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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
夏休み編
68/133

第68話 アダム。即ち長

 日常生活において、家の中で天井が空くことなどあるものないだろう。だが、優気(ゆうき)の居る今この場はの元に晒されていた。朱雀の力を解除し、鳥のような姿から元の姿へ戻ると慌ててスサノオにしがみつく。


「い、家が…あ、アジトがぶっ壊れちゃいましたよ!」


「これはな。事故だ。安心しろ」


こんな状況で発せられた答えに冷静さが窺える。何か簡単に修復することができるのか、あるいはこんなことが頻発するからか。軽量化された建物が振動を通じて足音が聞こえてくる。音の元は階段を降りてくるものだ。


「おいスサァ!!何してんだよ!?」悲観的な声色とは反対に勢いよく肩を掴むジャンジャンはスサノオを大きく揺さぶった。


「これじゃ通行人に疑われ、噂が噂を呼び敵陣営にバレたりもしたら…」

「考えすぎだよ!しょうがないだろ四神化第2形態のゆうきと初めてやり合ったんだから」

「全然理由にならねぇだろうが!というか、まさか優気がやったのか?」

「いやいやそんなことないですよ!さっきのバーベルが落下したからであって、ぼ、僕は何にも関与し、してないですよ!!」


目をキョロキョロさせ言葉も焦りが見られることから虚偽を感じさせる。ジャンジャンからしてみれば、完全に犯罪者がアリバイを隠す時の言い訳にしか聞こえず、敢えてやったのかと疑いたくなるが、恐らく二人の戦いによる衝撃でだろうと結論付けた。


「ッててて…」二階に居た士純(しじゅん)は運悪く崩れた天井の真上に居たようで、バーベルの落ちた反対側から声が聞こえてきた。


「全く何があって家が壊れるんだよ~。っっっっッ!!?」


理解に苦しんだ後に唐突に叫び始めた。あまりに突然のことだったため、驚きと共に注目が必然と集まる。


「ぼ、ぼくのハンニョン2号がぁぁ…」


過度に落ち込む士純に同情の声はない。というのも、先の組手中にスサノオに吹き飛ばされた優気は、ハンニョン2号と共に壁に押し潰されたこと気づいていないため、天井落下の弊害だと答えを出すことしかできないのである。


「もういい!壊した奴の首を刎ねる!何としてもだよ~!!」


「感情的すぎるだろ…」「ステレオ韓国人ネ!」それらの言葉は士純の中でゴングを切らせた。優気は見慣れた口喧嘩に相手にすることなくこの惨状について頭を回す。


 優先度を踏まえると屋根と天井は何とか塞がねばならない。

「とりあえずこどこかで資材買ってこないと」


「おぁっと、ストップだゆうき」腕を掴んで急ぐ足を止めさせる。


「今は空き教室とこの家がシンクロしてる状態。つまり、空き教室に居ることは変わらない。進むのは良いけど、この先の玄関を抜けようとする手前くらいで見えない壁に当たんぞ」


「えぇ…でもアジトはどうせ遠いですよね?こないだまで岐阜とかにあったらしいし…」


「安心するんだな。今回のアジトは…」溜めるジャンジャンの間に唾を飲み込む。


「お前と同じ地区だ」「それって…」呆気に取られているのか優気から返答が遅れる。


「わざわざ学校で修行する必要なくないですか?」「それ言うな!!」ジャンジャンが横からツッコむ。


「まぁよ。近くにホームセンターがあるから、とりあえず屋根塞がるくらいの大きめの板買ってきてくれ」


駅と場所をそれぞれ教わると、口喧嘩の輪を素通りし、ベランダを出た。何の変哲もないいつも通りの学校の廊下に困惑するも、向かうべき場所へ走り出す。


___________________________________


 アジトのある街に電車を利用して到着した。明かりの少ないタワーマンション、年季の入ったパチンコ店、人気ひとけの無さを感じる駅のロータリー。同じ地区と言えど、自身の住んでいる街が都会とは言えないが、どこか閑散としている印象をを受ける。


優気にとってこの街は初めてであり、地図アプリを開いて辺りの情報を確認する。スサノオの言っていたホームセンターを見つけ、足を運んだ。


 優気はホームセンター自体初来店ということもあり、若干の不安はあったものの、とりあえず長さの異なる板をそれぞれ購入。色は部屋に合うモノにしたが、自主的に工作なぞ触れたことも無いためアジトに近づく度にどんどんと不安が掻き立てられる。


 住宅街を横切り、アジトと思われる家が見えてきた。近くだと思っていたホームセンターからかなり歩いたが、目先ということを知ると疲れも忘れられる。


 ただ横切る空き地に目を疑うような光景がそこにはあった。大きなラジカセを立て、そこから流れるちんけなBGMに合わせてボインボインと乳を揺らす美女がジャンプをしていた。それも、水着のような露出が多い服装でだ。


日本において、高級地でのパーティーでもないかぎり中々見られず、高校生の優気には刺激が強すぎるが故に思わずその場で立ち止まってしまう。


『OKだ。さぁ次のエクササイズだ!今度は肘をついて寝転がってくれ。日頃よくするだらけたポーズだ。リズムに合わせて足を~はい、ワンツー!ワンツー!』


掛け声と一緒に声と足を上げる美女にもうそれは釘付けだった。堪らない。その一言しか優気の頭の中には浮かんでこないのだ。


『OKだ。次はそのまま仰向けになろう。足を天に向けてぇ~、はい!ヒップアップ!ヒップアップ!上げていこぉぅ~!』


気付かずに美女の前に立ち止まる。もうこれは既に犯罪の域に達したといっても過言ではない。しかしこのケース、元より美女の露出が公然わいせつにつながることになるのだろうか。それほどまでにこの女性から溢れ出る、大人の女性特有の妖艶な雰囲気が優気を虜にする。


『さぁ次は足を90度直角に曲げて~はいキック!キック!キック!キック!』


美女の横で同じことを繰り返し行う。何故かはわからないが目的を忘れて優気も一緒にトレーニングしていた。


『再び立ち上がって~いつもの行くぞぉ~。足ふみでリズム取って~はい、ワンツースリーはい、膝上げ!膝上げ!膝上げ!膝上げ!逆側行くぞぉ~。足ふみ、足ふみ、はい、ワンツースリーはい、膝上げ!膝上げ!膝上げ!膝上げ!』


美女がこちらに気づいた。きょとんとした顔にギャップがあり、優気は赤面を浮かべる。


『今度は肘と膝を交互に引き付けろ~。さぁ、ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!』


美人のお姉さんとやるエクササイズがこんなにも楽しいとは。そんな高揚に胸を弾ませる。


『反対もぉ~。はい、ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!』


「誰じゃお前はぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁ!!」


突如、エクササイズによって入念に温まった足で蹴り飛ばされた。どういう訳かわからないが、信じられない威力により立派に聳え立つ二件の家を貫通した。優気は二つ目に貫通した家の壁に顔がめり込むことで衝撃が止まったが、自分に何が起こっているのか理解が出来ないままだった。


 「ぐふぇ」


「おぉ、ってゆうきじゃねぇか!入り口からじゃなくて、まさか壁を突き破ってくるとは…」


スサノオの声がすると、アジトに入ったことを認識する。


「修復しているというのにもっと壊してどうするんじゃ小僧!」


修復作業するゼウスの声が部屋に響く。薄くなった頭皮をタオルで巻き隠し、大きな石柱を担ぐ姿は現場にいる玄人を想起させる程似合っていた。すると、リビング奥から早足でこちらに向かって来る冷静七三男の視線が突き刺さる。


「おい。何してくれんだクソ四神」片手で頭を持ち上げ足をバタつかせる。


「ひぃっ!ごめんなさいごめんなさい!」


「つかよ、何で壁貫通して来たんだ?誰かに殴り飛ばされたんか?」


「意味わかんないダンス踊ってる露出狂の美女に蹴り飛ばされたんですよ!」早く降ろしてと訴える優気を他所にスサノオとジャンジャンは目を見合わせる。


平日の真っ昼間から開放的な女性が訳の分からないダンスなんぞ海外で派手なテロが起こる中、真面目に授業を復習する小学生のようなものだ。


しかし、見当のついたスサノオは同意を確かめるように「ペルセポネだよな」と確認を取るとジャンジャンは無言で頷いた。


「ペルセポネってことは」とジャンジャンが確認を取るとスサノオは無言で頷く。ここで、宙で暴れる優気のことを気づき、慌てて地に下ろす。


「ごめんな優気。お詫びと言っちゃなんだが、貫通した壁は気にしなくていいぞ」


「ええっ、急にどうしたんですか?」


「蹴り飛ばした女性は恐らく神の使者。神の使者が人間が作った物に与える影響は時間が経つと自動で修復するからな」


「あー確か前にそんなこと言ってましたね」ただここで重大なことに気づき、目を広げた。


「ってことは相手が神の使者なら何奴ですか!?スパイとか?」


「落ち着け、味方陣営だよ」


確かに味方陣営の神の使者であるならば焦る必要は全くない。ただ味方陣営に蹴り飛ばされたということに不満が湧く。そして何故アジトの近くで訳の分からないダンスをしていたのかが理解できない。


「なんにせよ、味方陣営だと証明する男が付いてくるからな」


ピンポーン、と来客を告げるインターホンが鳴った。こんな家の崩壊した状態での来客だが、恐らく今まさに話していた男だろう。優気は部屋を出入口でその姿を確認しようと玄関を覗き込むようにして顔だけ出す。リビングに居たクシナダが玄関へ向かい扉が開いた。


「あら、珍しい顔じゃない」


「仕事が済んだんだ。全く、久しぶりにアジトに帰ってきたつもりが半壊とはね。一体何があったんだ」


項垂れる男の反応はごもっともだがどこか余裕があるような気がした。白くサラサラとした髪の毛を揺らし、靴を脱ぐと出迎えるスサノオとジャンジャンに反応を示す。


「ご苦労だなアダム」

「そっちこそ。家壊すほど元気っぽいね」

「それほどでもないな」

「スサ、お前褒めてないのわかっていってるだろ」

「というより、言われ慣れた感じよね」優気には何を話しているのかは遠くて聞こえなかったが、雰囲気的に気さくな人だと印象付ける。


「とりあえず増えたメンバーが多いらしいね。みんな集めたいと思ったけど、アジトがこの現状じゃあね…」


周りを見渡す流れで優気とばったりと目が合う。タイミング的にはここだろう。優気からその男に近づき挨拶を交わす。


「こんにちは。スサノオさんからの誘いでここに来ました。神崎(かみさき)優気です」


「あー、この子が朱雀の継承者か」

「はい。四神の朱雀の力持ってます。というか、理由わかんないけど宿ってました」

「理由わからなかったのか!?」

「今さらすぎるだろ」

驚くスサノオに冷静にツッコむジャンジャンだったが、いつかの修行終わりのご飯ついでに話したようなと想起する。


「まぁそんなもんだよ。っと申し遅れた。僕はアダム。四神を除いた神の使者において最後の存在。この世を維持する派閥の()をやらしてもらってるよ」


その名が出ると前々から聞いたことのあるアダムという名に合点がいった。この人が我々のリーダーだとようやく目にすることができ驚きを隠せない。


「案外強くなさそうな奴だなって思ったでしょ」

「いえ、そんなこと微塵も」

「安心して。今の僕は()()から」

「弱いんかい!」

ズッコケる優気に「まぁ残念だけどよろしく」と手を差し伸べ握手が成り立つ。今更だが、陣営の長に会い、握手を交わすことでこの陣営に付いた実感が湧いた。


 握手の手を解くと奥の玄関扉がガチャリと開いた。目を見開き指を指す。変わらぬ妖艶な姿と美しいボディラインに大きな驚声を発すると、顔が赤くなる。


「さっきのウルトラ美人おねぇさんだ!」マジでウチの陣営だったとは…。そう声を漏らすと美人と言われたことが嬉しかったのか、目を逸らし、両手で輪郭を覆う。


「び、美人って…この私が…?えへへへぇ…」

「こんな格好した着飾りババァのどこが美人なのか私には一生わからないわね」

「あ?おいクシナダ。それはあんただろクソロリババァ」

「もっぺん言ってみなさい二重人格根暗おばさん」

「精神年齢3歳児の我儘おばあさん。言葉喋れてえらいわね」


再開して早々に喧嘩が勃発し、事の発端を作った優気には手が付けられない状況となる。にしても口が悪く、ウォックとフィルセルの言い争いを見せられているようだった。


「あーわりぃな。ウチの奥さんとペルセポネは過去に因縁があってな。それ以来犬猿の仲なんだ」

「まぁ気にすることない。とりあえずこれから家の修復指示をするから手伝ってくれ」

「わ、わかりました」

「スサは上にいるウォックたちを呼んできてくれ。どうせサボってるか喧嘩してるかの二択だからね」

「あいよ!」


爆速で二階へ赴いたと思えば、獣を捕らえたかのように服の首元を引っ張りながら四人を集めた。この日は結局、あの組手以降修行することは無くアジトにいる全員で修復に勤しんだのだった。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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