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The Brides of Destiny - 運命の花嫁たち  作者: Telda Caladlimion
第三篇 The Last Steps of the King - 護るべきもの
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騎士道

<第一章 Chevalier Gobelin - 騎士道>


街の西外れまで慎重に移動し、そして森の入口までたどり着いた。

「それでは、私めもここで、お見送りとさせて頂きまする」

そう言うとピエールは、セフィアンと固い握手を交わした。

「これまでの長きに渡り、感謝いたす。この恩は生涯、忘れませぬぞ」

「必ずや、生き延びてくだされ。そして、再び会いましょうぞ。王子様方も、末永くお健やかに……。

セルジオ殿が戻ったら、仔細はお伝え致します。では、お気をつけて」

そしてピエールは街の方へと戻っていった。



「エドワード、そしてリュカ」

セフィアンが神妙に子どもたちに語りかける。

「この先は、どの様な危険があるやも分からぬ。故に、そなたらにこれを授け置く」

そう言ってセフィアンは短剣を二人それぞれに手渡した。


「しかし、いたずらに抜いてはならぬぞ。その身が危うい時のみ、それで身を守るのだ。よいな?」

二人は緊張した面持ちで頷いた。

そしてふと、リュカがセフィアンの腰の剣に気づく。


「ちちうえ、その剣。あの鳥が付いていないです」

「ふむ、あの剣は置いてきた」

これにはエドワードも驚く。

「よろしいのですか? 大切なものでは?」

「よいのだ。人目を惹くあの剣は、今は我らの枷となりかねん」

リュカたちは寂しそうな表情でセフィアンを見つめる。

「なに。街に戻れば、再び握ることも叶おうぞ!」

しかしそう言って、セフィアンは笑った。



 セフィアンたちは、夜通し森を西へと歩いた。

月明かりが一行の足元を照らし、彼らを助けてくれた。

しかしながら、子どもたちを連れての移動には、

想像以上に時間を要してしまう。

それでも、無理のない範囲で上手く配分して進んだ。


大人の足なら一日で抜けられた森だったが、三日かかった。

森を抜けると、さらに北西へと進路を向ける。

ルノリス旧王国の都を、先ずは目指すことにした。



 平原に出ると、東の空に何やら黒い影が浮いている。

朝日を受けて、羽ばたく姿がうっすらとだが見える。

「あの影は、鳥ではないな……。飛竜か?」

空を見上げながらセフィアンが呟く。

「見たところ、こちらを襲う素振りはない。構わず先を急ぐぞ」

リュカはその影が気になりつつも、セフィアンの後を必死に追った。



 万が一を考えて、追手から目をくらますためにと、

セフィアンたちは再び森へと入る。

森とはいっても、木々は疎らで開けた場所は多かった。

それでも平原を進むよりは、多少なりとも安心できた。

木々が少ないことで、魔物の襲撃からも身を守りやすく、

特にセフィアンもゆっくりと野営で休憩できた。


そんな森の中を北西に進み始めて三日目のこと。

少し遠くから奇妙な音が聞こえる。

「ラッパ? 角笛か……?」

セフィアンは聞き耳を立てている。

そんな矢先、四本先の木の根本あたりの草木が揺れる。

そして小さなゴブリンが一匹、ひょっこりと顔を出した。

そして一目散に、音の方へと駆け出した。


「あいつ!」

「待て!!」

ゴブリンを追おうとするエドワードを制止するセフィアン。

「あれは、逃げたのではない。しかし、誘い出す罠とも思えぬ……」

ゴブリンが走り去った方向を睨むセフィアン。


「そなたらは、この木陰に隠れていなさい」

そう言ってセフィアンは一人、音のした方へと歩み出ていった。

すると、ずっと向こうの方。かすかに目視できるくらいの距離に、

数体のゴブリンたちが現れる。

そしてその後ろから、悠々と何かに騎乗する人影が姿を現した。



 少しずつ近づいてくるゴブリンの群れ。

その騎兵の姿も徐々にはっきりと見えてくる。

それは馬ではなく、大きな黒い狼に跨っている。

「ワーグ……」

低い声でセフィアンが静かに唸る。

黒いワーグに乗るそれは、やはりゴブリンくらいの大きさに見えた。

しかし、その姿は異様そのもので、銀色の甲冑に身を固めている。

背中には大きなヒーターシールドを背負い、腰からは剣をさげていた。

ワーグに乗せられた鞍には、馬上槍のようなものも備えられている。

それはさながら、まるで『騎士』のような出で立ちだった。


「ゴブリンの、騎士……? なんとも面妖な……。それはよい。ワーグストーカーとゴブリンの群れ……。囲まれれば、子らを守りきれるか危うい……」

セフィアンの表情に焦りが見える。

しかしその時再び角笛が鳴り、ゴブリンの集団は一斉に止まった。

最初のゴブリンを目撃した、それの倍ほどの距離だった。



 ゴブリン騎士は集団を置いて、独りゆっくりと近づいてくる。

そしてセフィアンまで十歩ほどの位置で、狼の歩みを止めた。

止まるやいなや、おもむろにその兜のバイザーを上げる。

この緊迫感の中でもその表情は、非常に落ち着き払ったものに見える。

そしてゴブリン騎士はセフィアンに向かって語りかけてきた。


「貴殿を、一角の武芸者とお見受け致す! 拙者、名をジョフロワと申す! 貴殿の御名を伺いたい!」

「セフィアン、と申す!」

少し困惑しながらも、セフィアンは堂々と答えた。

「セフィアン殿。拙者とのお手合わせ、願えますかな?」

妙な求めに対して、セフィアンは少し間をおいて問い返す。

「断れば、如何に……!?」


両者の間に無言の時間が流れる。

そしてゴブリン騎士がその静寂を破った。

「この森は、我が所領、狩場にござる。余所人(よそびと)が戯れに抜けること、決して罷り通らぬ。然れど強者とあらば、それを許す事、吝(やぶさ)かに非ず」

「そなたに勝てば、我らを通すと申すか」

「如何にも」


「ならば、是非に及ばず……!」


セフィアンがそう告げ、静かに剣を抜く。

すると、ゴブリン騎士ジョフロワは、なんとワーグから降りた。

そして腰から剣を抜き、背中から盾を取り出す。

「徒士(かち)を馬上にて討つは、無作法というもの。貴殿と同じく、徒士にて手合わせ願おう!」

こうして、セフィアンとゴブリン騎士の決闘が始まる。



戦いは静かに始まった。

両者いたずらに間合いを詰めたりもせず、

ただ互いに様子を見合っている。


最初に動いたのはジョフロワだった。

盾を突き出しながら一気に間合いを詰める。

そして盾をひらりと翻し、その陰から電光石火に真っ直ぐと突いた。

しかしセフィアンは更に速く左半身となり、それを躱す。

そして剣を右に振り抜いた。

それをすかさずジョフロワは盾で防ぐ。

そしてそのまま盾で叩こうと鋭く振った。

しかしセフィアンは素早く後ろに下がりそれを避けた。


次はセフィアンが先に動いた。

一気に間合いを詰めて、素早い斬撃を数回入れる。

それをジョフロワは盾でしのぎながら反撃の機会を待った。

大ぶりの一撃を盾で弾き、セフィアンの剣が下がる。

そして、ついに隙が生じる。そう見えた。盾を左へ薙いで、

その流れで渾身の突きを繰り出そうとするジョフロワ。

しかしセフィアンはそれを待っていたかのように、

剣を振り上げてその盾を外側へ弾く。

バランスを崩すジョフロワに、そのまま返して剣を振り込んだ。

すんでのところでジョフロワは、これを剣で防いだ。



「面白い。実に面白い!」

豪快に笑うゴブリン騎士。

「是程に滾る決闘は、久方ぶりじゃ! セフィアン殿。貴殿ほどの剣の使い手は、そうはおるまい」

そう言ってジョフロワは、自ら盾を地面に突き立てた。

「ならば、この盾は無粋というものよ。此度は剣のみで、いざ勝負と参ろうぞ!!」


ここからは、リュカの目には速すぎた。

瞬き一つの間に、両者は数度斬り合う。

それは傍目に、両者互角と映った。



 そして強者同士、最後の斬り合い。

これだけはリュカにも不思議と見ることが出来た。

ジョフロワが彼の右上から剣を振り下ろし、

セフィアンはその間合いに素早く一歩踏み込んで、

その一撃を鍔で受ける。

そして手首を返して剣を回転させると、

ジョフロワの剣を下に、それを低く押し込めた。

そしてジョフロワの上体に大きな隙ができる。

しかしその時だった――


「モン・セニョール! 騎兵多数、接近中にございます!」

少し小さめのワーグに跨ったゴブリンが駆け寄り、叫んだ。

「モン・エキュイエ! 割り込むでない! 決闘の最中ぞ!!」

しかしジョフロワはその意味をすぐに察する。


東の遠くから、何かに跨った姿の人影がいくつか見える。

それは駆け足で近づいてきている。

近づくにつれて、その姿がはっきりする。

イグアナのような生物にリザードマンが跨っている。

鎧を着込み、槍を構えていた。



「リザードマン共め。折角の決闘に水を差しおって……」

ジョフロワが低い声で唸る。

そして剣を収めてセフィアンに向き合った。

「邪魔が入った。此度は是迄と致しましょうぞ」

そう言うと盾を拾い、そしてワーグへと騎乗した。


「強者の証は立てられた! いつでも歓迎致すぞ、セフィアン殿!」


そして従者ゴブリンの一人が角笛を鳴らす。

「無作法者が、我が領地踏み荒らすこと、罷り成らん!」

そう言うとジョフロワは盾を構え、

リザードマン騎兵達にワーグを向けた。

そしてセフィアンに語りかける。

「何れ、またお手合わせ願おうぞ! 我が認めし好敵手よ!」

そして兜のバイザーをさげ、槍を手に取る。

鬨の声を上げ駆け出した彼を、従者たちは追っていった。


「今だ。参るぞ!」

そう言って子どもたちに出発を促すセフィアン。

こうして不思議なゴブリンの騎士との決闘を終え、

一行は森を北へと駆け抜けたのだった。


第一部完結まで、毎週金曜・日曜20時20分、週2話更新予定

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