第75話 ウルトラ勉強会 ~上~
八月最終週もとい八月三十一日。この日、優気は朝早くから起床し、リビングを掃除する。キッチン、個室、廊下、玄関と人目に付くところすべてに掃除機をかけ空気をリセットするために窓を開けた。
夏休み最終日は他の日と違い何か大きな意味があるような気がしている。そんなことを思っているとインターホンが鳴り響く。小さなドアスコープを確認すると見慣れた四人が立っている。
「みんなおはよ!さぁ入った入った」
「おいよ、予定の4人集まってっから」怜真を先頭に炎示、凪行、璃久瑛が入室する。
「お邪魔すんぞ~」「お邪魔します」炎示の脱ぎ散らかした靴を溜息をつきながら凪行が揃えるため、璃久瑛が立ち止まる。数秒だったが大欠伸をしていると目の前から凪行はリビングへと進んでいた。
「朝集合はきちぃって…」璃久瑛は前日に録り溜めていたアニメを一気見したことで睡眠不足に陥っていたのだ。そんな個人を気にせずに一日は進んでいく。
早速リビングのソファーにそれぞれ荷物を置いて陣取ると璃久瑛はつい、沈むように腰を掛ける。
「こら璃久瑛。人様の家のソファーが悪くなるような座り方はご法度だぞ」
「ごめん。ふかふかなソファーだからついやっちまったよ」
「オレもそれやろー!!」
ダイブする炎示が目に余り、凪行の説教が始まった。もちろん炎示の逆ギレもセットで付いてくると下らない口喧嘩に発展する。朝から元気なことは良いが、璃久瑛のような睡眠不足の人間には辛いだけである。
「ほい、お菓子。そんで今から怜真が飲み物持ってきてくれるから、もう暴れんなよ」
「『はい』」
二人してソファーから降り、正座になる姿には「お前らは仲がいいんだか悪いんだか」と流れるようにツッコんでしまっていた。この二人の関係性はウォックとフィルセルに通ずるものがあると優気ら維持派メンバーは想起するのも無理はない。
「で、これ何の集まりだっけ?」
炎示の言葉に苦笑いを浮かべる者、固まる者、聞かなかったことにする者、今にも怒号を飛ばしそうな者、とコンビニのサラダチキンの種類ほどの感情が小さな空間に交錯する。
「夏休みの宿題をやるって昨日RINEのグループで話し合っただろ!!お前は何を見ていたんだ!?」
「ちょ、追いつけ凪行!」
鬼気迫る表情が炎示に近づくと同時に危険も察知し、炎示と凪行の間に優気が割り込んだ。なんで朝から本気で喧嘩ができるんだ。元気な友の様子に若干の戸惑いと気怠さを感じる。先が思いやられる展開が続きそうだ。
「炎示。冗談なら今の内だぞ」
怜真は肩に手を置くと、その手には重さ以上のモノが乗っているように感じたためか、「冗談だって」と震えながら打ち明ける。
「ほら、ちゃんと宿題全部持ってきたぞ」
「ならそんな冗談つくんじゃない!!」
朝から怒り心頭の凪行は、炎示から離れると荷物を机に広げて塾の課題を広げる。当然のように夏休みの宿題は終わっているようだったが、寧ろ凪行にかかれば当たり前のことなのだろう。
そんな優等生は炎示に離れるように席を移動する。これなら少しは喧嘩が減るだろうと愁眉を開く優気は先程、何もツッコミが無かった璃久瑛に視線を向ける。こちらに気付いたのは良かったが、宙でボタンを押すようなジェスチャーをすると咳払いをする。
「あぁ、ごめん。暗黒騎士の結界。『ミューティングワールド』を発動してたから何も聞こえなかったよ。で、用件は何なんだ?」
冷ややかな目で睨み付け、一生発動しとけと、一言返し自身も夏休みの課題を開く。慌てる璃久瑛をスルーして炎示は口を開いた。
「んで、けんゆーも合流するって言ってたけど何時になりそうなんだろうな」
「自主練後って言ってたから夜の8時とか9時とかじゃないかな?」
「で、甲子園準々決勝進出祝いをするんだよな。プレゼントとか用意したか?」ちなみに俺はした。怜真は皆のことを確認すると流石に皆準備していた。誰か一人くらい忘れていそうだったが杞憂だったようだ。
「今日は盛大に祝うからそのつもりでな。今のうち食いたいもん考えておけよ」
「まさか、優気の驕りか!?」
「んなわけないだろっ」怜真の頭に軽くチョップを食らわすと痛くもないのに「いてっ」と発する。
「じゃあそれぞれ取り掛かるか。怜真はどこまでやった?」
「俺は後2つだな。数学のワークと過去問集。どうせ優気は何もやってないでしょ?」
「もちろん!」「そしてオレも!!」「だろうなぁ…」「実は俺、もう2つだけなんですよね…それもその筈、夏のモチベーション神、ホームワーカーの力を解放したからなッ!」
意味の分からない璃久瑛の発言後、シャープペンシルの筆跡だけが空間に響く。それはまさに塾の自習室のような静けさと同様のものである。
「ごめんって!!もうおふざけしません!!」
「ならよし。そして勉強しろ」
「はいっ!!」
___________________________________
怜真の言葉に皆がそれぞれの課題に集中すると時間はすぐに経過した。一時間ほど過ぎたあたりで炎示は消しゴムのカスやペン回しなどで時間を過ごすと、その三十分後には璃久瑛がうねりを上げる。
「もうダメだぁぁ~終わる気がしない」
「そろそろ休憩にする?」
「いいね!いいね!」
優気の情けに対して待ってましたと言わんばかりに炎示が目を輝かす。
「なら後10分待ってくれ。そしたらちょうど設問がページ跨ぎになるから」凪行の勉強への執着心に驚きながら関心を抱く。
「わかった。怜真は?」「休憩でいいよ」「じゃあ俺飯作ってくるよ」
キッチンへ向かおうとする優気だったが、怜真は昼食の選択肢が無かったことで何を作るのかを察した。
「当てるわ。チャーハン作るつもりだろ?」
「ご名答!」
「お前が作る飯のバリエーションと言えばチャーハン、野菜炒め、ペペロンチーノ、目玉焼きしかないからな」
「嫌だな~玉子焼きも忘れるなよ!」
「つか、そのくらい作れたら十分じゃねー?」炎示が寝転がる。
「確かにそれはそう」納得を示す怜真。
「これはこう」よくわからないが取り敢えず返答する炎示。
「DOはドー」読み方を大喜る璃久瑛。
「…」
「…」
沈黙。
「…ごめん」
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




