュカは残ったお酒を飲み干し、帰り支度を始めた。



 ローラが飲み干すのに少し手間取ったが、ようやく支度が整う。

そして勘定を済ませて、酒場を出ようとする、その時――


酒場の中ほどでフィドルを弾いていた吟遊詩人が、陽気な音楽を演奏し終えた。

そしてフィドルを置いて、リュートを抱える。

すると酒場は徐々に静まり、そして皆が彼に耳を傾け始めた。

その様子に気づいて、リュカたちは足を止める。

そしておもむろに、吟遊詩人はリュートを爪弾き始めた。



 物悲しい、しかしどこか懐かしい旋律にリュカは身を任せる。

そしてふと、エドワードに目をやると、彼は少し驚いたような、

そして悲しげな瞳で、リュートの音色に聞き入っていた。


前奏が終わり、そして詩人は優しい声で歌いだす。



“The principality of Brilliant Stone,

The Bud of the Rose there slept alone,

In the northern land of the Holy Home.


The earth once trembled, far and deep,

And darkness wrapped the world in sleep.

The tears of the earth, the river of sorrow,

The Wanderers crossed towards tomorrow

Leaving the Holy Home we dwelt.

The fort where the King of Rose has knelt

With a vow for the people in the name of Right,

There we shall walk on through the night.


Rest, my little one, in my arms,

Wrapped in warm and gentle charms.

Close your eyes; let darkness stay—

Till the morning light begins the day.”



「……この歌…………」

エドワードが呟く。その声は少し震えていた。

「どうしたの?」

「俺の、祖国の歌。子守歌、なんだ……。

母上がいつも、俺を寝かしつける時に、歌ってくれていた……」


 光の石の 公国に

 薔薇の蕾は 眠りたる

 聖なる故郷の 北の地で


 大地揺れたり 深きまで

 この世闇夜に 包みこまん

 大地の涙 大河となりて

 寄る辺なき民 これ渡らん

 故郷を胸に 明日へ向かいて

 薔薇の王の 誓いしは

 正義によりて 民守らん

 我らの王の 砦へと

 夜通し歩かん 希望を胸に


 眠れ幼子 我が腕の中

 優しき魔法に 包まれて

 目を閉じ眠れ 夜闇(やいん)に抱(いだ)かれ

 やがて朝の 光差すまで


「母上は、いつも最後の部分だけを歌って。俺が眠らないでいると、歌詞を少しずつ変えてさ。そうやって歌ってくれるものだから、俺も余計に、目が冴えちゃって。それで眠れなくて。もっと歌って! って、せがんだりしてさ……。

それで母上は、さっきの歌を最初から、歌うんだよ。そしたらさ、俺は退屈だったのか、途中で寝ちゃってさ……。結局、最後まで聴けたこと、なかったんだってさ……」

そう言ってエドワードは静かに笑った。

彼の青藤色の瞳の中で、ランタンの明かりが優しく滲んでいる。


「やっぱり…子守歌って、凄いよな!!」

「…うん、そうだな……」

リュカはエドワードの肩を、そっと優しく抱いた。



 歌い終えると、酒場中から拍手喝采が起こる。

吟遊詩人はテーブルからテーブルへと、おひねりを集めて回った。

「今夜も良かったよ、ヤコポ」

「また聴かせてくれや」

そしてそれが終わると、帰り支度を始める。


「すまない。ちょっといいかな?」

そこにエドワードが話しかけた。

そしてリュカは銅貨を三枚、吟遊詩人に手渡す。

「とても素晴らしい歌でした。少ないですが」

「これはこれは、ありがとう」


「さっきの歌、俺、聞き覚えがあるんだ……」

「ほう」

「あの歌は、やっぱり……?」

「私がリヒトハルトを訪れた際に、覚えた歌です」

「や、やっぱりそうか!」

物悲しくも嬉しそうな表情を浮かべるエドワード。

「もしや、そちらのご出身なのですか? それはそれは……。お辛いですね……」


しかし吟遊詩人ヤコポは、どこか含みのある言葉を述べた。

それにエドワードも気づく。

「それって、どういう意味なんだ? 辛いって?」

「おっと、余計なことを言ってしまったかもしれません。

お気を悪くさせてしまったなら、申し訳ありません」

「そんなことは、いいんだ! それよりも……もしかしてだが、リヒトハルトで何か悪いことが……起きているのか?」

そしてヤコポは躊躇いがちに、エドワードに答える。



「悪いこと…そうですね。あまり良い話は、出来そうにありません。

あの国には、つい最近訪れました。私の師匠はリヒトハルト出身で、是非一度は訪れてみたかったのです。しかし、師から聞いていた話とは、随分と違った様子でした。リチャード王に変わってより、ヘンリー王の治世とは、打って変わってしまったと、地元の方々から、そう聞きました。幼きリチャード王を傀儡に、太后が睡蓮の政を行い、それはそれは、ひどく横暴な治世なのだとか。随分と多くの者たちが粛清された、とも聞き及びました。

皆表情が暗く、酒場も活気はありませんでした。私は先程の歌を含めて、いくつか覚えたら早々に、あの国を去りました。私が分かるのは、それくらいでしょうか」



 そして吟遊詩人は酒場を出ていった。

エドワードはその場で立ち尽くしている。

「太后……ロクサーヌ……。リチャードは……無事、なのか……?」


「エドワード?」

「大丈夫ですか?」

リュカとローラに心配されて、エドワードは我に返る。

「すまない……大丈夫だ……! さて、そろそろ俺たちも宿に帰ろうぜ!」

そして酒場の扉に手をかけて開く。

「ほら! 行くぞ!」

リュカとローラは特に何も言わず、エドワードを追いかけた。



 翌朝、リュカたちは港湾区で海運ギルドの建物を探した。

そして聞いていた通りに、とても大きくひと際立派な建物が、

港の丁度真ん中あたりに居を構えていた。



 リュカたちはアプローチ階段を上り、玄関口の前へ。

そしてチーク材でできた褐色の重い扉を開いて中へと入ると、

ギルド職員が話しかけてきた。


「こちら、サンセルモ海運ギルドです。本日は、どのような御用でしょうか?」

「僕たち、船に乗りたいのですが。海運商会をいくつか紹介してもらえないでしょうか?」

「そうですね。いくつも船を取り扱っているところでいえば……。

ヴィエント・マリーノ館、プエルト・サグラード商会、それにオラス・ドラダス海運商会あたりでしょうか。地元の、マーレ・アルジェント貿易商会も、お勧めですよ」

こうして各商会の場所を聞き、リュカたちは早速向かった。



「うーん。ウチは旅客船業やってないんでね。定期船出してないんだよ。だから輸送船に便乗するしかないが。しかしそれには、船主の許可が要るからねぇ」

商会の担当者から、リュカたちは話を聞いている。

「じゃあ、その船主ってのは、ここにいるのか?」

しかしエドワードの問いに、担当者は首を振った。

「いや、ここは港の出張所だからね。本部じゃないんだよ。船主見つけたいなら、本部に行ってもらうしかないね」

「本部というのは、どこにあるのですか?」

「シエラ・ブエナ、だよ。ウチ、ヴィエント・マリーノ館はね」

リュカはその答えを聞いて、気が遠くなった。


そしてそれは、プエルト・サグラード商会でも、

またオラス・ドラダス海運商会でも、全く同じ答えだった。

一縷の望みを託して最後に、マーレ・アルジェント貿易商会を訪ねる。



「はい、ここは本部ですよ。弊商会はここ、サンセルモを本拠点としております」

「じ、じゃあ、船主もいるのか!? この街に!?」

エドワードがカウンターに乗り出す。

「え、ええ。おりますが……。いや、いつもはおりますが、今は航海に出ているため、不在となっております。申し訳ありません」

「そんな……」

「では、船主さんはいつ頃に戻られますか?」

「そうですね。予定では、来月となっておりますが。しかしいつも海の状況や、先方の都合などで大幅に変わりますので、数ヶ月後か、もしかしたら半年後やもしれません。なので、早くて来月、としか……。」

「そう、ですか……」

エドワードの横でリュカもうなだれた。



「どうしよう……。最悪、半年待つか、それとも……」

「……シエラ・ブエナに、また戻るか、か? また、あの道を歩くのかよ!」

エドワードは少し癇癪を起こし、リュカとローラはただ困り果てた。

しかし商会の従業員がリュカたちに話しかけてくる。


「シエラ・ブエナに行くんだったら、キャラバンを使ったらどうかな?」

「え、キャラバンですか?」

「立ち聞きして悪いね。でも耳に入ったもんだからね。

そう、キャラバンだよ。知らないかい? 馬車を使って、集団で移動するんだよ」

「来る時にすれ違ったな、それ!」


「そのキャラバンは、どうしたら乗れますか?」

「うん、そうだね。陸運商会を当たって、キャラバンを紹介してもらう。っていうのが、”正規の方法”なんだけどね……。まあしかし、それよりも酒場に行ってみるといいよ。

西商業区の酒場『白帆楼』には、商人と荷や日程の相談をしている、キャラバン隊の隊長や関係者が、いつもいるからね。正規で紹介してもらって乗るよりも、隊長とかに直接頼んだ方が、安くしてもらえる事が実際に多いんだよ。だから夜になったらそこを訪ねて、探して頼んでみるといい」

「教えてくれてありがとうな、おじさん!」

リュカたちは親切な従業員にお礼を言い、そして商会を後にした。



「白帆楼、だな……。また、酒場か……」

エドワードの口元が少し緩み、今にもよだれが垂れそうだった。

「飲みに……」

「行くんじゃない。はいはい。分かってるって、リュカ!」

そしてひと先ずは宿に戻り、夜を待つことにした。



 港街が薄暗くなり、そこかしこでランタンの光が灯り始める。

リュカたちはそんな頃合いに宿を出て、酒場・白帆楼へと向かった。



 その酒場は、中央広場から直ぐの、大通りに面した場所に陣取っている。

正面の両開き扉を開けて、リュカたちは入店する。

高級店らしく、昨日訪れた酒場とは全く異なり、店内は落ち着いた様子で、

そこかしこから話し声は聞こえるものの、騒がしくはなかった。

そして入口正面にはカウンターがあり、主人らしき男が酒を注いでいる。

リュカはこの主人に語りかけた。



「すいません。キャラバンの方を探しているのですが」

主人はリュカに目をやると、少し様子を見ながら答える。

「お約束ですか?」

「いいえ。ここに来れば、キャラバン関係者の方がいるかもしれない、そう聞いて来たのですが……」

「ああ、なるほど……。それでしたら……今宵は、メレナ・アル・ヴィエント商会の方がいらしてますよ。キャラバン隊長のマルコさんが。ほら、あの奥の隅に」

そういって、奥の壁際の席に座って飲んでいる男を示した。



 早速その席へと向かう。

男は何やら気難しそうな表情を浮かべて、一人黙々と飲んでいた。

そして少し気後れしながら、恐る恐るリュカが話しかける。

「あのう、すいません。キャラバン隊長のマルコさんでしょうか?」

「ん? どちらさん?」

そういって顔を上げて、リュカをまじまじと見るマルコ。

「えっと……。その……」

言葉に詰まるリュカ。そこでエドワードが前に出る。

「俺たち、キャラバンに乗りたいんだよ。便乗させてもらえないかな?」

「ああ、そういうことか。目的地は、シエラ・ブエナか?」

「ああ、そうだよ」

「ふむ。相場は一人、1ソルだが……。いいのか?」

「え! そんなにするのかよ!!?」

「食糧費も全て、込みの値段だ」



 エドワードがのけぞるように驚く。そこに今度はローラが申し出る。

「働いてお役に立つことで、少し安くしては頂けませんか?」

「見たところ、冒険者かな? だったら、護衛を兼ねるってなら、料金をその分まけてもいいんだが……」

しかしそう言って、キャラバン隊長マルコは黙ってしまった。


そして何かを思いついたように、突然切り出した。

「なあ、あんたたち。あんまり金に余裕がないなら、仕事をひとつ、頼まれちゃもらえんか? これをやってくれるなら、まけるどころか、ただでいいぞ」

「ほ、ほんとうですか!?」

それに驚きながらリュカが聞き返した。

「ああ、本当だ。まあ大した仕事じゃないが、実は困ってるんでね。引き受けてもらえると、助かるんだ」

そしてマルコはその内容を説明し始めた。



「実はこの次のキャラバンに載せる荷物が、まだ届いていないんだ。その買付けに向かった商人が、いつまでも帰ってこない。エンツォっていうんだがな。そいつの様子を見てきて欲しい。ついでに、連れ帰れそうなら、一緒に頼みたい。

エンツォは、ここから南のカンピソーレ地方にある、『カヴォリ村』って場所に、薬草の買付けに行ってる。そこに行って、様子を見てきて欲しい。片道五日くらいの距離だ。路銀もこちらで持つ。

どうだ、頼まれてくれるか?」


「はい! 是非やらせてください!」

こうしてリュカたちは、翌日港街を出発し、

カヴォリ村という場所へと向かうこととなった。


毎週金曜日、20時20分更新

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