第94話 神器を習得せよ! ~上~
「そうだ!俺の動きを予想しながら、今の動きに最善の手を尽くせ!」
「はい!」
戦闘想定の修行に優気は第一形態の四神化で、何とかスサノオの動きについていく。躱すことが中心だったが、刹那の余裕に対して攻撃も加える。大抵のケースでは、攻撃で生まれた隙にスサノオの攻撃がやってくるが、何度か読みを駆使して躱す芸当も身に着けていた。
スサノオは本気の体術ならば安易に優気を葬ってしまうため、本来の攻撃よりも力もスピードも抑えている。しかし、身体中には既に真っ青な痣や口や鼻から噴出した血が身体に飛び散っていた。
タイマーが鳴り、優気の拳を大きな布で包むように受け止めた。息切れする優気は攻撃を止められたことでタイマーの音に気が付き、四神化を解く。
「だから!」
スサノオの大声におどけるも、何を言いたいかはすぐに察した。四神化はもう間に合わない。
「『休憩』というまで四神化を解くなって言ってんだろぉおっ!!」
「はぶぅうぅぅううぅぅううううぅぅぅうううぅぅぅうぅぅううぅぅぅぅぅぅうっ!!」
スサノオの怒り混じりの拳が優気の腹にめり込んだ。このまま貫くのではないかとも思える威力だったが、これでようやく一割出した程度まで加減しており、優気の痛みに堪える姿に納得がいかない。
「あ、四神化解いてるんだった」
思い出すも、もう手遅れ。何とか返答をしようと試みた優気は嘔吐してしまった。「わぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁあ!!わっりぃ、わっりい!」
このようなことは初修行以来であり、あれから嘔吐用のタオルやらトイレットペーパーなどが修行部屋に設置されていたため、すぐに吐瀉物を掃除した。
「完治するまで休憩だな」
スサノオは背中を擦り、回復を促す。しかし、何故自身がこのような行動を取ったのか、再び考え直すとやはり優気に原因があったことを思い出す。
「これからは俺が『休憩』というまで四神化を解くなよ。実戦でも完全に安否確認が出来るまで解除したらダメなんだからな!」
「…はい。すみません」
苦しみながら反省する優気の姿にスサノオは罪悪感が込み上げた。いくら正しいことを述べたとしても良心が痛み、優気の前に手を合わせ「すまなかった!」と改めて謝罪をする。
「いや全然僕が悪かったaaaaaa」
「ゲボ出てる出てる!」
流石の反射神経で躱し、すぐさま嘔吐グッズを用意すると、再び処理に追われる。元の休憩時間は五分ほどだったが、三十分ほど長引いた。
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「そう!攻撃の時は拳に神力を少しでもいいから集めろ!」
「はいっ!」
あれから一時間は経った頃。まだまだ修行は終わることなく続く。地道ながら実戦の想定した組手が戦闘力を向上させることは間違いない。状況に応じた判断力、攻撃と防御の切り替え、神力の扱いなど、それら全てを向上させるのだ。
タイマーが鳴るとスサノオは優気の蹴りを飛び上がるように躱し、両足で挟んだ。優気は力を抜き、ゆっくりと挟まれた足を抜く。四神化解除をしないことを見届けると、スサノオは「休憩だ」と一言。放たれた言葉に四神化を解除するとその場で寝転がってしまう。
「かなり動き良くなってきたな!」
「本当ですか!?ありがとうございます」
息切れし、疲労は異常までに達していたが、師のお褒めの言葉に喜びが勝る。何だか元気が湧き、水分補給もかねてリビングへ向かう。
「次はちょっと新しいことやってみっか」
簡素な部屋の端辺り。射撃用の的の近くに設置された小さな棚に近づいた。目標物の辞典のような書物に手をかけると、目的のページまで捲る。捲る、捲る、捲る。
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休憩の終わりを告げ、優気が部屋に戻ってきた。
現在時刻は午後五時十分。優気の学校は三者面談とのこともあり、四時間授業のため、アジトに直接来ていたことから下校の心配はない。
しかし、新たな試みを行うのにも時間が足りるか微妙なところ。スサノオは頭を悩ませたが、会得が遅れたとて戦闘に大きな支障をきたすわけでもないため、指導することに決めた。
「じゃーん!これ何だか覚えてるか?」該当のページに指を挟んだまま、優気に表紙を見せつけた。
「これは!ここで初めて四神化した際に使った指導本!」
「そう!『これであなたの相棒に!四神の器を扱おう(今なら特別フードとフリスビー付き)』だ!」懐かしいだろ。スサノオの言葉に優気は首を縦に振った。
それもそのはず。あれから既に半年以上経過し、その姿を潜めていたため、どこか新鮮さを感じたのだ。
「基本的な動きは出来るようになってきたし、次のステップに進めようかなと思ってな」
「まさか、新技とかですか?」
「そんなとこだな!えーっと、23711だったけな」
「相変わらずページが多いな…」
再び「じゃん!」と、発表効果音を声で表しスサノオは大きな本を開き優気に見せつける。四神のイラストと武器のようなものが描かれており、優気は目を輝かせた。
「これは、神器か!」
「正解!ゆうきには、これから神器をマスターしてもらう!」
新しい試みに優気は拍手をして期待を表すと早速四神化し、修行の準備を整えた。
「よし。まず、神器っつうのは神力を使って武器を生成する。ってもんだが、これは神の使者が生まれてから既に決まりきってんだ」
「ってことは、スサノオさんの神器は『剣』って決まってたってことですね?」
「そういうこと!で、ゆうきの神器は…」
大きな本を開き、該当箇所まで指でなぞる。
「喜べ!オレと一緒の剣だ!!」
「おぉ!マッジっか!やったぁあ!」
両拳を握り大きく宙へ掲げる。スサノオとハイタッチを交わし、腕を組みランランと踊る。キャンプファイヤーかとも思われる動きで御目出度い空気が広がるも、まだ会得したという訳ではない。
スタートラインに立ってすらいない状態はぬか喜びと言わざるを得ない。スサノオは現実に気付くと激しく回る身体から腕を離した。慣性の勢いで優気は吹き飛び、再び怪我を負ってしまった。
「気を取り直して…コツを教えてくぞ」
「はいっ!」返事とは裏腹に顔の周りには大きな青痣が朱雀の力によって治癒していく。
「まずは剣を構えるように空中で柄を握ってみろ」
柄という聞きなれない言葉に首を傾げたが、何となく持ち手の部分を想像して構えて見せた。
しかし、スサノオは納得がいかなかったのか、鞘に収めていた刀を抜いて姿を見せつけた。優気は最初に構えた位置から腕を下げ、剣を相手に向ける意識で構える。
「そうだ!相手の喉元突き刺すイメージで構えるといいぞ」
「はいっ!」
刀を納め、本を開くと次の手順を確認する。刀を持つなどアニメや大河ドラマ、映画作品の世界でしか見たことが無く、少年心や日本人心を擽る感情が溢れる。これまで夢にまで見ていた優気だが、自身が今から実現できることにより気合が高まっていた。
「次は『構えたところに剣をイメージして神力を流してみよ』だとよ」
「わっかりました!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあ!!!!!!!!」
興奮から唐突に発せられた大声と共に今までに放出したこともないほどの神力を両の手に集中させた。これにはスサノオも驚き、慄いてしまったが、ここまでの成長が明るみに出たと思うと興奮の笑みが漏れた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!!!!」
「ん?」
違和感。スサノオは神力を向かう行方に集中する。確かに腕へ向かっているが、剣が現前するようには感じることが出来ない。
「どうした優気!?」部屋に駆け付けた怜真は大事を感じ取った。
「あぁ、怜真…」
神力を抑え、怜真の方向を向き直る。何やらやるせない表情を浮かべていたが、怜真にはさっぱりわからなかった。
「修行だよ。修行」
「そ、そうか。とりあえず、俺と璃久瑛は今日は塾があるから先に帰るからな」
「おう。お疲れ。スサノオさん、お疲れ様です」
「おうよ」
スサノオは怜真と挨拶を交わし、優気に手応えを確認する。
「何も起こる気がしません」とのことだったが、スサノオの感覚としても全くもって同じだった。
再び長い習得となりそうだ。先に思ったことをアドバイスし、修行は再開となった。
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