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TRUE HUMAN   作者: 森野熊参
夏休み編
59/133

第59話 現(うつつ)~上~

 夏休みに入ったが優気(ゆうき)の学校通いはまだ続く。猛暑日の中、昼時のグラウンドをじりじりと夏の太陽が照らしている。特に学校に用事は無いため、何故か湧いた罪悪感を背負いこみ足早に二階の空き教室へ向かう。そう、目的があるのは維持派のアジトだ。


 入室すると目の前にはフィルセル、ウォック、リュウ、士純(しじゅん)がリビングのテレビを用いて対戦ゲームを楽しんでいた。優気の師事するスサノオはソファーに寄りかかり暇そうにテレビ画面を見つめている。どうやらコントローラーが四つしかなく、プレイできない様子だ。


「お、来たな。夏休みなのにおっつ」こちらに気づき立ち上がるといつもの修行部屋に身体を向けた。


「今日もよろしくお願いしゃす」

「おい、俺ゆーきの修行付き合って来るから4人でやってていいぞ」

「わかった、よ!食らえ!!」

「その横必殺は読めてるわ!」

「まずいネ!!それボク当たっちゃたよ!」

「おー優気くん。今4人でゲームしてるんだけど次やるー?」

「士純さんごめん。修行があるからまた今度」

「わかったよ~。くたばれ!!死ね!!がぁ~ダメだ」


どうやら四人とも本気でプレイしているようで優気に反応を示したのは士純だけだった。前を向くとスサノオが部屋を出ていたため足を回して後を追う。


 部屋に入ると神力(じんりょく)の阻害を促すグローブ、『乱れ逢い』を手渡され、再び遠くの的に当てる修行が始まった。四神化し、手のひらサイズまでに拡張したエネルギー弾を圧縮したのちに中心部に向かって放出する。


最初は何度か的の枠内に収まっていたものの、やはり何度も神力をコントロールし、神経を研ぎ澄まして狙いを定めることはかなりの集中力と気力が奪われていき目標が外れることが増えていく。十分ほど経過したところで優気はその場で膝をついてしゃがみ込み、弱音を漏らす。


「もう終わりかぁ。ちと足んねぇ気がするが無理もないか」

「ちょっと、これ以上は、難しいでふぅ…」

「うーん。ちと休んどけ」


頭を悩ますスサノオはうつ伏せで寝転ぶ優気を直視できずにいた。とりあえず切り替えて別の方向から進めることにし、即座に修行メニューを構築していく。大切なことはあくまでも優気に合わせたメニューにするということ。自身の価値観で相手の限度を決めることは良くないため、数や条件に縛られないような軽めのものに設定する。


_____________思いついた!!


四神化の第二形態。青龍を打ち破ったと聞いた第二形態の質を向上させることを念頭に置き、予め準備していたメモに書き込んでいく。


第二形態は甲冑を身に纏ったような第一形態とは違い、朱雀の容貌へと変化するため、鳥のような姿から編み出す戦闘スタイルの確立や第二形態でしか放たれない獰撃などに伸びしろを感じたのだ。そう考えると自然と鉛筆が進み、何項目かメニューを作り出すことに成功した。


「よし!休憩終わり!じゃあ四神化第2形態やってみてくれ!!」

「んぁっと、はいっ!わかりました!!」


自然と敬礼し準備に入る。いつものように神力を込め、第一形態の四神化に昇華していく。雄叫びを上げ、内包した神力を爆発させる。


しかしながらそこから姿が変わることはなかった。「あれ?」手応えの無さ。神力を落ち着かせると手を顎に置き思考を連ねる。


「おいおいどうしたんだよ。第2形態は?」


「それが、できないんですよ」


「はぁ!?何で!?」腑抜けたような声が自然と部屋に響き渡る。


「理由はわからないですけど、第1形態から変化する感じが専らないんです。こう、なんというか、天井に当たってその上はないというか」


「いまいちわかんねぇな。その天井貫けねぇのか?」


「はい…あ、コップに水注ぎすぎて溢れちゃってる感じに近いです」


顔を顰めるスサノオはそもそも努力の壁にぶつかったことがないように見える。それと同時に憮然な思いが表れるような表情をしていた。そんな目でこちらを見ないでほしいところだが、神力放出といい形態変化といい、結果に現れない事の連続は落胆せざるを得ない。これはどのような出来事においても同じで当然のことである。


「じゃあどうすっかなぁ」

「残る修行となると素の強化になりますね」

「それだな。というかそれしかないな」

「申し訳ないですが、ごもっともです」

第一形態の四神化を解き元に戻るとランニングマシンで体力づくりを行った。


 バテバテになりながら一セット終えるとリビングに行き休憩に入る。テレビの前に視線を配るとまだゲームに熱中する四人がそこにおり、飲み物を片手に近づいた。プレイ画面を眺めていると最初にリュウが倒され、その次にフィルセル、士純との対戦を制したウォックが最後に残った。


「ダメだ。ウォックにゃ勝てる気がしないな」

「これで12連勝ネ」

「毎回追い込むんだけどなー」


コントローラーをちらつかせ笑みを浮かべるウォックは「お前らはこのゲームをわかってない」と豪語するや否や「逆に負けることってできるの?」と遂には煽り始める。


「キャラの良さを引き出せてないからな。ま、これも生まれついての地位の差ってやつかな?」


とんでもない発言してるなこの人。ジョークといえど過剰な発現に優気は狼狽えてしまう。おかげでこちらの表情に雲がかかってしまったではないか。苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、ぐうの音も出ない敗北者たちの傍に一人の少年が腰を下ろした。


「ウォックさん。僕も混ぜてくださいよ」

「お、挑戦者か。いいぜ乗ってやんよ」


もう一つのコントローラーをフィルセルから受け取ると通信をしてつなげ始める。キャラを選択しステージ移行画面で間ができる。


「ま、俺が相手だと楽しめなくなるかもしれないから。その時はごめんよ」

「は、はい。お互い、ベストを尽くしましょう」

「何がベストだ。俺はいつもベスt」


ゲームが始まったと思いきや優気による見たことも無いような連撃によって場外へ吹き飛ばされた。「確か2ストック制ですよね?」「あ、ぁそうだな」戸惑うウォックに加え置物三人は賛辞にもなり得る驚声を上げる。


「す、すげぇ」

「僕たちをボコボコにしたウォック君を一瞬で殺った!」

「スゴイの一言ネ!将軍爆誕ネ!」その間に三人とも場外へ吹き飛ばされていった。


「油断してるとやられちゃいますよ」

派手なプレイングと裏腹に軽い笑顔を浮かべており、簡単に三人分の攻撃をいなしていく。それは何千何万もの数とプレイを重ねた強者のような風格を感じた。


まだあとに残るストックは一つ。もう一度もやられないよう、ウォックは堅実なプレースタイルに切り替え、才能皆無の二人を倒すことに成功した。前に怜真(れいま)璃久瑛(りくあ)などと修行後の一興にプレイしたことがあり、その時のプレイングスキルが残っていたようだった。


「お、一騎打ちだ。負けないぞ」

「頑張レ!ユウキ!」

「負けるのはダメだよ~!」

「はは、リュウさんと士純さん目キマリすぎ」


よそ見をしているはずなのに攻撃が当たらず困惑する。更にはよそ見をしながら攻撃を上手く守られる。心眼でも開いたのかと疑うも、自分のプレイを信じてコントローラーを操作する。そう、十二連勝した今日だが、コンディションは抜群。傭兵時代に最高撃退数を飾ったあの日を思い出すほどだ。ここで勝利して冷えたシャンパンを開いて勝利の美酒として堪能するのだ。


 『GAME SET. Winner. YUKI』


大きなテレビ画面に勝者の名前が堂々と連ねられる。啞然とするウォックは間抜けにも開いた口が塞がらない様子だった。


「いやー久々にやったけど勝てちゃいましたわ」

「スゴイネ!!!」

「すごいよ優気くん!!すごーい!!」

「あのウォックに…最高だ!!」


茫然とするウォックのは発する言葉もなくなり威勢も虚無へと返る。


「あれ、さっきまで調子ノリノリだったウォック君。君、息してる?」

「ううっせぇ!フィルセル。お前には負けてねぇし!!」

「けど、負けるのはあり得ないってさっき言ってたよねー?」

「位の低い人間は全員死ねとも言ってたネ!!」

「いや、リュウさん。流石にそれは言ってなかったと思うよ」


フォローされ、余計に闘争心を煽られる。これには声を上げざるを得ずウォックはコントローラーを操作しキャラクター選択画面に戻した。


「も、もっかいだ!優気。今のキャラは使い慣れてなかったんだ。今度はガチだからな。ガチキャラで行くから覚悟しろよ」根拠のない嘘を咄嗟にでっち上げ、理由を張りぼてた。


「じゃあ僕も()()で行きますね」


今のが本気じゃないことがわかり再び茫然となる。おかげでキャラクター選択にカーソルが迷いはじめ一向にキャラクターが決まらない。


「どうしたんですか早くやりましょうよ」

「お、おうそうだな。は、早くやろうな。もう絶対に負けn」


 『GAME SET. Winner. YUKI』


またしても勝敗変わらず。その燦然と輝く金文字にウォックの名は無かった。先よりも口をあんぐりと開けている姿と対照に優気の周りに名を上げる価値も無い三人の下手くそが寄ってたかって褒めちぎる。


「ゆーき、そろそろトレーニングに戻るぞ」

「わかりました!」


 コントローラーを片付け、駆け足で再び修行場に戻る。今度は反射神経を鍛えるために様々な方向から投じられる野球ボールをキャッチする練習が始まった。野球観戦が趣味であったことから見よう見まねで重心を腰や下腹部に掛ける構えを行う。


近くで球出しをするスサノオは優気本来の運動神経を考慮してゆっくりと投げ始めた。しかし三十秒も経たないうちに腰がだんだん高くなり、体制はどんどんと崩れていく。呻き声を上げて何とか形を取り持とうはしているものの、息を吹きかければ倒れてしまうほど足腰が震えていた。フォームに関しては言うことなしだったが、これまで耐久性が薄いとトレーニングのしようもない。


「あと9回だ!何とか耐えろぉお!!」


上がる足腰とは逆にボールを投げる。流石にもう耐えられないのだろうか、残り7回となったところで手がボールに届かずポロリと落としてしまう。


「何やってんだ。取るまで終われねぇぞ!」

「ひいぃ」


怯えながらもボールが近くまで投げられたことを機に再開する。足腰の震えは今までの人生で最も動作しているが、今後の人生においてもこのレベルの肉体的苦痛は体験しないだろう。ここまでくると悲鳴さしずめ絶叫と言わんばかりに大きく太ももが揺らぐ。


「ラスト3回!」低めかつ身体から少し離れた位置にボールが放られる。最初の体制ならば取れていたが、足腰が高い位置にあったため届きそうにない。何とか捕球しようと無我夢中に腕を伸ばした。


「んぁ~」


案の定床に全身を打ち付けその場に伏せる形となる。耐えきれなかった膝が疲労を再現するかのように、曲がったまま大きく振動している。ガニ股状態で動けなくなってしまった姿を目にスサノオは溜息をつくとともに手で顔を覆った。


「あと3回だったのに…諦めんなよ!」

「ぅすぃぁふぇん」


スサノオは自身の肉体レベルの大きな差異と優気の運動神経の無さに愕然とする。そこにはほんの少しの苛立ちが湧くほどだった。


「じゃあこの休憩後あと23回な」

「スサノオふぁん」はぁはぁと呼吸を整えると何かを伝えたそうに名を読んだ。

「もぉ、この修行はやめましょぅ」

「はぁぁあ!?何でだよ。これからじゃねぇか」

「もぉ、限界でふぅ」


まるで手応えがなく、まともな修行になっていない。スサノオは髪の毛を掻きじゃくり無理に納得に落とし込む。


「はぁ、ああったよ。もうそろそろ4時半だ。6時からの塾に備えるとして、もう今日は終わりにするか。飲み物取ってきてやっから待っとけよ」

「ふぁい。ありかとぅがぜぇやす」


 数分経ち優気の足腰は元に近い感覚を取り戻した。スサノオから冷たい飲み物を貰ったあと、全身に痛みを感じながらアジトを出た。


 スサノオはメモを取り出し今日の様子を振り返る。


「また今日も進歩無しか…」


青龍戦から約一か月。あまり修行に進捗が見えず、肩を落とす。神力中心の修行も肉体重視の修行も難しい中、再び自身の指導方法に疑問を感じていた。


修行部屋に籠り、自身の神力をだんだんと解放する。集中、そして模索。その過程の中でイメージを掴み、今後のアドバイスに役立てようと答えを探し始めた。

ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m

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