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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
夏休み編
70/133

第70話 是正

 一つのバイクを先導とし、目的地を目指し夜風を切る。傍から見れば暴走族などの輩のように見えてしまうが実行犯の柴澤凱矢(しばさわときや)はただ者ではなかった。


 まずはいつもデモを行っていると言われている道路に向かう。この日は事前情報によるとニュースなどで取り上げられるほどの大規模なものが開催される予定だ。


しかし、現地に着いてみれば何も起こった気配もなく、車の通行音だけが通りに響く。


「どういうことだ?」


木刀などをわざわざ持参したチンピラたちは首を傾げる一方で、凱矢の口角が斜めに少し上がった。その表情を偶然目にした眼鏡をかけた同級生は何かが我々の行動によって起きたと察した。


街中の歩行者は普段危険な場所と認識されているのか、人通りがほぼ無い。また、歩行者が居たとしても外国人を想起させる人々が少なく、予定通りの目的地に着いたのか疑う者もいた。


「次の場所へ行く前にそれぞれが持っている武器やら道具を準備しておけ」


その一言がかかると不良たちは抗争にやる気が湧いてきたのか緊張してきたのか落ち着きが無くなっている様子だった。


 次に向かったのは現地のクルド人の集会所だ。金も収めずに違法に滞在している者や行き場のない者などが集まっているとの噂が濃い場所であり、ここに来ればほぼ確実にクルド人に会う事ができると判断したのだ。


街中には明らかに外国人の人々が店を経営していたり、故郷にちなんだ飲食店などが出店していたりと日本味が薄くなっていくのを感じる。


 いざ目的地に着くと数人のクルド人が蹲っており、面倒を見るように何名かが奔走している。蹲っている面々は目が据わり瞳孔がぎっちりと見開いているため、ホラー映画に登場する恐怖の人形のようだった。当然のように不良たちの中には臆する者が多く、地の砂が後退りを意味する。


その反応が正しいモノだ。誰だって同種の生き物が明らかに不安定な挙動をしていたら危険を察知し、怖れにつながる。だが、何故凱矢はそんな恐怖に屈せずに近づくのだろうか。ここにいる誰も理解することが出来なかった。


「あ、アンタ助けてくださイ」この混乱に対応するクルド人が声をかけた。どうやら座り込む者と違い、体調に問題が生じていない健常者という事がわかる。


「どうかされたんですか?」物静かな疑問は煽りを含み、動揺を誘う。


「ちょっと前に友達や家族がおかしくなり始めたんですヨ!見たらわかるだロ?」

「何か知らなイか?」

「はーなるほど。そうですか」適当な相槌を取って座り込むクルド人に近づいて行く。


「凱矢君危ないよ!!」「何されっかわっかんねぇぞ!?」


不良たちから心配されるも、お構い無しといったところで、歩みを止めることはない。


____というよりも、自信を持って俺が彼に近づくのか何故わからないのだろうか。そろそろ察してくれてもいいはずだ。


「おーいおーい。聞こえてる?」


目の前で大きく手を振ったところで返事は無いが、凱矢から逃げるように身体を横へずれると体育座りをして顔を埋めた。


「こういう反応か」

「そうなんだヨ」

「アンタこのこと知らなイ?どうなってこうなったのか知らなイ?」

「アンタわからない?」


後ろをふと向くと不良たちは間抜けな表情を浮かべていた。不安に駆られる者、自身の行動に驚きを隠せない者、心配する者。思わず軽い笑いが噴き出てしまう。



「どうもこうも、()()()()()()()()()()()()()()()



 場が凍りつくとはこの現状を指すのだろうな。爆弾発言とも取られることを述べた後に自身を俯瞰できるほどの余裕すらあった。予想通りに対峙するクルド人たちは呆然とする。ふと理解を済ませた後の声は案外落ち着いていた。


「ど、どうゆうコト?何を言ってる?」

「だからそのままの意味だよ。このクルド人が大人しく蹲っているのは俺がそうさせたんだよ」

わからないのも無理はないか。後に付け加えながら不良たちに目をやるとクルド人同様呆然としたリアクションを浮かべていた。「しょうがないな」頭をくしゃくしゃと揺すると両者に目をやった。


「今から1週間前に俺はこいつらにあるモノをこの地域のコンビニに運ばせた」


「あぁ、俺らがバイクで運んだやつのことか」

集まる不良たちはたちまち思い返す。高校生が日当一万五千円を手にした案件だ。そう簡単に忘れもしないだろう。


「中は開けんなって言われてた段ボールの箱だったな」


「そうだ。更に3日前大きなデモが起こった。『日本は外国人皆殺し犯罪者』だとか何とか抜かしてたな」

「ソナこと言てナイ!」「聞き間違エダロ!」

「おまけにコンビニに入った集団が堂々と万引きするところも見たぞ」

「何言ってんダ!関係ないヨ!話してることト」

「あぁそうだったなすまない。話を戻そう。で、こいつが元気抜群に女に強姦迫ったり、路肩に堂々と排泄したりとやり放題な人生を送ってたってのに、何でこんな風に急に死んだように静かになったかってことだったな」


不良たちにとって聞き捨てならないようなエピソードが何個か流されたが、事の真相が明らかになることを第一に質問は押し殺した。息を呑み、ただ凱矢の答えに耳を傾ける。


「3日前に起きたデモの際。お前たちクルド人の家にある食べ物やらタオル等にここに運んだモノ、つまり()()()()()()を俺の知り合いが仕込んでおいた」


途轍もない発言に誰もが言葉を発せない。時にすれば数十秒のことだが自分の声すらも忘れてしまうほど呆気に取られてしまう。


「だからそいつは後1ヶ月はそのままだろうな。まぁもう戻らない可能性もあるけど。そこらへんは新薬だからわからないな」


「ど、どういうことだヨ!?オマエ犯罪者だヨ!!おかしいヨ!!!」


「犯罪者?おいおい笑わせんなよ」


不敵な笑み。あまり笑った顔を見せない凱矢が今日は珍しく何度も笑みを見せる。


凱矢の表情から不良たちは次第に事の大きさに気づき始めると、自らが生み出した危機感と不安感の拠り所を自身に寄せ付けないよう、事の発端である当人を見つめることしかできなかった。


「最初に法を侵したのはお前らだろう?」


視点を逸らすクルド人を前に辺りを見渡すとだらけたように寝そべる被害者と思われる者を見つめる。ペットボトルを握り、飲料が地面に零れたまま何もアクションを起こしていないことから、薬物の即効性を感じさせる。


ここだけで十名ほどだろうか、二千程のクルド人が居ることから二百分の一でしかないが、もっと被害を出してもおかしくない。


「さ、差別ダ!弾圧だヨ!!」「レイシスト!!」「日本人はレイシストダ!!!」


あまりの騒々しさに他のクルド人も寄ってくる。事情を仲間内に広めると声を合わせてレイシストと連呼する。騒がしい場が昔から嫌いだったが、年や経験を積むにあたってある程度は我慢できるようになってきた。しかし、流石に我慢の限界が迎え、凱矢の沸点は優に越えると握り拳が震えるほど力を込めていた。


「う゛るせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇえええぇぇぇぇぇええぇぇぇぇええぇぇぇえええぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇえええぇぇぇぇぇええぇぇぇぇええぇぇええええ!!!!!!!!!!!!!!」


普段大人しい凱矢がこの場の誰にも負けない大きな声を上げると周りには静けさがやってきた。次は何を言うのか、不良たちは固唾を呑む。


「あぁそうだ。俺はお前たちの言うレイシストだよ」


反論と思いきや肯定。この場にいる全員が呆気に取られるも、そんなことはないと不良数名は知っていた。


校内にて、混血の女子生徒にちょっかいをかけた際に殴り飛ばされた経験があったからだ。強い行動で示された答えは否定されることは無いと考えるも、今の凱矢ならどんなことを言い放ってもおかしくはないと不安が念頭を過る。


「ただ、お前たちの言っている外国人を差別するものではない」眉間を寄せるクルド人に対して、背後の不良たちは拳を握る。


「俺はな。『他者が創り上げた風土や規則を踏み躙り、好き勝手するお前たち』を差別しているんだ。大きな声を出すことと喋り続けることが嫌いな俺に、ここまで喋らせて『ニホンゴワカラナーイ』で済ましたらどうなるかわかるか?」


凱矢の下ろした手は不良たちに向けられており、人差し指を二度動かすとそれは臨戦態勢を告げる合図となる。


「二、ニホンゴワカラナーイ」


手本とも言えるジェスチャーを交えて凱矢に怒りを届けるが如く、火に油を注いだ。自然と湧き出た感情により舌打ちが鳴り、相対するクルド人たちを刺激すると、彼らの一人が拳を向け襲い掛かった。


急な対応となり拳を受け止めると、そのまま手前に引き左ストレートを顔面に打ち込んだ。一人が慌てるように倒れた者の安否を確認する。もう二人は獲物を睨むハイエナのように今にも殴りかかろうとする視線を送る。


____勿論その希望、答えようではないか。再び大きな声を出すために可能な限り息を吸う。


「目標はこの地区のクルド人の蹂躙!さぁあっ!行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇえええぇぇぇぇえええ!!!!!!!!!!!!!」


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおォォォォおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおぉぉぉぉおおぉぉお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


王に呼応する臣下の如く、不良たちは数的不利な相手に対して大群を扱うことでその場を治めた。そのスピードは速く、数の暴力とはこのことだと行動を持って知らしめると共に、不良たちに数で押し切ることができると自信付けさせた。


「日本人の尊厳を守り、侵略の魔の手を跳ねのけろ!!」


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおおおぉぉぉぉおおお!」

「やるぞぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおおおぉおお!!」

「進めぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇえええええええ!!!」


そのままの勢いで予め伝えていた動きに移行する。内容は凱矢以外の不良たちは五マンセルの行動でそれぞれ指示したエリアにいるクルド人を手当たり次第に襲うというものだ。


薬物患者は放置。それぞれの行いに責任感を持たせる。徹底的にこのコミュニティを破壊し、先人の創り上げた日本国を死守する目的をようやく開始した。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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