第51話 青龍爆誕
「マジかよ…」
悠然と水上に浮く本辺から青色に染まった神力と邪気のような黒き神力の二つが溢れ出ていた。
それも更に衝撃的なことは、優気の朱雀の力と似たような装備をしていたことだ。比較すると身を覆う青き甲冑はやや隙が見えるような軽い作りとなってはいるものの、溢れ出る神力がその守りを補填するかのように周りを包む。
「あぁ…色合いから言うと、恐らく優気と同じ四神の力の一つ、『青龍』だろうな」
璃久瑛の推測から優気の疑念が確信に変わった。
「話には聞いてたけど、やっぱりか…りっくん、他には何かわかることある?」
「水の上に立ってるとするなら、能力は水が関係してるのかもしれないな。そのくらいしかわからない」
「どうする!?優気!!」
「とりあえずりっくんが持ってきたこの結界道具をこっからあっちの橋の始まりと終わりに置いてきてくれ。それが終わったらここから反対側の橋に向こうと同じことを頼む」
「了解!」威勢よく返答すると物凄いスピードで指示された場所へ向かっていく。
「健勇!道具忘れてる!!」
肝心な結界道具を忘れ、再び取りに来ると本辺が奇声を上げ、川の水の一部が小さなストローのような大きさに浮き上がり、かなりのスピードで優気を襲った。細く加工された川の水に対して咄嗟に腕で身を守ろうと防御姿勢に入るが、いとも簡単に優気の掌を貫通した。
「いいっ!ってぇえ!?」
「大丈夫か!?」
「っんぅう…俺は回復できっから大丈夫だ。健勇は自分の仕事を、頼んだぞ」
健勇から見て、あり得ない現象を間近で目撃することが初めてであり、自身の親友が大怪我を負っていることにたじろいでしまう。しかし、優気の言葉を信用し、自らの目的を果たすため、結界道具を握りしめる。貯まる唾液を飲み込み、わかったと口に出したことをきっかけに覚悟を決める。
「し、死ぬんじゃないぞ!!」
痛みに堪える友を背に再び全速力で走り出し、数キロ離れた橋へ向かい始めた。
璃久瑛は何故小さな水の塊が優に人間の身体を貫通できるのかが理解できず、もう一度本辺の周りに目をやる。
「もしかしたら量、強度、速度、水なら何でも操れるのかもしれない」
血が止まらない優気は飛び抜けた能力と自身が危機に扮していることに苛立ち大きな舌打ちをする。
「…ッ、クッソ、なんだそのつええ能力は。今すぐに水不足に陥ってる国々にその能力で蒸留水でも作って分けたれよ」
「なんで蒸留に限定したかわからねぇわ。そこは精製水にしとけ」
「ごめん、特に意味はない。そうさせてもらうわ」
「おけ、分かればいいよ」
くだらないやり取りを交わし、ひと段落したところで優気も四神化する。本来ならば、健勇の結界設置を確認してから戦闘に臨むことがセオリーのはずだが、相手が神力をまき散らすのであれば、話は別である。
日本人離れした栗毛に近しい髪色、防護服のような装備を身に纏い、戦闘体制を整える。
早速、攻撃された掌の傷を癒やすために神力を使って催促させる。スサノオなどの味方陣営が来るまで、危機に追いやられることは間違いないが、ここに立ち向かわなければ本辺に殺される可能性が高まるのみ。誰も救えず誰も助かることはない。
そんな状況下で人の幸福を願う優気がとどまっているはずがない。傷は完治していないものの、立ち上がってできるだけたくさんの息を吸い込む。
「おいおいおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」
あまりにも大きな声に呻いていた本辺は静まると、声の方向に目を止めた。間近でその声を聞いた璃久瑛の鼓膜は無事に亡くなった。
「いきなりクラスメイトの掌突き刺しやがって、頭わりぃんじゃねぇのか?月に代わって俺が代わりにお仕置きしてやんぜ」
りっくん、なるたけ離れておいてな!しっしと手で払うようなジェスチャーをして橋の手摺に乗っかる。離れた璃久瑛に「出来たら怜真たちを呼んできてくれ!」と要望すると了解のグッドサインをして走り去った。
それを見届けた優気は手に神力を溜めたエネルギー弾を放ち本辺に直撃させる。それも一撃だけではなく、すぐに二撃目も繰り出し、相手に反撃の隙を与えずに攻撃を続けた。
しかし、砲撃は悉く躱され、本辺は優気のいる橋へ移動し、素早く背後に回って蹴りを食らわせようと足を突き出す。想像以上の速さに驚くも攻撃に対応するため後ろ蹴りで対抗すると見事弾くことに成功し、両者橋の上で対面する形となった。
それにしても俊敏な動きをする本辺へ困惑が上乗せされた。神の使者で比べると一ヶ月前に蔵前高校で戦ったアレスを想起させるほどである。
だが、優気はとある動物の特性と重ね、思い出していた。
チーターやトラなどの素早い動きをする動物はスピードが高くても体力が少ないことから獲物を逃がすこともあるという話を聞いたことがある。
それをこの青龍のステータスと重ねると、スピードは速いがスタミナ、或いは防御に脆い部分があると考えることができ、さすればそれは勝因に結びつく可能性だってあるはずだと判断したのだ。
また、先程攻撃を防ぐことに成功したことから、直接的な攻撃力もそこまで強くないことは明確である。考えに考えを重ねると少しずつ勝機を見出せていく。
「本辺さん、もう暴れる気は済んだか?これ以上心配かけさせるんじゃねぇぞ」
「ヴるさぁいッ!!大体お前ら男がァ!!男がいけないんだ!!男なんガ、元から居なければいい゛ィ!」
「いやそれは無理だよ。だって、生物学的に言って人間は男の人の精子と女の人の卵子から作られるから、男の人がいないと人間が出来なくなるんだよ」
何を今更と優気は当然のことを述べるも、男というカテゴリーに過敏となっている本辺に配慮出来ない現実を突きつけたため、本辺は顔をを手で覆い混乱する。
「少しでもあの男の遺伝子があるってだけでェエ、ぁ゛ぁ゛あ゛あぁ゛あぁ゛ああ゛もぉおおおお゛お゛!!!不愉快極まりないぃ!殺す、こんなことを考えさせたお前は絶対に殺すぅヴ!!」
「だって当たり前のことじゃん!あっ…」
言い過ぎた。直接的なことを言い過ぎたことで返って本辺の怒りを作る元凶となってしまっていることに、目の前の怒りからようやく気が付いたのだ。厳格な顔をする本辺に相反した優気の顔は『間抜け面』という表現がピッタリである。
「いやいや、俺は事実を言って説得させようとしただけで」
両手を前に出し、攻撃の中断を呼び掛けるが追い打ちをかけるが如く、本辺の地雷を踏んでしまう。初撃を食らった細い水が川から何本も生成され優気に向かっていく。少し手足を掠めるも大怪我にはつながることはなかった。
しかし、安心も束の間。今度は本辺の周りに神力で生成された先端の尖った水の粒が優気を襲う。先程の攻撃と同じレベルの速さで、避けるのに一苦労といったところだ。
更に本辺も素早く近づき、左ストレートを顔面に叩き込まれ橋を降りた道路へ吹っ飛んだ。背中を強打し、痛んだ頬を擦るも「ったく女に殴られるなんて…何とか弱き男なんだ俺は」と声を上げて悔しがる。それは涙ぐむほどであり、情けなさをとても僻んでいた。目線を上げると本辺の手に弓のようなものが現れ、こちらを狙う。
「まさか、神器か!?」
神力で生成された矢が放たれる直前に躱すも逃げ遅れた足に命中してしまう。痛みを更に堪えて橋の死角へ走り込む。命中した矢は消滅し、傷口だけがぽっかりと空いていた。初撃の掌の傷は完治に近い状態で回復していたため、足に回復意識を集中させる。
優気の位置は階段の脇道であり、橋の上からでは左右二手に分かれる階段があるが橋と階段を紡ぐ石畳の広いスペースの上から覗き込むような行動を取られると見つかってしまう。見つかった場合、展開した神器の弓から即矢が放たれ、頭に風穴が空くことが予想できる。
優気は、それならばと逆にそちらに向かっていく選択を取った。負傷した足の治癒は一旦放棄し、神力をやや右拳に集中させる。目を閉じて本辺から溢れ出る邪気と微弱な神力を探知することだけに集中する。
「今だ!!」
踊り場のような広いスペースから矢を構え顔を出した本辺にタイミングよくジャンプをすると本辺の顎へ見事にジャンピングアッパーが入った。
勢いよく上空へ吹き飛ぶと空中で体制を整える間、痛む足を庇う優気が再び橋に着地。本辺は向かい合うような場所へ移動。隙を与えぬよう、優気は戦闘を敢行し、神力を練り上げエネルギー弾を何発も打ち込む。
神力の消費は早くも四割といったところで、患部の治癒を同時並行していると神力の消費効率が悪くなってしまう。どうしても相手の水を操る能力を羨ましく思わざるを得ないが、攻撃はかなり効いているようで、橋の手摺に手をかける本辺はふらついた姿勢で何とか立ち上がっている様子だった。
優気はここまでくれば本辺の正気を取り戻せるだろうと若干気を緩めると、本辺は息をたくさん吸い、普段から聞いたことも無い低い声を大きく発した。
そんなギャップに戸惑っていると本辺の身体は青き神力が身に纏われ、それは次第に大きくなっていく。遂に五、六メートルに達したところで覆われた神力が解放され、力強い蒼き龍が黒き邪気を纏って現前した。
「これって…」
身体を覆う鱗と鋭い角、猛禽類のような足が巨大化するも、さほど大きくない手はアルマジロのようにゴツゴツとしているところなど、特徴的な外見に印象を飲まれ情報量がパンクしてしまう。すると、威嚇とも捉えられる大きな咆哮を優気に目掛けて上げた。
「マジもんの青龍じゃねぇか!!」
あっけに取られていると、横から大きな尻尾が優気を吹き飛ばした。先程の攻撃よりも速かったため反応できず、さらに上昇した攻撃力に深手を負う。
優気の居た橋から数十メートル先にあるもう一つの橋に全身を打ち付け、追い打ちをかけるように青龍の周りに神力が展開され鋭利な水が現れる。ダメージに気を取られそのまま川へ落ちていくはずの手足をそれが突き刺し、宙に浮く青龍の傍まで再び引き戻される。
呻き声を上げる優気は大きな口を開ける青龍に嫌な予感を感じながらも半ば諦めかけたように「まさか本物のドラゴンみてぇに口からブレスでも吐き出すんか…」問いかけると、青龍は答え合わせのように神力を開いた口に溜め、優気に向かって発射した。
大きな物がものすごい速度で打ち付けられた衝撃に加え、全身が燃えるような痛みに駆られる。
ポイントがあると多くの人に読んでもらえるとのことらしいので、面白いと思った方や少しでも続きが気になる方は是非評価をよろしくお願いいたします!m(__)m




