第92話 意図
ホームルームが始まる前に話していたように、怜真、璃久瑛、健勇はクラスメイトの目を上手く搔い潜り、空き教室に飛び込んだ。
昼時ということもあり、誰か料理を作るなり食事を取っているだろうと一同は予測していたが、リビングには誰の姿もなく、珍しく閑散とした空間が広がっていた。
すぐさま三人の後を追いかけるように何者かがベランダから入室する。膝を抑え、ぜえはあと大げさに呼吸をする美奈がそこに居た。
「本辺何かあったか?」
怪訝そうな顔を浮かべる怜真に応じることは不可能に近かった。しかし、何とか美奈は発言を伸ばそうと試みる。
「そりゃ、もう、夢叶や智花やら、クラスの人やらに神崎との関係、詰められて、大変、だった」
「大分息上がってんな」心配するようで煽てるような、両方の意味が捉えられ、美奈はスルーを余儀なくされる。
「優気には咲音がいるからな!ここから頑張れよ!」
「おい、黙れ。シバくぞ」
健勇の言葉に怒りの沸点が超えてしまった。美奈は一瞬にして四神化すると、神器の弓矢を大きく引いた。
「悪かった!悪かったからその弓を引くのをやめてくれ!!」
ピンポーン。インターホンが鳴り響くと健勇は電光石火の如く廊下へ逃げて行く。ため息をつく美奈だったが、四神化を解くタイミングで驚嘆する健勇の声が部屋に響いた。
なんと、リビングに健勇と共に姿を現したのは紛れもない優気だった。驚く一同に優気は頭を擦って困惑を表す。
「ごめんね。心配かけちゃって」
「心配は良いんだけど、大丈夫なのかお前」
「それが俺も驚いたんだけど、救急車乗った瞬間目覚めた。マジで検査とかしたけど何ともない。むしろ再テストがダルいわ」
笑いながら言うも、当人以外からすると笑い事ではない。しかし、問いかけた怜真はそれほどまでに何にも異常がないと判断した。
「まぁ、何ともないなら良かったわ。何なら俺の心配返せよ~」
「りっくんこそ病院で頭の中覗いてもらって早く厨二病治した方がいいよ」
「何を!?」
一連のやり取りを眺めていた美奈は胸が落ち着くような感覚があり、心からほっとした。安心とはこのことなのか。本人は意識していなかったが、気が付けば大きく息を吐きだしていた。
「ってか、保護者の呼び出しとかなかったの?」
「あっと、それなら」
「儂が行ったんだよ。儂が」
リビングの入り口から優気より二回りほど大きな男がスーツを着こなして姿を現した。かつて『全能』や『雷霆の化身』と呼ばれたゼウスがのそのそと部屋に入る。
「アジトの電話にかかってきたからな。アダムとクシナダと話し合った結果、駆り出されたのが儂だったというわけじゃ。全く!せっかくスーツ姿の女子によるハーレムモノの動画を見ようとしたというのに」
苦笑いを浮かべる一同に憤りを無言で感じさせる者がいた。再び四神化するも、その場に一石投じるかのように、明朗な笑いが階段から聞こえる。健勇は声の判断が付かなかったが、他の者は理解していた。
「それは悪かったね。ゼウス」
「本当じゃ!さっきも言ったが、これは貸しだからな。アダム」
とても小さな貸しだと優気は思ったが、元はと言えば呼んだのは自分のため内心にとどめる。
アダムと入れ替わるようにゼウスが階段を登る。先程嗜もうとしていたハーレムモノを堪能しに行ったのだろう。
「誰だこの少年は?」
「指さすな!失礼だろうが!」
璃久瑛が健勇の行動を指摘すると「いいよいいよ」と軽く反応を示した。
「初めまして、だね。健勇くん。僕はアダム。この陣営の長だ」
「それはそれはすみません!佐藤健勇です!!よろしくお願いしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁッッっすぅ!」
体育会流の挨拶に思わず近くに居た者らは耳を塞ぐ。健勇を除く優気たちは夏休みの期間に修行で出入りすることがあったため、認識があった。
対して、健勇は日々甲子園練習に明け暮れていたため、アジトに出入りすらしていなかったのである。そのため、今日に至るまでアダムとの面識がまるっきりなかったのだ。
「そんなかしこまらなくていいから。こっちは試合の中継見てたから知ってたよ。甲子園、活躍してたね」
「ありがとございやぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁああっすゥ!!!!
「げ、元気だね」
如何なる時にでも落ち着きを保っているアダムだったが、健勇のリアクションには若干狼狽えてしまう。色々な者と相対してきた中で、このような人物は初めてだったのである。
改めてアダムは優気に向き直り、話を切り出す。
「優気くん。本当に大丈夫だったのかい?」
「
はい。さっきゼウスさんとクシナダさんと四神化の確認したんですけど、問題なかったです。第二形態も特に問題ない感じでした」
「クシが言うなら大丈夫だね。身体に影響は無さそうだね」
「はい。頭とかの精密検査も問題なしでした」
「本当かよ。もっかい見てもらった方がいいんじゃねぇの?」
「それはお前の頭だよりっくん」
唐突に始まった鋭い発言に思わずアダムは大きく笑った。優気たちの普段のやり取りを見たことがなかったため、アダムにとって珍しい光景だったのだ。優気もアダムのそんな姿を目撃し、満足気な姿が見れて新鮮な気持ちがこみ上げていた。
「ごめんごめん、話戻そう」謝るべきはこちらだが、それすらも話を詰まらせると思い、口元でグッとこらえた。
「で、一番の疑問は相手の攻撃の意図だね。相手のことで優気君、わかることあるかな?」
「それが全く見当つかないんですよ。大きいな虫の羽みたいなの広げた使者も初めて見ました」
「あー、スサがモンスター征討に行く前に言ってたね。相手は優気くんのことを残念そうに思い偲んでたっぽいけど」
「相手が!?」
「そう。あの蠅みたいな虫が」
流石に呆気に取られたのか、優気は大きく驚くと顎に手を当てて再び思考を張り巡らす。どこかで会っていたのか、それとも戦っていたのか。色んなケースを想像するも思い浮かばない。
「まぁ、何かわかったらまた教えてよ」
「はい。いやー心配かけてすみませんでした。長」深々と頭を下げるとアダムは手を前に出してやめてくれとジェスチャーを取る。
「いいっていいって。もう済んだことなんだし、本人で解決してるんなら詰めないよ」
話の終わりの見越していたかのように、長めの黒髪を三つ編みに結わいた美女、ペルセポネが階段を下り、リビングに顔を出した。
「誰だこのビッグバンボデェわぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!?」
発狂する健勇を優気と怜真は後ろへ隠し抑えると、再び美奈は四神化し、健勇を脅す。璃久瑛は初見だったが、あまりの美貌に声が出なかったため、放置された。
「後ろが騒がしい様子だけど、どうしたの?」
「ほら、前加入した優気くんのお友達だよ」
「あらそう。私はペルセポネ。今からアダムと出張だから、バイバーイ」
そう言って手を振り、玄関へフェードアウトしていく姿を、璃久瑛はたるんだ顔で手を振って見送った。大興奮だった健勇は「俺もバイバイしたい!!」などと喚いていたが、暴走した健勇は何をし始めるのかわからないため、とりあえずソファーのクッションを顔面に押し付けてひたすらに妨害した。
「ということで、僕もそろそろ行って来るね」
「ちょっと待ってください!」
怜真はソファーに置かれていたクッションを健勇の顔に押し付けながら、本気が窺える顔でアダムを止めた。
「あの、一ついいですか?」
「いいよ」
「今日、フィルセルさんとかウォックさんとか一回も見てないんですけど、上で作業か何かされてるんですか?」
怜真の質問に優気と美奈は不意を突かれるように思い出す。ここ数日、修行に来ても彼らの姿をあまり確認しておらず、状況が不明だったのだ。
「彼らは今こないだ出没したモンスターたちの出現場所とその根幹、出処を探っていてね。それも日夜問わず部屋に籠ってるから、下に来ることはほぼ無いね」
「日夜問わずってすごいな…」
「もう一種のブラック企業じゃん」
「通りで会わないわけだ!」
怜真と優気の力が抜けると健勇が大声を発した。再び圧倒されたアダムはそれでは、と一言残し玄関を出た。
明日もテストがあるため、皆帰ることとなったが、優気は直接アジトに来ているため、学校の空き教室からここへ入ってきた怜真たちは学校に戻ることとなった。
「とりあえず異変があったら誰にでもいいから連絡しろよ」
「怜真は心配性だなぁ。いいんだよ優気はほっといて」
「はい、勉強教えません」
「ごめん!悪かった!ってか後でわからないとこあったら連絡するわ」笑いながら璃久瑛は手を合わせて謝罪すると優気とともに笑いが込み上げた。
「俺は素振りするから、優気!明日また頼んだぞ!」
「いやちょっとは勉強しろ」
各々の帰宅準備が整い、ベランダへ続く窓を前にする。優気もバッグを背負い玄関へ向かうが、怜真たちを見送ろうと振り返る。
「またな!とりあえず教室出て維持派のことバレないようにな~」
優気の言葉によって美奈はこの場に来る前のことを思い出した。先のことは元はと言えば優気が原因。何だか憤りが込み上げてくる。
「お前のせいで大変なことになっとんじゃぁあ!?」突如として四神化し、優気に向かって弓矢を放つ。
「ひぃい!」ギリギリのところで四神化することで躱すことができたが、連続で矢を放ってくるため逃げるように玄関へ向かった。
「なんか、俺らより攻撃激しいな…」怜真がボヤき、周りも相槌で反応する。四神化が解除され、落ち着いたのか、ゆっくりと瞳を一同へ向ける。
「あ゛ぁ?なんか言ったかおめぇら?」
「『『な、なんでもないです…』』」
急激に沸騰した水は再び常温に戻る。美奈のテンションに振り回されながら、空き教室出て周りの様子を伺った後、美奈は四神化でもしているのかと思わせるほどのスピードで待ち合わせた友人たちの元へ走って行った。
「あいつ、キャラ変わったな…」
「『な』」
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




