第67話 やらかし
ジャンジャンが二階に向かったことを確認すると、刀を鞘に戻す。実戦想定で行うのであれば、百パーセントの状態で行わなければあまり意味がないため、優気の回復に一時間以上を要した。
その際には、今日に至るまでのトレーニング内容やモチベーションの増幅の起因などを話し合い、会話を弾ませていた。優気に期待していたはずのスサノオはどうやら甘く見つめていたようだ。どうなったってこいつにおける根本は絶対に変わりはしない。
「いいか?指導しながらであんまり神力込めないけど、実戦想定を踏まえて攻撃パターンはガチ目に行くからな」
「は、はいっ!お願いします!」
構え越しにも伝わる圧倒的な力の差。一瞬でも隙を見せたらかみ殺されてしまう危険な猛獣を前にしたような緊迫感が優気を襲う。これまでの修行で成果は着実に積み上げてきた分、驕りなどが出るはずだが、それすらも起こさせない瞳が優気を射抜き続ける。
「それじゃ。よーい、始めっ!」
合図とともに優気は四神化し、エネルギー弾を飛ばす。が、初手を見破られていたのか見事に全ての攻撃を避け刀を鞘横辺りに構えると優気の懐に潜った。
__斬られる。
察し、躱すことは出来ないと判断。防御のため神力放出しながら胴体守ることを選択しつつ、身を切らせることを覚悟にカウンターを取ろうと右手で相手の顔を狙う。
__この状態での踏み込み。腕の長さで先にカバーに入ったか。上出来。
瞬間、懐に潜っていたはずのスサノオが視界から消えると背後から肝臓を小突かれ多少吹き飛ぶ。軽めの攻撃のはずだが、立てない。神力を集約させ性急に患部の治療にあたる。あの場面、スサノオであれば仕留めることも可能なはず。絶好の機会を避けることに得るメリットは少ないはずだ。
「どうして懐から逃げたんだ。とでも考えてるっぽい顔だな」
「えあっ、ず、図星です…」
自分の考えが当たったことに嬉しみを感じニタニタと笑みが漏れる。真面目にアドバイスをしようとオホンと一言、呼吸を整える。
「いいか。これは実戦を想定した組手、所謂戦場での1対1だ。相手の力量も能力も判別がつかない状態で馬鹿正直に突っ込んで痛い目に遭うことも考慮しなきゃいけない。だから、俺は敢えて大きな撃を与えることはせず、安定かつ意表の攻めを選択したわけだ」
「す、すんげぇ!相手に少しでも得にならないように立ち回った結果とは…普段のスサノオさんからは考えられないや!」
「普段の俺ってそんな阿呆なのか…」
大方ダメージが回復すると患部を庇いながら立ち上がる。再び戦闘体制に入りスサノオの正面に向かう。確実に攻撃を当てるため先ほど説明された『安定かつ意表の攻め』、これを実践すべく正面への初撃と見せかけて足を狙うプランに転じる。しっかりと攻撃が通り体制を崩したところを右手に神力を集約させるも、優気の中で迷いが生じた。
攻撃はどこを狙うのが一番有効なのか。また、近接戦が得意なスサノオに対して直接的な攻撃は思う壺なのではないか。色々なことが瞬時に頭に過り、気が付けば距離を取っていた。
「何逃げてんじゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」
勢いのまま殴り飛ばされ壁に吹き飛ぶ。『ハンニョン2号』と書かれた等身大の的が衝撃を和らげるも、思いきし全身を打ち付けたことにより回復に神力を割かざるを得ない。
「今のは引きすぎだ。あそこまで攻撃体制に入ったのなら、次の攻撃パターンにつなげた方が俺は嫌だったかな。神力を放出しない相手に逃げるだけじゃ、くたばってくれないぞ」
「こりゃあ絶対にかなわん…」
ただでさえ同学年の高校生より運動神経が悪く、体育の授業で恥をかくことが多かった人間が神智を超えた超人マッチョに敵う筈がない。スサノオの指導は心身に沁みる。数日間できる限り懸命に積み上げた自信が治療に消費する神力と共に消えていく。そんな優気の脳内に『逃』や『止』という言葉が浮かび始めるのも必然のことだ。
___________ダメだ!
坂藤先生と約束した。咲音に背中を押してもらった。そして、この道を選んだのは紛れもない自分自身だ。治療を中断し、痛む全身を無理やり立ち上がらせる。
「今試すしかねぇ!!」
内から湧き上がらせるように神力を込める。それも自身今ある全神力を込めるほどに。
「なるほど。第2形態チャレンジか」
神力利用の限界キャパを超えると死を迎える。これはどんな神の使者でも四神でも変わりはない。これは命を賭すことなんぞ的外れなただの組手。だが、それほどまでにこの機における思いは強いということが察知できる。そんな行動にスサノオは自然に笑みがこぼれてしまった。
「頼む…頼む朱雀ッ!応えてくれぇぇぇぇぇえええええぇぇえっ!」
声を上げたところで変わらない。それでも声を張り上げる。
「応えてくれぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇええええぇぇえええええぇぇえっ!!」
___この感覚。これは__________________
「これが…これが朱雀の四神化第2形態か!!」
先ほどまで優気が立っていた場所に人型の姿は無く、空中に浮いた朱に輝く鴻鵠がその存在を証明していた。初めての光景に感動と驚きを隠せず、先ほどからこぼれた笑みからさらに口角が上がり続ける。
いっけね、と慌てて冷静さとメモを取り出す。今が第二形態について知ることも体感もできるチャンスの時だ。
「ゆうきぃ!聞こえるか?」
ブンブンと鳥の頭が縦に揺れる。意識と反応あり。メモに達筆で書き留める。
「神力で作る砲撃は可能か?」
再びブンブンと頭が縦に揺れた。こうなれば質問攻めだ。事前に考えていたこともあり、メモのページをペラペラと捲る。
「今から何個か質問する。はいならゆうきから見て右羽を、いいえなら左羽を上げてくれ」回答に右羽が上がった。準備万端といったところだろうか。
「神力は増えてる感じがするか?」右羽が上がる。
「この形態になってゆうき自身に疲労を感じるか?」左羽が上がる。
「さっき受けた怪我はまだ痛むか?」返答に困っているのか、何度か羽を上げると最終的に両羽が上がった。レッサーパンダの威嚇のような姿だが、この返答はどちらともいえないということだろう。しかし、この絵面。面白い。
「右羽上げて」右羽が上がる。
「左羽上げて」左羽が上がる。
「右羽が下げないで、右羽下げて」結局右羽が下がった。
「左羽下げて」左羽が下がる。
「右羽下げて」何も動じない。
「左羽上げないで両羽上げて」結局両羽が上がりクスクスと笑いあげる。自分で遊んでいるなと感じたのか朱雀の姿で咆哮を上げた。
「いっけね、組手してたんだった!わりぃ行くぞ!!」
唐突に攻め入るスサノオに対して思わず来るな!と言わんばかりに大翼を動かす。吹き飛ばすようにして突風を巻き上げ、近づくスサノオのスピードを弱める。鎌鼬のような衝撃波も生まれており、スサノオにダメージを上げることに成功する。
____やっぱりこれならいけるかも。
翼の動作を止めるとスサノオの突進が再びやってくる。しかし、それを読み、はらりと躱すと背を向けるスサノオに多数のエネルギー弾を撃ち込む。慌てて刀を抜き全て切り落とすと勢いが消滅し、空中で消滅していく。
しかし束の間、先とは異なる大きなエネルギー弾がスサノオの元を襲う。たじろいぐスサノオだったが、みじん切りの勢いでエネルギー弾を消滅させる。
「ちょ、この部屋でデカめのエネルギー弾はダメ!万が一壁に当たったら家が壊れる可能性があるからな」
おどける朱雀が羽を合わせてごめんなさいとジェスチャーを送る。スサノオも構わないとジェスチャー仕返し、組手の続きに応じる。飛び回る朱雀と受け止め、攻撃に転じるスサノオのやり取りは十五分ほど続くこととなった。
「何だか騒がしいな」
「一段と激しい音ネ!」
ウォックとリュウがリビングでくつろいでいると優気とスサノオのいる修行部屋からドタドタと音が聞こえてくる。気になった二人は意を決して部屋を覗き込むと驚きの光景が視界に入ってきた。
「What The Fuck!?」「朱色の鳥…要は優気ネ!」
リュウの言葉によりウォックは何とか現実を受け止めることに成功する。いつも修行の時に第一形態を見ていたこともあり、飲み込みには早かったが未だに違和感が働いている。「よくリュウは飲み込めたな」
「そりゃ、四神というのハ我が中国の伝承だからネ!」
「なるほどな。そりゃ納得だけどさ、前々から思ってたけどこの朱雀ってさ、フェニックスと同義だと思うわ」「ハ?」
真顔で目を見開きウォックを視線で突き刺した。途端歯を軋り怒りが態度に表れ始めた。
「一緒にすんじゃねぇヨ!!西洋のくだらないお伽話と我が中国の伝承を重ねるんじゃなイ!!馬鹿にするんじゃねぇヨ!!」
「別にバカにしてるわけじゃない!朱雀の能力が回復ならフェニックスにも不死鳥って異名がある通り、蘇ったりするんだよ。だから同じ生き物なんじゃないかっt」
「五月蠅いんだよこの阿呆白人!頭も真っ白ってことかナ?アー??」
「んだとこのクソチャイニーズがよ。根拠のねぇものばっかり並べて4000年の歴史だぁ?最高のコメディアン大国だな。まぁ?大国と言っても端からは端までちゃぁんと治められてないみたいだけどな!」
「オイ!中国が1番なことまだわかってないみたいだネ!!お前ら脳味噌真っ白馬鹿人間が大好きな紅茶を作ったのはどこ国か知ってル?そう!我が国だヨ!!眠るときに足を向けて寝ることも甚だしい問題デアル!根拠が無いのに責めるアンタラ白人が本場のコメディアン大国ネ!!」
「ッ!そうかそうか、まだ目が空いてないからこれは寝相と寝言か!居眠り相手に本気になってしまったとは…俺も情けないな」
世界で最も無駄な時間の使い方をしていると、スサノオがめり込ませたバーベルが大きな音を立てて地面に落下した。
あろうことか、戦闘に夢中になっていたスサノオはむしろバーベルを投げ優気への攻撃に利用する。簡単に躱されることを読み、空中に浮くバーベルは自身の移動先として再利用し、反動を付けて優気の背中に飛び蹴りを食らわせた。
ドシぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃいいぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃン
バーベルが地面に思いきしめり込むとその振動で二階が崩壊する。修行部屋の真上の部屋である空き部屋がそのまま降ってきたのだった。
「『『あ』』」
神の使者、朱雀、白人、アジア人をスポットライトで当てるかのように夏の朝日が照らしている。それは、紛れもなく、天井の崩落を意味していた。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




