第82話 大泥棒、爆誕
どこかの研究室。広々とした空間に腰の折れた研究者と改革派の神の使者であるロキは研究結果を確認するため、様々な大きなカプセルに目を配る
カプセルの中には角のある人型の生物が目を閉じており、身体の至る所に管や吸盤が取り付けられている。それを日常では見ることのない色とりどりの液体が覆っていた。
「これか」
「そうですじゃ」
不敵な笑みを浮かべる老人研究者が年相応の笑みを浮かべている。ロキと研究者の目の前には、他とは別格に二つカプセルが聳え立つ。
一つは他のカプセルと似たような角が二本生えている巨大生物が入っていたが、もう一つはさらに異質で、歌舞伎役者のように顔に線が数本引かれており、身体も人間と同じような作りとなっていた。経過は良好のようでロキは悪い笑みを浮かべる。
「もうこの2つ。完成なんだよね?」
「はい…いつでも復元可能ですぞ」
「こっちのサムライなんだけど、僕が指示した与護搭載できた?」
「勿論ですぞ。頼まれたことは全て行いました」
喉奥で笑う研究者を隣に両カプセルに目をやる。ロキは少し悩むと、「先にこっちだ!」と始動のボタンを押した。カプセルの周りから煙が舞い、身体に付いていた医療器具が外れていく。
カプセルが開くと同時に中の液体が蒸発し、更に煙が舞う。そして、何百、何千年以来に開眼した目がしっかりとロキの視線と重なり合った。
煙の中、ロキは感じた。神力がうねりを上げる感覚を。煙中で詳しい動きはわからないものの、この部屋の至る所を駆け巡っているようだ。小さく俯く輪郭を親指で顎下に置くことで支えとなる。
「足音が無い…それに先に感じた神力がパタリと反応を消した…『静音の与護』と『虚実の与護』は確定したな」
推測と実証に表情が晴れる。煙も同時に晴れたが、老いた研究者の目に映る光景はロキの浮かべる表情と真逆な状況だった。
「あぁ…ろ、ろ、ロキ様ぁぁ…」
全ての煙が完全に晴れると老いた研究者が絶望する意図がわかった。今の数秒で他のカプセルが全て斬り壊されている。中の人型生物も体を為していない。更にはロキの首元に刃が突きつけられていた。
「何故わしゃ生きてる?そしてお主は誰だ?」
「僕はロキ。君を生き返らせた本人、文字通り君の『主』だよ。石川五右衛門」
あっけらかんとした表情。現実離れした回答に漏れてしまう声と息。怯えていた研究者は平静を保とうと耳をしっかりと傾ける。
「黄泉がえり…。人は遂に神業を為したか!」
状況が飲み込めてきたのか、質問は続く。
「何故黄泉がえらせた?強さを求めるなら信長公やら武田氏なんかが居たはずじゃろう?知恵を求めるのなら黒田の…官兵衛だったか?そんなのがおったろうに。生憎わしゃ持ち合わせるのは銭盗む位のことしかできんぞ」
五右衛門の言葉から記憶の復元が成功したことを確認できた。新たな脳の再開発は実験で何度も失敗に終わっているため、人間性や逸話など数少ない文献を頼りに記憶を復元したのだ。つまり、記憶通りの脳を造り上げたこととなる。
「僕は、君の多く望まれる善なる行為のためなら悪を買って出る。そんなスタンスがこの世を変えるために必要だったんだ」
「す、たんす?」五右衛門の脳内は酢と箪笥が浮かび上がる。
「考え方みたいな意味だね。聞きなれない言葉を使って悪い」
首を少し動かすものだから思わず刀を離す。五右衛門は自身への恐怖心が無いことに違和感を抱かずいられないが、ロキの言葉から悪気を感じることは出来なかった。警戒心を解くと小さく感謝される。少年のような出で立ちからは想像の出来ないほどの貫禄を感じるのは何故か。
「今僕らは悪人が得をする世の中を変えようと活動している。それを世は何百、何千もの時を重ねても解決に至っていないんだ。だから、僕と共に、一緒に戦ってくれないかな?」
_________拒否すれば能力で従わせるけどね。
ロキにとって、この場面は選択肢を与えている訳ではなく、ごっこ遊びの延長や娯楽の一興であり、建前上必要な通過儀礼としか考えていなかった。
「要は豊臣の猿みたいな者のことか?」
「そんなところだ。利権や自らの安寧のためにしか行動しない胡坐掻きを討つことに変わりはない」
考えながら刀を鞘に収めると笑顔を浮かべた。
「ならば協力しよう」
「本当か?助かるよ!」五右衛門の笑顔に合わせると握手を求める。
「泥棒は善行に対して騙しを語らぬ。なんにせよ、黄泉がえらせた主には儂にとって神同然だからのぉ」そう言って握手に応えると両者に笑みが湧く。
わざわざ能力を使うまでもなかった。天下の大泥棒と呼ばれた異名は飾りだったことに落胆を覚えるも、静かに胸中へ隠す。
「わ、わしの長年に及ぶ研究成果がぁ…」周りを見渡す研究者は受け止め難い現実を前に置いて行かれる。ロキはその姿に一瞥くれると声を上げる。
「僕からも一ついいかな?」「なんじゃ?」握手を解き一呼吸置く。
「この部屋に沢山置かれていたカプセル、じゃなくて、中が見える箱のようなもの。その中に人みたいな生き物が入っていたはずだが、何故全て斬り壊したのかな?」
血とカラフルな液体が入り混じり、切断された腕や胴体など、部屋の壁や床にはあまりにも酷い惨状が広がっている。老いた研究者は恐ろしい光景を前にして、それに触れないことを願っていた。現実だと受け止めたくなかったのだ。
「理由になるかわからぬが…」顎に手をやり首を傾げる姿は、本当に答えを詮索しているようだった。
「予感がした」その一言に続いて考えを広げる。
「此奴らを放ておくのは、何か悪しきことが起こる。目が開き、まず、そんな気がしてならかったのじゃ」
「そう…か」
『危機察知の与護』。この解答がロキの脳内で照らされた。導入を依頼した与護三種がしっかりと石川五右衛門に搭載されていたのだ。
「そうか。そうか…!」
感心と興奮が止まらぬロキは笑み、というよりにやけ面で現在の世の中を紹介し始めた。自信満々に、意気揚々に、新兵器を扱う悪人の姿がそこにはあったのだ。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




