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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第二部 第一篇 A New Journey - 新たなる旅立ち
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清らかなる川

<第二章 The Struggle for Liberty - 自由の洗礼>


漁師の集落を西へと発って暫くすると、前方に山々が見えてくる。

そしてラモンの言う通り、山間には抜けられそうな山道があった。

しかし既に日は傾いていて、太陽はもう山の向こうに隠れていた。

そこでリュカたちは話し合い、夜間山に入るのは危険と判断して、

その晩は麓で野営を作り休むことに決めた。


枝木を集めて焚き火の燃料を準備する。

そしてラモンから教わったことを思い出しながら、

初めての火起こしにリュカたちは挑む。



 まずは火口(ほくち)をほぐして、その形を整える。

「火口は火種のための巣だ。雛鳥が巣立つまで過ごせる、柔らかすぎず硬すぎず、快適なものを作ってやれ」

そんなラモンの言葉を思い出し、リュカは火口の巣を作った。



 そしていよいよ、火打金で火打石を擦る。

最初は角度が悪いのか、火花が出なかった。

だが少しコツを掴むと、順調にそれは出るようになった。

しかし、その火花は上手く火口の中に入らない。

それらは虚しく、草の上で一瞬光っては、消えていった。

リュカとエドワードは交互に、火打を試みる。

太陽は既に山の向こうへと落ち、その稜線を真っ赤に燃やしていた。

そしてようやく、火口の中に赤い点が灯る。



「火口に火が入っても焦るな。火の雛鳥を、親鳥のように優しく包め。そしてゆっくりと長く細く、息を吹き込んでやれ。すると白い煙が上がり始める。それが雛の生まれた合図だ。火口の巣が赤く光り、それが広がり始めたら、雛鳥の巣立ちが近い」

再びラモンの言葉をリュカは思い出す。

そしてその火口を手で優しく包んで、長細く空気を吹き込む。

するとやがて一筋の細い煙が上がる。

そして焦らずに、火の雛鳥をリュカは育てた。

やがて火口の巣が赤く変わり始める。



 そしてその最初の炎を優しく地面に置いて、

決して炎を押し潰さないように、その周囲へと燃料を追加する。

最初はあらかじめ裂いておいた枝や樹皮を。そして細い枯れ枝へ。

そうやって少しずつ太いものを焚べていった。

そうしてようやく、太い薪を焚べるに至る。

初めての焚き火作りを終えた時には、既に辺りは真っ暗だった。



 その晩は、焚き火で干し魚を炙って食べた。

そしてもらった毛布にそれぞれ包まる。

疲れもあって皆、早々に寝てしまった。

これが神殿を脱出してからの、初めての野宿だった。

夜番はバリアンが買って出てくれた。



 翌朝、太陽が東から顔を出す頃には出発した。

リュカたちは山間の山道を登る。

暫く登り勾配が続いたが、そこまできつくはなかった。

やがて太陽が少し高くなる頃には、下りへと差し掛かる。

そして太陽が天辺から少し西に傾きかける前に、山道を抜けた。


山を越えてからは、ラモンに助言された通り、

尾根を左手に望みながら、南へと進路を向ける。

そして暫く歩くとまた日が傾いたので、そこで再び野営を準備した。

このようにして、リュカたちは三日歩いた。

そうしてようやく、前方に川が見えてくる。



 川沿いを歩き、再び日が落ちかけると、早めに川岸に野営を作った。

辺りの石をどかして軽く掘ると、ミミズが見つかる。

そしてラモンからもらった釣具を使い、リュカは川に糸を垂らした。


「釣れそうか?」

エドワードがリュカの肩越しに川を覗き込む。

「うーん。堅パンも減ってきたし、少し食べ物を節約したいけど、そうそう釣れるものじゃないって、ラモンさんも言ってたからなぁ……」



 そして暫く待つも、やはり一匹とて釣れなかった。

しかし諦めかけて糸を巻き取ると、急に何かがそれを引っ張った。

「き、きた! かかった!!」

大急ぎでエドワードも駆けつけて、二人で慎重に魚を釣り上げる。

針には少し小ぶりな鱒がかかっていた。


気を良くしてリュカは、次のミミズを針に引っ掛け、そして川に投げ入れる。

すると次の魚は程なくしてまたかかった。

結局リュカたちは三匹もの魚を釣り、素晴らしい釣果を上げた。

そしてその晩は三人で一匹ずつ、焼き魚を楽しんだ。



 翌日、翌々日も残念ながら、魚は釣れなかった。

なので残りの食料をなるべく節約して食べて、

そして一日の移動距離を稼ぐことに注力した。

幸い川があるため、飲水には全く苦労しなかった。



 川沿いを歩き始めて四日目の昼頃、集落を発見する。

少し警戒しつつも近づく。しかし意外にも村人からは歓迎された。

そして食料を分けて貰う代わりに、労働することになった。

こうしてリュカたちは二日ほど、この集落に滞在することにした。


リュカとエドワードは、水撒き用の水を川から汲み、

それを畑まで運ぶ作業に従事した。

一方ローラは、村の怪我人や病人たちを診た。

そこが無医村であったためもあり、

これが村人たちにとても有難がられることになる。



「まあ、これはひどいお怪我ですわ。今すぐ治療いたしますね」

そう言ってローラは、その手を患者の患部にあてて、

歌うように優しく呪文を唱える。


“Lux clara vulnera sanat, corpus reficit!”


すると、その村人の傷がみるみると塞がっていった。

「おお、傷も痛みも消えました。ありがたや、ありがたや……」



 すぐに次の患者を診始めるローラ。

そして小さな子供を抱えた女性が訴えた。

「昨日からこの子が熱を出しています。どうかお助け下さい」

「ハァ、ハァ……。ケホッ……ケホッ……」

「まあ、お風邪をめされましたのね。今すぐに治療いたします」

「お願いします!」

そして先程のように、ローラは優しく呟く。


“Lux clara venenum expellat, corpus purificet!”


するとローラの手のひらが光り、その子供を優しく包む。

そしてその顔色が徐々に良くなり、呼吸も穏やかになった。


「熱が下がってきましたね。うまくいきましたわ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

母親は我が子を抱え、安堵した。

「毒素は消せましたが、まだ体力は戻っていません。だから今日は、ゆっくりと寝かせてあげてくださいね」

「はい、そのようにします。ありがとうございました!」



「ああ、ありがたや。この村に、聖女様が来てくださった」

「まあ、聖女だなんて。困ってしまいますわ……」

村人たちに讃えられて、ローラは顔を赤らめる。

「これくらい、大したことではないのですよ?」

「いいやそれでも、ありがたいことですじゃ……」

こうしてローラの治療を求める列は、途切れることはなかった。



 滞在期間が三日に伸びて、一行は発つことをとても惜しまれた。

「聖女様、もう行かれてしまうのですね。村にはこんなものしかございませんが、せめてもの感謝の証に、持っていってくだされ」

そういって村長は、大量の食料をローラたちに提供した。

しかし全ては袋に入り切らず、持てるだけを頂くことにした。

これでまた袋を食料で一杯にして、リュカたちは再出発した。



 集落を発ってから二日目、早朝の草原に地響きが鳴った。

そして遥か北の方、朝靄の向こうに、何か巨大な影が見える。

それはゆっくりと、そしてずしりずしりと踏み鳴らし、

悠々と草原を歩いている。


そして次第に靄が少し晴れて、その姿が顕わになった。

太く長い鼻、そして巨大な牙に大きな耳。それは象のような姿だった。

遠目から見ても、その大きさが尋常でないのは間違いない。


「あれなるは巨像、グランマルフィルに御座るな」

「危ないのか、バリアン?」

エドワードが少し怯えながら聞いた。

「いいや、こちらから何かせぬ限りは、危険は御座らぬ。さりとて、踏まれれば無論、ただでは済みませぬ……。

さあ、まだ距離があるうちに、通り過ぎてしまいましょうぞ」


巨象が遥か遠く、その鼻を大きく鳴らす。

それは轟音となって、リュカたちの足元を揺らした。

広大な草原に君臨する巨大な王者に圧倒されつつ、リュカたちは先を急ぐのだった。



 巨象を目撃してから五日目、一行はついに町へと辿り着く。

その町はリオ・クラーロと呼ばれる、川沿いに栄える町だった。

広場では市も開かれていて、商店街も賑わっている。

食料も残り少なく、ここで入手する必要があった。

またこの先の地図なども入手せねばならない。

しかし先立つものもなく、リュカたちは途方に暮れてしまった。



「どうしようか。お金がないと、何も買えないよ」

「ここでも働くか? でもそうなると、出発がまた遅れるな」

「いや、この辺りまでは教団を警戒した方がいいって、ラモンさんが忠告してくれたから。こんなに人が多い場所では、あまり長居しない方がいいと思う」

「だよな……」

こんな会話をリュカとエドワードがしている間、

ローラは何か思いつめたような表情で、考え込んでいた。

そして、意を決したように口を開く。



「私のこのペンダント。売ればきっとお金になりますわ……。だから……」

そう言ってローラは、ペンダントを胸に抱え、大事そうに握りしめた。

しかしすぐにリュカたちの方に向き直る。

「これを、売りましょう!」


「でも、それは大事なもの、じゃないの?」

リュカが優しく問いかけた。

「これは、父が母に贈った、母の形見です……」

「ならそんな大切なもの、売っちゃ駄目だよ!」

「そうだ! そんなこと、させられない!」


「よいのです! それで、よいのです。父も母も、きっと許してくれます。そう思います……。きっと、このペンダントを惜しんで、それで私たちが不幸になったら、その方が悲しみます……。

だから……よいのです!」



 そう言ってローラは、商店街の宝石店で、そのペンダントを売却した。

さほど高い値は付かなかったが、それでも貴重なお金が得られた。

しかしリュカたちは、ローラに掛ける言葉が見つからなかった。


「どうなされたのですか、お二人とも? そんなお顔をされて。さあ、お金は得られましたし、必要なものを揃えましょう」

しかしローラは終始こうして、気丈に振る舞うのだった。



 そのお金を握りしめ、リュカたちは安い宿の個室を借りた。

そして軽く食事を取る。

残りのお金で地図と、そして食料と水袋を、買えるだけ購入した。

そしてその晩は久しぶりに、屋根のある部屋でぐっすりと眠った。


毎週金曜20時20分更新予定

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