第95話 神器を習得せよ! ~下~
あれから三十分が経過したが、神器習得へ進捗は変わらなかった。ただ神力と時間だけが無くなっていく。
スサノオは進捗のない状態に実際に自身の神器を発現し、試して教えたり、神力の流れを確認したりと、感覚派であるがありとあらゆる手を尽くしていた。
ガチャリと玄関ドアの開く音が響く。優気の発していた神力に驚いたのか、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。
「神崎かぁ」
「かぁ、ってなんだよ。悪かったな」
優気の目線の先に居たのは青龍を宿す美奈だった。
「別に攻めてるわけじゃないんだけど。何なら神力が大きくて驚いたってだけなのに」
「もぉぉう…うるさい!うるさい!」
神器が身に付かないということはただ神力を開放しているだけという現実を裏付けてしまっている。そのため、優気は柄にもなく感情を露にすると他の二人はたじろいでしまった。
「俺は今『男の子の日』なんだよ!もっと労われ!」
「はぁ!?何言ってんの…そうやって女子のこと下に見てるのほんっとムカつくんだけど!」
睨み合う二人にスサノオは割って入る。このような展開はいつもスサノオが割って入るため、本人としてはもう慣れていたが、慣れたくはないものだ。
「まぁまぁ。ゆうきは今神器を習得できなくて苛立ってんだ。だからちったぁ許してくれ」
「神器…?私の弓矢のこと?」
「そうだ。今日から初めて取り組んでんだ」
「あぁ、もうダメだ…おしまいだァ…出来る気配がしない…」
四つん這いで項垂れて絶望する優気の姿は珍しく、美奈にとって新鮮なものだったが、内容が内容だったため驚きは少なかった。
「プッ。私、既に出来るんですけど~」
「うっせ!スサノオさん!場所を変えましょう!」
「お前ら…仲悪いな」
プイ、と両者は目を外す。その動作からは漫画の擬音が見えるようだ。溜息を洩らし、スサノオは口を開く。
「みなが来たのは個人の修行もあるけど、ゆうきの神器のアドバイスをするためでもあるんだぞ。だから、仲良くしろ!そして、早くマスターするぞ!」
「僕だって早く習得したいです。最近は化物が全世界に出現したり、色んな派閥が現れたりとか、もっと強くならないといけないのも分かってる。けど、もう30分以上取り組んで、全然ダメじゃ…」
「成長なんて人それぞれなんだから気にせんでいいのになぁ」
顔に手を当てながらクタクタと話すスサノオだったが、優気の言っていることも筋が通っているのは間違いない。何ならそれほど事態を重く受け止めているのは強い責任感の表れとも言えるだろう。
「いいか?習得にどれだけ時間がかかるとしても、完成を見届けるまでオレは付き合うからな!」
心強い言葉を耳にし、思わず優気は顔を見上げた。スサノオは手を差し伸べ、優気はそれを掴むと人形扱うように引き上げ、元居た場所へ立たせる。
「文句言ってても現実は変わらない!とにかくやるぞ!」
「は…はいっ!」
単純。そんな一言を思い浮かべた美奈だったが、どこか一目を置いていた。一つの目的に成功を収めるまで結果を追い求める行動力は今までの人生で必要な事のような気がしていたのだ。
青龍の力が暴走した際には、自身のことを擲ってまで周りの被害を抑えた。更には事の発端であり、殺意すらも混在した美奈も救われた。美奈は優気の強い責任感に尊敬に近い感情を抱いていたのだ。
「全く。そんな神力の使い方でやろうとしたって、真夜中になっちゃうわよ」
優気は美奈の声を聞くと神力の解放を止め、力を抜く。
「じゃあ、本辺はどうやってんだよ」
「普通に。こうやって、ポンっ」
「それじゃあわかんねぇよぉおっ!」
意図もたやすく神器の弓矢が現れると優気の矜持を刺激した。しかしながら、美奈は四神の力の暴走によって習得したため、どう説明しようと論理ではなく感覚としてのものとなってしまうのだ。頭を物理的にかき乱す優気に何か声をかけようと美奈は少ない語彙を振り絞る。
「その、なんて言うか。ぽわぁ~って」
「ぽわぁ~って。柔らかくって意味か?」
「そ、そんな感じ?」
「確信にかけるなぁ…」
残念がる優気に美奈は声をかけることが出来なかった。だが、感覚派のスサノオは二人のやり取りを横に何かアドバイス出来ないかと模索する。先まで、どれだけ神力を込めても現れなかったことを踏まえると、美奈のアドバイスは強ち間違えではないのかもしれない。そう判断した時には既に口を開いていた。
「ゆうき、脱力を意識してみろ」
「だ、脱力ですか?」
「あぁ。むちゃめちゃ神力込めて出来なかったんならその逆を試すのは悪くない話だろ?」
スサノオの説明に納得がいくと、優気は目を瞑る。神力の流れ、強弱、スサノオに言われた脱力を最大限に考慮しながら取り組む。
すると、優気の構えた場所に光が集まり始めた。優気の身に纏う装備と同色のオレンジ色に輝く神力の塊はどんどんと伸びていく。
「おぉ…これが…」
縦長に光る力に目を輝かせるがそれを機に掛けることもせず、更に剣のような形に変容していく。
「神器か…!」
確信。したところで、神器の成り損ないはサラサラと姿を消した。完全に習得できる流れのはずだったためか、一同は声を発することが出来なかった。
「これは…ダメだったのか」
優気はようやく状況の整理がつき、ぼそりと呟いた声が部屋に広がった。
「確かにそうだが、たった一つのアドバイスでよくここまで体現出来たな!」
スサノオの言葉で今の結果が成果であると認識させられた。
「後は回数重ねりゃ、自然と出来るようになるぜ!」
「は、はいっ!このまま頑張ります!」
「スゴイ…」
美奈が口元を両手で押さえ優気に尊敬の眼差しで見つめる。優気としてはまだ完成に至っていないため、今の出来に美奈の言葉は勿体ないと感じていた。
「私が…!」
「いやお前かい」
「だって私のアドバイスがきっかけじゃん。何か文句でもあるの?」
「ねぇよ。確かにここまで出来たのは本辺のおかげだ。あんがとな」
素直に感謝され若干肩が上がると、それに伴って顔の体温が上昇したような気がした。久しぶりに優気に褒められ、彼の力になれたことを実感したのだ。
「じゃあ続けてやってこうや!」
「はいっ!神力尽きるまで頑張ります!」
「その意気だ!」
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