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11話『抱負』

「さーてっと、早速……勉強部一日目の活動内容を説明しよう」


「おお!」


 ジメジメした部室内。

 部室の中央で立って始めての指示をする貝絵先生。それを囲むように三人で三角形、頂点をつくるようにパイプ椅子にそれぞれ座る僕と、竜舞坂と、夢川。

 とても簡単な構図である。


 そして簡素なリアクションを取る竜舞坂(ドダス)さん。

 彼女の黒髪が、どこからか来た風で靡いていた。


 それが、うちゅくちぃ。


「何をするんですか? やっぱり、勉強部だから……一日目からハードな勉強とか? あぁ、やだ。死にたい」


「そう悲観的になるな氷室。最初は堅苦しい勉強じゃないさ」


「あれ、誰か僕にエ○クサー使った?」


 勉強部。なんて名前だから、部活開始と同時に……すぐさま竜舞坂へ勉強を教え始めなきゃいけないもんかと絶望したが、実際は違うらしい。

 その前に何か挟むらしい。あれだろう、オリエンテーションってやつ。


 と。ここまで、僕のジョークは誰にも触れられずスルーされてしまったことを暴露するとしよう。え? 言わなくても分かっていたと? ああ、そうですか。


 ──余計傷つくぜ、その一言。


「ふん、私はしっかりとエリ〇サーを手に入れて直ぐに使う人間だ。お前には使わないから、安心しろ」


 だがここで救済か、それとも更に地獄へと突き落とす二つの顔を持つお言葉が先生から飛んできた。ああ。どうやらこのネタを理解出来たのがまず、この中で貝絵先生だけらしかった。

 それならリアクションが薄くても仕方がないね!


 そして〇の位置が二つで違うから、隠している意味もないね!


「っと、本題に戻すぞ」


「はい」


「……勉強部。その一日目の活動内容はそう、この部活動でどんな勉強をしたいのか! 抱負みたいなものを書いてもらう!」


「うわー、……ダルい」


「そこ、ダルいと言うな! これを企画した私を褒めろ!」


 どういうことだろうか。別に褒めても構わない……いいや、貝絵先生を褒めるのはなんだ癪なので、実行しないことにしよう。

 聞いて嬉しくなる言葉、あんたになんてかけてやらないからな!


「先生、凄いです」


「先生、ありがとー!」


 しかし……僕が言わなくて、大した影響力はないのであった。


 なにせ三角の星座を築くもう二つの星たちは、無邪気にも先生のことをそう褒めてしまうからだ。だから僕が言わなかったところで、大して意味はないのである。

 つまるところ、僕の策略は無意味にして終ったということ。


 くそう!


「それにしても、抱負。勉強したいことですか」


 抱負ではないけれど、ちょっと前に僕は、勝手に一人で『達成したい目標』は決めちゃったんだよな……。

 優等生嫌いをなくす、という内容で。

「別にそこまで長い時間をかけて、考えなくてもいいんだぞ? 簡単にでいいさ。あくまでも『がむしゃらに無心でやる』よりは『目標を達成するために』勉強をやる方が良いだろうと思ったまでだからな」


「簡単でいいんですね、じゃあ」


「本音と建前」


「……」


 貝絵先生という数学女教師は本当に性格が悪いと、ここだけの話で言っておこう。なんなんだ。簡単でいいと言った次に『本音と建前』、それだけの言葉を発するなんてさ。圧が凄いよ、圧が。


 簡単で良いとはいったけれど。

 ちゃんと考えろよ、という圧が。


 これが現代日本の悪いところ敷き詰めセット空間だ! ──見てろよ、板垣さん。自由なんてこの世にはないのだ。


「何を勉強するかあ。難しいなあ。ユカユカは?」


「私? 私はさっき言った通り。人に教えるということがどんなもんなのか、それを此処でしっかりと勉強するわ」


「やっぱりユカユカはひむろっちと違って、しっかりと考えてるねえ」


「私をそこにいる馬鹿盗聴変態と一緒にしてほしくはないものね」


「ごめんね!」


 なにがごめんねだ。夢川ユウカも、竜舞坂緋色も、少しは僕のことを思えよ。ちょっとぐらい僕の扱いが可哀想だとは考えないのだろうか。というか、いつの間にか僕の代名詞に追加効果が付与されていやがる。

 盗聴変態から、馬鹿盗聴変態だ。


 ……否定出来ないのが、悔しいところ。


「僕に言わせてみれば──そうだな。あんた達に関しては、そんなことよりもうちょっと人の心を気遣う気持ちを勉強してもらいたいもんなんだが」


 だから否定しても蛇足になるというか、失言になるだけ。そんな未来は見えきっていたので、ただ僕の願望だけを述べた。


「御託はいいぞー、作業に入れー」


「はーい!」


「了解しました」


 まあそんな僕の願いが聞き受けられることなんてなく、貝絵先生のその言葉をキッカケに作業が始まるのだった。先生は僕たち三人に長細い白紙を配り、これに名前ペンで『抱負』『何を勉強したいか』を書けという。

 僕の言葉なんて完全無視だ。まるで僕が虫けら、いいや、それ以下の存在だと笑っている。


 彼女たちのスルースキルは……、まるで霧視(ムシ)しているかのように、霧にまみれる僕が視れていないようにさえ錯覚してしまうほど自然なものである。


 やれやれだぜ。

 やれやれ系主人公を目指している氷室政明(ぼく)的には、こんな理不尽で僕が可哀想な状況でも『やれやれ』の一言だけで乗り越えなきゃいけない。


 だから、僕は自分の頬に往復ビンタ五百発をかますことで冷静になることにした。やれやれの一言を添えて……。


 流石にこればかりはいくら彼女でも、霧視せず僕のことを虫けら以上の存在だと無視出来ずの状態に陥ってしまうだろう。そう考えると、不思議と自分を殴る平手の威力はあがって、気分も高揚してしまう……。


 そんな変態的な僕が、此処にはいた。



 ◇◇◇



 我ながら、中々痛いビンタをしたと思う。


 いや、これは痛いで済んでいいのだろうか? 答えは、ノーだ。ダメだ。なんで自分で自分を殴っているんだよ。……殴られたおかげで冷静になったが、こんな風に我へと帰るのだったら、美少女たちに殴られた方が一億倍マシだった!


 くそう。


「急に自傷行為をし始めたと思ったら、次は冷静になってふとノートに文字を書き始める……。貴方の気分は山脈かしら?」


「僕は基本的に、感情の起伏が少ないほうのはずなんだがな。誰かのせいで活火山になったのかもしれない」


「じゃあ活動停止させてあげるわ」


「ナチュラルに殺すと言うな」


 ペンケースから取り出した名前ペンで、白紙にスラスラと文字を羅列させていく。まるで天才画家が絵を描くみたいに繊細に、鷹揚に、それでいて流暢に。


「……あら、やっと書き終わったの?」


「ああ」


「私と、竜舞坂さんはもうとっくに終わってたわよ」


「そうだな。お前らの性格は終わっている」


「貴方の人生も、ね」


 僕はもう死んで──ねえよ。

 ついにそのノリのまま勢いで、そう言ってしまうところだった。いいや、違うな。……僕は行ってしまうところだったのだ。あの世へ。

 いや、怖いなソレ。

 冷静に考えて。冷静に考えなくても怖いけど!


 僕の人生は、まだ終わらない。


「はあ、取り敢えず全員書き終わったな」


「……じゃあこれを、自分の心の中に留めて部活動に励むんですよね。分かります」


「違うな。せっかく書いたんだから、発表会でもしようか。みんなが何を勉強するのか、三人で発表していってもらう!」


 知ってたよ。知ってたけれど、どうしてこんなことをしなくちゃいけないのか……。貝絵瞳。あんたはとことん、僕が厭なことをしてくるぜ。まあそんな会話劇が僕的には楽しいから、良いんだけどさ。

 地獄みたいな空気が漂う教室で、一人ではなにも出来ないのに、喋らず自習しろと言われている瞬間よりは全然良いけどさ。


 うむ。


「じゃあまずはそうだな。氷室から」


「げっ、いきなり僕から?」


「いつもお前は最後にしているからな。今回もこういうのは最後のパターンだと思っただろ? 残念、最初でした!」


「……ぐぬぬ。卑劣だ! それでもあんたは教師か!」


「教師だよ。天才数学教師兼、みんなのアイドル美女巨乳女教師だ」


「前のはともかく、後ろのヤツはなんかおかしいぞ!」


「何がおかしい! 私はビッグ〇ムだ!」


 それ”も”違うだろう。

 というかこの人はビッグ〇ムがアイドル美女巨乳女教師と思っているのか!? 正気じゃねえ、いじょうだ!


 前、どこかでそんな終わり方をする手紙を見たことがあったので、使ってみた。


 そして。

 おかしなテンションの貝絵先生の接待をしながら、勉強部の始まりの活動。『ここで勉強したいことを紙に書く』ことが終わり、その内容についての発表会が始まってしまうのだった。

 最悪だよ……全く。

夢川はツンデレじゃなくて、ツンツンたんツンツンツンツンツツンツンです。

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