第60話 現(うつつ)~中~
翌々日。猛暑日といえど学校へ赴く。外に出ると、この星は風という存在を忘れてしまったのだろうか、時でも止められているようにただ暑い空間が広がり、優気のやる気を削ぐ。あれから足腰の筋肉痛が取れることは無く、踏み出す歩幅もあの日の登校した時より短くなっていた。しかし、今日は璃久瑛もトレーニングに来るとのことで、何とかその事実をモチベーションにつなげていた。
「こんにちは~」
アジトに入るもリビングに誰の姿も見当たらない。そうでもなると大抵修行部屋にいるためそちらの部屋に移動する。
「おっ、来たか」
修行部屋からする声は師のスサノオのものだった。しかし、いざ部屋に入るとその横には見慣れない器具がおいてある。黄色ベースの色で覆われた巨大なバーベルがそこにはあった。困惑した気持ちはもちろん顔に出てしまっていた。
「これな。ジャンジャンが作ったチューチューダンベルの進化系。『ブッチューバーベル』だ!!自身の筋力プラス神力総量の増加も見込めるぞ」
嫌な予感は的中した。通常のバーベルより遥かに大きなサイズがまだトレーニング前の優気を見えない力で押しつぶす。気絶したこともあるチューチューダンベルの恐怖を思い出し、バーベルがさらに大きく見えてきた。
「し、死なないですよね?」
「だいじょーぶっ!!調整はこっちですっから」
スサノオの言葉は軽いものだったが、仕方なく目の前の現実を受け入れベンチに寝転ぶ。
「チューチューダンベル上げる時みたいに神力をちゃんとバーベルに送って重さを軽減するんだぞ。さ、四神化して力入れる準備しとけよ」
「は、はい!」満身創痍の返事後、第一形態に変容すると付属しているセーフティーを外したスサノオが巨大なバーベルを持ち上げた。ゆっくりと優気の構えた手の付近までゆっくりと近づけ、完全に握るまで補助を続ける。
「うし、そっから7回やってみろ!!はい、いーちっ!」
ゆっくりと腕を下げると腕の筋肉に壮絶なる負荷がかかる。四神化していることによって普段の肉体よりも筋力は引き上げられているはずだが、自重の二倍以上の物体を無理やり持たされているような感覚に陥る。バーベルの神力吸収効果によってその効力はほぼ失われているのだろう。
先ほどのアドバイスを思い出し、精一杯に神力を送る。何とか持ち上げるも触れている限り神力は吸収されていくため、すぐに下ろし次に進む。一番深くまで下げると全身から涙を流すように汗が吹き出し、身震いが最高潮に達する。バーベルを上げるのに、神経を削がれ、三回目へと突入する。
「んぅぅぅぅがぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁあはぁぁぁあああああああぁぁぁっっっっっっっっぅすっぅぅぅうう!!!!!!」
耐えきれない身体に抗いの雄叫びを上がる。持てうる力をありったけ引き出し、今を乗り越えることに精一杯だった。
四回目に差し掛かったところで、意思の伝達による脳の命令が腕に通ずることはなく、無意識に手を放してしまった。死なども考えられずバーベルが落ちてくるのを茫然と見つめる中、事故にならぬようギリギリのところでスサノオが片手でキャッチする。
「結局3回しかできなかったか…」
「もしわけあいえす」
腕が重力の影響を受けベンチをはみ出しプラプラと揺れる。四神化も自然と解け、これは数分起き上がることは出来なそうと踏んで頭を掻くスサノオは飲み物を取りに部屋を出た。
「やっぱり無理かぁ…せめて5回は行くと思ったんだがなぁ」
冷蔵庫から飲み物をつけ部屋に向かうと部屋の前で一人の少年が目を丸くしていた。
「お前は…りくあじゃねぇか」
「ちょ、スサノオさん!あれ!優気の腕がとんでもなくグロいことになっちゃってますよ!!」
落胆中のスサノオは優気の姿に注目すると、死んだような倒れ方で寝転がっており、おろしている腕が枯れ木の枝ように細くなっていた。触れたら折れてしまいそうだが、スサノオの見立てでは朱雀の力によって数分したら治ると踏み、身体を起こさせて飲み物を飲ませた。
「ちとしたら完全に治っから心配しなくていいぞ。とりあえず上にいるフィルセル呼んでくるからちと待ってろ」スサノオが二階へ上がり、璃久瑛は修行部屋に飛び込み優気を心配する。
「優気、お前本当に大丈夫か??」
「俺、いや私、めちゃくちゃにされちゃった…」
「えぇっ!!むちゃめちゃ卑猥に聞こえるんだが…まさかの女体化ホモ展開ぃ!?」啞然とする璃久瑛は続けて「LGBTQも幅が広がったなぁ」と関心を漏らすが、冗談に決まっているだろと一蹴された。
「腕は治るから安心しろな。ま、全身の疲労はマジでやべぇけど」
昨日の足腰の辛さをいとも簡単に超えたことにより、優気の人生で最も疲労を患った日がたった一日で更新された。
「フィルセルたちはあと1つのコードを書き終えたら来るって言ってたからリビングで銃準備して待ってくれ」階段から話しかけながら降りてくるスサノオはノータイムで優気の元へ近づき、傍へ立つ。
「今日の目標5回だな。腕回復したら何としても超えるから覚悟しろよ」
「ぅうい…」自信を無くしたような返事がスサノオに不安を移した。
優気が回復している間、璃久瑛はフィルセルとウォックの射撃指導を受けていた。動かぬ的の中心を狙うも、なかなかクリーンヒットすることはなかったが、中央近辺に弾痕が集中している。この傾向を見てかウォックが屈強な体をどっしりと立ち上がらせ璃久瑛に近づく。
「なかなか真ん中付近狙えてんじゃねぇかよっと」
肩を組み、大きな体重が璃久瑛を襲う。
「わぁ!っと、お褒めのお言葉ありがとうございます軍曹」
「んんっ。見事な成績だぞ新入り」
びしっと敬礼ポーズを取り合うもフィルセルの持っていたタブレットで頭を叩かれると、築かれた世界観は一蹴された。
「よくなってきたから今度は動く的にした方がいいんじゃねえかなってさ」
「それはいいな。わかった、ホログラムマットを壁に貼って実践してみるか」
動く的に変化し、さらに命中不安が続くも枠内に捉えることは変わりなく遂行できていた。しかし、感覚的には合っているのに手応えを感じない。璃久瑛は何度も首を傾げる展開が続く。
「もっと先の動きを予想して撃つんだ」
「う、うっす」
「動きが硬いな。反動はそんなに大きくないからもっとリラックスしていいぞ」
「お、おす」
銃を机に置き一旦中断。動く的に一気に変わるとやはり意識の仕方も変わり、対応にも時間がかかりそうだ。そんな意識の中ウォックとフィルセルのアドバイスタイムが幕を開ける。
「いいか、焦んなくていい。ゆっくりと動きの先を狙うだけだ」
「ウォックの言う通りで、自分のペースでいいからな。今実際に撃ち合いをしているわけではないんだからそんな気を張ることもn」
「ンんん゛ん゛ぉおおおおぉおおおぉヴぉぉぉお゛お゛お゛おぉぉぉぉお゛お゛!!!!」
唐突な雄叫び。その声の元は璃久瑛の少し離れた後ろでバーベルを上げる優気だった。辛さは重々承知だが唐突ともなると驚きを隠せずにはいられない。
「ま、とりあえず実践ってよりかは的当てゲームくらいに思っといt」
「でぇぇぇぇっぇぇぇええええ゛ぇぇえええええええええぇぇぇぇぃぃぃい゛い゛や゛ぁぁぁあああああああああぁぁぁぁあ゛あ゛ぁ゛あっ゛」
先より長い叫び声だったため後ろ振り向くとバーベルは優気ではなくスサノオが保持しており、当の優気は再びグロッキーな腕を外に放り寝転がっていた。
「だから危なくなったら声掛けろっつったろ!」
無言で伏せ込む優気におまけに溜息を贈ると部屋の出入口にリュウの登場。それすなわち食事の時間だ。ウキウキで食卓に向かう璃久瑛たちと裏腹に倒れた優気を背負ったスサノオは困り顔を浮かべていた。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




