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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第二篇 The Long Detour - 急がば廻れ
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銀青の孤狼

 サンセルモを出発し、そして南へと向かう。

街道と呼べるような立派は道はなくとも、

人の往来があったであろう、その痕跡を道として、

リュカたちはそれを頼りに旅をした。


道を辿る限りは、なだらかな平原が続く。

先々には川も多く、水に困ることもない。

これまでの旅路と比べても、とても快適な道のりだった。

そして南部には大きな都市もないので、人通りが少ない。

そのためか盗賊の類の心配が殆どなく、治安が良かった。

また山奥に分け入らない限りは、強い魔物も生息していないとされる。

途中で何度か魔物に遭遇したものの、リリパットというゴブリンの射手と、

ラピーナというトンビの魔物くらいだった。

リリパットは俗称『ハズレヤ』と呼ばれており、滅多に矢は当たらない。

そうリュカたちは聞いていた。なので相手をせずに、速やかに立ち去った。

ラピーナは俗称『スリトンビ』と呼ばれ、旅人の荷物を盗む。

これも事前にマルコから注意されていたので、難なく対処ができた。

こうしてリュカたちは危なげもなく、五日の旅を終える。

そしてカンピソーレ地方の西にある、カヴォリ村へと辿り着いた。



「ほう、旅人さんかな。珍しいねえ」

村の入口付近で、村人から声をかけられた。

そしてリュカはにこやかに、その村人に尋ねる。

「ここは、カヴォリ村ですか?」

「ああ、ああ。そうだよ。キャベツが特産の、キャベツ(カヴォリ)村だ。美味しいよ、キャベツ。是非買って行っとくれ」


キャベツの購入を促され、少し戸惑うリュカ。

しかし気を取り直して商人の居所を聞いた。

「あのう、エンツォさんは村にいらしてますか?」

「エンツォ?ああ、ああ。あの商人か。おるよ。村役場にでも行ってみなされ」



 村役場の場所を聞いて、そこへ向かう。

村の道と呼ぶには少々立派な石組みの道をたどり奥へ。

レンガ造りの家がぽつりぽつりと建っている居住地に囲まれて、

大きな広場がリュカたちを出迎えた。

広場に面しては教会も建っている。

その向かいに、少し大きめな建物がある。それが村役場だった。



 リュカたちは建物の入口をくぐる。

すると数人の村人と一緒に、商人と思わしき格好の人がいた。

「あのう。もしかして、エンツォさんですか?」

リュカが男に話しかけた。

「はいはい、私がエンツォですが。どちら様でしょう?」

「キャラバン隊長のマルコさんから、あなたを探してほしいと、そう頼まれた者です」

そういって、三人はエンツォに自己紹介した。


「なるほど、心配おかけしましたね。私はこうして、元気ですよ。しかし、ねえ……。商品のほうが、まずいことになってましてねえ……。

この村には、特産品の『エルバ・パナチェア』を買い付けに来たんです。どんな風邪にも効く万能薬草と、シエラ・ブエナでも評判なんですよ。その薬草の収穫がですね……出来なくて。困ったことになってしまって……」

そして一人の老齢の村人が語りかけてきた。

「この村の特産品は、キャベツじゃがの。だがパナチェアも、よう売れとる。そのパナチェアの畑は、ここから西外れにあるんじゃが……。

十日くらい前になるかのう。収穫を目前にして、害獣が出おったんじゃ。そいつが、巨大でのう……。畑に近づくこともできんのじゃて……」


そして別の村人が割って入る。

「あれはデカいが、『どろぼううさぎ(ラドロ)』だ。間違いねえ!」

「ラドロというのは、ここら辺での『ヴァラビット』の呼び名ですよ」

エンツォがリュカたちに説明した。

「あのう、ヴァラビットとは? あまり魔物に詳しくなくて……」

申し訳なさそうにリュカが言い、エンツォも謝りながら補足する。

「ああ、そうですね。ヴァラビットは、言ってみれば大きなウサギです。四つん這いだと脛くらいで、立ち上がると膝上くらいの高さになります。普通のウサギを想像してると、その大きさに吃驚しますよ。そんな大きさですが、しかしウサギらしく相当すばしっこいのです。こいつらが農作物を荒らすので、農民にはとても嫌われているんですよ」

「そう、そのラドロのデカいやつが、畑に居座ってやがるんだよ。貴重なパナチェアを、ボリボリと貪りやがってよ!」

「なんとか駆除して、いつもみたいに食ってやりてえよ!」



 そして村人たちがリュカたちの格好に気づく。

「あんたら、冒険者さんなんだろ? 駆除してくれよ!」

そう言って頼まれてしまった。

「出来ませんか? 私どもも、そうして頂けると助かるのですが……」


「う、うん。そうですね……」

「まあひとまず、畑を見てみようぜ! 話はそれからだろ。なあ、リュカ?」

エドワードの一声で、リュカたちは兎に角、畑を見に行くことになった。



 エンツォも伴って、村人に案内されてパナチェア畑へと向かう。

西へのあぜ道を進み、いくつかの広い畑を横切って、

村の中心からも相当に離れた場所へとやって来た。

そこに、低い柵で囲まれた土地が見えてくる。

畑の端では、青々とした薬草が育っていた。

しかしその奥へ行くほどに、食い荒らされたような無惨な状態が広がる。

そして畑の中を、ウサギのように見える大きな生物が、

数匹走り回っていた。垂れた長い耳、そして長い前歯もちらりと見える。

さらに時折、短く折れた二足の脚で器用に立って、そして歩き回っている。


「あれが、ラドロだ……」

案内の農夫が低く唸る。

「あんなんだったらオレらでも、フォークでやっちまうんだがな……」

そしてそう言って、畑の向こうを指さした。

その先では、あのウサギの倍以上はある巨体が、

畑の上ででっぷりとふんぞり返っていた。

周囲の畑には畝はみられるものの、既に何も残ってない。

巨大ウサギは両前足で器用に挟んで、パナチェアと思われる薬草を、

根っこからボリボリと貪り食っていた。


「畜生め……。我が物顔で、ふんぞり返りやがって……。大事な作物を……」

農夫が悔しそうに身震いしている。

「お、おい……。でかすぎんだろ、あいつ!」

「あんなウサギさんは、見たことありませんわ……」

エドワードはその大きさに驚いて目を丸くして、ローラもその横で絶句した。

「と、兎に角、なんとかしないと……」

リュカも緊張した面持ちで剣を抜いた。



「ここは、慎重に参りましょう。あの大きさともなれば、ひと噛みとて危うく御座ろう……」

バリアンがそう言って、静かにゆっくりと近づく。

リュカたちもそれに続いた。

しかし畑に少し入ったところで、ヴァラビットの一匹に気づかれる。

そして害獣たちは一斉に群れをなして襲いかかってきた。



 リュカたちは群れに囲まれる。

まるで狼が集団で連携するかのように、あるウサギは囮になり、

他のウサギがその隙をついて飛びかかってくる。

その動きにはバリアンですらも翻弄されていた。

リュカたちは円陣を組んで、かろうじてその攻撃をしのぐ。

しかしそこへ、あの巨大ヴァラビットが突進した。

その巨体にそぐわぬ素早さで、リュカたちめがけて体当たりする。

しかし畑に突っ込む勢いで飛んで、全員でなんとかそれを躱した。

すると円陣が崩れてしまう。

そしてエンツォと農夫が孤立してしまった。


巨大ウサギは、エンツォたちに狙いを定める。

真っ赤な目で睨みつけ、そして彼らに向かって突進した。

「ま、まずいぞ!!」

しかし、エドワードがそう叫んだ、その時――


さらに巨大な何かが突如現れ、ウサギの首元に食らいついた。

二頭の巨体は、畑の上でのたうち回って暴れる。

そして程なくして、ウサギは動かなくなった。

もう一方の巨体の口元で、ダラリと力なく咥えられている。



 その獣は、狼のような姿だった。しかしとても大きい。

四足状態でその頭は、リュカの胸よりも高く、

体の長さは、明らかにエドワードの身長よりも一回りは大きい。

青みのある銀色の毛並みで、腹部は白かった。所々に黒斑も見える。

そして何より、その長い二本の牙が特徴的だった。


狼の魔獣が巨大ウサギを仕留めると、他のウサギたちは一斉に散った。

そして魔獣は、リュカたちを特に気にもとめずに、

獲物を引きずり西の山の方へと走り去っていった。



「な、何だったんだ?」

「本当に、大きかったですわ、あのオオカミさん……」

エドワードもローラも、畑の上で呆然としている。

「しかし、本当に助かりました……。九死に一生ですよ……」

エンツォも半泣きで立ち尽くす。


「あれは……。セイバーウルフでは、御座らぬか……?」

バリアンがリュカの横で呟く。

「セイバーウルフ?」

「狼の魔獣に御座る。目の当たりにしたのは、某も初めてに御座るが」

「僕は、前に見たことがあるような……。そんな気がする。それにあの感じ……。雰囲気……。懐かしい気配がしたんだけど……」

腕を組んで考え込むリュカ。

「何れにせよ、敵意がこちらに向かず、幸運に御座りましたな」

「そうだね……」

そう言って、リュカは少し寂しげに苦笑した。



 安全を確認すると、農夫たちが大勢戻ってくる。

畑は随分と荒らされていたが、それでも大部分は無事だった。

そしてようやく、パナチェアの収穫が始まった。



 それからリュカたちは村役場へと戻ってきた。

「本当に、よかった。これで商品が揃いそうです」

エンツォは胸を撫で下ろす。

「危うくパナチェアの代わりに、キャベツを仕入れて帰る所でしたよ。いやあ、待っていてよかった」

「何いっとるんだ! うちのキャベツは一級品じゃろうが!」

「あ、はい。そうですね……」

老人に叱られたエンツォ。

「こんな感じで、キャベツ買ってけって、うるさくて……」

そしてリュカたちに小声でそう囁いた。



「収穫までしばらく掛かりそうなので、暫しお待ちください。帰りは私の馬車で、一緒に行きましょう」

このエンツォの提案に承諾して、リュカたちには時間が出来た。

そしてリュカは躊躇いがちに、仲間たちに彼の考えを告げる。


「畑で助けてくれたあの魔獣。僕はどうしても気になるんだ。西の山の方に去っていったから、その辺りを探しに行きたい……。

行ってきても、いいかな……?」

そして仲間たちはそれに即答する。

「何言ってるんだよ、リュカ!」

「ええ、ダメです。危険すぎますわ!」

「ふむ、それは拙策に御座るな。無茶を申されては成りませぬ」

「みんな……」

不安そうなリュカに対して、しかし仲間は続けた。


「一人で行かせるわけ、ないだろ!」

「ええ、皆一緒が安全です。魔獣以外にも、危険はあるのですから」

「エドワード殿とローラ殿の言う通りに御座ろう」

「みんな……」

それから一変して安堵し、リュカは明るく笑顔を浮かべた。

「ありがとう!」


こうして、一行はあの魔獣を調べるため、西の山を探索することとなった。



 カヴォリ村の西の向こうに見える山を、先ずは目指す。

農地のさらに先にも風光明媚な景色が広がり、残花が尚も香る。

しかし草も鮮やかな緑に色づき始め、夏の足音が聞こえた。



 山の麓で、大きな足跡をエドワードが見つける。

それがあの魔獣のものとは断言できないが、

少なくとも大きな生き物のものであることは間違いなかった。

その足跡を辿って、山へと入る。

そして木々の合間に、小さな洞穴を見つける。

リュカたちはその中へと慎重に足を踏み入れた。



 洞穴の中は、想像していたものとは違い、小綺麗だった。

獲物の肉片や骨などは全く落ちていない。

しかし、そこかしこに獣毛が落ちていて、

そして寝床にしているのか、集められた草が敷き詰められていた。

明らかに、何かがここに棲んでいるといった痕跡が見て取れる。


リュカが最奥に目をやると、暗がりの奥に、

洞穴には相応しくないような、布状の何かが目に入った。

静かに奥へと踏み入るリュカ。そしてそれを手に取る。

するとそれは、見覚えのあるものだった。

あの夏の日、ラファエラがリュカに被せてくれたバンダナ。

そして別れのあの日、ラファエラがリオラの首に巻いた、

忘れもしないあのバンダナだった。リュカはそう確信した。

「これは……」

リュカは懐かしさに言葉が詰まる。その時、背後に――



 グルルルル……


洞穴の入口を、あの大きな魔獣が立ち塞がる。

体勢を低く、耳は後ろへ伏せられ、背中の毛が逆立つ。

歯や牙を剥き出しにして、こちらを睨みつけて唸っている。


「ま、まずいぞ! 逃げ場がない!!」

エドワードが叫び、皆も怯える。

しかしリュカだけは、全くたじろいでいなかった。

寧ろ彼の瞳には涙が溜まっている。

そしてリュカはゆっくりと、狼へと近づいていった。

それを皆が息を呑んで見守る。


「リオラ……? リオラだよね?」

リュカの声が洞穴に響いたその瞬間、狼は伏せていた耳をピンと立て、

唸るのを止めた。しかし微動だにせず、リュカを見つめ続けている。

リュカが一歩前に出ると、狼はびくりとして一歩下がる。

しかし再び静止して姿勢を低くしたまま、青い瞳でリュカを見つめた。

そして鼻をクンクンとさせながら臭いを嗅ぐ。


すると突如、尻尾を左右に振り始め、リュカへと小走りに駆け寄る。

そしてリュカの顔を舐めた。

「わあ! くすぐったいよ、リオラ!」

リオラは昔と相も変わらずに、リュカに体をこすりつける。


二人ともに体は大きく成長していたが、

まるでかつての日の子供のようにはしゃぎ、再会を喜びあった。



 洞穴の外に出ると、リオラはひたすらにはしゃぎ、

まるで子犬のように、その巨体で軽やかに走り回った。


「まさかこいつが、あのリオラだったなんてな……」

エドワードのことも思い出したのか、撫でられて嬉しそうなリオラ。

「大きなオオカミさんですけど、こうして見ると可愛いですわ」

そしてローラのことも、とても気に入った様子だった。


「感服いたしましたぞ。まさか、セイバーウルフを手懐けるとは」

「僕たち、子供の頃に出会ったんだよ」

「幼獣とて、魔獣は魔獣。常なれば、然様な事は起こりませぬ。されど、某を臣従させた事といい……。まこと、不思議な御仁だ……」


こうしてリュカたちは、新たな仲間リオラを連れて、

カヴォリ村へと帰った。



 リオラを連れて村に帰ると、やはり大騒ぎとなってしまう。

しかしエンツォがリュカたちを擁護し、村人たちに訴えた。

「この魔獣は、私たちを畑で助けてくれました。今こうして収穫ができているのも、この魔獣のおかげです」

そして案内をした農夫もこれに加わる。

「そうだ! オレたちはコイツに救われたんだ。コイツがいなければ、オレも今頃は、お陀仏だったかもしれねえ」

そしてキャベツの老人も加わる。

「このキャベツ村では、恩義を仇で返す風習なんぞはない。恩人は、恩人として執り成すもんじゃ!」



 二人と老人の説得に、村人たちの騒ぎはなんとか収まった。

老人は村長だった。

「騒ぎは収まりましたが、とりあえずリオラちゃんには、私の馬車で待ってもらいましょう。村外れにありますので」

こうしてリオラとリュカたちは、エンツォの馬車の中で準備が整うのを待った。

そして程なくして、薬草を大量に積んだ荷馬車がやって来る。

「お待たせいたしました。それではサンセルモへ、帰りましょう」



 二台の馬車で、リュカたちはカヴォリ村を出発する。

村長や若者たちも、その出発を見送ってくれた。

そして五日をかけて、頼まれた通りにエンツォと商品を伴い、

リュカたちはサンセルモへと無事に帰ったのだった。


毎週金曜日、20時20分更新

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