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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第二篇 The Long Detour - 急がば廻れ
22/26

真理の石・前編

 皆すっかり疲れも取れて、翌朝も早くから傭兵ギルドを訪れる。

エドワードは元気にその扉を開き、そして足取りも軽く受付へと向かった。

「今朝も早いな。しかしすまん。今日は昨日ほど良い仕事はない。それでもよければ紹介するが」

「なんでもいいさ!」

「そうか。まあ昨日の依頼は、随分と条件が良かったほうだ。その辺は、分かっといてもらう必要もあるかね」



 そうして十日間、リュカたちは小口の依頼を受けて、仕事した。

何れも近場でこなせる、かなり簡単なものばかりだった。

なので初日ほどは稼げなかったが、しかしそれなりの収入にはなる。

そしてこの十日間を経て、リュカたちの貯金は20ルナ以上になった。

そしていつものように、朝一番でギルドを尋ねる。すると――


「おはよう! オットーさん!」

勢いよく扉を開け、挨拶をするエドワード。

「おお、お前たちか。待っていたぞ」

受付とはすっかり顔なじみになっていた。

しかし待たれていたのは初めてなので、リュカたちは少し吃驚した。

「もしかして、俺たち指名の依頼かい?」

「いや、そういうわけじゃ、ないんだが……」

嬉しそうなエドワードの顔を見て、オットーは少し躊躇する。

そして一枚の紙を取り出した。



「この街に住む、魔術師からの依頼でな。まあ要するに、”魔法研究”のための素材集め、といったものだ。ただな、ちと、厄介でな……」

歯切れの悪いオットーの説明に、リュカも不安そうな表情を浮かべる。

「もしかして、難しそうな依頼ですか?」

「いや、必ずしも、そうではないとは思うが……」

「難しい依頼なら、ベテランの方に任せたほうが……」

しかしローラの問いに、ばつが悪そうにオットーが答える。

「いや、その……。ベテランに断られた、仕事なんだよ……」


しばらく皆黙り込み、それからオットーが切り出した。

「とりあえず、受けるかどうかは保留で、ひとまず依頼者の話を聞いてみるか? どのみち、詳細をこっちで説明するのは難しい」


「魔法か……。面白そうだな! リュカ! これ受けようぜ!」

エドワードだけは乗り気のようだった。

「待ってよ、エドワード。とにかく話を聞かないことには……。

分かりました。先ずはその方の家に行ってみます」

こうしてリュカたちは、依頼者の家を訪れることになった。



 早速三人は依頼者の家へと向かう。

オットーから受けた説明に従い、大通りを北へ。

そして突き当りから西へと坂を登り、そして煙(・)突(・)の(・)多(・)い(・)家(・)を探す。

そこに今回の仕事の依頼人、魔術師コンラートは待っているという。


坂の上には、いくつもの住居が並んでいた。

しかしその中に一軒だけ、何本もの煙突が屋根から伸びる家がある。

その煙突からは、紫や青、緑といった色とりどりの煙が天に昇っている。

それはとても大きな屋敷だった。レンガ造りの二階建て。

そして屋根中央には、円筒状のタレット塔が突き出ている。

「この家、だね」

そう言ってリュカは、屋敷の門をくぐり、そして扉を叩いた。



「どなたかな?」

そう言って扉を開けたのは、初老の男性だった。

紫色の重そうなローブを身に纏い、尖った茶色い靴を履き、

そして茶色く長い髪で、口髭と胸まで伸びる顎髭を蓄えている。

いかにも『魔法使い』といった出で立ちだった。

玄関の帽子掛けには、それらしい三角帽も掛かっている。


「僕たち、傭兵ギルドの紹介で来ました。えっと……」

しかしリュカが言い終える前に、男が彼に迫る。

「そうか! やっと引き受ける者が見つかったか! 良かった、良かった! さあ、さあ。入りなさい」



 半ば強引に屋敷の中へと招かれ、リュカたちはそのまま奥の書斎へと通される。

それは書斎というよりも、本がぎっしりと詰まった背の高い棚が並ぶ、

まるで図書館のような部屋だった。


「その椅子に、座りなさい」

そう促されて、三人は長椅子へと腰掛けた。

「聞き及んでいるとは思うが、魔法研究の素材を、君たちには取ってきてもらいたい。必要なものは、月光草と、そしてステ……」

そして今度はエドワードが男の話を遮った。

「ちょっと待ってくれ! まだ依頼を受けるかどうかは、実のところ決めてないんだ。悪いけど」

「そうなのか?」



 ここでようやく、リュカに話せる機会が訪れる。

「は、はい。僕たちまだ、駆け出しで……。ベテランの皆さんが断った依頼を、そんな僕たちがちゃんと達成できるのかどうか。あまり自信がないもので……」


しかしこれを聞いてすぐに、男は明るい口調で答えた。

「なに。物事は経験するに越したことはない。然程危険なものでもないから、気軽に受けるといい。それに、達成できなくとも、報酬は払う。その点も安心しなさい」

リュカたちの表情が明るくなったのを見て、男は話を続けた。



「私の名はコンラート。ここで魔法を研究している。そして今回依頼したのも、そのためのものだ。今研究しているのは、『古代魔法』というものだな」

「こ、古代魔法!!」

椅子の背もたれから飛び跳ねるように

エドワードが前へと乗り出した。

そしてその瞳を輝かせている。


「然様。古代魔法だ。もしや魔法に興味があるのかね?」

エドワードが大きく何度も、首を縦に振る。

コンラートは少し嬉しそうな表情を浮かべた。

「そうか、そうか。それは嬉しいことだ。ならば是非、私の魔法研究を、手伝ってはくれないかな?」


「やろうぜ、リュカ!」

「ちょっと待ってよ、エドワード。

それでコンラートさん、その探して欲しい物というのは?」

「うむ。説明させてもらおう」

そう言うとコンラートは、一冊の本を三人の前に開いた。



 そこには難しそうな言葉がびっしりと書かれていて、そして絵も描かれている。

一つは花の絵。六枚の花弁が可憐に開いている。

「これは、『月光草』という花だ。月の光を受けて、夜に咲く。それはまるで月光のように、光って見えることだろう。しかし、実際に花が発光するわけではないがね。これを少なくとも三輪、持ってきてほしい」



 そしてコンラートはページをめくる。

そこには羊が描かれている。

「これは、『ステルシープ』と呼ばれる、羊の一種だ。その毛が特殊でな。周囲を映して擬態する。遠目には、本当に見えなくなるほどらしいな。これの羊毛を刈ってきてもらいたい。量は、一頭分でいい」



 そして更に、もう一度ページをめくる。

「ここまでは、然程珍しいものではない。この街の市場でも、容易に入手できるものだろう。だが、ここからが問題だ……」

そう言ってコンラートは、本の絵を指さした。

しかしそれは石のような結晶のような、全く以て不明瞭で、

何を表す絵なのかをリュカは判別できなかった。

「これは、いったい?」

そして一呼吸置いて、コンラートがリュカに答える。


「これは、『真理の石』と呼ばれるものだ。恐らくここに描かれた絵は、著者の想像する姿であろう。それを実際に見たという者を、確認したことはない。私自身も勿論、見たことはない。これはあくまでも、伝承の域を出ないものなのだ……」


それを聞いて、リュカたちは明らかに怪訝な表情を浮かべる。

流石のエドワードも、これには不満を漏らした。

「伝承? そもそも実在するかどうかすらも分からないのに、それを探すのか? それに誰も見たことがないものを、どうやって探すんだよ?」


「確かにこれは、絵空事のような話なのかもしれない。報酬を高くしていた故、初めこそ挑戦を買って出る者たちも多かったのだが……。しかし四組が私の依頼に挑んだ末に、それらしきものを何も見つけられずに戻ってきた。そして先月、最後の挑戦者たちが失敗してより、この依頼を受ける者が、ついにいなくなってしまった。

だがそんな折に現れてくれたのが、君たちだったのだ」


「それでどこにあるのか、場所の見当くらいはついてるのか?」

「その在処は、文献にも記されている」

そう言ってコンラートは、本の記述を指さして示す。

「この文献によればだが、それはここから西にある、エルケンヴァール洞窟の中で見つかると、そう記述されている。そして洞窟の場所も、既に分かっている。以前の挑戦者が見つけてくれたものが、この文献に合致する故、恐らくはそれに間違いないだろう」



 リュカは困惑しながらも、正直な疑問をぶつけた。

「場所が分かっていながら、なぜ誰も持ち帰れないのですか?」

「様々な鉱石やそれらしい結晶を持ち帰ったが、何れも違っていた。洞窟を隅々まで探したにも関わらず、それしか見つからなかったと。そう以前の挑戦者たちは言っていた。そしてここには……」

コンラートがまた、別の記述を指さし示す。


「“真実を見極める者だけが、それを見つけることが出来る”、そのように書かれている」


 ただ困惑し、言葉を失う三人。そして堪らず、コンラートは懇願する。

「伝承に語られるものを探せなどと、それが雲を掴むような話だとは、分かっている。しかし、諦められないのだ。何度失敗しようとも……」


「そうだ。何度失敗したって、見つかるまで探せばいい!」

エドワードが立ち上がる。そして二人もその言葉に勇気をもらった。

「そうだね! 先ずは、やってみよう!」

「”真実を見極める”、ここに何か手掛かりがありそうですわ」

「何なら、その洞窟で見つかる全部の石を、持ち帰ればいいさ!」

「エドワード。それは……流石に……」

「ええ……」



「ありがとう。頼もしい限りだ」

そう言ってコンラートが、一冊の本をエドワードに差し出した。

「これは礼、というわけではないのだが。魔法に興味を持っているならば、これを貸してあげよう」

「まどう、にゅうもんしょ……? 魔導入門書!」

「うむ。最も簡単な魔法のみだが。これを読めば、中には相性が良く使えるものもあるだろう。色々と試してみなさい」


そしてリュカが本の表紙を覗き込む。

「ニコラ・フラメル著……? これはコンラートさんが書いた本ではないのですか?」

「いいや、私の著書ではない。しかし、よく纏まった良い入門書だ。いつか弟子ができた時にと、入手したものだが。しかし君たちのような者のために、書かれた本であろう」



 こうして魔導書を借り受け、更には支度金として8ルナを受け取った。

「これは前金ではない。支度金だ。今回は遠出となる故、この金でその準備をしなさい。無事の戻りを待っているぞ」

そしてリュカたちは、旅のための食料と物資を買い揃える。



「なあ、リュカ。ちょっと見ててくれよ」

そう言ってエドワードが、木の枝を束ねて地面に置き、

そしてすこし離れた場所からそれに向けて手のひらをかざした。


“Globus ignis!”


小さな火の玉が飛び、そして枝を燃やす。


「な? 俺にも魔法使えたんだよ!」

「すごいじゃないか、エドワード!」

エドワードは誇らしげに胸を張る。

「すごいです! これで火起こしが楽になりますわ!」

「そうだね! 毎回大変だもんね!」

しかしそう言って喜び合うリュカとローラ。


「そうだな……」

エドワードは複雑そうな表情を浮かべるのだった。



 必要なものを揃えると、早速ツァウベルハイムを発つ。

目的地は西にあるが、街は東面以外は森に囲まれている。

なので先ずは東への街道を辿る。そして森が途切れた所を北へ。

その森に沿って西へと回った。

そしてようやく森を越えると、いよいよ平原を西へ。



 やがて地図の通りに、北西に山々が見えてくる。

山裾まで広がる森では、ブナの木々が生い茂っている。

その灰白色の幹はどれも高く真っ直ぐと伸び、

緑の葉は陽光を照り返して、眩しく煌めいていた。

足元の草原は、春の風に優しく揺れる。

その心地の良い陽気に、リュカたちの足取りも軽かった。



 魔物などにも遭遇せず、その日は順調に旅を進めた。

やがて日が傾き始めたので、近くの林で野営できる場所を探す一行。

そして程なくして、その中に少しだけ開けた空き地を見つけた。

いつものように、枝木を集めるリュカたち。

バリアンは空き地で荷物番をしている。


「ふう。もう少し細めの枝が必要かな?」

そういってエドワードが枝木を拾っている最中、

目の前の茂みの奥から、カサカサという音が聞こえた。

「虫か?」

しかしエドワードはさほどそれを気に留めず、茂みに分け入った。

そしてその先に、こんもりとした盛土を発見する。

その土には所々、大きな穴が開いているように見えた。


「なんだ? これ?」

そう言ってエドワードは、持っていた枝で土を突っついた。

すると――


その穴から、赤い頭がぬっと現れた。

それは丸く、そこから触覚が生えている。

そして鋭いギザギザの顎があった。

胴は細長く、三対の長い脚が伸びる。

そして尻尾の腹は少しでっぷりとしている。

大きく赤い、蟻のような生き物だった。

そしてそれは、彼の拳よりも一回りは大きかった。


「でっか!! 蟻か!?」

エドワードが声を上げるやいなや、それぞれの穴から

真っ赤な巨大蟻が、わらわらと姿を現し始める。

堪らずエドワードは、持っていた枝木も放り投げて、

一目散に空き地へと逃げ帰った。



「あ、あり! あ、あ、あり! あり!!」

「どうしたの、エドワード?」

既に戻っていたリュカは、焚き火の枝組みをしていた。

「ありだよ! あり! あり! でっかいの!! いっぱいいる!!」

「あり、ですか? 虫の、蟻ですか?」

「そう、そう! ローラ! 蟻!」


エドワードの話の要点が飲み込めず、困惑するリュカとローラ。

しかしバリアンは林の奥を睨み身構える。そして叫んだ。

「何か、こちらへ!数が多い!」



 カサカサと葉を踏みながら、赤い巨大蟻が現れる。

そしてその後に何匹も続いた。

「蟻だ! すごく大きいぞ!!」

「だから言っただろ、リュカ!」


バリアンが先頭の蟻数匹を、ひと薙で払う。

そして仕留め漏れた蟻をリュカとエドワードで刺した。

しかしそれでも、後ろの茂みから次々と蟻が現れる。

バリアンは休み無しに剣を振り続けた。

そしてリュカとエドワードも必死に蟻を駆除する。

さらにはローラまでもがナイフで応戦した。


「これでは、切りが御座らぬ!」

バリアンまでもが悲鳴を上げる。しかしその時――



 更に茂みの奥から真っ黒い何かが、どてどてと飛び出した。

とても長い鼻を持つ四足獣だった。

尾はふさふさとしていて、そして前足がとても大きい。

その前足には、長く鋭い鉤爪が見える。

立ち上がったその体の大きさは、明らかにエドワード以上に見えた。


「今度はなんだ!」

エドワードが堪らず叫ぶ。

しかしその黒い生き物は、リュカたちには全く見向きもせず、

赤い蟻たちの群れの海へと飛び込んだ。

フシューという音を上げながら、その長く大きな舌を伸ばす。

それから蟻たちを舌に絡め取り、そして貪り始めた。

蟻たちも黒い獣へと群がり、そして脚や尻尾へと必死に噛みつく。

しかし獣はそれを全く気にもとめず、食事を楽しんでいる。


「ささ、ここは引きまする!」

バリアンが叫んだ。

そしてリュカたちは荷物を取り、静かにその場を逃げ去った。



「危なかったな。突っついたあれは、蟻塚だったんだな」

一息ついて、エドワードが地面に座った。

「危ないから余計なことしちゃ駄目だよ、エドワード。でも、あの場所でそのまま寝てたら、襲われたかもしれない。だから結果としては、良かったかもね」

「そうそう、リュカ。それも見越して、俺は突っついたんだよ」

そう言って鼻を高くするエドワード。

その時、お下げ髪の少女の「そんなわけないでしょ」という声が、

リュカには聞こえた。そんな気がした。


既に日が暮れた中、リュカたちは林から離れた場所で火を起こし、

そしてその晩は眠りについた。



 翌日は川を超えた。それほど深くも広くもないが、流れは早かった。

足を取られて流されないように注意しつつ、

リュカがローラの荷物を担ぎ、エドワードがローラの手を取り渡った。

渡り切るとその川べりで少し休憩し、水を汲んだら再び歩き出した。

そこからは丘陵が続く。

しかしその高低差はさほどなく、とても緩やかだった。

魔物の姿のようなものを時折見かけたものの、襲われたりはしなかった。

そして何の問題もなく、ツァウベルハイムを発ってから四日目を迎えた。



 草原の中で身を潜めるリュカたち。

その目の前には、うっすらとだが、”何か”がいるのが分かる。

「あれが、『ステルシープ』ってやつか?」

エドワードが小声で囁く。

羊のような姿のシルエットだが、その擬態は見事で、

周囲のものと完全に同化している。

しかし風を受けてその毛が揺れるその際にのみ、

かろうじてその姿は認識できた。

それらが恐らくは数頭、群れをなして草を喰んでいる。


「まずは某が……」

そう言ってバリアンが忍び足で近づいていく。

しかし鎧がカチャリカチャリと鳴るので、羊たちを警戒させてしまった。

それでも、その背の低さを上手く利用して、草むらに隠れるバリアン。

そして一気に近づき、羊の側面から剣を振り下ろした。

しかし、その刃は届かない。

見えない羊は気配を察して、それよりも早くその場を跳び去ってしまう。


そうして何度も何度も、バリアンは挑んだ。

しかし結局、それが成功することはなかった。



「面目ない……」

バリアンは申し訳なさそうにうつむいた。

「やはり、剣での狩りは難しゅう御座る……。弓でもあれば……。せめて槍ならば、投げられるので御座るが……」


そしてついには、エドワードが業を煮やす。

「もう、だったら剣でも投げるか!」

そう言って持っていた剣で狙いを定めて、それを思い切り投擲した。

エドワードの剣は力強く空を切り、そして弧を描きながら飛んでいく。

しかしそれはただ虚しく、地面に突き刺さってしまうのだった。

「くそ! 今のは惜しかった!」



 それを見て、しかしリュカは何かを思いつく。

目の前で少し歪む羊のシルエットを真っ直ぐと見つめ、手を向けかざす。

そしてゆっくりと慎重に、はっきりとした口調で呪文を唱えた。


“Lamina venti!”


リュカの手のひらの周りに、とても小さな疾風が起こり、

捻じれて長細く収束していく。そしてそれは薄く鋭い刃に変わった。

すると風の刃は、空気を切り裂くように回転しながら、

目の前のシルエットへと襲いかかる。


メェェェ……!

悲鳴を上げて倒れる羊。少し脚をバタバタとして、

そしてすぐに動かなくなった。


「やった! やったぞ、リュカ!」

そう言ってエドワードが倒した獲物に駆け寄る。

「リュカ殿、それは」

「うん。ウェンティス、風魔法。僕、できるみたいだ」

「すごいです!」

皆に褒められて、照れるリュカ。

「魔導書のとおりに、やっただけなんだけどね」

そして、そう言ってはにかんだ。



 こうしてリュカたちは、倒したステルシープの羊毛を刈る。

そして折角なので肉も切り取り、今夜の夕餉に食べることにした。

「前の紫の肉とは違って、ちゃんと赤くて美味そうだな」

そう嬉しそうに、エドワードは肉を切り取っていく。

確かにその肉は、普通の羊肉とも何ら変わらないように見えた。


「後は、月光草ですわ」

「ここからもう少し南西に行くと、海が見えるはず。その丘の辺りに群生してるって、誰かが地図に書き込んでくれているね」

リュカは地図でそう確認し、そして皆は月光草を探しに出発した。



 海が見える丘では、様々な花々が咲き誇っていた。

赤や白、桃色に藤色と、色とりどりの花々が海風に揺れている。

「この中から月光草っての、探すのか?」

「エドワード、月光草は夜探すんだよ。コンラートさんが、月夜に光るって言ってただろう?」

「そうなのか? じゃあ今夜はこの辺で野宿だな」

若干海風が強いのを我慢して、その場所に野営を作るリュカたち。

少々早めの夕餉に、先ほど取ったステルシープの肉を焼く。

そうして炙り焼きの宴を楽しみながら、夜を待った。



 程なくして、辺りに夜の帳が下りる。

そして北の空には、北極星アストレギーナが煌々と輝き始めた。

すぐに月が昇り、辺りを青白い光で照らした。

すると花畑の中から、その光を照り返す花々が現れる。

それはいくつもの場所で輝き、花畑全体を光の絨毯へと変えた。


「まあ、綺麗ですわ……」

ローラがその美しい景色に息を呑み、感嘆する。

そして暫くの間、全員でその光景に見惚れてしまった。

しかしすぐに目的を思い出して、ローラは月光草を優しくつまみ、

葉の少し上から、月光草を一輪摘んだ。

そして同じようにして、頼まれていた三輪を取り、

それを布に包んでしまった。


「これで後は、『真理の石』だけだね……」

そう言うとリュカは、焚き火の前に静かに座った。

そして光の絨毯の傍らで、明日に備えて皆早々に眠るのだった。

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