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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第二部 第一篇 A New Journey - 新たなる旅立ち
19/26

一端の冒険者

 朝早く、リュカたちが街の入口へと向かうと、

既にリリアナがそこに待っていた。

昨日とは違って、身動きのしやすい服を着ている。


「皆様、お早う御座います」

リュカたちに気づくと、そういって駆け寄った。

「アロンソの村は、ここからおおよそ四リーグ程でございます。昨日皆様に助けて頂いた、あの森を更に東へ。そして川を渡って小麦畑を抜けると、見えてくる筈ですわ」

「リリアナ様は、その村に行かれたことが、おありなのですか?」

「はい、御座います。幼少の頃に、幾度か。何れも徒歩ではなく、馬車にてとなりますが……」

ローラが少し不安そうな表情をした。

そしてそれに気づいたリリアナが、手に持っていた何かを差し出す。

それは二枚に折られた、少し厚みのある紙のようなものだった。

それをリュカが受け取り、そして広げてみた。



 それは羊皮紙でできた、立派な地図だった。

右上隅には、山を象った黄金の紋章が描かれている。

しかしその地図は小さめに作られているので、

内容は少し簡略化されているようにも感じられた。

しかしリュカが以前ラモンに描いてもらったものよりも、

ずっと上等な代物であることは、疑いようはない。


「これは、地図ですね? この街は、これでしょうか?」

リュカが地図を指さして、リリアナに聞いた。

「はい。シエラ・ブエナがこちらで、昨日助けて頂いた森は、おおよそですが、この辺りになります」

「それで、その村というのは、どの辺りでしょうか?」

「その森から東へ。ずっと行かれますと川が御座います」

「はい」

リュカが地図を目で追いつつ、リリアナの説明を熱心に聞いている。

「その川の先に、彼の村はある筈に御座います」

そしてリュカの側に身を乗り出し、リリアナが地図を指さした。

「恐らくは、この辺り、かと存じます!」


「川の向こう……この辺り……。うーん……」

リリアナの説明では、リュカは場所の確証が持てなかった。

しかしエドワードが、いつもの調子で皆を鼓舞する。

「まあ、いってみれば、きっと分かるさ! それに最悪見つけられなかったとしても、日暮れまでにここに戻ってくればいい。それで翌日また何度でも、見つけられるまで探そうぜ!」


そしてリュカとローラも、意を決する。

「よし、とにかく行ってみよう!」

「そうです。道は必ず、神がお示しになられますとも!」


そしてリュカたちはリリアナと共に、

シエラ・ブエナの門外へと踏み出していった。



 リリアナをコボルクから助けた昨日の森へと差し掛かり、

そこから更に東へと歩く。

するとよくよく地面を見れば、その辺りから道のようなものが

東へと伸びていることに、エドワードが気づいた。

「なあこれ、車輪か何かが通った跡だよな? こいつが東向いてる間は、これを辿ってみるか?」

「これはきっと、轍(わだち)ですわね。台車でしょうか、馬車でしょうか」

「人の往来は、あるみたいだね。これは道じゃないかな?」

「ふむ。それに、相違御座らん」

皆が話し合っていると、リリアナが口を開いた。

「街にも近い農村ですので、作物などが運ばれておりますわ。

なのできっと、これは荷馬車の轍かと存じます」


「だったら、あんなに思い悩む必要なかったね。こんなに簡単に、道が見つかるんだから……」

リュカは安心するように苦笑した。

「案ずるより産むが易し、ですわね」

「だから、俺の言った通りだっただろ? 行けば分かるって」

駆け出し冒険者たちが安堵する姿を見て、リリアナも微笑んだ。

そして一行はこの、人の往来の足跡を辿り、東へと向かう。



「アロンソと私は、兄妹のように育ちました。彼の一家は、当家の屋敷内に住んで居られました。

それで自然と、アロンソは私を妹のように、私はアロンソを兄のように、互いに慕い合ったので御座います」

道中、リリアナはアロンソについて教えてくれた。

「離れ離れとなった後も、私たちは時折文を交わし、そこで互いの近況を、知らせ合っておりました。

彼は農夫の傍ら、畑を守る役割も任されていたとのことです。それで先日、大きな怪我を……」

そこで言葉に詰まったリリアナに、ローラは寄り添う。


「きっと大丈夫ですよ! そう信じましょう」

「そうそう。案外、ピンピンとしてるんじゃないか?」

「私も治癒が出来ますわ。村に着いたら、すぐに治療致しましょう」

三人がリリアナを思い思いに励ます。

そして彼女は少しだけ、元気を取り戻したようだった。



 前方に川が見えてくる。そして道は、その川に渡された橋へと向かう。

橋を渡ると、リリアナが言っていたように畑が広がっていた。

麦畑の穂はまだ低く、鮮やかな緑色でそよ風に波打っていた。

新緑の海原の中を進むと、やがて家々が水平線の先から姿を現す。

そして太陽がちょうど真上に登る頃、一行は目的地へと無事到着した。



 一行は早速、アロンソの家へと急いだ。

そしてその家の扉を叩くと、女性が出迎えた。

「トーニャ!」

リリアナが女性に駆け寄る。

「ド、ドーニャ・リリアナ様! 何故ここにおいでなのですか!?」

「アロンソが! アロンソが怪我をしたと聞き及びました! 彼は、彼はどうして居られますか!?」

堰を切ったようにリリアナは、アロンソの安否を聞いた。

しかし女性はにこやかに笑い、こう続けた。

「息子を心配して、遥々おいで下さったのですね。有難うございます。息子は部屋にて寝ておりますが、命に別状はございません。どうかご安心ください」


それを聞いて、リリアナは安堵から緊張が抜け落ち、

そしてその場にへたり込んだ。

そしてローラとトーニャに軽く支えられながら、

リリアナはアロンソの部屋へと向かった。



 アロンソは部屋で寝ていた。

包帯が所々巻かれ、痛々しい様子ではあったものの、

呼吸も穏やかに寝息を立てていた。

「アロンソ。リリアナ様がいらっしゃいましたよ」

トーニャが息子に優しく声をかけた。

するとアロンソは、その目を薄っすらと開く。


「リリアナ? 君かい……?」

「アロンソ! ええ、私です! リリアナは、ここにいますわ!」

そう言うとリリアナは駆け寄り、アロンソの手を取った。

「い、痛たた……」

「ご、ごめんなさい!」

「いや、いいんだ。来てくれて、嬉しいよ、リリアナ」

二人は暫し見つめ合い、無言で語り合っているようだった。


そして早速、ローラが治癒の魔法で怪我の治療を試みる。

すると、みるみると傷が塞がっていった。

「傷は治りましたが、しかし随分と消耗されておられます。なので暫く、数日は安静にしていてくださいね」

「ありがとうございます、シスター様」

そう言うと、アロンソは再び眠った。


「私、アロンソの看病をしたく存じます。申し訳ありませんが、暫くの間、お待ち頂けませんでしょうか?」

リリアナが申し訳なさそうに、リュカたちに頼んだ。

しかしリュカたちもこれを快諾する。

「うん。少しの間、付き添ってあげてください」

「俺も構わないよ。久しぶりに、ゆっくりさせてもらうよ」

「材料があればお薬も作れます。後ほど一緒に煎じましょう」

そしてバリアンも、ぷるぷるとして賛意を表した。

「有難う御座います」


こうしてリュカたちはアロンソの村に、暫し滞在することとなった。



 村人に文を届けてもらい、モンテドラード家にはリリアナの無事を知らせた。

そしてリリアナはアロンソに付き添い、そしてリュカたちは各々、

思い思いに村でゆっくりと過ごした。

そして三日の滞在の後、アロンソは全快した。



「すっかり、よくなりました。ありがとうございます。そしてリリアナ、来てくれてありがとう……。今度は僕が、君のことを助けるよ。もし何かあったら、何でも言って欲しい。駆けつけるよ!」

そう言ってアロンソはリリアナの手を取り、

二人は少しの間見つめ合った。


そしてアロンソはリュカたちに向き直る。

「リリアナのこと、シエラ・ブエナまで、よろしくお願いします。

道中、お達者で」

「はい、お任せください」

「もう、怪我なんてしないようにな!」

「お大事に」

そしてリュカたちは村を後にし、シエラ・ブエナへの帰路につく。

村を離れる時、リリアナは何度となく振り返り、

アロンソとの別れを惜しんだ。

アロンソも、彼らが見えなくなるまで見送っていた。



 帰り道は特に何事もなく、無事シエラ・ブエナへと到着した。

文を出したとはいえ、突然モンテドラード家令嬢がいなくなって、

おそらく大きな騒ぎとなっているであろうということで、

街外れにてリリアナとは別れることとした。


「では皆様、これにて依頼は完遂とさせて頂きます。お疲れ様に御座いました。そして、有難う御座います」

そしてリリアナは服の裾を摘み、軽く膝を折り曲げた。

「きっと騒ぎになってもおりましょう。これよりは私は一人で、屋敷に戻ります。報酬は明日、お渡し致しますわ。お昼頃に、我が家へとお越し頂けますか? もし私が無理でも、代わりの者を遣わせますので、是非、お越し下さい」

そう言ってリュカたちと挨拶を交わし、一人屋敷へと戻って行った。



 日も傾いていたので、リュカたちも定宿への帰路につく。

「なあ、あの二人。”兄妹”……か? どう見ても好き合ってたぞ」

「エドワードも、そういうの分かるんだな。ちょっと意外だよ」

「おい、リュカ。俺を何だと思っているんだよ……!」

「しかし、素敵でしたわ。互い思い合う二人……。本当に」

「うん……」

リュカは別れる二人を思い出し、脳裏には懐かしくも切ない、

あの日の夕暮れに煌めく、美しい花の記憶が甦った。



「おお、何日ぶりだ? 遠出でもしてたのか?」

宿屋の主人が一行を歓迎した。そしてエドワードが乗り出す。

「依頼を達成してきたんだよ。俺たちもう、一端の冒険者だぜ!」

「そいつは、よかったな。じゃあ今夜は、個室借りてくれるかい?」

「いや……。大部屋二床で……」

「あいよ」


リュカたちは四日ぶりの食堂でいつもの食事を終えて、

そして少し懐かしくもある硬い寝床で眠りについた。



 翌日昼頃、リュカたちは人に道を聞きながら、

モンテドラード家の屋敷を訪れる。

高い石塀に囲まれた、とても大きな屋敷だった。

そして立派な門の付近に差し掛かると、一人の男性に声を掛けられる。

「リュカ様御一行であらせられますか? 私、モンテドラード家にて執事を任されておりまする、ロドリゴと申します。ドーニャ・リリアナお嬢様に申し仕り、皆様をお待ちしておりました。只今、お嬢様をお呼びいたします。暫し、お待ち下さりませ」



 ロドリゴが屋敷へ入ると、すぐにリリアナが一緒に戻ってきた。

「皆様、ご機嫌麗しゅう。先達ては、有難う御座いました」

そう言ってリリアナは、いつもの挨拶の仕草をした。


「昨日は大丈夫でしたか? 騒ぎになっていませんでしたか?」

心配そうに、リュカが聞いた。

「はい。皆に心配を掛けてしまい、大変心苦しく存じます。しかしながら幸運と申しましょうか、お父様は不在だった模様で。お叱りは免れまして御座います」

そう言うと、リリアナは少しだけ悪戯っぽく笑った。


「それは良かった。俺も子供の頃は、イタズラしては父上に叱られたもんだ。あればっかりは、慣れないよな……」

「まあ、エドワード様も、お父上様のお叱りが怖いのですね」

そう言ってリリアナは笑った。



「では早速、依頼の報酬をお渡しさせて頂きますわ。ロドリゴ、お願いします」

するとロドリゴが小さな箱を差し出した。

そして蓋を開ける。中には金色に輝くコインが一枚、入っていた。

「大変少なく、申し訳御座いません……。しかし今、私の手元には、それしか御座いませんで……」


リュカたちは驚きで固まっていた。

そして徐々に、なんとか話せるようになってくる。

「こ、これって……。き、金貨、だよな……?」

「は、はい。間違いなく…」

「これが……。ソ、ソル金貨……?」


「やはり、少なかったでしょうか……。私、そういった相場には、不案内に御座いまして……。宜しければ後日、更に用立てて、また……」

そのリリアナの言葉を遮り、三人は飛び跳ねて喜んだ。


「十分すぎますよ! 本当にこんなに、頂いてもよいのですか!?」

はしゃぎ気味にリュカが聞いた。そしてリリアナが静かに頷く。

「はい。どうぞ、お受け取り下さいませ」


こうしてリュカたちは初の依頼で、1ソル金貨もの報酬を得たのだった。



 リュカたちはリリアナに何度もお礼を言い、互いに感謝し合った。

そして彼女は屋敷へと戻り、一行は町の広場へとやって来る。

そこでその1ソル金貨を握りしめ、何を買おうかと相談し合った。


「まずはやっぱり、装備だろ! 格好いいやつ、欲しいな。バリアンが着てるような鎧とかさ」

「いいえ、先ずは入り用の物を集めませんと。装備は後ですわ」

「そうだね。先ずは物資が先だよ。それで残ったお金で、次に装備を考えよう」

リュカの決断で、先ずは物資を購入することになった。

しかしエドワードも少しだけ食い下がる。


「じゃあ、せめて、見るだけでもいいだろ? 幾らくらいするのか、見ておこうぜ! 見るだけなら、タダなんだから!」

こうして押し切られて、先ずは武器商の店を見て回ることになった。



 商店街に軒を連ねる、最も大きい武器商店に入り、物品を見て回る三人。

「この剣、格好いいな! 鋼鉄だってさ! オヤジさん、これ幾らだ?」

「いいもんに目をつけたね、お客さん。こいつは業物(ワザモノ)だよ。80ルナ、ってところだね」

先程の明るい表情と打って変わり、エドワードの顔が曇る。


「は、80ルナ……? えーと、1ソルって、幾らだっけ?」

「1ソルは、20ルナですわ……」

「そうか……。80ルナ。要するに、4ソルね……」

エドワードは悲しそうに黙り込んだ。


「で、でもさ。僕たちもう武器は持ってるんだし。ね?」

「そうだな……」


こうして武器購入は断念し、とにかく旅の物資を購入しようと、

三人は道具屋などを見て回ることにした。



「先ずは何が要るかな?」

「兎にも角にも、食料ですわね。どれほど必要でしょうか」

「宿屋のオヤジが言うには、十日分くらい見繕っておけば、それで何とかなるってことらしいな」

そして一行は食料雑貨店を訪れ、乾パンや干し果物、

豆やチーズに干し肉、そして塩を購入した。

これには合計で5ルナを支払った。



「後は道具も要るよね。ラモンさんから頂いた火打石も、随分とくたびれてしまったし」

「水もたっぷり持ち歩きたいよな。喉カラカラで歩くのは、俺はもうごめんだよ」

「私の魔法だけでは、心許ありませんわ。医療品も少し、購入しておきませんと」

こうして旅の雑貨屋を訪れる。

ここで革製水袋を6つ、そして火起こし道具類と、

更に包帯や軟膏や消毒用の酒、消毒薬効のある薬草を購入した。

全部で4ルナに、少しまけてもらった。


そして隣の革職人の店で、靴を購入する。

特に旅では足元が重要だと、リュカも知っていた。

なので一足1ルナの少し良い靴を、3人分購入した。

更に荷物が多くなってきて、布の袋では持ちきれないので、

革製の袋も各々の分を用立てる。

男二人には大きめの革袋、ローラには少し小さい袋をあつらえた。

三つで5ルナだった。

更に売られている古着から、厚手の外套も購入した。

三着2ルナで譲ってもらった。



 いよいよ満を持して、リュカたちは防具屋を訪れる。

少しでも良いものを探そうと、特にエドワードは意気込んだ。


「なあ、オヤジさん。このジャラジャラとしたやつ。これって幾らなんだい?」

「それは、鎖帷子っていうんだよ。打撃にはちと弱いが、他にはまあまあ強いよ。そいつはいいもんだから、160ルナだよ」


「じゃ、じゃあこっちはどうだい? この革の鎧」

「そいつは胸に鉄プレート入っているからね。その分、値が張るね。90ルナでいいよ」


どれも高くて、エドワードは目眩を覚えて頭を抑える。

そして堪らずリュカが店主に持ち金を明かし、

それで見繕ってくれるように頼んだ。


「そうかい。11ルナ以内で、見繕ってほしいんだね。いいよ、任せな。

誰にでも駆け出しの頃は、あるもんさ。それは恥じることじゃあない。先ずはうちで買った防具を着て、立身するといい。それにうってつけのやつを、見繕ってやるよ」



「それで、あんたら三人は、役割はどんなだね?」

店主が聞いて、先ずはエドワードが答えた。

「俺は前に出て戦うよ。それ以外には出来ないしな」

「ふむ。それで、あんたは?」

今度はリュカが答えた。

「僕はローラから教わった魔法で回復したり、後はエドワードの補佐で前に出ることもありそうです」

「なるほど。それでお嬢さんは?」

「私は、剣などからっきりですので、回復や援護に努めますわ」

「わかったよ。ちょっと待ってなさい」

そう言うと店主は、店の奥へと入っていった。



 そしてしばらくして戻ってくると、三人に見繕った物を見せる。

まずはエドワードから始めた。

「前に出るあんたは、一番攻撃に晒される機会が多い。だから出来れば、さっきの鉄板入りの革鎧くらいのものは、着せてやりたい所だが、しかしそうもいかないだろう? だったら、盾を持つといい。こいつは木製だが、このラウンドシールド一つでも、随分と生存率は上がるぞ。

後は正直気休めかもしれんが、厚手の布鎧を着るといい。膝まで覆うこの鎧は、布とはいえ案外硬い。これも、あるとなしとじゃ、意外と違うもんだぞ。それに、急所を守る革の胸当て、それに肩当ても安いから、これも入れておこう」


そしてリュカに向き直り、続けた。

「次にあんただが、予算に限りがあるもんでね。少し簡略化させてもらうよ。さっきと同じ布鎧だが、こっちは膝下がない。その分安いが、当然守りも弱くなる。でもな、悪いことだけじゃないぞ? その分動きやすいからな。前に出たり、引っ込んだり、動き回れる方がいいんだろ?

同じ理由で、盾もなしだ。半端に守り固めるよりな、機動性を維持したほうが、生き残りやすかったりもするんだぜ。でも、急所は守るに越したことはない。だから同じく胸当てと、下半身の守りであんたには膝当てだな」


最後にローラの装備を持ってくる。

「お嬢さんは重いもの持ったり、苦手だろ? だったらこの、厚めのローブがいい。旅するなら、枝葉とかで切り傷負いやすいからな。こういう分厚いローブ一つで、そういうのも防げる。それに防寒にもなるぞ。まあ、これから季節的には、暑くなるだけだが。

よし、こんなもんだな。さあ、着てみな」



 そして三人は、それぞれ見繕われた装備を身に纏った。

「おお、結構いいな! 確かに、何もないよりずっと、頼もしいぜ!」

「うん、確かに、動きやすそうだ」

「私のローブも、とても着心地が良いです」


「まあ、本当は10ルナ! って言いたい所だが、まけにまけて、8ルナでいいよ。

その代わり、出世したらまた、うちで買ってくれよ?」

エドワードが店主に駆け寄り、そして握手をした。

「ありがとう! オヤジさん! この恩は忘れないぜ!」

「ありがとうございます」

「ご親切にして頂き、本当に痛み入ります」



 こうして防具屋を後にするリュカたち。

まるで冒険者のような出で立ちで、次は武器屋へと戻った。


「いらっしゃい。お、随分と見違えたねぇ!」

武器屋の主人が出迎えた。

「防具だけじゃなく、武器も買ってくれるのかい?」

しかしリュカは首を横に振った。

「いいえ、新しい武器を買うほど、お金には余裕がなくて。でも剣はもうあるので、これの研ぎ直しをお願いできませんか?」

リュカがそう言うと、主人は笑顔でそれを引き受けた。

「いいよ。その感じだと、すぐにやってほしいんだろ?」

そして奥の工房に向かって大きな声で呼びかける。

「おーい、フェルナンド親方! 剣の研ぎ、急ぎで頼めるか!?」

そして奥から屈強な男が現れた。

「いいよ。出してみな」

リュカとエドワードが剣を差し出す。


「ふむ。量産品の剣か。だが、大事に使われているな。今から研いでやる。明日の朝までに仕上げておく」

そう言うと二本の剣を持ち、親方は工房へと引っ込んだ。



「いくらですか?」

少し恐る恐ると、リュカが聞いた。

「二本で、1ルナと12ティエラだね」

安堵してお金を支払うリュカ。

そして結構余っているので、ローラのためのナイフを求めた。


「ナイフは護身用にも、生活にも使えるからね。持っていて損はないよ。これはどうかな。大きさもちょうどいいし、使いやすくて、良い物だよ」

そしてローラも気に入ったので、そのナイフを購入した。

15ティエラだった。



 こうして武器屋を後にし、リュカたちは明日の旅立ちに備えて、

いつもの宿へと戻った。

「ほお、随分とサマになったじゃねえか。まるで本物の、冒険者様みたいだぜ?」

「いや、”まるで”じゃなくて、俺たちもう、本物だから!」

「そうかい」

そしてリュカは少し神妙に、宿屋の主人に語りかけた。


「色々とお世話になりました。ありがとうございました」

「明日、発つのかい? そうかい。じゃあ、今晩は俺の奢りだ。個室もちょうど空いてるし、泊まっていきな。冒険者様」


そして食堂でいつもの食事を終える。

しかし勘定は宿に付いてるといって、受け取られなかった。

それらをありがたく噛み締め、

リュカたちはシエラ・ブエナで初めての個室に泊まった。



 翌朝早く、リュカたちは宿を後にした。

「達者でな」

主人はそう一言だけ言った。

「色々ありがとう! ハビエルさん!」

リュカもそう挨拶して、歩き出した。

そしてエドワードもローラも、大きく手を振った。

「あいつ、誰に俺の名前、聞きやがったんだ?」

ハビエルは小声で、そして少し嬉しそうに呟いた。



 そして武器屋へと入った。剣はしっかり研ぎ直されていた。

「急に頼んでしまって、ごめんなさい」

リュカが謝ると、フェルナンドは背を向けそして手を振った。

「気にするな。よくあることだ」


こうして研ぎ直された剣を鞘へとしまうと、

いよいよ旅立ちの時を迎えたと、

リュカたちは意気揚々に広場へと凱旋する。

しかし――



「しまった!!」

リュカが叫ぶ。

「ど、どうした!?」

「どうされました!?」

二人は驚き、バリアンまでもが袋の中で大きく震えた。


「ツァウベルハイムまでの地図を、買い忘れてた!」

こうしてリュカたちは急いで、書籍商の店を訪れた。



 店に入ると、兎に角安い地図がないかと、店主に話しかけた。

「ツァウベルハイムに行くための地図を探しています。手頃なものは、ないでしょうか?」

リュカが恐る恐る聞くと、店主は一枚の地図を持ってくる。

少し黄味がかった白い厚紙に、びっしりと描き込まれていた。

「こちらなど、いかがでしょうか。旅に必要なものは、全て描き込まれております。それに、とても丈夫ですよ。5ルナにて、お求め頂けます」

「も、もっと安いものはないですか?」

そう言うと店主は首を振る。


「冒険者様とお見受けいたします。ですと、そうした過酷な旅に耐えられるのは、

こういった地図となってしまうのですが……」

「しかしあまり、お金がないもので……」

「困りましたねぇ……」

店主とリュカは、一緒に考え込んでしまった。



 しかし店主が何かを思い出して、店の奥へと下がり、

そして一枚の地図を持って戻った。

「こちらなど、いかがでしょうか。先ほどのものと等級は同じ地図にございますが、こちらは中古品になります。なので折り目や汚れは多少なり……ございますが。しかしまだまだ使える一品にございますよ」

端は少し傷んでいて、いくつか補強の痕もある。

しかし十分に使えそうな地図だった。

「これはいくらですか!?」

「こちらは、2ルナでお譲り致します」


リュカが財布を見るも、1ルナと12ティエラしかなかった。

「あの……少しまけていただくことは……?」

店主も困った顔になっている。

「いくら、お持ちでしょうか?」

「い、1ルナと、12ティエラです……」

「そうですか……」

そして二人とも黙ってしまった。

しかし、そんな時――



「あら、皆様ご機嫌麗しゅう」

リリアナが書籍商店へとやって来た。


「ドーニャ・リリアナ様! 手前どもの店に来て頂くとは! 本日はどのような?」

「ええ、地図の補修のお願いに参らせて頂きましたわ。こちらを……」

そう言って、アロンソの村に行く際に持っていったあの地図を渡した。

「こちらですね。はい、お預かり致します。しかしお嬢様にお出で頂かなくとも、私どもが伺いましたものを」

「よいのです」

そう言ってリリアナは、リュカたちには小声で言った。

「お父様に秘密なのですから、屋敷に来られては困ってしまいますわ」


「ところで皆様は、何故書籍商にお越しなのでしょう?」

「リュカが地図、買い忘れてたんですよ」

「忘れてたのは、私たちも同じですよエドワードさん」

「まあね……」

リリアナは楽しそうにクスクスと笑った。


「それで、お求めになられたのですか?」

「それが、お金が足りなくて今、値切れないかと……」

リュカがそう言うと、リリアナは店主に願い出た。

「この方々は、私の大切な人たちです。何卒、良しなにしては頂けませんでしょうか?」

リリアナがそう頼むと、店主が先ほどとは打って変わり、

明るい口調で答えた。

「ドーニャ・リリアナ様にとって大切なお方々は、我々にも大切なお客様ですとも。ええ、ええ。

こちらの地図、1ルナにてお譲りいたしましょう」


こうして、リュカたちはついに、

今度こそ本当に旅の準備を整え終えた。



 早速旅立つために、リュカたちは街の入口へと向かう。

リリアナも見送るために、そこまでついて来た。

「では、リリアナさん。僕たち行きます! 色々と、ありがとうございました!」

「リリアナさん、ありがとう! もしまた困ったら、何でも言ってくれ!」

「本当に、お世話になりました」

「いいえ、私こそ、皆様に助けて頂きましたわ」

四人はこうして、思い思いに感謝を述べ合った。


そしてまた一歩、新たなる旅へとリュカは踏み出す。

「お達者で! シエラ・ブエナにまたお立ち寄りの際は是非、我が屋敷をお訪ね下さいね!」

互いに手を振り合う。

そして新たなる街、ツァウベルハイムを目指して、

リュカたちは力強く歩き始めた。


来週金曜21時10分更新予定

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