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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
2学期編
86/133

第86話 BIG BOSS

想像以上に長くなったので次話に分担

明日上げます!

 「そういえば今度からパスワードをつけようと思ってな」


「お、ウォックにしては良案だな」


「しては、って何だよ。優気(ゆうき)も一緒に考えてから帰らないか?」


「ごめんなさい!もう僕塾の時間なんで帰ります!」


「そっか。じゃあ決まったらメール送っとくからな」


「高度なモノに期待しておくんだな」


___________________________________


 進む電車内にて優気は直近の修行後に交わした会話を思い出すと、一件のメールに目を通す。手順と単語しか書かれておらず、それぞれのワードにどのような意図があるのか全く分からない。怪訝な顔を浮かべるとそっとスマートウォッチの電源を切る。


  維持派アジトの最寄り駅に到着すると、やや足早で目的地へ向かう。地下鉄での化物掃討にて結界を張っていなかったため、今どんな神の使者が襲って来てもおかしくない。何なら、単体で居る今こそ、格好の餌食である。


過去にはトールやルシフェルといった者らに襲われているケースもあるため、可能性は否めない。想起される負の記憶と考えが恐れを生むと、夕日が近づく昼時の道路に優気を走らせた。


 何事もなく、アジトにたどり着くとインターホンを鳴らす。息を吸い込むと、送られたメールに目を通す。


「ビーフストロガノフ、ドリトス、チンジャオロース、ボンゴレビアンコ、馬刺し」


ピピッ、と反応音が鳴り、ドアノブ三度捻りノックを三度すると同じ機械音が鳴る。


「Some Might Say、フライディチャイナタウン、Days of Wine and Rose、カンナムスタイル」


 またもドアノブに手をかけ四度捻るとガチャリと鍵の開く音がした。ドアを開き、靴を揃えて上がると廊下を走る。広々としたリビングにはソファーで息つくスサノオとジャンジャンが会話をしていた。


「おぉ、ゆうきか。今日修行だっけ?」

「違いますけど、急用でここに来ました!」

「まぁ座れ、ここは安全だ。起こったことを落ち着いて教えてくれ」


優気は話を聞きながら勢い良く席に着く。目を丸くするスサノオだったが、若干怒りが混じっている事にジャンジャンはいち早く気づく。


「まずあのパスワード何なんですか!?」


「俺も良くわっかんねぇけど、ウォックとフィルセルはすげぇ楽しそうだったな」


「一つ目は『ネーミングが強そうな食べ物5選』、二つ目は『ここの外国人が好きな曲』らしい。まぁ流石に解読は出来なさそうだな」


感心気にジャンジャンは予め机に置かれたメモをそのまま読み上げる。

「何感心してるんですか!?というか、にやけてるし!」

「いやー正直よくできてるなと」「おもろいよな!」

「どこがですかぁい!?こっちは決死の思いで帰ってきてるってのにぃい!!」


ちゃぶ台返しをやらかしそうな勢いのツッコミだったが、両名どちらも薄目を浮かべていた。


「まぁ何があったんだ」「そうだ!そこが重要だ!」


新規パスワードを相手にされず、歯を軋ませると溜息をついて話し始めた。


 「今日模試があったんですけど、帰りの電車で4月に僕らを襲った化物たちが車内でいきなり増え出しまして…」


「そんなことあったのか!」


「乗った電車は?これは記録しないといけない事件だな」


「16時37分の赤羽駅発、各駅停車、葛西臨海公園行きです。というか、僕の神力(じんりょく)気づかなかったんですか?」


「あぁ全く」


「今日このアジトにずっといたけど気づかなかったぞ」


疑問符を浮かべる優気はさらに謎が深まる。何故戦闘を幾度も乗り越えてきたスサノオが探知できなかったのか、理由が無いはずがない。


「それはおかしいですよ!四神化はガッツリしてました。それに…」

スマートウォッチを起動し、空中ディスプレイ機能を共有するとSNSの動画を流す。


「ほら、これさっきの電車で乗客が投稿した映像です!」

「本当だ。俺がよく倒しまくってるバケモンと一緒だ」

「本当だ。何なら優気を示唆するようなつぶやきもされてるぞ」共有画面をジャンジャンが操作する。


「『良く分からないけど、変態スーツみたいなのを着た男が駆除してくれたみたい』だそうだ」


ジャンジャンが読み上げると、勢いよくスサノオは噴き出した。読み上げていたジャンジャンも語末に近づくにつれ、若干笑いを漏らしていたが、スサノオに釣られて堪えきれない笑いを開放した。恥ずかしさが滲むも認めざるを得ない。


「はい…まさしく僕ですね…」

「変態スーツ!四神と呼ばれる神の使者が変態呼ばわりされてるぞ!ブワァあぁぁぁはっはっはっ!!!」


車内で老人に『特撮少年』と呼ばれたこともあり、自身の見た目が何も知る由も無い他者に何と言われても仕方のないことだと割り切る。


優気自身は気に入っている装備だったこともあり、余計に静まってしまう。スサノオは笑い続けていたが、ジャンジャンはその姿を察してか共有を閉じるとコホンと咳払いをして本題へ戻す。


「ともかく、何で我々に神力が感知できなかったのかが気になるな」笑い転げたスサノオが座り直すと会話に加わる。


「あーおもれぇ、おもれぇ。で、他に誰かいなかったのか?」

「あっ、協力してくれたじいさんが居ました!多分神の使者です!」

「多分って…優気に攻撃してこなかったのか?」

ジャンジャンは嫌なものでも見たかのような反応を示す。


「してこなかったですけど、尋問はされたイメージですね。僕と二手に分かれて化物退治を完遂してました」


「それはどうでも良いだろ。大事なのは戦闘スタイルだ!神器(じんぎ)がどうだっただの、術系統はどんなの使ってたのかだとか」


「どうでもよくないだろ!いいか?私が今絞ってるんだから口を挟むな」


「そんなんじゃ埒が明かねぇって」火花を散らす二名の間隙を縫い、何とか口を開く。


「ええっと、戦闘は遠目で一瞬しか見てませんでしたが、神器も術法系統も使ってなくて…ただ!木刀使ってました。それも物凄い剣捌きで!」


優気の言葉にスサノオがピクリと反応を示した。それもそのはず、刀使いのスサノオにその話は聞き耳を立てるワードであり、専ら意識するステータスの一つでもあった。


「その老人、言葉遣いに特徴はあったか?」

結局戦闘関連の質問を深掘らないのかと疑問を抱くも、真剣なスサノオの顔つきに答えを出すことが第一優先となる。


「うーんっと。難しいですけど、気楽な感じでしたね。この状況を簡単に打破できるような、そんな確信があったのかもしれないですけど」


「となると、化物たちを放った可能性もあるな。どうだ?何かわかったか?」


優気にとって頭をひねるスサノオは新鮮だったが、解はなかなか出ず、難航している様子だった。大体老人と共に居た時間は合計に換算すれば五分程度であり、印象は『ただ強かった』というだけでなかなか落ちていない。


「木刀を使う辺り刀剣使いが肝になる。大体俺がぶっ倒してるからわかりそうではあるんだけど、ふっるい恰好か、派手な恰好のイメージなんだよな」


「なんなんだその印象。とりあえず分からないってことか」


ジャンジャンの結論に纏められるも、「いや」と一言。スサノオから否定が割り込んだ。


「神器は全く違うが、剣技には優れてるってやつは数人居る」

「なるほど…そんな線も考えられますね」


優気に神力コントロールや体術などの修行を付けているスサノオは、今まで本人のフィーリングで教えることがメインのため、こんなにも頭を使う人物だったとは思いもよらなかった。「なんだその感心した目は!」と当人に突っ込まれるもその目線はしばらく続く。


「っというか、()()っつう見た目が引っかかるんだよな」


「なんというか、見た目は老人なんですけど、老人っぽさがないんですよ」


「確かに剣捌きがすげぇジジィなんてジジィじゃないわな。ただ、俺の中でジジィで剣技に特化してるやつなんてもう全員死んでるだろうしなぁ」


「優気、スサノオ」


口元を覆って考察していたジャンジャンが目線を二人に向けると、無くしていた物の最後に置いた場所を思い出したかのように目に光が差していた。


()()()()()()()()()。という線があるかも知れないぞ」


優気とスサノオにも同じ光が差し込むと思わず『それだ!』と声が重なる。予想だにしなかった新たな考え方が開拓された瞬間である。


「それなら話は早えぇ!」そう言うと、スサノオは勢いよく椅子から飛び上がり、二階へ向かった。困惑する優気だったが、対照にジャンジャンは笑みを浮かべている。


 二階からスサノオが降りてくると、優気にとって見慣れないスマートフォンを握っていた。目の前に楽しいゲームを置かれた子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、ジャンジャンに操作を依頼すると、耳にそれを置く。電話をかけ始めたのだ。


「出ねぇな」


「判断が早い。後スピーカー機能にしているからテーブルの上に置いても声聞こえるぞ」


耳から離し、テーブルに置くと皆に画面が見え、発信先が確認できた。それは優気も知っている人物で、数か月前にアジトに入るといきなり無理難題を仕入れ、漫才を披露させられるも、蔵前高校探索時には危機から救いを与えた変わり者。不可能を可能に変える『命終域のイレギュラー』との肩書と半身半神といった特徴が神の使者のでも際立っている。


「何でヘラクレスさんに電話を?まさか、ヘラクレスさんの能力が人の姿を変えるものだったのか!」

「違う違う。あいつの能力は()()()()()()()()だよ」

「えぇ~むちゃめちゃ面白れぇじゃねぇかよ」


優気がどんな能力か聞き出そうとしたタイミングで発信音が切れる。能力を打ち明けるな、と当人から警告が発せられたかのようだ。


「出ねぇな。かけ直そう」


「いや野暮だな。もう9割検討が付いたんだから放置でいいだろ」


「ちょ、ちょっと!僕は皆目検討付いてないんですけど」


「うーん、別にいいだろ」


「良くないですよ!!」


立ち上がる勢いと懸命な形相で自身の知的好奇心が飛び出した。敵となる神の使者の能力など、蔵前高校で戦闘になったアレスとギルガメッシュのことしか知らず、戦闘が絡む優気にとっては大切な情報である。


「戦う者として、知識は必要ですよ!」


「確かにな。それではお教えしようではないかぁ~我が弟子よ」コホンと咳払いをし、柄でもない知的感をアピールする。


「今回の件は老人の能力ではなく、()()()()()()()()()()使()|者が能力をかけた。ってことだ」

「おいジャンジャン。俺が説明するってのn」

「そして能力の使用者はヘスティア。彼女は対象となる者の見た目や神力の総量を変容させるという力を持つ。老人においては能力でそう見せたのだろう。そして、ヘスティアはバフの術法、『使術(しじゅつ)』を扱う」

「だからそのジz」

「すいません、質問なんですけど『使術』って前ジャンジャンさんが見せてくれた『呪術(じゅじゅつ)』ってやつの反対のやつって認識あってますか?」


優気も流れに乗り、スサノオの発言を遮る。ムッとした表情で両者を見つめると不貞腐れたのか、両手で後頭部押さえて背もたれに体重をかけるよう寄りかかった。


「正解だ。その『使術』の第6術法、『結界創術』を使ったんだろうな。ただ、神力の把握を防ぐための結界を張る『使術』と言っても、その分神力を使う。高度なレベルでなければ結界を張るための神力を感知の良い者にバレることも多い。何なら私の使術はレベルが低いこともあって、感知されやすいし壊れやすい」


「何ならよく壊されてるし何度か俺の奥さんに大目玉食らってるからな」


スサノオの発言がジャンジャンの心を抉った。胸を押さえ、薄弱な声を漏らす。気を取り直すのように咳払いをし、とにかく、と再び話を続けた。


「先に説明した能力と『使術』で作った結界を掛け合わせると?」


投げつけられた質問に頭を捻って考える。すると、ふと驚く答えが浮かんだ。


「結界を張った神力を探知させないくらいにさせたのか…!」


「そういうことだ。我々が優気の神力に気付けなかったのはこれが一番現実的な答えだろう」


ジャンジャンの力説に深く納得のいった優気は思わず関心の声と小さな拍手が漏れていた。ただ、そんな完璧とも言える考察に一つの疑念が浮かぶ。


「けど、何でヘラクレスさんに電話をかけたんですか?」


優気にとって、ヘラクレスとヘスティアから何の関わりも見出すことが出来ない。自身の把握漏れかとも考えるも、そもそもヘスティアという女性について今の今まで知らなかったため、どうしても答えが出なかったのだ。


「それはヘラクレスとヘスティアが同じ主義を掲げる集団、『護持(ごじ)派』の仲間だからだ。護るに持つと書いて護持。要は我々維持派とは異なる神の使者のグループだ」


「護持派…ちなみにどんな考え方というか、この世をどうしたいんですか?」


「『全人類に幻を見せ、各人が満足のいくまま生涯を終えさせる』というものだ」


優気は絶句した。そして、愕然ともした。あまりの一方的な理想の押し付けは大変理解し難いものがあったのだ。


「そんなの…今を生きる人間のことなんも考えてないじゃないですか!」


「もう人間を見限ったんだよ。ここに初めて来た時にも言ったが、私たちの敵というのは、この世を脅かす者たちなんだよ」


敵勢力の考えを再認識すると優気には納得がいき、だんだんと肩の力が抜けていく。そして同時に強くなる意味も再認識した。己の力がこれからの人類史を紡ぐことになると深く意識することとなったのだ。


話を戻そうと唐突に表れた感情は一旦収め、話を切り出す。


「じゃああの老人の正体は護持派の人だったのか…」

「だから!さっきから言おうとしてただろーが!!」


いきなり立ち上がると大声を出したスサノオに優気とジャンジャンは弱気な声と驚きが現れる。思わず先程までの非礼な行為に罪の意識を感じざるを得ない。優気から小さく謝罪が漏れていたことがその表れでもあった。スサノオは静かに席に着き、足と腕を組むと言葉を続けた。


「そいつは護持派のボス、シャーヴィンって奴だ。刀剣使うなら間違いねぇな」


「うちで言うところのアダムみたいなものだ。そして、」言いかけたところで息を吸ったジャンジャンは少し顔を引き攣っていた。どこか触れてはならない、言い辛そうな雰囲気がある。


「スサの、親友だ」


当然優気は驚くも、「それも()()()だ」とスサノオは笑みを浮かべる。



「ってことはスサノオさんはその考え方に賛成ってことですか?」




「馬鹿言うな!んなこと納得できるかぁ!」


組んでいた腕を解くと両の手を握りゆっくりと机の上に置いた。




「だからよ、考え直させるんだよ。この俺が」




親指で自身の胸を指す。粛々とした雰囲気は強固な体格と物騒な刀を腰携えた姿にそぐわないものだったが、覚悟の決まった目がスサノオの意思を際立たせていた。この決心は何にも変わらないだろうと伝わるものがある。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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