第80話 タノシミは止まらない
このエピソードは5話前からの続きです
お手数ですが、前話から読むことをお勧めします!
「お2人さん!『アイエンブ!』の続き見ようぜ!」
「何言ってんだよ、もうあと30分くらいで12時回るぞ。親御さん心配してるだろうし、何ならりっくんの両親時間とか厳しそうな感じあるじゃん」
「もう昔と違って丸くなってんだよ。ちなみにみんなも許可貰ったってよ」
怜真に視線を動かすと、小さく頷き足早にリビングへ戻った。
テーマソングを口ずさむ璃久瑛は既に二期のブルーレイを準備していた。優気はあたりに目をやると、昼間のように夕食時に余った飲み物や菓子類が準備されており、ソファーや座椅子が見やすい角度で設置されている。これもサプライズの一環か、とも疑いたくなる。
「2期からってことだから健勇はあんまりピンとこないんじゃないか?」
「1話が1期の振り返りみたいなもんだから大丈夫大丈夫」
今日何度見たことか、『アイエンブ!』の文字が画面に広がると、同時にタイトルコールが始まった。現在時刻は十二時前。一期を堪能した分、二期に期待を寄せるそれぞれの瞳を他所に、璃久瑛はエピソードを再生した。
___________________________________
午前五時四十分。閉め切ったカーテンの隙間から朝日が差し込む。誰も目を瞑ることなく勢いのまま『アイエンブ!』を全話視聴し、大きなテレビがブルーレイ第四巻のオプション画面を映した。
拍手が自然と沸く。何かに打ち克ったような、そんな喝采だった。感情いっぱいに優気が口を開く。
「いやぁ何度見ても感動、その言葉に尽きるわ」
「途中の妹の話やばかった」
「優気泣いてたな、あそこ」
「そういう怜真、というかみんな泣いてただろ」
「最後の巻に変える時に花脇の手が震えてたな」
腕を組む凪行は眼鏡を拭きながら淡々と話すも、それと真逆に璃久瑛の表情はまだアニメから受けた感動を引きづっていた。
「かれこれ3周してるけどさ、泣いちまうんだよなぁ」
「わかるぞ!!わかるぞ璃久瑛ぁぁぁぁあ!!!」
「静かにしろ健勇!まだ6時前だぞ!」注意する怜真は掠れた声で何とか注意を促す。
「野乃果ぁ…野乃果ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁああぁぁぁあぁっっ!!!」
炎示は溢れ出る感情が止まらないようで、主人公の名前を強く叫び続けた。最愛の人が亡くなったかと疑いたくなるが、そんな描写は一切ない。純粋になる愛に萌える男の雄叫びが、九月一日の訪れを表す。
「ちなみに健勇は誰推しなんだ?」
怜真の質問はこの場にいる誰もが興味を引くものだった。推し合い。それは悩む健勇を他所に、大きな嵐の予感を感じざるを得ない。
「U`sのみんな、いいと思うけどな…やっぱり3年の西条だな!!」
「はい予想通り、安定の爆乳キャラだな」優気は呆れはてるも「違う!違う!」と弁明の余地を願う健勇の姿がそこにはあった。
「地区大会2回戦の4話で重苦しい雰囲気を取り除いたとこが良かったんだよ!!まぁ乳がデカいのもポイント高いが」そういう優気はどうなんだと投げかけられた。
「エミリン」
「ぶりっこキャラかよ!」
「甘い!わかってないなぁお前。7話のエミリンの家の話見てなかったのかよ?兄弟の面倒見る家族想いなエミリン見て何も思わなかったのか?」優気の強い説得を見て、勧めた本人である璃久瑛はにんまりと笑顔を浮かべている。
「優気は人情味あるキャラ好きだよなぁ」
「で、そんな怜真は誰?昼は陽菜夜だったよな?」
「うん。だが、2期を見終えてあやちーに変更だ。生徒会長職と舞妓の両立に苦悩したエピソードは俺の胸を撃った」
「ふぁあぁあぁあぁ!?俺が先にあやちーのこと好きになったんだよ!」
「残念。俺の愛がしっかり上回ったから。だが、どうしても譲れないというのなら、陽菜夜推しに帰ってやってもいいぞ?」
「悪いけど陽菜夜はないなぁ。ずっとおどおどしてるし」
「はい誰だー?陽菜夜のことをバカにしたのは。いいか?陽菜夜の成長姿に感銘を受けなかったのかこの馬鹿垂れ小僧め」理解の薄い優気に間近に迫り語り続ける。
「野乃果が一番なんじゃあぁぁぁあぁぁぁあ!!」
「ここまで亜姫ちゃん無し…なら、僕の物だな」
「だが、これで4周目。1期のことも踏まえて評価するのなら…やっぱりすずめだな!うんうん」
「どうせ声優だろ?声ブタは帰れな?」
「んだと怜真ゴラァ!?」
結局議論は七時頃まで続くと、順番に風呂に入り学校の支度を整える。風呂の扱い方で揉める凪行と炎示から眠気すら感じず、平常運転で事が進んでいく。
朝食のフレンチトーストを振舞い皆で食す。ぼやける頭のまま雑談が続くと、つけていたテレビ番組が次の番組へ変わる。
それを契機に家を出るところで、両親の遺影が飾られている大きめな唐木の仏壇に合掌をした。優気の心の中で整理の付かない感情と感謝を精一杯に伝える。
「いつもありがとう」と一声漏らし、後ろを振り向くと他の五人が同じように合掌していた。夢中になっていたからか、気配を感じ取れず、倒れかけるように驚いてしまう。
「流石にスルーして行けないでしょ」
「それも俺は優気のお母さんと交流あったしな!」
「オレは面識ねぇけど、なんつーか、やんねぇといけねぇ雰囲気だったし」
「友人の両親なら当たり前の行為だろ。優気の両親には哀悼の意を示します」
「みんな…」
前向きな気持ちで優気の中に眠る悲壮から引き揚げる。特に経緯を知らない炎示や凪行の想いが例え偽善であったとしても、自身に合わせてくれたことに感謝の念を抱かずには居られなかった。
「ありがとう。つか、時間ヤバいかも!」
雰囲気に飲まれては涙が零れてしまうのではないかと投げやりに廊下へ飛び出し、全員が家を出たことを確認し鍵をかけた。行ってきます。父さん、母さん。
___________________________________
二学期の始業式が終わり、本日が課題回収の日ではないことに知らされる。
まだ慌てる必要はなかった。昨日、『アイエンブ!』視聴と引き換え、夏休みの宿題が終わらなかった炎示は胡坐をかいていたが、回収日のことなんぞ知らずに遊び惚け、結局色々な教師の怒号を買うこととなったのだった。
次回からは2学期編です
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




