覚醒そして愛
今回、区切るところなくてめちゃくちゃ長くなってしまいました。申し訳ありません。
勝負は一瞬で決した。
俺はさっきの男のスピードすら遅く見えるほどの速度で近づいた。その勢いのまま、拳を振りぬいた。
ドゴォォオオオンと、とてつもない衝撃音が体育館中に鳴り響いた。
「がっ…は!?」
拳は男の体にめり込み、手には何かが折れた感触が伝わった。
その勢いで男は吹き飛んだ。だが、すぐに俺は追いかけ、追撃を食らわせる。
男は床に叩きつけられた。さらに追撃しようとしたが、それを避けられる。
「な、なんなんだてめえ!!?」
男は驚愕していたが、冷静に防御魔術を展開していた。それに、一度あの攻撃を避けた。それだけでも男が常人の域を越えているのは分かった。
俺は男の問いに答える。
「言っただろ。勇者だって」
「そんな…わけ…」
男は攻撃を受けた場所を右手で押さえながら、魔術を発動しようとした。だが、俺がそれを許さない。瞬時に男の首根っこをつかみ、壁に叩きつけた。
「ぐがァ…!??」
「雑魚が」
俺は男の体を殴りつける。何度も何度も殴りつけた。男が倒れ込んだところでその追撃をやめた。
「バケモノが……」
男はそれを最後の言葉として、意識を失った。
「…これは貰ってくぞ」
俺は男が身につけていたバッジを取り、ユイのところに向かった。
ユイは吹き飛ばされて、意識を失っていたが命に別状は無さそうだった。けれど、ずっと俯き、浮かないしていた。
「大丈夫か?」
俺が声をかけると、俯いていながらもユイはポツリも言葉をこぼした。
「…私は何も出来ませんでした。お兄様を助けるつもりが足手まといになってしまいました」
俺はふと思ったことを言うことにした。
「別に足手まといなんかじゃないぞ。そんな事よりもあの攻撃を受けて重傷を負わなかったんだ。それだけで、足手まといとは全く思わない」
「…ですが何も出来ませんでした。お兄様の役に立ちたかった…」
ユイは何も出来なかったことがかなり悲しかったようだ。表情は深く沈んで今にも泣きそうに見えた。
「そんなに気に負うことじゃないと思うぞ。そんなことだけで悲しんでいたらこの先生き残れないかもしれない」
「分かってます…でも今までたくさん努力してきたのに……」
俺はその言葉を聞いた瞬間思わずユイの体を抱き寄せていた。
「お兄様…?」
俺は強く抱き締め、ユイの頭を撫でた。いきなりそんなことしたのだから内心、キモがられるのではないかと思ったがそんなことは無かった。ユイはハグを受け入れた。
どれだけの時間が経ったのだろうか。お互い、ひとしきり抱きしめたあと、静かに離れた。
「…ありがとうございます。少し、楽になりました」
「それなら良かった」
ユイが安心してくれたことに俺は安堵する。そして、今更ながら自分の行動が恥ずかしく思えて、それを誤魔化すように辺りを見渡した。
だが、周りに人は居なくて、少し違和感を覚えた。先程まで、隙だらけだったのだから不意打ちをかまそうとしているヤツがいるかと思ったが、そんなことも無かった。
「周りに人は居ないな」
俺がそう言うとユイは俺とは違う反応をした。
「当たり前です。あんなに派手に暴れたのだからみんな警戒して近づかないに決まっているでしょう」
「そうか?ここにはかなりの実力者がいる。だからそんなことも無いと思うが」
「お兄様、もしかして自分のした事わかってないのですか?」
「え?」
俺が思わずユイの方に顔を向けると、ユイは怪訝そうな顔をしていた。
「あの人物、お兄様は知らないかもしれませんが、最近すごく騒がれていた人なんです。どうしてかは分かりますよね?」
「まあ、あの感じからして、とんでもない実力を持っていたからとかか?」
「大体正解です。あの人はとてつもない実力を持っていました。史上最年少でこの世界のトップレベルに強い人物の1人として名を馳せていたんです。あと、もうひとつ。あの性格です。とんでもない実力を持っていながら性格は最悪。そのため、かなり悪い意味で騒がれていたんです」
俺はユイの説明を聞きながら納得していた。あの感じは確かに最悪だし、実際俺はブチギレた。
それに、俺が大魔王の力を使わなかったら絶対に勝てなかった相手でもある。
それでも、ひとつ思ったことがあった。
あのレベルで世界トップクラスと言うのならこの世界の人間はかなり弱体化したなと、だが、それを口に出すことはしなかった。
代わりに、ユイが口を開く。
「そんな相手を圧倒したのですから、恐れられて当然です。まあ、この試験が終わる頃にはだいぶ噂になっていることでしょうね。つまり、お兄様はとんでもない実力を持っていると騒がれるんです。当分、私もお兄様も大変な思いをしそうですね…」
それはそうかもしれない。ユイの話を聞く限りでは俺はかなりとんでもないことをしでかしてしまったようだし。
だけど、俺は自分のしたことを曲げるつもりはない。なぜなら、あれだけはどうしても許せないからだ。それに、あいつは悪役のような存在らしいし、目立つことはあっても悪い意味で目立つことはないだろう。
「ま、とりあえずはこれで試験突破になるかな。誰かに襲われでもしなければあとは何もしなくてもいいだろうな」
「それに関しては、お兄様があれだけとんでもない実力を発揮したのですから、私たちを奇襲しようとする人なんていないでしょうけど」
「確かにそうかもな」
俺は改めてあたりを見回す。予想通り誰もが俺に畏怖し、近寄ってくることはないようだった。それに、少しだけ大魔王のころを思い出した。
そのまま体力を回復することになってその場にとどまっていたら、試験の制限時間が来て、俺たちは体育館の中央に集められていた。
人数はやはり、相当減っていておおよそ半分とユイの言っていた通りだった。
「試験突破おめでとうございます」
声がしたとき、ステージ上にはすでに試験の説明をした女がマイクを持って立っていた。
「これにて、試験を終了いたします。ただいま、バッジを二つ以上持っている生徒たちはたった今から本校の生徒となります。これから、本校の説明を行いますので静かにお願いいたします。」
そして、鷹鳥魔術学園の説明をその女は話し始めた。その内容は大体このような内容であった。
・この学園ではテストを一年間で5回行う。
・テストを一度でも合格できなかった場合、即時退学となる。
・この学園に在籍している場合、この学園のルールは了承しているものとする。
・この学園のルールを破った場合も即時退学とする。
・また、テスト以外の時間では、以下のルールを守らなければならない。守らなかった場合、即時退学とする。
‣この学園の基本的なルールを守る
と通常ではありえないようなルールばかりではあったものの、それ以外ではかなり自由があるようだった。『この学園の基本的なルールを守る』というのは学園が行う行事や授業には参加しろというだけのものなので、別にそれ以外であれば何をしてもいいのだ。
ただ、学園側がどうしてそうしたのかはわからない。何か目的があるのか。
「以上で説明を終わります。何かご質問はありますか」
女がそういうとあたりから手がいくつも上がった。その中から女が適当に選ぶとその選ばれた男は立ち上がり、その質問をした。
「学園のルールを破ると退学というのは理解しがたいです。いったいどういうことなんですか」
その質問を聞いた俺はこの学園にいるやつでも馬鹿はいるんだなと思った。
「ご質問ありがとうございます。当学園はこの世界において最高峰の権力と地位、そして実力を備えた生徒がいます。それらを守るため、学園側としてはそう処置いたすほか無いのです」
女がそう言うと黙って質問をした男はその場に座った。
「ほかにご質問はありますか」
女はどんどんと質問に答えていく。だが、そのどれもが誰でも思いつくような簡単なことばかりだった。この学園の核心を突くような質問をする人などいなかった。
かくいう俺も特に質問したいことなどないので、ずっと黙っていたが。
それから、問答の時間も終わり、いよいよ解散となった。だから、俺たちは帰ろうとしたのだが、ある一人の男に呼び止められてしまった。
「おい」
俺たちが同時に振り返るとそこには見たこともない人物が立っていた。まさか、ユイの言った通りもうすでに噂になっているのだろうか。
「いきなりおい、とはちょっと失礼じゃないか?」
俺がふと思ったことをそのまま口に出すと、その男は愉快そうに口をゆがめた。その様子を見て、面倒くさくなりそうだなと思った。
「いや、すまんな。けど、あんたらにちょっと聞きてぇことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「わかってんじゃねえのか。けど、その前に自己紹介だけしておこう。俺の名前はサイカ・ミクルス。気軽にサイカとでも呼んでくれ」
サイカと名乗った男はガタイがよく魔術だけでなく肉体も鍛えていることが分かった。そして、サイカの言う通り大体言いたいことはわかっている。
「あんたら、特にお前だ」
サイカは俺のことを指さした。
「…なんだよ」
「あんた、とんでもなく強いだろ?俺は離れたところにいたが、一度とてつもない轟音が聞こえたんだ。しかもその時はとんでもないプレッシャーも感じた。それこそ、世界最強クラスのな。んで、あの場でお前を見て確信したんだ。あの感覚を感じさせたのはあんたなんだってな」
サイカの話を聞きながら俺は危機感を覚えた。あの場で大魔王の力を使うのはまずかったのだ。
俺は本当に危機的な状況でしか、一切使えないなと思った。
「あんた、何者だ?」
ドキリと心臓が跳ねる。この場をどうしのぐか考えた。
「いや、俺はただのデューク家の王子だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
苦し紛れの言い訳を言う。もしここでバレてしまえばそもそもの俺の人生が狂う可能性だってある。
その場合はこの男は始末しなければならないのだろうか。
俺がそこまで考えたとき、予想外の反応が返ってきた。
「そうか。デューク家ってのはすごいんだなあ」
「…へ?」
「ぜひとも俺と友達になってくれないか?あんたの力は目を見張るものがある。そんな奴と友達になれたらこの後も安泰だろ?」
軽口をいうサイカに、俺は呆気にとられた。質問攻めにされると思っていたし、俺の正体を暴こうと何かしらの行動に出るかもしれないと気を張っていた。
けれど、そのどれもが杞憂に終わった。けど、杞憂に終わってくれてよかったと安心する。
俺は目の前のことを意識する。サイカは俺と友達になってくれと言っていて、俺自身も、ここで仲間を作っておくことは悪くないかもしれないと思った。
「もちろん。そっちの嬢ちゃんも友達になってくれないか。友ってのはたくさんいたほうがいいだろう?」
ユイのほうはというと、男のことを不審がっていた。
「いや、いきなり友達になってくれと言われても困ります。まだ、お互いのことをよく知らないのにそういわれても、私としては信用できません」
「そうか?見た感じ悪い奴じゃなさそうだし、せっかく仲間を増やす機会だぞ」
「わかってますけど、少し軽率な気がします。確かに、悪いようには見えませんがまだ出会ってから10分もたっていないんですよ」
考えてみれば時間はまだそれほど経っていないのか。俺はどこか長く一緒にいる友達のような感覚に陥っていた。
…うん?
「ユイ!!逃げろ!!!!!」
叫んだ瞬間だった。目の前で閃光が爆ぜた。ギリギリで回避したユイは爆風で吹き飛ばされたが、何とか魔術を発動させ、耐えしのいでいた。
俺は今起きたことを整理し始めた。
サイカ。
こいつは俺らに対して何らかの攻撃をした。何の攻撃をしたかはわからないが一つだけ言えることがある。
今この瞬間、こいつは俺らの敵になった。
「いやーさすがだなあ。あいつを倒しただけある反応速度だ。惚れ惚れするよ」
俺はとっさにユイのほうに向く。安否を確認したかったからだ。そして、またサイカのいるほうへと視線を向けた。
だが、そこには何もいなかった。
「は?」
瞬間、とてつもない衝撃を背中から感じる。直後、ドゴォォォォン!!と耳をつんざくような轟音が聞こえた。
「お兄様!」
ユイの叫ぶ声が聞こえた。でも、俺は動くことができなかった。だから、大魔王の力を使うしかないと思って俺は発動させた。
…。
だが、何も起こらない。
「…は?」
「グフッ、アハハハハハハハハハハハ!」
サイカが突然、大声で笑い始めた。
「…何をした?」
「え!何をしたかだって?そんなの簡単なことだ。あんたの能力を封じたんだよ」
封じた?つまり、大魔王の力を封じたのか?
俺は信じられなかった。大魔王の力は圧倒的だ。それこそ、この時代の人間では全く太刀打ちできないほどに。
そんな大魔王の力が簡単にこいつに封じられたのがにわかに信じられなかったのだ。
「やっぱり、なんかの力を隠していたんだな。じゃなきゃおかしいはずだ」
サイカは炎の魔術を発動した。それはみるみる大きくなっていき、俺からじゃ天井は見えないほどまででかくなった。
「今の状態でも、これをよけれるかな?もしかしたらあんたなら抜け出せるかもしれないな。でも、俺は死ぬところを見たい。摩訶不思議なあんたのな!」
「…いや、抜け出せるさ」
「なに?じゃあよけてみろ!」
至近距離で魔術が放たれる。それは俺に直撃した…ように思えた。
すでに俺はその場から抜け出していた。
「…は?」
サイカの素っ頓狂な声が聞こえた。俺は大魔王の力を使っていた。つまり、封じられていたのを無理やり解除した。
「どうやった?」
「単純なことだ。無理やり解除したんだよ」
口頭ではそうは言っても、もちろんそれだけじゃない。こいつの力かなんかで俺の大魔王の力を封じようとしたのだろうが、無理なのだ。
たとえ、とんでもない力を持っていても大魔王の力の前では無力も同然。これが、世の摂理の一つなのだからどうしようもないに決まっている。
つまり、完璧には封じられなかったからこそ、その隙を魔術で無理やり解除したのだ。
「…俺の力を舐めるなよ」
妹にはバレるかもしれない。でも、それでも、今はこいつを排除しなければならない。
俺は密かに感じていたのだが、サイカの力は恐らく異常だ。
もしかしたらこの世界の最強に匹敵するレベルで。
そして、俺の中で何かが囁いている。こいつを今すぐ排除しろと。
「かかってこいや」
サイカが受けの体勢になる。俺の攻撃を生身で受け止めようとしているのだろう。俺はそんなサイカを一撃で殺すつもりで構える。
そして、地面を思い切り蹴った。
「…!!」
音すら遅く思えるようなスピードでサイカの体に俺の一撃が叩き込まれる。
チュドゴォォォオォオオン!!!!!!!
今日一番の轟音が耳をつんざく。
だが
「マジかよ」
サイカはその攻撃を受け止めた。いや、正確には吹き飛びながらも受け身を取り、そのダメージを最小限に抑えていた。
「マジかよ」
サイカはその攻撃を受け止めた。いや、正確には吹き飛びながらも受け身を取り、そのダメージを最小限に抑えていた。
「…ッハ、効くねえ」
「お前、何者だ?」
「それをあんたが聞くのかい?人に聞くのならまず自分から言うのがマナーってもんじゃねえのか?」
「お前だってそうだろうが」
話しながら、頭の中では高速で思考していた。
サイカはあまりに未知数だ。はたから見たら自分もそうだが、こいつは前世が大魔王だとかそういうのではない。はじめからその大魔王の攻撃すら防ぐフィジカルを持っている。それに、攻撃方法も今のところ全くわからない。
そもそも、どうしてこんなところで攻撃を仕掛けてきたのか。俺を殺すのなら、もっと別の機会があったはずだ。
「はああ!」
どこからか、声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。
すると、氷の魔術が高速で飛来する。それはサイカをめがけて飛んでいった。
だが、サイカはそれを手で薙ぎ払って防いだ。
俺は声の方向に視線を飛ばす。やはり、ユイが魔術を発動していた。
そこで、俺はひらめいた。
実はユイの魔術でユイがいちばん何が得意なのか俺は知っている。それは封印魔術だ。まだ、ユイのレベルでは大きなものを封印することはできないし、相手に触れないと発動しないという弱点もある。だが、魔術はある特性がある。
ちなみに、俺が無理やり封じられた大魔王の力を解除したのは俺もこの封印魔術を会得していたからだ。
「ユイ!」
俺はサイカに攻撃されないよう注意しながらユイのもとに駆け寄った。そこで、サイカに攻撃されないように何とか魔力を振り絞り防御魔術を展開した。
「何ですか」
「少し、聞いてくれ」
ユイはすぐに耳を傾けてくれた。
「ある考えがあるんだ。封印魔術はお前得意だろ?そこで、魔力を全部使って、俺の力を百パーセント出せるようにしてほしい」
人間の脳は体が壊れないように、体にリミッターをかけていると聞いたことがある。だけど、そのリミッターは言わば封印のようなものだ。だから、封印魔術でそれを解除してしまえば自分の持っている力を百パーセント出せるようになると思ったのだ。
「どういうことですか」
ユイは首をかしげる。俺は人間は脳みそが体にリミッターをかけていることを話した。
「…わかりました。危険そうですが、今は緊急事態ですからね」
ユイは聞き分けよく理解してくれた。
「助かる」
ユイは俺の体に手をかけた。初めてのことだからうまくいくか心配ではあったが、それは杞憂に終わる。
ユイの封印魔術で俺の体のリミッターが外れていくのを感じる。その感覚は自分でも驚くくらい圧倒的なものだった。
この状態で全力で殴ったらどうなるのだろう。
俺は自身の隠れていた力を解放する瞬間を想像して胸を高ぶらせた。
力を解放した主人公はどれくらい強いのでしょうか。サイカに関しては謎すぎると思いますがこれから明かしていくので、これからも楽しんで読んでいただけると幸いです




