第54話 明け梅雨の日差し
朱雀の力を持つ優気はいつもの姿ではなく、空に揚々と羽ばたく本物の朱雀となっていた。
「す、すげぇ」「あれが本当の朱雀、そのものか」「かっけぇな…」
凛々しくも勇ましいその姿に三人は啞然となるばかりである。また、優気が同じ段階に入ったことから少し勝機を感じることができた。希望に身を馳せ、親友を静かに見守り始める。
対峙する青龍が再び咆哮を上げるとすぐに口に神力を溜める。恐らくもう一度ブレスを放つのだろう。敵の行動を察知し、俊敏に飛び回ることで相手の狙いを定まらせないように対策を取る。
力試しの意味を込めたカウンターとして、身体の中心に神力を練り、大きなエネルギー弾を創り出すと隙の生まれた青龍に命中させた。
いつもの三倍の程の神力量となり、通常の攻撃力と比べてもかなり増加していた。これには青龍も狼狽を隠せず、深手を負っていることがはっきりとわかる。
再び青龍の喉元に神力が溜められ、同じ攻撃が来る。しかし、何のひねりもないと言う訳ではなく、砲撃を何度かに分けて放った。こちらも俊敏に飛び回って攻撃を回避するが、攻撃スピードが素早く、回避することに手いっぱいとなってしまう。これこそが青龍の狙いであり、相手に反撃をさせない立ち回りを取っていたのだ。
「すげぇな…」
「USJのアトラクションみたいだ」
「ソラリンか?」
「違う。それはディスファニーシーだよ」
「凶本乏の盗塁みたいに速さだ…」
「誰もその例えわかんねぇよ。大体70~80年代なんて世代じゃないだろ」
「けど、璃久瑛には伝わってるじゃん!」
「名前だけなら流石にわかるわ!」
「いや、流石に普通の人はわからないだろ」
戦況を見届ける三人はあまりの臨場感に興奮する一方で、形成逆転を確信していた。というのも、先程自分たちが時間を稼いでいた時もダメージを負わせることに成功していたことから、相手の防御力は他の使者や朱雀と比べると薄いと振り分けられたからだ。
そのような根拠が朱雀の力をもって証明されていく。攻撃に追われるばかりだった優気が朱雀の翼を広げるのと同時に背後に何百もの神力を展開し、そこからエネルギー弾を発射した。無数の神力の砲撃が多種多様なパターンで青龍のコア一点を狙って放出されると、青龍へのダメージは急激に重ねられていく。
もう後のない青龍は朱雀のように飛び立つと牙に神力を込めて朱雀の身体を嚙みつこうとする。急な猛スピードで近づく青龍の攻撃は半ば不意打ちといったところで、すれすれのところで回避に成功するも、何度も繰り返される攻撃に手を焼く。
更には長い尾を鞭のように扱い朱雀の腹に直撃させた。その攻撃はクリーンヒットといったところで、そのまま地面に落下してしまう。
川に落ちる寸前に体制を立て直しすれすれを滑空して相手の出方を窺う。この機を逃さず青龍は追撃の砲撃を放つも素早く滑空する朱雀には命中せず再び後を追う。
橋の下を潜り抜け再び上空へ舞い上がると青龍も真後ろを追う。単純なスピードならば敵わないと踏んでいたため、追い付かれるのに驚きは少なかった。しかし、それにしても速く、通常時の青龍の力を宿した本辺もかなり速かったが、それを遥かに超える程のスピードのため、対応に戸惑いを感じざるを得ない。
朱雀を追う青龍は、朱雀の尻尾辺りを抜き去ったところで身体を急回転させ、自身の尾を使って川を滑空する朱雀の顔面に直撃させた。少しよろめく朱雀の隙を逃さず、足に嚙みつくとそのまま上昇。暫く振り回した後に川底へ放り投げられる。嚙みつかれた朱雀の足はボロボロだったが、早急なスピードで行われる自己治療によって回復していく。
羽ばたき始めようと空を見上げると、青龍の乱砲撃が空から降り注ぐ。慌てて飛び去り、砲撃を躱していくも法則性のない攻撃に対応することは難しく、三発ほど、両翼に当たってしまう。
しかし、ここは引かずに寧ろ青龍のコアへ一直線に特攻を仕掛ける。これには相手も対処しきれず攻撃は頭突きとしてクリティカルヒットした。
すると、コアのようなものの中から本辺の叫び声が聞こえてきた。優気が確認のため本辺へ呼びかけようと攻撃を介して念じるように話しかける。
_______本辺さんか!?聞こえるならもう戦いはやめてくれ!!
「うぅ…なんで、何で辞める必要があるのよ…憎き生物である男を一人の残さず殺す…それが私の目的なんだから!本心なんだから!邪魔、するなぁあっ…!!」
本辺の殺人衝動は操られているわけではなく、本心からによるものだと判明する。しかし、攻撃の手を緩めることはなく、先程よりも強く頭突きを食らわせた。
_______話は三沢さんと和野さんから聞いた。どうやら父ちゃんがどちゃクソ野郎で家庭むちゃめちゃにしたらしいな。
「智花と夢叶が…?何で…?」本辺が疑問を口にした瞬間、一瞬にして優気の沸点を優に超えた。
_______何でって…そんなん決まってんだろ!!!!
怒りの籠った言葉は感情の熱を帯び、本辺の脳内を刺激した。それほどまで怒りを示す優気は普段滅多に怒ることはないが、こればかりは許ずにはいられなかったのだ。
_______信頼できる友達であるオメェのことが心配で心配で仕方ねぇからに決まってんだろうが!!!!
「っ…!!」
_______それほどまでに心配だから絶対に言えないことを相談しに来たんだよ!!
言葉に詰まる本辺は小声で「でも」と反論を口にしようとする。
「でも、私はもう決めたから!!全部私の力で終わらせるって。憎しみも怒りももうそれで全部終わらせるの!!だからあんたは邪魔しないでよ!大人しく死んでよ!!」
身勝手な激情に身を任せ、他者の想いや社会を壊す望みを掲げた行いに優気は苛立ちを隠すことが出来なかった。
_______自分勝手が過ぎんだろうがよ…そこまでして自我のために他人の想いをあしらうようなことした挙句、当のご本人は親友の気持ち全くわかってねぇみてぇだなぁ!オメェはぜってぇ反省させてあいつらに謝らせっから覚悟しろ!!
頭を離し神力をさらに頭に集中させ、頭突きの威力を上昇させる。コアを攻撃され、よろめく青龍はほぼその場を動けていなかった。
_______それになぁ。俺はまだ、死にたくねぇんだよぉぉぉぉおぉおおおぉぉおおおぉぉおおおおおぉぉぉぉおお!!!!
言葉と同時にもう一度頭を振るいコアに直撃させた。余りの勢いに青龍はその場に倒れかけるも地に着くギリギリで天へ上昇していく。
最後の力を振り絞り、青龍は口に持てる神力を全て溜め込むとそれを察した優気はこちらも神力を振り絞りエネルギー波を構築していく。
青龍が朱雀に向かって砲撃を放つと、それに応じるように朱雀は溜め込んだエネルギー波を放出した。どちらも互角の勢いで激しくぶつかり合うも、優気が更に神力を込め、ブーストすると神力の込められた衝撃波同士の押し合いは優気側が一気に優勢となり、衝撃波は青龍の元へ飛び込んでいく。
________私はどこで道を誤ったのだろうか。
全てに終止符を打つことが周りのためになると感じていた。だけど、それは結局全部自分のためだけに出した都合のいい答えだった。
神崎にやられてからようやく間違いだったってことに気づけた。それでも、どうしてこんなことになってしまったんだろう。何故こんな考えをしてしまったんだろう。
「悔いを残してこのまま死ぬんだ。私」
「死なねぇよ」
朱雀の攻撃をまともに食らい、死んだと勘違いしていた本辺は今までの行動に対して自問自答を続けていた。死を覚悟し、思わず言葉が漏れると耳障りだがどこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。恐る恐る意識を外部へ向けると段々と目が開いていく。目の前には自身の倒す神崎優気の姿がそこにあった。
「確かに本辺さんがむちゃめちゃ苦しんでたのも、辛かった気持ちもわかる。俺が当事者なら恐らく同じ行動に出てたかもしれない」
暗い顔で素直に気持ちを漏らす姿に偽善などは見えず、優気の言葉を信じてただただ受け止める。
「だが、辛い気持ちに飲まれて周りの想いを壊すことは絶対にダメだ」
「だけど、私はその行いをしてしまった。支えよう手を伸ばしてくれた友達を無視して終いにはあなたを殺そうとした…私にはもう取り返しがつかないのよ…」
涙の混じった声の後。顔を手で覆い自身を責め立てる。その姿を見て優気は息を吐き心の底から安堵した。
「ならいいじゃん」
「…へ?」顔を隠していた手が目元まで下がる。そこだけでも理解が出来ず、困惑とともに緩んだ表情が見て取れた。
「自分のしたことを反省出来てるんだったらそれでいいじゃんか。誰だって失敗はするし、道を踏み外す時だってある。今までなかったのが今起こっただけで、今回はむちゃめちゃ規模が大きかっただけ。けどもう全部終わった。だからもう本辺さんがしたことはもう終わったんだよ」
あまりにもあっさりとしすぎて戸惑いが続く。罪悪感が行き場を失い、本辺の中で消化不良となる。そんなことを見越してか、優気は話を続ける。
「ただ、最後にやらないといけないことがある。反省もそうだが、辛い想いをさせた友人にはしっかりと対面で謝ること。これが一種の区切りみたいなもんだと思うし、これしないと蟠りは消えないと思う」
優気の言葉はとても温かく、叱られる中に優しさが垣間見えると本辺の目からは自然と涙が溢れ出た。感謝しきれない感謝を胸の内に感じると更に涙がこみ上げてくる。
「そんでさ、相手のために少しずつでいいから本辺さんの家族とか友達とか信頼できる人達に感謝と恩返し、していけばいいんじゃないかな」
本辺の目から流れる雫は止まることなく、返答は震える声のまま「本当にごめん、ありがとう」と無理矢理に伝えた。
「おんよ。俺も色んな人に感謝と恩返し頑張るから、お互いに頑張ろうな」
「…うん!」
優しい笑顔で本辺を決起づけさせる。その笑顔は曇り一つない善意の表れのようであり、相手を勇気づけさせる強い力を持つものだった。
「あぁ…男と女が…あぁ…」
力のない声が横から聞こえると二人は同じ方向へ目線を向ける。そこにはよぼよぼの老婆がこちらを指差していた。優気と本辺は理解に苦しむも、老婆は「あぁ…あぁ…」と同じ言葉を続ける。すると、次の瞬間、突然目を見開き、瞳孔を完全に開くと大きく息を吸った。
「不純異性交遊じゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
唐突な大声に思わず驚き、思わず目をつむると同時に押し倒していた優気は耳を塞ぐため膝立ちとなる。
途端、本辺は自身の姿を目にすると発狂した。反射的に優気をビンタし、胸と股を必死に隠す。
「一体なんだってんだよって、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!?!?!?」
この場で一番遅く気づいた優気は全身を見やると、服を身につけておらず、全裸になっていることに驚愕したのだ。両手で股間を隠し本辺に視線をやると「見るなぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」とまたもや顔面に蹴りを食らった。
大声が聞こえ、怜真と健勇と璃久瑛が順にこちらに辿り着くや否や「助けてください」と腫れ上がった顔面をした優気が懇願する。唖然の中、何とか怜真から漏れ出た溜息をきっかけに凍り付いた空気が瓦解していく。
「お前ら何してんだ…」
「優気!見損なったぞ!」
「この裏切り者がぁぁぁあああああああ!!!!」
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その後、三人が学校から体操着を持って来てもらい一名の老婆にはバレたもののなんとか二人は社会的死を免れた。また、先程優気が本辺にかけた言葉をこの状況に重ねると、裸だった二人は新たな感謝と恩返しを今後していくこととなるだろう。
「せっかく男の人見直したと思ったのに本当に最悪!」
「まぁ、不慮の事故だから許してよ。ほ、ほら!それにしてはさ、ノーパンってのは違和感あるなぁ~本辺さんも違和感あるよな?」
「うるさいド変態!!」
デリカシーのないフォローに本辺は真っ赤な顔で恥ずかしさと怒りを表すと、その結果として優気は川へ落とされた。その場を足早に去っていく本辺だが、親友三人は足を止め待つ。
「ここまでくると天然というか、本当に馬鹿者か…」
「優気!見損なったぞ!」
「お前さっきからそれしか言わんじゃん」
「やっぱり優気はラブコメの主人公だな…」
「璃久瑛…お前にもいつか光が当たるといいな」
優気を引き上げていると曇り空は明け、夏の日差しが地と川を照り付ける。それは明け梅雨を示す大きなシンボルのようだった。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




