第87話 護持派
このエピソードは前話の続きです
お手数ですが、前話から読むことをお勧めします!
「あの、もしよかったら何があったか教えてください。シャーヴィンさんって使者がどうして人を見限ったのか」
優気はよそよそしく尋ねる。多少強引だが共感性が高く、明るさが持ち前の性格を踏まえたスサノオへの質問だったが、流石に敷居に踏み込みすぎたのか、「うーん」と俯き返答に躊躇してしまう。躊躇う姿には、愚行という文字が頭に浮かぶ。
「もし言い辛かったら言わなくても大丈夫なんで!」
咄嗟に出た言葉もあまり意味を為していないことに言葉にしてから気が付く。その様子を察してかスサノオは「そんな気ぃ遣わなくていいぞ」とフォローを入れた。スサノオの言動は明るいものだったが、優気は「すみません」と反省がたっぷりと乗った謝罪を漏らす。
「まぁ、簡単に言うと、奥さんがきっかけだな」
「シャーヴィンさんの奥さんってことですか?」
「そう。奥さんは人間が好きだったし、深く信じてた。どんなに争いや汚い問題が起こっても信じ続けた」
「『まだ望みはある』っていっつも言ってたわね」
リビングの出入り口から小さな童女、クシナダがのっそりと現れた。端正な顔立ちに似合わない疲れ切った表情をしている。
姿見を察したスサノオは高速で台所へ向かうと、クシナダが席に着く前に飲み物とお気に入りのしじみ汁が置かれていた。戦いの最中と同じようなスピードであり、優気は意識を前へ戻すと何事もなかったかのようにスサノオが目の前に座っていた。
理解の追い付かない優気だったが、いつものことだと他の者は平然としている。だが、優気は次第に『究極の愛妻家』であるスサノオのことを踏まえるとなんだか腑に落ちるところがあった。
「ありがとうスサ」
「どうしたんだヒメリン。いつもより疲れてそうだけど」
「いきなり急務が大量に飛んできただけ」
しじみ汁を飲み、思わず「ぷはぁー」と安堵の声が漏れる。見た目にはそぐわない言い飲みっぷりに場が和むと何かを思い出したかのように三名に視線を送る。
「話の腰を折って悪いわね。続けて」振りに話の行き場を散策するスサノオだったが、ジャンジャンのアシストにより思い出す。
「そうだ。そんで、色々あって人間と直に交流する時に実際の人間の怖さを体験しちまったんだ。魔女だとか殺せとかの誹謗だったりとか、レイプされそうになったこととか、それで人を信じられなくなったんだ。精神の奥底から」
驚愕的な事実に優気は唾を飲み込んだ。
「そして、人間が第二次世界大戦をしている最中、遂に奥さんが動き出した。人間の『抹殺』を目的にな」
「神の使者界隈でも、かなり大きな事件だったな。私は間近で見てもなかったし、派閥なんぞ作られる前のことだったが、内容は知っていた。今の神の使者ならば大半は知っていることだろうな」
ジャンジャンの言葉にはどこか緊張感があった。自分が体験したわけでもなかったが、実際、触れることに烏滸がましさを感じていたのだ。
「直近で一番神の使者を多く滅ぼしたからな。最終的にその奥さんは封印され、ヴィンは自分なりに考えた結果、今の考え方になったってわけだ」
おしまい、と昔話を収めると当の聞いた本人である優気はあまりの内容の壮絶さに言葉を失っていた。
「その後しばらくして派閥が分かれ、今に至るって感じだな」
「なるほど…」そんな一言だったが優気の表情は酷く曇る。「何だか分厚い小説の概要を聞いてるみたいでしたよ」
「そうか?それほど語り手が良かったか?」
少年のように笑うスサノオに曇る感情が全く感じられなかった。感じさせまいとしていることもなく、ただ単に昔の話として既に辛さは消去されているのだ。
しかし、優気には冗談交じりの言葉は入ってこなかった。内容の残虐さに打ちひしがれるばかりだったのだ。
「具体的にどんな出来事がシャーヴィンさんの奥さんを襲ったのかはわかりませんが、ざっくりと聞く限り人々が卑劣なことをしたことは間違いないですし、偽善に聞こえるかもしれないですけど、とても胸が痛みました。自分が守ろうとしている人の中にもそんな人はいるんだろうとも思うと自分が揺らぐというか」
胸の内に思ったことを打ち明けると『いけないことを聞いた』と後悔が襲った。
「ん~確かになぁ」
スサノオが優気の意見を否定することはなかった。光には陰があるよう、物事には必ず表裏が存在する。その点を汲むと何とも言い難いところがある。
「それでもさ、今の優気みたいに自身ではない誰かのことを本気で想える。そんなところに人間の良さが詰まってると思うぜ」
スサノオの言葉は非常に温かく、暗い優気の心を明るく照らした。
___報われた。
優気の心情はこの言葉に限られるほど、安堵に満ち溢れたのだ。ジャンジャンは小さく笑みを浮かべ、妻であるクシナダはしじみ汁のお椀で表情を隠すも、満悦な笑みを隠しきれては居なかった。
「で、何でこの話になったの?」
しじみ汁を飲み終え、スサノオの注いだお茶に手をかけながらクシナダは弾んだ声を発した。スサノオとの距離が近いクシナダのことだ。大親友のことも深く関わりがあったに違いないと優気は予測する。
「実はシャーヴィンと思われる者が優気と共闘したらしくてな」
「とは言えど、確定はしてないんですけどね」「どういうこっちゃ」軽くツッコむとお茶を啜る。
「そう!前に多発した化物いたろ?あいつらが優気の乗ってた電車に急に湧き出したんだとよ」
クシナダは半分まで飲んだ湯吞をテーブルに置くと、疲れ切った目がだんだんと大きく見開いていく。
「それよ!」唐突な高声に一同は困惑する。
「1時間前くらいに全世界に小規模な神力が発生してるの。前に駆除した怪物たちと同じ反応示してたからそうじゃないかと思ってたのよ!!」
席を立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる姿は少女そのものだった。優気の予想でしかないが、ちらりと浮かぶ実年齢の高さを忘れるほど庇護欲を感じざるを得ない。
「それなら、ぶった切りに行ってくるか」
「いや、ゼウスとヘラを派遣させたから大丈夫。スサは明日行ってくれる?」
「了解」
「あ、そういえば」
肝心なことであり、この状況にきっとプラスになる情報を伝えなければならなかったと思い出す。
「さっきの電車の時に、化物が現れるところには苗みたいなのが置かれてて、そこから咲いた花弁が落ちることによって化物が生成されるってサイクルになってました」
驚く一同に言い忘れてしまい申し訳ないと、謝罪を意味したを手合わせで心の内を精一杯表現した。
「新情報だわ…2人と、あと外出中のアダムにその内容送っておくわね。ありがとう優気」
「なら、私も仕事にもd」
「アンタも明日スサと一緒に行きなさい」
渋々と頷くジャンジャンを横にクシナダは、仕事に戻る、と一言残しリビングを出て階段を上がって行った。スサノオも明日の戦闘準備のため立ち上がる。
台所に飲み物と食器をささっと洗い、部屋を出ようとしたとき、優気は反射的に立ち上がった。
「待ってください!スサノオさぁん!」
思わず引き留めるのに大きな声を上げてしまうも意思は伝わったはずだ。
「な、なんだ大きな声出して」
「あの、準備する前に僕と修行に付き合ってもらっていいですか?」
ほーん、と関心を持った声を上げると、「さてはさっきの昔話でモチベ上がったな?」と推測を飛ばした。
「恥ずかしながらそういうことです。さっきの電車の件も、今までも、誰かに被害が及ばないようにという意識で自分を磨いてきましたが、強靭な神の使者を前にしたときに自分の信念を折らずに突き進めれるよう、もっと強くなりたいって思ったんです!」
ジャンジャンは一連の流れに目を丸くしていたが、優気の返答を聞くと「やれやれ」と両名よりも先にリビングを後にした。
「そうとなりゃ修行だ!実戦想定の稽古つけてやっから、簡単にへばってくれるなよ!」
「はいっ!」
満足気なスサノオの後を優気は追いかけていく。
いつか実力も追い付けたらと思うが、この背中を前にしてすぐに諦めた。色々な辛さとそれを乗り越えた力をひしひしと感じるほど、神力ではない見えない何かが働いていたのだ。
だが、色々な神の使者が様々な特徴を持つよう、自分なりに成長していこうと強く思える。今までのスサノオの言動がそう思わせたのだった。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




