第77話 ウルトラ勉強会 ~下~
このエピソードは2話前からの続きです
お手数ですが、前話から読むことをお勧めします!
「結構急激な展開になってきたな」
「あぁ。まさかあの陽気な主人公が『舞妓辞める』と言い出すなんてな…」感情豊かな優気が腕を組み顔を落とす。
「やっぱり面白いだろ!?じゃあ2巻行くか」
「ストップ!!流石にそれはマズイぞ」
手を広げて意思を表明する凪行だったが皆があまりにも困り顔を浮かべるため、説得せざるを得ない。髪をかき上げるとサラサラとセンターに分かれると、大きな時計に指を指した。溜息をつき、流れるように口が開く。
「今何時か見てみろ」
「4時前だけど…はっ!あれから1時間も経ってんじゃん!」
「そうだ!ここから2巻目に着手してみろ。一瞬で6時になるぞ」
「確かに続きが気になるところだけど、炎示の課題がかなり残ってるんだよな…」皆の視線が炎示に集まる。
「よし、じゃあ次見よう!!」
「『お前の心配をしとるんじゃぁぁあっ!!』」
怜真と凪行のダブルチョップが炎示の身体を切り裂くと見事にソファーに頭を打って倒れ込む。
「じゃあ次の休憩でいいんじゃない?」
「そうだけどそしたら今日の内に1クールも見終わらないぞ」
「別に今日に見終わらないといけない理由なんてないだろ」凪行が現実を突きつけると途端に勉強ムードが漂い始めた。璃久瑛は図星を突かれるつつも、前かがみになり、思いを前面に押し出す。
「かといって気にならないのかお前は!?野乃果が落ち込み、幼馴染のすずめと里久含めたチームU‘sはどうなるんだよ!!」
「いや、りっくんは知ってるでしょ」
「の、野乃果ぁ…」
「炎示はガチ恋してんじゃねぇか…」
皆完全にアニメの虜になっているのも間違いない。それは、実のところ凪行もであった。日本舞踊と青春を掛け合わせた異質なテーマ惹かれるとともにストーリーの展開が気を引かせ、テンポも良く進んでいくことからハマらないはずがなかった。
皆が熱中しているところに水を差すことは凪行自身蟠りがあるものの、ここは割り切って今日の趣旨を通すことを優先する。
「取り敢えず今は勉強して、次の休憩に見よう。とりあえず黒羽は早く課題をやれ!以上」
皆続きが気になるのかすぐさま課題に取り掛かり始め、最初のような静けさが沈む日の代わりにやってきた。想像以上のギャップに凪行は戸惑うも他の四人は『アイエンブ!』の齎もたらすモチベーションで見事に集中力を増した。
一時間後の五時五分。炎示に問題を教えていた怜真は炎示の集中力が切れたことを感じ取った。もうそろそろだ。炎示の口が開くのを虎視眈々と待ち望む。璃久瑛と優気なんかは三十分経ったあたりでチラチラと時刻を確認する所作を見せていたことから、元々宿題をやる気力なんぞ持ち合わせていなかった。
「あぁ~もう無理!休憩しよう」
「そ、そうだな!1時間経ったしな。炎示は頑張った!」
「そうだそうだ。よくやったぞ!うんうん!」
優気と璃久瑛に褒めちぎられはにかむも、課題が一向に進んでいないことを知っている怜真はこの場に乗じて褒めることも正直なことを言うこともできなかった。
凪行を刺激させてしまうし、なにより、『アイエンブ!』を見れなくなる可能性もあるからだ。過度に持ち上げる二人から視線をずらし、その凪行の表情をおそるおそる確認するとメガネを熱心に拭いていた。これはもしや。
「璃久瑛!2巻の準備だ!」
沈みゆく船の艦長が指示をするように、怜真は璃久瑛へ向け大きな声で指を指す。凪行の気が変わらぬよう急いで円盤を取り出しリモコンを操作する。
『アイエンブ!第2巻!』
タイトルコールが部屋中に広がるとしばらく皆から声は聞こえなくなった。艶めかしさなど感じさせず、華やかで若き女子高生たちの奮闘記を目に焼き付けることに必死だったのだ。
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午後六時四十分。ブルーレイ二巻が終わり、ディスクを取り出した。璃久瑛はリアルタイムで二巻目の話数を視た際には呆気に取られる展開が何度かあったため、皆の表情をまじまじと確認していた。見事に天使にでも相対したかのように皆が感動に包まれ見たこともない笑顔を浮かべていた。
「いやぁ第6話最高だったな!」
拍手すら自然と起こる優気に一同は頷くばかりである。
「陽菜夜ちゃんの後輩力が熱かったな」
目を輝かせる怜真から璃久瑛は察していた。
___________こいつらは沼に片足を踏み入れてしまったと。同種の匂いが少し香ると、厄介オタはそれを逃しはしない。
「野乃果ちゃん…野乃果ぁ…」
炎示に至っては言うまでもない。紛れもないガチ恋勢へ昇華していた。
「残りもあと2巻か」
そう発言した凪行は大きく感情を露にすることはなかったものの、言葉にはどこか寂し気な声色が聴いて取れる。璃久瑛の予想通り、内心では「東火野亜姫ちゃん…いいキャラだな」とツンデレキャラに惹かれていた。
流れるようにブルーレイのディスクを入れ替えるとその光景で凪行ははっとする。これはマズイ流れだ。その一心で声が上がる。
「ちょっと待った。流石に連続はまずいぞ」
「んだよ!もう!!ここからだってのにぃっ!!!」
視聴済みの璃久瑛はここからの展開を重視しており、何度も止めに入った凪行に今日一番の怒りを交えた叫びを発した。他の三人はアニオタの境地をまざまざと見せつけられると恐怖さえ覚えてしまうが、確かに言わんとすることは理解できるものである。
「本当は一気見がベストなんだよ!!なのに何で止めるんだ!?」
「今日は勉強する日だろーが」
「オメェが言えたことじゃねぇだろ!!炎示ぃぃぃぃイっ!!この裏切りモンがぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあっ!!!!」
思わず優気と怜真は噴き出すと腹を痛めるほどの大笑いを上げる。確かに炎示が冷静な顔で言えたことではないが、正しいことには変わりはない。そんなギャップに笑いが止まらなかったのだ。
「とにかく、まずは1時間程度勉強だ。勉強をやることに意味があるからな」
駄々を押し通そうする璃久瑛の不満げな瞳を怜真の眼鏡越しに合わせる。自身の意図を察してほしい事もあり、緊張で生まれた唾をグッと飲み込んだ。
「かぁもう、やってらんねぇよ」意図を把握したことを信用する。
璃久瑛は言葉とは反対に、課題を前にして自席に着いた。璃久瑛の折れた姿は非常に珍しかった。今まで揉め事があると最後まで持論を貫くスタンスだったため、中学から同じような光景を見てきた優気からしてみれば、意外な光景だったのだ。
あれから五分経った。璃久瑛が名残惜しそうに駄々をこね続けており、優気と怜真が炎示の課題を教えながらも宥めることに注力していた。もうついに我慢が出来なくなったのか、リモコンで画面を起動させると無理やり第三巻のディスクをブルーレイに挿入した。
「あぁ!やりやがった!」
「まごうことなき害悪オタだな…」
「結局見んのか見んのか!?」
批判的な三人に一人の声が足りない。当の凪行に視線を向けると、両肘を机に付け拳を片手で覆い、口元に置いたまま発言することはなかった。
「え、いいのか凪行」
「そうだぞ、まだ時間も全然経ってないし」煽てるように怜真が言質を狙う。取り敢えず璃久瑛は急いで続きの再生オプションを進める。
「僕の中の1時間はもう、とうに、経った」
「結局止めた事実が欲しかっただけじゃねぇか!」的確な優気のツッコミが凪行の胸を突き刺した。
「仕方ないだろ!このまま皆肯定するのは勉強会の趣旨が覆るんだからな!」
「それは言えてるな!」
「『お前が言えた事じゃない!!』」
「クソッ!乗り遅れた」
怜真の後悔を他所に『アイエンブ!』とのタイトルコールが響くとそれから数時間、誰も大きな声など発することはなかった。
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「いやぁたまらなかったなぁ!おいっ!」
「これで2期につながるんだからな…一体どうなるんだか」
「野乃果!やっぱり野乃果しか勝たん!」
「『アイエンブ!』、地球にはこんなものがあったとは…」
一期を見終わった皆は見事にご満悦のようで、これには勧めた璃久瑛も嬉しいばかりである。ディスクをケースに丁寧に戻すと、何気なく時刻に目をやる。時刻は夜の九時前を指していた。
____九時、何かあったような。九時、九時、今日の夜。九時、九時、今日の夜飯。
「おいもう9時じゃぁんっ!!」
指を指して皆の視線を向けると、優気が全身に雷が落ちてきたかのように大声を上げた。何か重要なことを思い出した気づきのある声だ。
耳元で叫ばれた怜真は「うるせぇ!」と声を上げるが、同時に何かを思い出し呼応するかのように同様の声を上げた。慌ててスマートウォッチの通知を確認すると熱き野球男児から一件のメッセージが送られていた。
「健勇があと20分くらいで来る!急いで片づけて飯とサプライズの準備しなきゃ!!」
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




