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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
夏休み編
69/133

第69話 カチコミ

 八月の第二週。猛暑を回避するため半グレ高校生たちは使われていない大きな倉庫の中で屯う。それも学校のない夏休みでだ。こんな不良の中に自習をしに来た受験生などいるわけがなく、学校に行く意味も無いためとんだ暇人、と一般的には考えられるがこの学生たちは違った。


ノルマやらアテンドの取り付けなど、仕事熱心な営業マンたちの営業談義のような内容で、目を瞑れば業界トップクラスの営業部署にいるような気分となる。しかし、実態は仕事内容は単なるアルバイトで、不良の長に予め指示された単発のバイトについて話していただけだった。


チンピラのような三人が倉庫に姿を現すと空気が淀む。混血の人間や気に入らない者に度が過ぎるような弄りをする集団であり、元々いた不良たちに一歩引かれていた。粋がる同級生にどこか恐ろしさを感じてしまう者が多いことから基本根が真面目な者が多いのだろう。チンピラは全員の顔が見えるところで振り向き表情を変えずに口を開いた。


「今日の夜、事前に聞いている奴も多いかもしれないが埼玉までカチコミに行くからな」あの、とすぐに声が上がる。目を細めて遠くで小さく手を挙げる不良に視点を合わせた。「知ってはいたんだけど、どうやって行くんだ?」


「もちろんバイクっしょ。運転に自信ある奴は運転。ねぇ奴はケツ乗りっしょ。多分」


「け、けど俺バイク持ってねんだけど」


「安心しろ。今のところ15台用意した」


凱矢(ときや)くん!?」


驚くチンピラを他所に『お疲れ様でぇす!!』と不良たちの声がボロボロの倉庫に響いた。「そういうのいいから」と一蹴するも不良たちの深く下げられた頭を戻すのに数秒かかった。そんな大層な身分ではないのにこの慕われようは何なのか、柴澤(しばさわ)凱矢は戸惑いを隠せずにいた。


普段物静かなのに粋がる同級生が恐れるからだとか極道の家系が噂として広まっていることなどが影響しているのだろう。十八年という短い歳月で自分がやった功績や長所なんぞ片手で数え切ることが出来てしまうほどの人間だというのに一体なぜだろうか。


「自習してたんじゃなかったっけ?」

「休憩だ。しちゃ悪いか?」

「あ、うぅ…いいと思うけど」


凱矢自身冷たくした覚えはないが、鋭い目と大きな図体からどうしても萎縮されてしまう。このようなことは何度も経験しているので、慣れてはいたが周りの空気が重く苦しくなるのは悪い気がしてならない。溜息が漏れ出ると共に同時に話を続けた。


「突撃する理由は知らないだろうから説明しておく」皆の背筋が正されると緊張感が走る。


「今から2,3週間前のことだ。まず埼玉に外国人が多く住んでいることを知っているか?」


「確かトルコ系の」眼鏡をかけた同級生の一人が反応を示す。


「そう。じゃあ最近暴動があったことは?」


「そんなの毎週1回は起こっているような」

小さく頷くと同時に意外と事前知識があって助かることに感心した。不良と言えど偏差値五十前後の都立高校。案外常識的な情報は知っていてもおかしくはない。


「では暴動に隠れてとある市の市長が重傷を負ったことは知っているか?」


予想通りと言わんばかりに不良たちはざわつき始める。それもその筈、これはどのテレビ局のニュース番組でもSNSでも大々的に取り上げられていない話題であり、噂程度に何件か目に付く程度の事象だからだ。


「結果は何にも咎められることなく何事もなかったかのように日常が始まっている」驚きの結果に倉庫に声が響き始める。


「数年前東京は県境に小さな検問所を設置し、他県に起こる外国人の共生問題を放棄してきたからな。話題にならないのも無理はない」


「む、寧ろ話題にしたくないだろうね…」


「その通り。だが、実際に怪我人が現れ今後も暴動が続くとなれば明日を安心して暮らすことなど夢になるかもしれない」


「そんなの嫌だぁ…」「おかしいよ、こんなの」「他にも普通に強盗だとかレイプとか起こってるらしいぞ…」「大体ここ日本だろうが!何でこんな占拠みたいなことされなきゃいけないんだ!」


それぞれの声がだんだんと大きくなると凱矢の横に居たチンピラが「ゆ、許されないよなぁ!?」と大きな声を上げた。周りが便乗するように大きな声を上げると勢いに耐えるように片目を瞑る。間近で大きな声など凱矢には久しく、抵抗感が湧き出てしまう。それを察したのかすぐに静まると、当のチンピラは先の威勢のいい姿とは反対に小さな声で謝罪した。手を払い、気にしていない素振りをすると再び口を開きだす。


「と、いう訳で。そんな腐れ外国人コミュニティを潰す。質問あるなら今この場で聞いてくれ」


重苦しい雰囲気の中、真横のチンピラは申し訳なさそうに声をかける。


「人数とかってど、どうなのかな?」


「映像と記事でしか見たことが無いが、暴動に参加したのはざっと150~200人くらいらしいな」


凱矢の発言に不安が過り再びざわめきだす。こちらは二十人程度しかおらず、圧倒的に不利な戦力差であることは間違いない。質問したチンピラは絶望的な顔をしていたが、これには誰もが同情せざるを得ない。二度手を叩くと倉庫が静まりかえる。換気扇の音だけがやけに目立つも不安のある視線は凱矢に向く一方だ。


「まさに不利の極みだな。ただ鮮度の良い土と肝心のタネは巻いてある。後は勝手に咲くだけだ」

「そ、それってどういう」

「まぁ夜にはわかる。とにかく、お前たちが今まで勤しんだことが社会のために行ったという自信となることは間違いないだろう。その結果と形を覚えておけ」


何を伝えたいのか誰一人として理解が出来ず空っぽの空間が広がる。スマートウォッチを利用して全員に特定の場所がマークされた地図を送信すると、役目を終えたかのように手を挙げた。


「今日の19時に送った場所、浅草寺にバイクで集合してくれ。前と後ろに座る者の割り振りは個々に任せた。それじゃ」


端的な説明でその場を去り自習へ戻りに行った。不良の集まる倉庫にはどこか釈然としない雰囲気が流れていたがやる気がないとは感じない。


大口を叩いた割に若干の不安が残るのは考えすぎだろうか。凱矢が自主的に持ってきた参考書の手が進む速度がこの日だけ遅くなった。




___________________________________


 バイクに乗り国道四号線を利用して足立区に入る頃。バッティングセンターを目にするとあることを思い出した。今日は甲子園で東東京代表が出場する日。敵地に乗り込む前に全く関係のないことだが、知りたいことを放置したまま何かに取り組むことに劣悪な拒否反応を示す凱矢にとってそれは野暮ではない。


「今日の甲子園第2回戦。船堀(ふなぼり)高校対鳥取南商業の結果を教えてくれないか?」


後ろに乗っていた眼鏡をかけた同級生は慣れない風の抵抗を感じながらゆっくりとスマートウォッチを使って結果を覗く。


____何故こんなことになった。夏休み中、学校に人を集めるだけで金が貰えるという話だったのに。困窮する家庭のために行ったちょっとしたボランティア活動という認識だったが、そんな美味しい話はなかったのだ。同級生にはこのバイクに乗った時点で『騙された』という受け取り方ではく、『自分の認識が甘かった』という印象が強く、後悔混じりにタブレットを操作する。


「まだか?」


「えぇっと、今ページ開けました。4対3で船堀高校の勝ちです」


「船堀高校の佐藤健勇(さとうけんゆう)の成績を詳しく教えてくれ」


異様な食いつきに同級生は困惑していた。その名前は最近よくニュースで取り上げられていることから存在は知っていた。しかし、普段野球なぞ興味がないため、試合結果の見方に戸惑っていると赤信号でバイクが止まる。待ち時間も相まって無言の空気感に押し潰されるような焦りに駆られた。


「センタリング機能で俺の前に出してくれ」


「えっ、けど、運転中のセンタリング機能は法律で禁止されてるはずじゃ」


「今はポリもいない。早くしてくれ」


落ち着いた声に怒りは含まれている様子はなかったが、それがより一層プレッシャーとなり思わず承諾してしまう。順当にページを進め成績を閲覧する。


五の四でサイクルヒットの四安打に加え一つの敬遠。さらに盗塁二つと圧倒的な打撃成績を残していた。歩行者用の信号が点滅し始めたため、試合展開を流し見る。どうやら延長まで行った様子で十回表に下位打線の選手が勝ち越しのタイムリーヒットで勝利とのことだった。


「もう解除していいぞ。ありがとう」感謝の言葉に加え急な発進に驚かされる。返事と一緒に話を続けた。


「その佐藤健勇って人。活躍しすぎてあまり好きじゃないんですよね。都立高校が出るのはスゴイと思うけどそれ人だけのチームって感じがして」


「そいつは俺の知り合いだ」


______やってしまった。


絶望的な空気感。もう向こうに着くまで声を発するのはやめよう。なんならこの場で下ろしてくれと頼みたい心境だったが、確かにと声が聞こえた。


「こいつは物凄い才能に加えて毎日惜しみのない努力を継続していた。その凄さに周りが霞むのには理解ができる。なんなら妬みが芽生えるのも必然と言っていいだろう」


元々マイナス思考が強い凱矢だが、個人の想いなんかに正解はない。自身の言葉は運転中ということもあって大きく発していたが、芯があることに同級生は気づいた。


「ただ俺が妬むとするならば、そんな()()()()()()()()を妬み羨むな」


静かで暗い柴澤凱矢の根の部分が同級生の眼鏡越しに写ったような気がした。深く理解や共感が出来ないのは自身の頭の出来の悪さだと結論付け、この時ばかりはもっと頭が良ければと後悔した。


「柴澤くん…」

「何だ?」

「あのさ…変わった?」

「何がだ?」

「ほら、前は何でも一人で行動してたイメージだったから…」


凱矢の存在は孤独というよりかは孤高のイメージが強かった。要が無ければ誰も相手にすることはなく、解せない行為が目に付けば静かに顔を出す。


「ボッチって言いたいのか?」

「そんな嫌味じゃないよ!」


そのような意図ならば、既にバイクから振り落とされ、硬いコンクリートに全身を強く打ち付けているだろう。


「ただ、あんまり前に出る印象が無かったっていうか、集団を率いてっていうか…」


「確かにそうだな」


赤信号で止まると、会話も同時に止まる。先から度々この沈黙に苛まれてばかりだ。信号機に振り回される自分は情けないと俯くと、眼鏡が少し下がってしまう。


「ただ、正義が成るのは複数からだ。正しさを護るのにはそれ相応の数と行動が必要不可欠」


呆然と話を聞いていると、バイクは再び走り出す。凱矢はどこへ向かっているのか、同級生には分からずじまいだった。


だが、凱矢自身、この行いは柄ではないと胸の何処かが以前と非なることに若干の疑念を抱く。


関わりを持たず、周りに迷惑はかけない。


この信条を変えようとは思うはずが無いのに、いつから変わってしまったのだろうか。目的の地に向かう中、風を切る感覚が余計に疑念を煽っている。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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