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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
2学期編
90/133

第90話 蠅の王

このエピソードは前話の続きです

お手数ですが、一話前から読むことを推奨します!

_________察知。


 優気(ゆうき)の学校である、船堀(ふなぼり)高校の全体に結界を張り替えた張本人、クシナダは異様な神力(じんりょく)を感じた。


今までの神の使者からは感じたことがないが、クシナダの長きに渡る生涯の中で数度感覚として残っていた。神力の正体はあまり関わったことのない天使や悪魔などの線で考察を深める。しかし、何よりも神力探知に特化した結界を張っているというのに、感じ取れる神力が極少量という点が恐ろしかった。


 着用していた着物を勢いよく持ち上げるよう、自室を飛び出ると一階に居るはずのスサノオの元へ階段を駆け下りていく。


この日、スサノオは先日出現し始めた化物の駆除を行うため、ありとあらゆる場所へ出張することになっていた。ゼウスやヘラなど、戦闘員として今すぐ戦うことのできる神の使者はいるものの、やはり『戦場(いくさば)の申し子』とまで呼ばれる旦那を頼ることが一番手っ取り早く、最も信頼が厚かったのだ。


「まだ出発してなかったのね!」良かった、と一言、安堵する声が漏れる。


「どうしたヒメリン。俺の見送りか?らしくないねぇ~。俺のこと心配してくれるのは嬉しいけど、こんなことで死ぬわけn」

「違うの!」


眉を顰めながら大きな声でスサノオの声を遮ると、何か危険な異変を感じ取った。神力探知を生業とするクシナダのことを踏まえ、スサノオは神力を研ぎ澄ます。優気の高校の校庭から同じ神力を感じ取った。


「んだこの神力…」


「ようやく気付いたのね」


「出発準備してる時に一瞬違和感が頭に過ったけど、気のせいかなってね」


無頓着なスサノオにクシナダは思わずため息をつく。何か神力探知の面で違和感があったら明言して、といつも言っていることを繰り返したいところであったが、対象のことに話題を振る。


「スサが今まで戦った中でこんな感じの神力感じたことある?」


目線を外し候補を絞るもなかなか思い浮かばない。ただ、学校に出現したという点で見当が付いた。


「こないだ同じように校庭に入ってきた二重人格野郎に近いかもな」


「確か、ルシフェルとか言うやつね。となると、やっぱり天使か悪魔ね」


「やっぱりって…さっすが~!結局、ヒメリンが一番すごいんだよなぁ~!」


「そういうのいいから!」


強い口調で否定するも赤面とへの字を模した目がクシナダを表していた。後頭部を擦る動作も追加され、可愛らしい姿を目の当たりにしたスサノオは目からは涙、鼻から血、口からは涎、耳から汁が勢いよく噴射し、顔が緩む。数秒ほど両者笑顔の時が続くが、あまりの汚らわしさにクシナダはふと現実を思い出した。


「笑ってないで早く行きなさい!!」二メートル越えの顔にビンタを当てようと何度もジャンプするもクシナダの身長では絶対に届くことなく、力の抜けた笑顔が続く。


 残念そうな顔を浮かべながらため息をつくと、仕方ないと一言吐き出した。

「このまま一生ヒメリンとじゃれあっていたいけど、優気たちが心配だ。行って来るよ」


優気たちの学校、二階空き教室に繋がるベランダに向かい歩き出す。腰に巻いた刀が小さな音を立てる。


「戦いが始まったら外界からの視覚と神力探知無力化の結界を張るわ。終わったら内側の結界を3回つついてね」

「あいよ」後ろ向きのまま左手を挙げる。


 「スサ!」


クシナダの急な大声にスサノオは戸惑う。本当に心配しているのかと疑念を抱き、振り向くと笑みを浮かべていた。意味がわからなかったが、とりあえず心配することはなさそうだ。


「頑張ってね」おまけに拳を突き出した。可愛らしい見た目から内在的な強さを感じられる。


「あいよ!」同じく拳を作って応じるとベランダの外へ姿は消えた。


___________________________________


 空き教室の出入口から走って校庭へ向かう。学校の静けさに違和感が走る。


___確かテストだととか言ってたな


結を出しながら玄関へ向かい走り続ける。


 玄関に付くと外のグラウンドにポツンと男が歩いているのを確認した。静寂な学校に合わせるよう、スサノオは粛々と動き、玄関を出る。直ぐ飛び込むか迷ったが、今は敵に気付かれていない状態。相手の動き出しを待つことにした。


 相手の動きを隅々まで確認する。何か特別な動きが無いかを五感、神力を最大限に研ぎ澄まし集中する。


 優気たちの教室の辺りに移動した途端、覚悟が決まったような表情を浮かべ虫のような羽を広げた。


___ここだ


 マッハに及ぶスピードで優気たちの教室の窓近くまで飛び上がる。しかし、スサノオの移動が速過ぎたため、相手を迎え撃つ格好となるも、カウンターを食らわすには至らないレンジとなってしまった。


唐突な出現に驚いていたのだろうが、慌てる相手からは何か想像以上の事態だと察する。思考とは裏腹に羽の制御が遅れたのだろう。足の届く範囲となり、スサノオは相手の右肩口から一閃、蹴りを放った。


「掠ったか!」


蹴りの当たる直前、敵は数歩後ろへ引いたのだろう。手応えの無い感覚に悔いるスサノオだったが、思ったよりも相手は残念そうな表情でこちらを見つめており、その場の地へ足をつけた。


 クシナダの言っていたもう一枚の結界が張られると、敵は周りを見渡した。自身に置かれた状況を危惧したのか、更に宙で距離を置くと敵は肩に手をかける。言い分を聞くか、即攻撃を入れるか、いずれにせよスサノオ優勢であることに変わりはない。


「しくじったな。まさか相手がスサノオとは」


「それは悪かったな。で、お前は誰だ?」


「ベルゼブブ。蠅の王だ。お初にお目にかかる」

右手を胸元へ添え、一礼する姿はどこかで見た紳士的な所作だった。


「俺のことは知ってるっぽいな。で、この学校にどんなようだ?虫野郎」

眉をピクつかせたが、まともに取り合っても意味がないと判断し、スサノオを相手にしなかった。


神崎(かみさき)優気に用があってね。まぁ交渉だ」肩に手を置いていた右手を眼鏡の位置を直すために使う。


「またかよ。そんなに朱雀の力が必要か?」

「朱雀の力が必要ではない。()()()()()が欲しいんだ」

何か意図のある発言だが、皆目見当もつかない。


「で、力尽くで取りに来るってわけか?」


鞘から刀を抜き、戦闘体制を整える。しかし、相対するベルゼブブは両の手を挙げ、空中から下りていく。降参をアピールしていたのだ。


「ルシフェルに勝った君とやり合うつもりはないよ」

「やっぱり天使か悪魔の肩持つ陣営か」


少し俯き答えを探す。ベルゼブブの時間稼ぎの線も考えられるが、潜在的に戦う意思を感じない。そんな直感がスサノオの戦意を削いだ。


「というより、()()()()()()()()かな」


「意味がわからねぇな。とりあえずゆうきに関わるな。今試験やってんだ」


「それはすまないね。だが、そちらがそのような対応を取るのであればこちらも、神崎優気にそれ相応の対応をさせてもらおう」


「にしては降参ポージングやめねぇようだけど」

大きなため息を吐くと両の手を下ろす。スサノオの煽りが怒りの琴線に触れたのか、という様子でもなく、どこか後悔すら感じる、そんなリアクションだった。


「最後に聞く。神崎優気と話をさせてくれないか?」


「要件次第だ。何でそんなにアイツに固執するんだ?前の二重人格野郎もそうだったけど、理由が分かんねぇ」


「誰かが危機に扮したら救いの手を差し伸べる。それが例え渦中に巻き込まれるとしても…」

手をゆっくりと下ろしながら話を続ける。

「神崎優気はそういう人間だろう?だから、僕らもその善意を享受しようと思ってね」


「ゆうきは悪意のある奴にはそんな気持ちかけねぇけどな」

「僕に悪意はないよ」

「いや悪意マシマシだぞ」

「ニンニクマシマシ?」

「ラーメン屋じゃねぇわ!」

「エレファントカシマシ?」

「く~だらねぇとつ~ぶやいて~、って歌わせんな!」


思いの外ノリが良いが、何故こんなにも人間のこと、もとい、日本のことがわかるのか。


「お前日本人のことに詳しいな。ちょっと好感度上がってきたぞ」

「じゃあ神崎と話させろ」

「それは無理だ」

「では神崎を仲間にするにはダメか?」

「絶対無理だ。絶対な」


目線を切ると、寂しげな眼を二階の窓へ向ける。どうにかして目標の姿を一目映したかったがそれは叶わなかった。再び俯くと口を開き始めた。


「残念だ。本当に…残念としか言いようがない」


傷ついた左腕を持ち上げると窓の方へ向ける。何らかの攻撃だと悟ったスサノオは刀を構え、戦闘体制を整える。優気を狙った攻撃を展開しようとするならば、張っている結界が防ぐも、変わった攻撃の可能性もあることから一瞬として気が抜けない。


「悪く思うな、神崎。そして__」


人名のような言葉が小さく呟かれた途端、中指と親指の摩擦が音を発した。スサノオの感じる範囲では何の変化も見られなかったが、ベルゼブブは伸ばした左腕を下ろした。


 「結界に気が付いてねぇようだな。悪いが、このグラウンドから校舎までに神力を通さない強固な結界が張られてっから、お前のやった能力だか術法(じゅつほう)だかは全部無駄だぜ」


「プフッ」不敵な笑みを浮かべるベルゼブブはこちらに憐れみさえ抱くような目を向けた。


「僕は能力をかけたんじゃない。()()()()()()


不覚。ベルゼブブは能力を仕向けたのではなく、先に手を打っておいたのだ。何かが優気の身に起こっていることは確信し、優気たちの教室へ目を向ける。


「悪く思わないでくれ。僕も罪悪感はある」


「テメェ…」刀を再び構えるも抗戦の代わりにベルゼブブは口を開く。


「今神崎がどうなっているのか、気にならないのか?僕を倒すよりもやるべきことはあるはずだ」


「こんのっ!クソ虫が…」


ベルゼブブの言うことは正しい。例えベルゼブブのブラフだったとしても、先の掠った蹴り程度で怪我の容態を引きづっていたことや降参の動向から、相手にすれば簡単に倒すことはできるだろうとスサノオは睨んでいた。優先すべきは目の前の蠅の王ではなく、優気であることは間違いない。


 「クソっ!」不服そうな顔で結界を三度突く。厚かった結界があっという間に解除されベルゼブブは安堵の呼吸を整えた。


「さらばスサノオ。他の皆も世界の現状維持、努力したまえよ」


羽を広げ、大空へ飛び立つとやがて神力は感じられず、姿は見えなくなった。


 スサノオは一瞬、優気の状態を確認しようと少し飛び上がると、窓越しからとらえた光景は目に余るものだった。優気が二人の教員に担がれ教室を出る瞬間を目の当たりにしたのだ。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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