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12話『君は何を学びに来た?』

 ここで勉強したいこと、と言われても……あまり思い浮かばない。なにせ僕は、自分の意思でこの部活に入ったわけじゃないのだ。僕は『竜舞坂を再教育を施すという名目で、強制的に入部させられた』だけである。


 だから、それ以外で……自分自身で、ここで成し遂げたいことなんて本当にさっきう言ったことぐらいしかない。


 そう。

 この勉強部で、自分の”優等生嫌い”をなくすこと。

 それぐらいしかないのだ。


 だがそれは、勉強したい……に入るのだろうか。コレはあくまでも目標であって、勉強したいことではないように思える。

 だが、まあ抱負としては当てはまっているだろうし、僕はただそれだけを渡された紙に書いたのだった。


「じゃ、まずは夢川。発表してくれ」


「立ったほうがいいですか」


「ん、どっちでもいい。好きなやり方でしてくれ」


「わかりました。じゃあ、立たせてもらいますね」


 貝絵先生に呼ばれた毒舌美少女が先制を決める。まず最初に夢川ユウカが発表するのだ。彼女はゆっくりと席から立ち上がり、咳払いした。

 そしてついでにと言わんばかりに、流れるように、僕を睨んできやがった。


 なんでだよ。


 ……柄にもなく、真面目に彼女のことを観察していたのが嫌だったのかもしれない。僕の視線って、そんなに卑猥か!?


「ごほん。改めて、そうですね。私がこの勉強部で勉強したいことは……純粋に数学や国語もそうですが。一番は『人に勉強を教える力』です。この力を、ここで勉強していきたいと思います」


 簡単に、分かりやすく。

 彼女がそう説明した。……国語が苦手。まとめるのが苦手。文章を読むのが嫌い。そんな僕からしたら、たとえちょっと冗長気味だろうと、すらすらと目的を喋れる姿には憧れてしまう。


 まあ、あの毒舌っぷりには憧れないけどな。

 僕はただの純粋無垢な天才紳士真摯男子高校生だ。


「頑張ってね!」


 竜舞坂はそう健気に笑いながら拍手をするもんだから、僕も同調圧力に負けて、仕方がなく遅れて拍手してやった。

 乾いた拍手の音が宙を舞う。同時に軽く一礼して、ユカユカさんは再び席へと腰を下ろす。


「うむうむ。向上心があって素晴らしいことだ。じゃあ次は……氷室」


「はい……」


 そしてついに僕の番が来た。やっと発表会は折り返し地点である。──とはいっても三人中の二番目なので、そこまで身構える必要はないし、そんなんで『折り返し地点』なんて表現を使うのは、二位中二位に続く言葉騙しみたいなもんなんだが。


「じゃあ、僕も立って発表するかな」


「別に座ってもいいんだぜ、氷室」


「僕は悪目立ちが嫌いなんですよ」


「目立つことに良い悪いなんてないさ。ただ目立つだけだ。周りの人が君にひかれながらな」


「周りの人間が僕に対して、引くのか惹かれるのかハッキリと明言してほしいところなんですが」


 引かれるのか、惹かれるのかによって……その目立つことに対してのイメージががらりと変わるだろう。やっぱりそう考えると、目立つことに良い悪いはあると思うのだけれど。

 良し悪しはある。ぜったいに。


 それにしても、だ。

 こんな風に曖昧な言葉は、受け取り側の僕が変にドキドキしてしまうのでやめてほしいものだが。


「どうだ? これは名言だろう?」


「どっちかていうと迷言だと僕は思うんだけどな……」


冥芸(めいげい)かもな」


「なんだそりゃ」


「お前はもう、死んでいる」


「僕は冥界にいるのか!?」


 おい。

 冥芸ってもしかして。冥界にいる人に送る芸とかでもいう気じゃないだろうな。もしそうならば、僕は相手が教師でも、恩師相手でも、容赦はしないぜ?


「っち」


「舌打ち?」


「まあ取り敢えず、発表してくれ。早くしないと、周りにからひかれるぞ?」


「……またソレだ」


 はあ。やれやれ。と、ため息に就きたい気分だ。そう。ため息をする仕事に就きたい気分だ。決して吐きたい気分じゃない。

 貝絵先生は良く分からないことを言うしさ。


「ごほん、じゃあ僕がこの勉強部で勉強したいことを発表します……」


 前置きは出来るだけ適当に。


「……と言いたいけれど、そんなものは特にないので。僕の抱負を発表します。僕はこの部活に入って『自分の優等生嫌い』をなくしたいと思います……はい」


 そして本題も適当に。

 それだけ言って、ぺこぺこと不安定に、不規則に頭を何度か下げたのちに席に座った。


「ふっ」


「優等生好きになれるように頑張ってねー」


 二人からゆっくりと拍手、そして声援が飛んでくる。暖かい声々だ。本当に。……一年生の僕じゃ、この二つの声が飛んで来ること自体ありえなかっただろう。そう考えると、この勉強部という世界は案外良いもんなのかもしれない。


 ……ちょっと待て。

 二つの声を声援と表現したけれど。竜舞坂はともかく、夢川のものは嘲笑うような苦笑だったぞ?


 果たしてソレを、声援と言っていいのだろうか?


 否。駄目である。


 ……絶対にそれは、僕を馬鹿にする笑い声だった!


「まあ氷室。それは大事なことだけれど、あまり気負いすぎないようにな。あまりそればかりを達成しようと見ていると、他のことが見えなくなっちゃうからな」


「それぐらい百も承知ですが……、心に留めておきます」


 この部活にいる中でまともなのが、もしかすると貝絵先生なのかもしれない。一見狂ったことばかりをしたり、発言する貝絵先生だが、実際のところ芯のある心の持ち主で、大人らしくメリハリもついている。ふざけるところはふざけるし、怒るところは怒る。アドバイスする時は、アドバイスする。

 唯一まともなのは、本当に彼女なのかもしれない。


「そこは、ありがとうエ〇い人! だろ!」


 ……どうやら、この部活動に関わっている人間にマトモなヤツは鼻からいなかったらしい。

 でも。彼女がしてくれたアドバイスは、僕も大事にとっておくことにしよう。


「さて、じゃあ最後に。竜舞坂」


「はい!」


 そして最後に回ってきたのが、待ちに待った竜舞坂の番だった。この勉強部を立ち上げる理由にもなった、超大役である。

 さてさて彼女はココで何を勉強するつもりなのか。勉強させてもらうつもりなのか。


 僕は彼女の答えに耳を澄ます。


「そうだね。私はこの勉強部で……勉強したいことはありません」


「?」


 自然に告げたその答えは衝撃的すぎて、一瞬だが脳の処理が追いつかなかったことをココで断言しておこう。

 ……なんだって? 勉強したいことがない、だって?


「というのは噓です」


「嘘かよ!?」


「そうです」


 ウソ⇔ソウ。

 ……しょーもない。


 そんなことを思ってしまう僕だが、まだ温かい目で彼女のことを見続けることにしよう。どれだけしょーもない嘘でも、きっとそれは竜舞坂にとって必要なものだったのだろう。

 なにせ彼女は随分と緊張している様子だったから。

 だからこんなくだらない冗談(ジョーク)をはさむことで自分の緊張を紛らわせたのだ。


 きっと、そうなんだろう。


「勉強したいことは、そうですね……私は一言じゃ言い表せません! というか、分かりません。だからひむろっちも、ユカユカも、これからよろしくお願いします」


「なんだって?」


「私は自分が何を勉強すべきか知りたいです。そのために私は精一杯、あらゆることのに全力を尽くします。だから二人とも、私にソレを勉強させてください!」


 最後に、彼女はまとめて言った。


「私に。『自分が何を勉強するべきなのかを、勉強の上で教えてください』!」


 と。


 ──何を勉強すればいいのか、分からない。だから私に……ソレを教えてほしい。そう竜舞坂緋色は言ったのだ。僕に溺愛するあまり、成績を落とした元優等生の少女。

 今もまだ謎が深い……黒髪少女。


 彼女は笑いながら、そう宣言するのだった。こうして、僕たちの『勉強部』は幕を開ける。

ここから、本格的に勉強部の物語がスタートするッ!!

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